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三百枚書けるようになるお得な「小説の書き方」コラム  作者: カイ.智水
文体篇〜あなた独自の言い回しを身につける
644/1500

644.文体篇:完璧に正確な文章は書けない

 今回は「文章はどうしても歪んでしまう」ことについてです。

 どう歪むのかわかっていれば、読み手を誘導することもできます。

完璧に正確な文章は書けない


 書き手がいくら正確に物事を伝えようとしても、完璧に伝えることはできません。

 省略したり歪めたり一般化したりして、真実から歪められた文章になるのです。

 しかもその歪められた文章は、読み手が「無意識に」自分の経験や知識に照らして補おうとしてしまいます。




前提を挿入する

 よく使われるのが「前提挿入」と呼ばれる技術です。

 たとえば「テレビを購入する前によくご検討くださいませ」という文があります。

 一見「読み手に検討させよう」とする一文です。ですが前提として「テレビを購入する」ことが挿入されています。つまり「検討するなら、テレビを購入する前提で」ということです。

「ロフトのある部屋になさいますか、ベランダのある部屋になさいますか。ロフト付きはすぐにでも住めますが、ベランダ付きは一週間先の入居になります」という不動産屋さんの会話も、「賃貸物件を契約する」前提で話しています。しかも最終判断まで迫られているのです。かなりやり手の不動産屋さんかもしれません。

 付き合っている人とデートの約束をしたいときは「今度の日曜、映画を観に行こうか。それとも動物園のほうがいいかな」とメールで書きます。この場合「日曜にデートする」ことが前提になっていて、そのうえでどこへ行くのかを提案しています。つまり「日曜のデート」はすでに決定事項として話しているため相手が断りづらいのです。


時間を前提にする

「食べ終える前に話したいことがある」「食べ終えた後に打ち合わせをしたい」と文章にすると、「食べ終える」ことが前提になります。そのうえでその前なのか後なのかを示しているのです。他にも「〜しながら」「始まる」「終わる」「すでに」「まだ」などを使って時間を前提にして話せます。「あなたはまだダイエットしないのですか」と書けば「今あなたはダイエットが必要なのですよ」と感じさせられるのです。


順番を前提にする

「塾から帰ったら、学んだことの中で最初になにから始められますか」と書けば、最初になにか行動を起こし、次に別の行動をする前提となります。他にも「二番目に」「三番目に」「最後に」「先に」などを使って順番を前提にして話すことができるのです。「最初になにから始められますか」と問えば「それなら最初はあれかな」と実行する自分をイメージさせられます。


AかBを使う

「お帰りなさい。ご飯になさいますか、お風呂になさいますか」と書けば、食事かお風呂かの二択が前提となります。他にも「さもなくば」「または」などを使って前提を選択肢に絞り込むことができるのです。


自分の気づきを話す

「あなたが頑張り屋さんであることを、私は知っています」と書けば、主語と述語は「私は知っています」になるのです。でもその前提は「あなたは頑張り屋さんである」ことを伝えています。仮に相手が「頑張り屋さんでない」としても「私はあなたに頑張ってほしいと思っている」というメッセージを送ることになるのです。他にも「気づく」「わかる」「理解する」「注目する」などが自分の気づきに前提を載せることになります。「あなたはご自身の魅力に気づいていますか」と問えば「イエスかノーか」の二択に見えますが、「あなたはとても魅力があるんですよ」ということを前提にしているのです。


副詞や形容詞・形容動詞を使う

「英語を学ぶことに意欲的ですか」という文は「あなたは英語を学んでいますよね」「英語を学びたいのですよね」と暗に尋ねていることと同じです。「あなたがこのストライド走法を早くマスターされるかどうか、私にはわかりませんが、〜」という文は「相手がストライド走法をマスターする」ことが前提になっています。この「早く」が前提を指し示すのです。


選択肢を排除する

「あなたは、変化することができますか」

「あなたは、変化することが可能であると知っていますか」

 前の文は「変化する」ができるかできないかの二択です。

 後の文は「知っていますか」が知っているか知らないかの二択です。

 つまり「あなたは変化することが可能である」についての選択肢を排除できます。

 このように可能性や必要性の助動詞を文章に挟むことで選択肢を奪えるのです。

「できる」「できない」「可能である」「可能ではない」「べきである」「ねばならない」「必要である」「しないだろう」などの助動詞のことです。

 ちなみに「あなたは、変化できますか」「あなたは、変化できると知っていますか」と「することが」を省くのがスマートです。


現実と要望をリンクさせる

「あなたは私の提案を知ると、ますます走りたくなるでしょう」という文は、「あなたは私の提案を知る」という現実と「ますます走りたくなるでしょう」という要望をくっつけます。でも私の提案がどんなものかわからないのに、必ず「ますます走りたくなる」ものでしょうか。わかりませんよね。

 しかし現実と要望をくっつけて一文にすれば、因果関係のない「要望」を「現実」だと錯覚します。

 これは書き慣れている方ほど陥りやすい文章になるのです。


因果関係を乱す接続語

「これはとても単純な方法です。そして、よくできる人は『人の話を聞く』はずです」のように「そして」でつなぐと「現実」と「要望」をリンクさせることができます。

「あなたはこの書籍を読むことで、○○の悩みについての解決法を知ることになるでしょう。そして、この書籍を読み終える頃、第一歩を踏み出す大きな決断をするに違いありません」。これも「あなたはこの書籍を読むことで、○○の悩みについての解決法を知ることになるでしょう。」という「現実」と、「このブログを読み終える頃、第一歩を踏み出す大きな決断をするに違いありません」という「要望」をリンクさせています。元々は別個のことですよね。


原因と結果を乱す接続語

「日本語文型のパターンを学んでいるうちに、創造的な使い方ができるようになってきます」は、事実である「日本語文型のパターンを学んでいる」ことと希望である「創造的な使い方ができるようになってきます」ということを「〜するうちに、」でつないでいます。他にも「〜によって」「〜だから」「〜ながら」「〜すると」「〜している間」などが原因と結果を乱す接続語です。根拠を示さずに希望が叶うような錯覚を起こします。

「あなたがこの手紙を読むことによって、今までいかにもったいないことをしていたかに気づくでしょう」も同様です。


AがあなたをBにする

「今の決断が、二年後のあなたの年収を二倍にすることでしょう」という文なら「今、決断する」という事実と、「二年後のあなたの年収を二倍にする」という内容を「原因と結果」としてリンクさせます。「この本を読むということは、最先端の執筆スキルを学んでいることを意味するんです」という文なら「この本を読む」という事実と、「最先端の執筆スキルを学ぶ」という内容を「原因と結果」としてリンクさせています。よくよく考えてみると因果関係があるかどうか絶対ではないことがわかります。しかし原因の部分に事実関係を据えているため、結果の部分の相手をコントロールしたい内容が生きてくるのです。

 また「〜させる」「〜される」「引き起こす」などの受動的な意味合いの動詞を用いることもできます。「投資はあなたを豊かにさせる」「信じるものは救われる」などです。




普遍的数量詞

「いつも」「すべて」「つねに」「どこでも」「誰も」「皆さん」などの副詞が出てくると、現象を一般化することができます。

 たとえば「皆さんそうしていただいています」と言えば「みんながそうしているのなら仕方ない」と納得してもらえるのです。

「あの先生のセミナーはいつも盛り上がるのよ」と言われると「セミナーのうまい先生なんだな」と自然に認識します。実際のところその先生が本当にセミナーがうまいかどうかはわかりませんが、少なくとも相手にはそう思わせることができるのです。




形容動詞化

「あの人は、私に協力してくれるので助かります」⇒どのような協力をしてくれるのか

「うちの上司は、私の意見を否定します」⇒なにをどのように否定するのか

「彼はよく批判するので、私は苦手です」⇒なにをよく批判するのか

 動詞に必要な目的語がないため、情報が足りない文なのです。

 この動詞を「○○的」と形容動詞化することで目的語がないのになぜか納得してしまいます。

「あの人は、私に協力的なので助かります」

「うちの上司は、私の意見に否定的です」

「彼は批判的なので、私は苦手です」

 目的語不足はいっさい解消していないのに、なぜか違和感を与えないのです。


名詞化

「彼は協調しない」⇒なにに協調しないのか

 こちらも目的語がありません。この動詞を「○○性」と名詞化することで形容動詞化のような効果が狙えます。

「彼は協調性がない」

 たとえば「理解する」という動詞を、「文章術を学ぶことは、新たな理解をもたらします」というように抽象的な漢熟語名詞「理解」にすると、目的語がなくても違和感がなくなります。





最後に

 今回は「完璧に正確な文章は書けない」ことについて述べました。

 書き手であるあなたにとって、不都合なこと煩わしいことを直接書かず、あなたが伝えたかったことを無意識に相手へ刷り込んでしまうことが可能なのです。

 それを知ってさえいれば、頭脳戦の小説を書くときに役立ちます。




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