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三百枚書けるようになるお得な「小説の書き方」コラム  作者: カイ.智水
飛翔篇〜ワンランク上の書き手へ向かおう
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494.飛翔篇:命令せずに人を動かす

 今回は「人物に動いてもらいたいときに、命令以外で動かす方法」についてです。

 前回の「誘導」を利用した心理的な方法になります。

命令せずに人を動かす


 読み手にある動作をしてもらいたいとき、書き手としてはつい「命令」してしまうものです。

「もう少し速く歩け」というような言いまわしです。

 動詞の命令形ですから、文法的にはこれで正しいのですが、言われた当人にしてみれば「なぜもう少し速く歩かなければならないんだ」という抵抗する思いが湧き立ちます。

 そこで、命令せずに相手に動いてもらう言いまわしを考える必要があるのです。




命令を質問文に変換する

「もう少し速く歩け」という命令形の文を質問文に変換するだけで、当たりが柔らかくなりますし、相手の抵抗を抑えて動作につなげることができます。

 たとえば「もう少し速く歩いてもらえますか」と尋ねるのです。

 受け取った側には「わかりました」か「できません」かの二択が提示されます。

 さほど困難なことでないのなら、たいていは「わかりました」を選択するのです。

 だから「もう少し速く歩いてもらえますか」と尋ねられたら、たいていは少し速く歩こうとします。

 ただもう少しへりくだって言うとさらに抵抗が減らせるのです。

「もう少し速く歩いていただけますか」と話した側から調子を落として謙譲語で言われたら、相手も悪い気はしません。

 ただし「もう少し速くお歩きになれませんか」と尊敬語で言われると、言われた側の選択権が強くなるので、「速く歩かない」を選ばれる可能性が高まります。

 謙譲はよくて、尊敬はダメなのです。




質問を希望文に変換する

 命令を質問文にすることで、命令をすんなりと実行させることができます。

 では質問文の答えを、相手が身構えずに聞きたいときはどうすればよいのでしょうか。

 こちらの希望文の形に変換します。

「あなたはこの猫が好きですか」と聞きたいと思ってもストレートすぎて相手も身構えてしまうでしょう。

 そこで「あなたがこの猫のことをどう思っているのか、とても興味があります」と婉曲に聞いてみるのです。

 ちょっとキザな言いまわしになりますので、聞く側はそれなりに面の皮が厚いほうがいいでしょう。




主体をなくして説得力を高める

 たとえば「サッカーの試合後にゴミを拾うのはいいことです」「エスカレーターでは両側に立つのはいいことです」というキャッチコピーがあるとします。このふたつには主体がありません。

 たとえば「サッカーの試合後にゴミを拾うのはいいことだと、私は思います」と書いたらどうでしょう。「私」がどれだけの権限や立場にいるかにもよりますが、「俺は違うと思うけど」といった反発を受けることがあります。

 もし天皇陛下が仰せられたことなら、多くの日本人は「そのとおりだ」と思うでしょう。もし泥棒が言ったことなら、多くの日本人は「そんなふうには思わないけどな」と思うでしょう。

 天樹征丸氏&金成陽三郎氏&さとうふみや氏『金田一少年の事件簿』の主人公である金田一一がよく言う「じっちゃんの名にかけて」は「名探偵だった金田一耕助の孫」という主人公だからこそ説得力を持ちます。もし祖父が殺人犯だったら、こんなセリフは使えませんよね。

 だからよほどのことがないかぎり、文の主体を書かないことです。

 すると世間一般で広く言われていることのような印象を与えて、キャッチコピーの説得力は格段に高まるのです。




あえて否定することで命令する

 前回にお話したように、「禁止」の否定形で文章を書くと、かえってその行動を助長することになります。

「パチンコは射倖心を煽るのでやめましょう」と書かれている。

 もしパチンコ店の前でそうした横断幕を広げて立っていたとしても、パチンコ依存症の方はパチンコをやめません。そればかりかパチンコを少しやったことのある人も入店してしまうおそれがあります。

 これは「パチンコは射幸心を煽る」という文字を見て、「大当たりしたときの高揚感」を思い浮かべてしまうからです。その直後に「やめましょう」という言葉を加えても、イメージを消し去ることができません。

「パチンコは射倖心を煽るのでやめましょう」は、パチンコをしたことのない人にしか効き目がないのです。

 窃盗犯に「万引きしちゃダメでしょう」と言っても、「万引き」という「窃盗」行為が脳裡に蘇り、かえってその高揚感を得たくてまた「万引き」を繰り返すようになります。そのくらい人間は否定形を無意識では理解できないのです。「窃盗」に関しては「これからはお金を出して買いましょうね」と肯定文にして言いましょう。それだけで「万引き」のリピーターを減らすことができますよ。


 小説などで用いるときは「俺と仲良くなろうと思わないでください」と主人公に言わせてみましょう。

 すると「俺と仲良くなろう」の部分が他の人物の無意識に働きかけますので、「主人公と仲良くなろう」とする人が次々と現れてくるようになります。まったくの逆効果です。

 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の主人公である比企谷八幡の心理に近いものがあります。こういうふうに言ってしまうと、かえって仲良くなろうとする人が次々に現れてしまい逆効果となるのです。

 さらに大きく「俺と結婚しようなどと思わないでください」と言えば、結婚したがる女性が周りにあふれるようになります。

 おそらく本心から「仲良くなりたくない」「結婚したくない」と思っているのでしょう。ですが言い方ひとつで、結果が真逆になってしまいます。

 こういうときは「ひとりになりたい」「ひとりで余生を送りたい」と述べてしまうほうが効果的です。

 否定形ではなく肯定形にしてしまえば、書かれた行為を助長したとしても書き手の意図どおりになります。

 できるだけ否定形を用いない書き方が望ましいのです。




権威などのある人の話を引用する

 書いている文章がどうにも薄っぺらで見え透いてしまっている。

 そんなときは「権威のある人」の言葉を借りてくるのが手っ取り早いです。

 たとえば「『兵は拙速を聞く』と孫武も述べているように、なにごとも人より早く取りかかることがいちばんです」と書きます。

 こうすればあなたひとりの主張ではなく、「歴史上の人物・孫武も同じことを言っていたんだよ」と権威を笠に着れるのです。

「『四十にして惑わず』と孔子が言うように、四十歳になったら心を固めなければならない。」と書くのも同じことです。

 ただし「引用」するにはそれなりに知識が必要となります。

 とくに権威のある人物の文献ともなれば、難解な文章を理解しなければならないのです。

 ですが今はインターネットがあります。Web検索で「頑張る 格言」「頑張る 名言」と指定するだけで、ふさわしい格言がヒットするのです。

 その中から自分の言いたいことをピックアップしていけば、勉強することなく「引用」できるようになります。

 ただしこれは「プロの書き手」になる前までの話です。

「プロの書き手」になると、引用にも責任が生じてきます。誰がどの文献でどのように言っていたのか。それを明確にして引用しなければなりません。





最後に

 今回は「命令せずに人を動かす」ことについて述べてみました。

 命令したいときは質問してみる。質問したいときは希望にしてみる。主体をなくして説得力を増す。あえて否定することで命令する。権威などのある人の話を引用する。

 これらのことによって、あなたが命令しなくても読み手は思い通りに動いてくれるようになります。




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