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421.深化篇:最初から期待しない(3/4)

 今回は引き続き「最初から期待しない」の三分冊目です。

「見たものを文章に変換する」能力とは、「形状」「色彩」「質感」を書く能力だといえます。

 少なくともこれだけのことすら書けないようなら、小説は書かないほうがいいかもしれません。

 脳を刺激してくる感覚の八割は「視覚」と言われています。

 つまり「視覚」が書けないことには、読み手は脳裡にイメージを描けないのです。

最初から期待しない(3/4)


 処女作は総じて拙いものです。

 今回は「見たものを文章に変換する」ことについて書きます。




見たものを文章に変換する

 小説を書く能力のうち、最も求められるのが「見たものを文章に変換する」能力となります。

 小説は文字だけで成り立っている「一次元の芸術」です。

 耳で聞いているものを書くことは、どのレベルの書き手にもできます。

 とくに一人称視点で書いていれば、会話文だけでなく地の文も主人公の会話口調で書けるからです。

 だから小説を書こうとして最初に書くのは「耳で聞いたもの」を文字に起こしたものになります。


 しかし書き手は文字だけで読み手に「主人公や視点を持つものから見た情景」を思い浮かべさせる必要があります。

 見えているものが「どんな形状」で「どんな色彩」で「どんな質感」なのか。

 それを文字だけで読み手が脳裡でイメージできるように書くのです。

 ここに書き手の才能が如実に表れます。

 拙い書き手は「読み手がまるで情景をイメージできない」書き方をしてしまうのです。

 巧みな書き手は「読み手がまるでその場にいるかのようにイメージできる」書き方をしています。

 こう書くと「じゃあ視点を持っているものから見えるものを全部書けばいいんだな」と勘違いされる方が殊のほか多いのです。

 小説に余分なことを書いている余裕はありません。

 あなたが書いた情報が物語を進めるうえで不可欠なら問題ないのです。

 物語を進めるうえでまったく必要がない情報を書いたら、読み手は「余分なことを読まされた」と思って、以後あなたの小説を追ってくれなくなります。

 必要なものは先に挙げた三点。「形状」「色彩」「質感」です。




形状について書く

「かわいい女の子」とだけ書くと「形状」も「色彩」も「質感」もわかりませんよね。

 読み手としては当然なにも浮かんでこないと思います。

 とりあえずそれぞれの読み手が「かわいいと認識している女の子」を別々に思い描くのです。

 もしそんなことになったら、マンガ化やアニメ化されたときに多くの読み手が「コレジャナイ感」を抱くでしょう。

 そこで「背丈が九十センチくらいの女の子」なら少し「形状」が見えてくるのです。

 でも背丈だけで「かわいい」かどうかはわかりませんよね。

 そこで「背丈が九十センチくらいの目がぱっちりとした女の子」と書くのです。

 これなら少女の全体像(大きさ)と目の形が印象的に映って「かわいい」要素になっているのだと少し見えてきますよね。

 こういった「形状」を表す語句は一文にまとめるのではなく、複数の文に散らばらせることで、文章全体で「かわいい少女」をイメージさせられればいいのです。

 小説を書く者として、単に「かわいい」という形容詞だけで描写しようとしてはいけません。

 どの要素に少女の「かわいさ」が表れているのかを書いていく必要があるのです。

「かわいい」女の子を「かわいい」という単語を使わずに、いかに読み手に女の子が「かわいい」と思わせられるかどうか。

 それが書き手の才能です。




色彩について書く

 次に「色彩」を決めなければなりません。

「色彩」の情報がないと、日本人キャラなら全員黒髪・黒目・黄色い肌だとみなされます。

 それだと多くの人物が登場するのに、まったく差異がないのです。

 人物にはそれぞれに個性的な色彩を持たせてみましょう。

 もちろん白・黒・グレーのモノトーンが象徴的な人物がいてもかまいません。

 ロリータファッションでもモノトーンでまとめることがあります。

 学生服なら白いシャツに紺色のブレザー、えんじ色のネクタイに黒い革靴というのがひとつの鉄板です。

「色彩」の情報を書くことで、読み手の脳内イメージがカラフルになって俄然迫力が出てきます。


 本コラムをお読みの皆様は「白黒(モノクロ)テレビ」を観たことがあるでしょうか。

 私はギリギリ「白黒(モノクロ)テレビ」を見たことがあります。

 それから「カラーテレビ」を初めて観たときの衝撃がいまだに忘れられません。

 (カラー)が着いただけで今までよりも目の前で直接見ているような印象を受けました。


 もしおわかりいただけないのでしたら、マンガの表紙と中身の違いを考えてみてください。

 マンガは基本的に「白黒(モノクロ)」ですよね。

 しかし表紙はほとんど「(カラー)」が着いているはずです。

 皆様は表紙でキャラの色味を見て、モノクロの中身を読んでいきます。

 すると頭の中では表紙と同じように着色しながら読んでいることになるのです。

 だから脳内イメージが明確に浮かびます。

「色彩」を書くことで読み手の脳裡にイメージがくっきりと焼き付くのです。




質感について書く

 最後は「質感」です。

 木製ならぬくもりを感じますし、鋼鉄製なら冷たく冴えた輝きを放っています。

 ガラス製なら向こう側が透けて見えます。

 服の素材が綿でも絹でもポリエステルでも見え方が異なるのです。

 肌のきめ細やかさやタコだらけのごわごわした手なども、目で感じられる「質感」になります。

 ただし「質感」を巧みに描写できる書き手は限られているようです。

「質感」の差を見た目で識別できるほどの眼力を持つ人がまず少ない。

 よって「質感」の違いを書ききれる書き手も数少ないのです。

 だからこそ「質感」にも重きを置いて描写できるようになるべきでしょう。




ライトノベルであっても文章が先

 ライトノベルは表紙でキャラに着色してあって、それを見て本文の人物を頭で着色しながら読むことは可能です。

 でもそれって順序が逆だと気づいていますか。

 本来なら本文に「形状」「色彩」「質感」が書いてあり、それらをイラストレーターが読んでキャラのイメージ画を描くものです。

 本文で言及していないことを、イラストレーターが独断で描くことはまずありません。

 あなたが小説でマンガ化、アニメ化を目指すのであれば、制作陣からはキャラのイメージを明確に思い浮かべられる作品であるかどうかが問われてきます。

 イメージが思い浮かべられる作品というのは、それだけで売りの一部になるのです。

 キャラの「形状」「色彩」「質感」をまったく書かずに、すべてをイラストに託してしまえば、それはもうあなたの作品とは言えません。

 読み手からはイラストのノベライズ版程度の認識しかされないのです。

 せっかくあなたが世界観から作り上げた作品。

 ノベライズ版だなんて言われないよう「形状」「色彩」「質感」をしっかりと書いて、「見たものを文章に変換する」能力に磨きをかけてくださいね。





最後に

 今回は「最初から期待しない(3/4)」として四分割の第三を述べてみました。

 小説に書かなければならないことは「耳で聞いたこと」だけではありません。

 それは誰にでも書けます。

 もっと必要なのは、人間が八割の情報を得ている「視覚」つまり「見ているものを書く」ことです。

 そのためには「見たものを文章に変換する」能力が必要になります。

「形状」「色彩」「質感」を書くのです。

 絵を描くことに置き換えてみましょう。

 ラフスケッチから下書きの線を書いてペン入れをするところまでが「形状」です。

 ペン入れをした後に色を塗っていき、パーツの色分けをしていくところまでが「色彩」になります。

 そして鋼鉄製の刀剣や革手袋などの「質感」を付け加えるのです。

 あとは全体を微調整して絵が完成します。

 微調整は「推敲」のことだと思ってください。

 小説も同じです。

「形状」「色彩」「質感」を書くことで、読み手の脳裡にイメージが明確に焼き付きます。

 書くものがあるのに書かないのはただの怠慢です。




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