405.深化篇:性格は変化していく
今回は「性格」についてです。
人は出来事を体験すると性格に影響が現れます。
成功すれば積極的に、失敗すれば消極的になっていくのです。
性格は変化していく
長編小説や連載小説は長丁場です。
キャラクターはその長い物語を通じてさまざまなことを体験します。
体験すればなにがしか得るものがあるのです。
たとえ失敗しても教訓が残ります。
キャラクターの性格は移り変わる
キャラクターは「出来事」を通じて体験するのです。
それに成功すれば「これでいいんだ」と思いますし、失敗すれば「これじゃダメなんだ」と教訓にします。
そうなるとキャラクターの性格にも影響が及ぶのです。
たとえば成功したらより積極的になりますし、失敗したらより消極的になります。
女性が意中の男性に「告白」して受け入れられたら、嬉しくなるでしょう。そして自分に自信が持てるようになります。それまでそんなに華やいだ性格でなかった女性が、色気を増すようなものです。
もし「告白」が拒否されてしまったら、悲しくなるでしょう。そして自分に自信が持てなくなるはずです。ふさぎ込んで自分の殻に閉じ籠もってしまうかもしれません。
「告白」という「出来事」ひとつで、女性の性格が変わってしまいます。
それが怖くて「告白」できない人が多いのです。
ここでは「告白」に成功して付き合い始めた仮定で話を進めましょう。
ある程度お付き合いして「この男性と結婚したい」と女性が思ったとします。
でも愛の「告白」は自分のほうからしたのだから、「プロポーズ」は男性から言ってもらいたい、というのはわがままでしょうか。
たいていの女性は「当然」だと思っています。
女性は結局のところ「頼りになる男性」と生活を共にしたいと考えています。
中には「頼りない男性を守っていきたい」という母性本能が旺盛な女性もいるのです。
でもそれは少数ですよね。
そこで「恋の駆け引き」が始まります。
男性は「まだ結婚は早いよなぁ」と思っていますが、女性は「もうプロポーズしてくれてよいのだけどなぁ」と思っているかもしれません。
男性はひとつところにとどまりたくない性質を持っていますが、女性は心の底から愛されたい性質を持っています。
そのあたりに男女の性質の差が生まれるのではないでしょうか。
性格はすぐには変わらない
「出来事」を体験したら性格が移り変わる、わけですが、もちろん変えてはならない性格もあります。
とくに短編小説の場合、冒頭で優柔不断だった主人公が、最後には即断即決を下していくような性格に変わってしまったら。
連続性がなく、まるで主人公を他人が演じているようなものですよね。
それでは興醒めも甚だしいと思います。
基本的に「出来事」を体験して移り変わる性格はごくわずかです。
一回の「出来事」でキャラクターの根本を激変させてしまうと、読み手は「このストーリーはないわ」と呆れて読むのをやめてしまいます。
それまで楽しく読み進めてきた読み手ほど、蜘蛛の子を散らすように逃げていくのです。
「出来事」を通じて性格を変えたいのなら「出来事」を数多く設定しましょう。
一回の「出来事」ではさほど性格は変わりませんが、二十回の「出来事」を経ればかなり大きく性格を変えることもできます。
連載小説では、ただゲームが好きで臆病な主人公が、数多くの「出来事」を経て「勇者」と呼ばれるほどの力量を身につけることもあるのです。
しかし短編小説でそれだけの変化を読ませることはかなり難しい。
時間の隔たりをあえて生み出して時間を跳躍します。
つまり「省く」技術ですね。
ズブの素人だった主人公が、時間を跳躍して伝説の「勇者」として活躍する、というストーリーであれば、短編小説で大きく性格を変えることもできます。
ただ「できる」ことと「面白い」こととは必ずしもイコールではありません。
「省く」ことで「面白く」なるのであればやるべきですが、「たいして面白くならない」のであればやるべきではないのです。
とびきりの出来事は一回で根本から変えてしまう
ですが「とびきり大きな出来事」を体験すると、性格が根底から変わってしまうことはありえます。
たとえば「戦争」です。
虫も殺したことのないような若者が戦場で敵兵を斬り殺したり撃ち殺したり、絨毯爆撃や核兵器投下などを行なったりします。
そして戦争が終了して本国に帰還すると、おとなしかったはずの性格が他人を寄せつけない殺伐とした性格にガラリと変わっていることがあるのです。
ベトナム戦争の帰還兵が、アメリカ本国で多くの暴力事件を起こしました。
「前はそんなことするような人ではなかったのに」と周囲は口を揃えて言いますが、実際に性格がガラリと変わってしまったのです。
「戦争」が「とびきり大きな出来事」のトップですが、次いで大きいのは「事件事故」の類いになります。
たとえばいつもと変わらない道のりで自動車を走らせていたら、突然歩行者が飛び出してきて「交通事故」を起こしてしまう。
すると歩行者を助けず「逃げる」人もいるでしょうし、歩行者を救護して「警察や救急車を待つ」人もいるでしょう。
過失で起こした「出来事」「事故」であっても、その後の人生が大きく変わってしまうようなときに、性格が大きく変わってしまいます。
仮に「ひき逃げ」を選択したとすれば、いつ警察に捕まるのかひどく怯えながら暮らすことになり、臆病な性格に変わるのです。
もちろんいきなり臆病になると怪しまれると思って、なんでもないようなところで激怒するようになりもします。
いずれにせよ「事件事故」は「戦争」に次いで性格を大きく変えてしまう「出来事」なのです。
変わらない性格もある
ここまで「性格を変える」ことで成長を表現する術を見てきました。
上記したとおり「とびきり大きな出来事」を経験して性格がガラリと変わってしまうことはありえるのです。
しかし「変わらない性格」もあります。
とくに連載小説では、主人公に「一本筋の通った性格」を持たせることが不可欠です。
「一本筋の通った性格」は読み手に安心感を与えます。
まったく別人のように変わってしまうと、「自分が好きだったキャラがいなくなってしまった」と喪失感に陥って連載閲覧を中断してしまうことがあるのです。
ですから、とくに主人公には「一本筋の通った性格」を持たせるべきです。
「正義」に対して揺るぎない意志を持っている。
太宰治氏『走れメロス』の主人公の性格ですよね。
「なにが正義なのだろう」と迷いながら戦うキャラもいるでしょう。
そういった核となる性格は徹頭徹尾、始まりから終わりまで貫いてください。
そこにこそ、キャラクターの存在意義が示されているのです。
最後に
今回は「性格は変化していく」ことについて述べてみました。
小説においてキャラクターの性格は「出来事」を通じて少しずつ変わっていきます。
「とびきり大きな出来事」を経験すると途端に性格がガラリと変わっていくのです。
ですがキャラクターには「一本筋の通った性格」があったほうがいい。
筋が通ればキャラクターの役割はブレません。