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381.深化篇:日常とは異なるものが読みたい

 今回は「刺激と安らぎ」についてです。

 小説はアクションとほのぼのが程よく入っていたほうが断然面白くなります。

日常とは異なるものが読みたい


 読み手は刺激と安らぎを求めて小説を読みます。

 刺激は「アクション」、安らぎは「ほのぼの」といったところでしょうか。

 どちらにも需要があります。しかし世相によってどちらがウケるかが変わってくるのです。




治に居て乱を忘れず

 現実世界の日本は世界屈指の治安を誇ります。

 つまり国民の大多数が「安らいでいる」のです。

 毎日が「安らぎ」に満ちていると、どうしても刺激が欲しくなります。

 それが誤った方向に向かうと「犯罪」を引き起こすのです。

「罪を犯す」ことは背徳であり、スリルが味わえます。

 だから今とくに「万引き(刑法上では窃盗罪)」をする人が跡を絶たないのです。

 「窃盗犯」は毎日スリルに満ちあふれているから、そういう刺激が欲しくて常習的にやるんでしょうね。

 私も書店の店長をしていたときに、万引き被害を減らすことをいろいろと考えていました。

 ですが世の中「とくに意味もなく」万引きしている人が多いのです。


 では「平和なときは万引きされてもかまわない」と考えるべきでしょうか。

 明らかに違いますよね。

「平和であっても万引きなど起きない」社会になるように考えなければなりません。

 そこで読み手に「刺激」を与えるものが必要になるのです。

 もし読み手が「刺激」を求めていると理解していれば、どんな小説を書けばいいのか見えてくるのではないでしょうか。

 刺激は「アクション」と最初に書きましたよね。

 つまり「なにかと競ったり争ったり戦ったりして勝った負けたの過程を読ませる」ことです。

 最も手っ取り早いのが「異世界ファンタジー」になります。

 緊迫した剣撃、ド派手な魔法といったものが、読み手の心に強い刺激を与えるのです。

 昨今の小説投稿サイトとくに『小説家になろう』を見わたせば、「異世界ファンタジー」つまり「ハイファンタジー」が多くの総合評価ポイントを獲得しています。

 なぜでしょうか。

 刺激が欲しいからです。

 現在の日本は経済が安定していて、治安もよい。

 国民は安らかな状態で毎日を過ごせています。

 だから刺激が欲しくなるのです。

 書き手としてこの状況を捉えれば、「読み手は刺激を欲しがっているんだろうな」と思い至って「ファンタジー」小説を書けばいいと理解できます。

 またとくに「ファンタジー」でなくても、「なにかを競ったり争ったり戦ったりして勝った負けたの過程を読ませる」ことができればいいのです。

 だから「SF」でも「恋愛」でも、つねになにかと戦っていなければなりません。

 日本の経済が建て直された時期に、テレビでは推理ものと医療もののドラマが増えました。

 主人公は、推理ものなら「犯人」と、医療ものなら「難病」「大怪我」と闘っているのです。

 だから推理ものと医療ものがテレビにあふれました。

 つまり「なにかと戦って」さえいれば、とくにジャンルにこだわることはないのです。




乱に居て治を忘れず

 これとは真逆なことですが、世の中の治安が悪いとき、人々は「安らぎ」が欲しくなります。

 やなせたかし氏原作のアニメ『それゆけ!アンパンマン』では主人公であるアンパンマンはいつもばいきんまんと戦っています。

 放送開始三十周年を迎える国民的アニメはバブル末期に始まりましたが、バブルが崩壊して「安らぎ」を欲していた国民が飛びついたのです。

 アンパンマンとばいきんまんは戦っています。

 ですがいつもばいきんまんがアンパンマンの顔を汚したり濡らしたりして弱らせて優位に立ちますが、ジャムおじさんが新しい顔を焼いてバタコさんがアンパンマンの顔を交換し、「元気百倍」になって一発のアンパンチでバイキンマンをやっつけるのです。

 つまり「勧善懲悪」のお決まりパターンになっています。

 だから安心して観ていられるんですね。

 それよりも前から放送されている長谷川町子氏原作『サザエさん』、藤子・F・不二雄氏原作『ドラえもん』は「ほのぼの」雰囲気を持つ「ホームドラマ」として成り立っています。

 この二作のアニメが始まったのは、高度経済成長期に差しかかって世の中が殺伐としていた頃です。

 つまり国民は「安らぎ」を得たかったといえます。

 それは視聴率にも表れていて、最盛期の1980年代の視聴率ではNHKの「朝ドラ」や「大河ドラマ」よりも高く、30%を超える週もあったほど。

 つまり「皆が競ったり争ったり戦ったりしている」ときほど「ほのぼの」とした安らぎのある作品が求められるのです。




ハイファンタジーにもいろいろある

 一概に「ハイファンタジー」で括ってしまうと、重要なポイントを見誤るかもしれませんね。

 もちろん「剣と魔法のファンタジー」は読み手に刺激を与えてくれます。

 ですが「ほのぼの」とした安らぎを感じる「ハイファンタジー」というライトノベルも近年増えてきました。

 今だと暁なつめ氏『この素晴らしい世界に祝福を!』が代表ですね。

 小説が世相を反映するのであれば、現在はやや殺伐としてきたと言っていいのではないでしょうか。

 日本銀行がマイナス金利を採用したり、日本の家電メーカーが次々と経営破綻したり、貿易国として中国が顔を利かせるようになってきたり、やはり殺伐としてきた印象があります。

 さらに北朝鮮が核・ミサイル開発を継続していて、安全保障上のリスクが高まっているのです。

 日本の未来に安らぎを覚えないから、「ほのぼの」とした作品が好まれています。


 日本経済が絶好調だったバブル景気の末期に田中芳樹氏『銀河英雄伝説』、水野良氏『ロードス島戦記』が人気を博してアニメ化されました。

 バブル景気崩壊後に神坂一氏『スレイヤーズ』のアニメが放送を開始しているのです。

「ほのぼの」とした「ハイファンタジー」である『スレイヤーズ』が、現在まで続く安らぎを覚える「ハイファンタジー」の祖と言えます。




現在の日本は

 小説が世相を反映するとして、今は殺伐としているのであれば「ほのぼの」とした小説がウケるはずです。

 たとえば渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』や伏見つかさ氏『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『エロマンガ先生』といった作品ですね。

 それとは別に刺激の強い川原礫氏『ソードアート・オンライン』や佐島勤氏『魔法科高校の劣等生』といった作品も根強い人気があります。

 また鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』のように、両者をバランスよく兼ね備えた作品は、景気に左右されることなく人気を集めています。

 つまり小説とくにライトノベルの傾向を見ていると、日本経済の現状は最近殺伐とし始めたと言っていいでしょう。





最後に

 今回は「日常とは異なるものが読みたい」ことについて述べてみました。

 景気や治安が良いときは刺激のある「アクション」シーンが読みたい。

 悪いときは安らぎのある「ほのぼの」とした作品が読みたいのです。

 だから、小説の書き手はつねに世界のニュースを把握してください。

 小説を書くだけではダメなのです。

 これからの小説の流行りを先取りしなければ一番になることなどできません。

 トランプ大統領によるアメリカの混乱、習近平主席による中国独裁化、金正恩委員長による北朝鮮の融和政策など。

 世の中は、これからの日本にどんな影響を与えるかわからない要素に満ちあふれています。

 未来を「予知する」ことはできません。

 ですが「傾向を読む」ことはできます。

 今後どういう傾向に進むのか。

 それを知るためにニュースを読むのです。

 賀東招二氏『フルメタル・パニック!』は、まさにニュースを追っていたからこそ生まれた傑作だと言えます。




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