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347.不調篇:書かないことを決める

 今回はあえて「書かないことを決める」ことについてです。

 前回「興味のあるものなら必ず書ける」と書きましたが、いざ書こうとしたとき書けなくなる人がいます。

 なぜかといえば「書きたいものがたくさんあって、どの順番に書いていけばいいのかわからなくなる」からです。

 それならいっそ書かないことを決めてしまえばいいのです。

書かないことを決める


「小説を書こう」という人は頭の中に明確な物語が浮かんでいることが多いと思います。

 人によっては主人公だけが固まっていて、ストーリーはまったく思い浮かんでいない人もいるでしょう。

 また前回「興味のあるものなら必ず書ける」と書きましたので、書きたいことが山のようにあるはずです。

 いずれの場合も「書きたいシーン」や「言わせたいセリフ」や「読ませたい情報」などが明確にあると思います。

「どうしてもそれを書きたい」という衝動で「小説を書こう」とするのですが、書けない。

 書きたいことがあるのに書けないのです。

 山のようにあるのに書けません。

 なぜ書けないのでしょうか。




書きたいことが多すぎる

「書きたいことがあるのに書けない」人がいます。

 実は「書きたいことが多すぎる」ことが原因です。

 たとえば主人公をひとり創ってみてください。

 年齢・性別・血液型・身長・体重・視力・握力・背筋力・体脂肪率といった身体的なことから、集中力・記憶力・思考力・想像力・創造力といった内面的なこと、出身校・職場・地位・役職・年収・不労所得・貯蓄といった環境的なことまで、さまざまなことが設定できるでしょう。

 ではその主人公で小説を一本書いてみましょう。

 すると書けなくなります。

 これだけ設定してあるのに書けないのです。

 主人公の設定を創っていないから書けないのではありません。

 創りすぎて書けなくなったのです。

 意外に思うかもしれませんね。

 でもこれが「書きたいことがあるのに書けない」ことの真相です。


 なぜこうなってしまうのでしょうか。

 この設定はいつ書けばいいかなと機会を窺うようになって、出しどころに迷います。

 迷うから書けない。

 であれば「箱書き」「ブロット」の段階で「この場面ではこの情報を出していこう」と決めておけばよいように思いますよね。

 それもひとつのアイデアではあるのですが、万能な解決策とは言えません。




書かないことを決めておく

 設定を詰めることは、とくに連載小説で人物の設定が破綻しないためには必要なことです。

 でもその量が多すぎて、なにをどこに書けばよいのか、すぐに見当たらなくなってしまいます。

「せっかく設定したことだから、すべての設定を書きたい」と思うのが書き手の(さが)なのです。

 だからこそ「いつ、どこに、なにを書けばいいのか」で悩むことになります。

 その点、私は「設定は最小限でいい」と述べてきました。

 これで「設定を入れるタイミング」なんて気にならなくなるのです。

 それでも「すでに設定を詰めてしまった連載だから、今さら設定の出し惜しみはできない」とおっしゃる方もいます。


 その場合は「書かないことを決めて」いきましょう。

 設定はしたけど、それを小説内で書かないように制限していくのです。

 つまり「省く」技術ですね。


 不思議なもので、「これは書かない」と決めていくだけで自然と「書ける」ようになります。

 長編小説や連載小説で「完全に行き詰まった」と思ったところからでも再び「書ける」ようになるのです。

「これから書くものを決める」書き方をすると、書きたいものの渦の中に放り込まれるような目に遭います。

 「どれから書けばいいのだろう」と悩むのです。

 しかも書いたのに「これでいいのだろうか」とさらに懊悩します。

 そうではなく「ここではこれは書かないと決める」だけ。

 俗な言い方をすれば「設定の断捨離」です。

 要らない設定や情報をどんどん捨てていきます。

 すると、その場面で書くべきことが段々と明確に浮かんでくるのです。




なにを書かないか

 これはひとつの表現にとどまらず、エピソードについても言えます。

佳境(クライマックス)」と「結末(エンディング)」が書きたくて「小説を書こう」としているのに、書きたいエピソードが山ほどあり、どのエピソードを書くべきかで悩むのです。

「とりあえずこんなエピソードを入れたらどうなるだろう」と考え始めるだけで、頭の中は膨大な「エピソードの素」の山で埋まってしまいます。

 こうなると「書きたいエピソード」がまったく思い浮かばなくなるのです。

 だから一文も書けなくなり、あなたは一本の小説すら完成できなくなります。

 それはあなたに小説を書く才能がないからではありません。

 書きたいことが多すぎて、「どれを選んでどれを捨てればいいのか」がわからないだけです。


 そういうときは「このエピソードは書かない」と決めていきましょう。

 これも「省く」技術ですね。

「もったいない」なんて思わないこと。

 どんどん「書かないエピソード」を捨てていくことで、本当に「必要なエピソード」だけを残すことができます。


 あなたは主人公がどんな朝食をどのように摂るのかということを書いたエピソードを読みたいですか。通勤通学での満員電車の混雑具合を書いたエピソードを読みたいですか。学校でただ授業を受けているだけのエピソードを読みたいですか。

 いずれも日常の中にある当たり前のエピソードだと思います。

 これらはとくになにか出来事が起こるもの以外、物語にはまったく必要のないエピソードです。

 こういう「物語に必要のないエピソードは書かない」ことを意識すれば、「書くべきエピソード」はすぐに見つかります。





最後に

 今回は「書かないことを決める」ことについて述べてみました。

 前回とはある意味で「真逆」のことを述べています。

 できるだけ詳しい設定や情報を読み手に与えたいと考える書き手が多いのです。

 しかし読み手は「この設定や情報やエピソードが物語にどう関与しているのか」という視点であなたの小説を読んでいます。

 その結果「設定や情報が物語にいっさいかかわらずに結末を迎えてしまった」とき、読み手は「ムダなことを読まされた」と感じるのです。

 すると読み手にとってあなたの知名度(ネームバリュー)は確実に落ちます。

 書き手がどんなにネームバリューを高めていても、「ムダなことを読まされた」だけで憤るのが読み手なのです。

「ムダなことを読まされた」と思わせないためには、「書かないことを決め」ましょう。

「これは書かない」「これは省いても物語になんら影響が出ない」というものを徹底的に省きます。

 それだけで、あなたの小説は贅肉のとれた端正な体を手に入れられるのです。




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