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三百枚書けるようになるお得な「小説の書き方」コラム  作者: カイ.智水
執筆篇〜わかりやすく書くための心得
333/1500

333.執筆篇:小説のリズム

 今回は「リズム」についてです。

 説明を始めると時間が止まり、描写を始めると流れ出します。

 この「止まる」「流れる」によってリズムを刻むのです。

小説のリズム


 小説にはリズムがあります。

 と言っても俳句のような五七五調や中国の四行詩のように韻を踏むことではありません。

 小説内での時間経過についてです。




説明を始めると時間が止まる

 小説において周辺説明を続けている間は時間が止まります。

「文豪」のひとりである夏目漱石氏の代表作である『吾輩は猫である』の書き出しは「吾輩」の周辺説明を延々と書いているのです。

 つまり物語がいっこうに流れ出しません。

 現在こんな書き方をすると、小説賞への応募作なら下読みさんの段階で早々にハネられます。


 それでも夏目漱石氏が「文豪」と呼ばれる理由は、飽くなき探究心でさまざまな書き方に挑戦していったからです。

「マンガの神様」として知られる手塚治虫氏も、夏目漱石氏同様、飽くなき探究心で多種多様なマンガを生み出しています。

 ロボットもの、勇者もの、魔女っ子もの、男装麗人もの、ショタコンもの、動物もの、医療ものなどその種類は枚挙に暇がありません。

 そして意外かもしれませんが手塚治虫氏は成人向けマンガも描いています。

 夏目漱石氏もエロチックな小説を書いていますが、それは当時の文壇において出版された書籍の八割ほどがエロチックな要素を持つ小説だったからです。

 当時の小説は「社会的地位の高い人」向けの高等な娯楽に位置づけられていました。

 だから当然のようにエロチックな小説も求められていたのです。

 しかし手塚治虫氏はマンガ界でそれほど成人向けマンガが存在していない頃から書いています。

「文豪」も「神様」もあらゆるジャンルに挑戦したからこそ得られた称号なのです。


 閑話休題。

『吾輩は猫である』は冒頭で延々と周辺説明を書き連ねています。

 そのあいだ時間はいっさい流れません。


 似たようなものに田中芳樹氏『銀河英雄伝説』があります。

『銀河英雄伝説』では第一巻の最初のページをめくってから主人公が出てくるまで、丸々一章用いて銀河の歴史を克明に「説明」しているのです。

 その間、本編の時間はいっさい流れていません。

 本作はSF小説ファンの中で「この小説は面白いよ」という口伝てがじわじわと浸透していった結果、日本SF史を代表する作品となりました。

 これほどの傑作でもスタート・ダッシュには失敗していたのです。


 小説はただ「説明」しているだけで「時間が止まり」ます。

 コラムNo.317「執筆篇:物語にたいせつな二つのこと」において、マンガの荒木飛呂彦氏『ジョジョの奇妙な冒険』第三部スターダスト・クルセイダース編のことを取り上げて「マンガで時間を止める描写は難しい」と書きました。

 しかし小説では延々と「説明」を続けるだけでとても容易に「時を止める」ことが表現できてしまうのです。

 一瞬のことを何文にもわたって書き連ねるだけで「時が止まる」のが小説を含めた文章全体の特徴と言えます。




一文ごとにサクサク進むリズム

 これに対し、一文を書くごとに時間が経過していく、サクサクと歯切れのよい小説もあります。


「文豪」の作品だと川端康成氏『雪国』の書き出しが挙げられます。

 汽車に乗って国境を越える、雪国の描写、汽車が停まる、娘がガラス窓を開ける、冷気が流れ込んでくる、娘が駅長に話しかける、駅長が娘のところに寄ってくる――という具合です。

 一文書くごとに時間が刻々と進んでいますよね。

 この小気味よいまでの時間進行こそが、リズムのよい小説の書き方なのです。

 もちろん『雪国』にも主人公の島村が過去に思いを馳せるシーンはあります。

 そのときは時間が止まっているのです。

 ですが、出だしのリズムが良いため、時間が止まっても読み手は時間が再び動き出すのを心待ちにしていられます。


「ライトノベル」ではたとえば賀東招二氏『フルメタル・パニック!』は冒頭のプロローグから時間がサクサクと進んでいくのです。

 ですが第一章になると「時を止めた」書き方がなされています。

 日常の高校生活とは別の世界を読み手に認識してもらうために、第一章を丸々用いて舞台設定を畳み込んでいるのです。

 そうすることで読み手はプロローグのサクサク感を抱いたまま舞台設定を黙々と読み進めます。

 またサクサク感が戻ることを期待して。

 そして賀東招二氏は見事にサクサク感へとリズムを戻していきます。


 振り返ってみると、ライトノベルは一文ごとに時間が経過するリズムを持った作品が多いのです。

 とくに神坂一氏『スレイヤーズ』のような、読んでいて楽しい作品ですね。

 ライトノベルの大半は「会話文」を読ませて「地の文」で補足していく作品になります。

 そして「会話文」は否が応でも時間が進んでいくものです。

 言葉を発したときから声が途絶えるまでの間、時間は必ず流れていますよね。

 このサクサクとした小気味のよいライトノベルが多くの読み手に支持されている理由もまさにそこにあるのです。


 対して「純文学」私の言う「文学小説」や「エンターテインメント小説(大衆小説)」は「地の文」を読ませて「会話文」を補足していく書き方になります。

 だから文学小説や大衆小説は、心の内面や出来事の裏側などを「説明」することに紙幅を費やすのです。

 これでは「時間が止まって」しまいます。

 読み手は「物語の先々の展開」をこそ読みたいのです。

 長々と「地の文」で説明が続くようだと、今の読み手はすぐに読むのをあきらめてしまいます。

 その証拠に文学小説や大衆小説は売上を年々落としているのに、ライトノベルは年を経るごとに成長を続けているのです。




芥川賞・直木賞の凋落

 私は話題作以外は買っていませんが、芥川龍之介賞(芥川賞)と直木三十五賞(直木賞)の受賞作のレベルが年々下がってきているのを感じています。

 私がライトノベル志向だということもあるのですが、それを差し引いてもよい「文学小説」や「大衆小説」には出会えていません。

 おそらく芥川賞と直木賞を選考している出版社も、良い作品がほとんどなくなってしまい、なにか「話題性」を求めた選考に偏っているように見えます。

 芥川賞を授かった若竹千佐子氏『おらおらでひとりいぐも』も「史上二番目の年長受賞者」という話題性がなければ選ばれなかったはずです。

 また直木賞にノミネートされたバンド・SEKAI NO OWARIのSaoriこと藤崎彩織氏『ふたご』も同様に話題性がなければという作品でした。

 出版社の狙いとしてはお笑い芸人ピースの又吉直樹氏『火花』の再来を期待しての授賞やノミネートなのでしょうが、その狙いが露骨すぎてかえって読み手が距離を置いてしまう原因にもなっています。

 そもそもなぜ毎回必ず受賞者を出さなければならないのか。

 そこから疑ってしまいます。

「特定の小説雑誌に掲載された小説以外は選考対象にはならない」という縛りがあり、小説雑誌を売るためには毎回受賞者を出す必要もあるのでしょう。

 ですが「受賞するに能わない作品」にあえて賞を授けるのはナンセンスです。

 芥川賞・直木賞の権威を自ら落とし続けていることに気づいていないのでしょうか。


 このように「文学小説」や「大衆小説」は年々レベルを落とし続け、ライトノベルは洗練されていきます。

 いつか芥川賞・直木賞よりも『このライトノベルがすごい!』大賞のほうが権威を持つ未来も予想されるのではないでしょうか。

 その流れに乗るためには「文学小説」や「大衆小説」であってもサクサクとテンポよく読み進められる小説を目指すべきです。





最後に

 書き手は物語の「時が止まっている」ことを意識しないまま執筆することが多々あります。

 読み手が読みたいのは「物語の先々の展開」です。

 ライトノベルであれば、今の周囲の状況を克明に「説明」「描写」せず必要最小限にし、できるだけ「時間を進めて」読み手を飽きさせないようにしましょう。

 ライトノベルにおいて「時が止まっている」状態は、読み手を軽視した書き方だと言わざるをえないのです。

 文学小説や大衆小説でも、美辞麗句で着飾ろうとせず、もっとダイナミックにキャラを動かして物語を前に進めてください。

 サクサク感が必要なのは、本来文学小説や大衆小説のほうなのですから。




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