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三百枚書けるようになるお得な「小説の書き方」コラム  作者: カイ.智水
表現篇〜一歩先行く表現の磨き方
270/1500

270.表現篇:読み手を主人公に協力させる

 今回はサブタイトルを読んだだけではなんのことだかさっぱりわからないと思います。

 文章の外にいる読み手を「文章の中にいる主人公に協力させる」わけですからね。

 でも、意外と多くの作品で用いられているんですよ。

読み手を主人公に協力させる


 今回のサブタイトルを読んだあなたは、きっと頭の中に大きな「?」マークが浮かんでいることでしょう。

 なぜなら読み手を「文章の中にいる主人公に協力させる」ことなどできないと思ったはずだからです。

 確かにすでに文章として書いてある小説の中へ読み手を参加させることはできないのかもしれません。




視点を変えてみると

 では視点を少し変えてください。

 小説とは物語の中で活躍する主人公に、読み手が感情移入して疑似体験をしてもらう娯楽です。

 感情移入している主人公に対して、読み手が「こうしたらうまくいくのに!」「こうしたらダメだよ!」と思わせる展開を繰り広げて焦れてくるのを待ちます。

 そして時が訪れると主人公がはたと気づいて考えを改めるのです。

 前もって読み手が「こうしたらうまくいくのに!」と思った選択肢を主人公に選ばせ、「こうしたらダメだよ!」と思った選択肢を主人公に選ばせないということができたとしたら。

 それは読み手が主人公に協力したことになりませんか。

 つまり読み手に「こうしてほしい」「こうしないでほしい」と思わせ、時機を見て主人公が考えを改めて「そうしてしまう」「そうしないでおく」ことで、読み手は物語に関与したことになります。




読み手を物語に協力させる

 読み手を物語に協力させる例として、寓話『三匹の子ぶた』を挙げましょう。


 まず一匹の子ぶたはわらで家を作りました。そこにオオカミがやってきてわらを吹き飛ばし、子ぶたは食べられてしまったのです。


 次の子ぶたは木の骨組みに板を壁にして家を作りました。そこにオオカミがやってきます。息では吹き飛ばせなかったのでオオカミは体当たりで壁をぶち破り、子ぶたは食べられてしまったのです。


 いちばん年下の子ぶたはレンガで家を作りました。そこにオオカミがやってきて吹き飛ばそうとし、次いで体当たりをしますがレンガですからピクリともしません。


 どんなに家の外へ誘い出そうとしますが、子ぶたはすべてオオカミと出会うことを回避し続けます。

 すっかり頭にきたオオカミは煙突から家の中に入ろうとしますが、子ぶたは暖炉に大鍋をかけて湯を沸かして待ち構えました。

 そのことに気づかないオオカミは大鍋の中に飛び込んでしまいます。

 子ぶたは鍋にふたをしてオオカミをそのまま煮込んでしまったのです。

 こうして子ぶたはオオカミのスープを夕食にしました。

 子ぶたは自由を手に入れたのです。


 これが『三匹の子ぶた』の大筋になります。




三匹の子ぶたに見る読み手の協力手法

 では「読み手を物語に協力させる」ところを見ていきましょう。

 まず最初の子ぶたはわらで家を作ってオオカミに食べられます。

 読み手は「わらの家では危ないんだ」と思うのです。

 次の子ぶたは木と板で家を作りました。

 すると読み手は「ちょっと待って。わらとは違うけど造りがボロいでしょ。すぐにオオカミに食べられちゃうよ!」と判断するのです。

 そしてそのとおりの結果になりました。

 読み手は「だから言ったじゃないか!」と反応しますよね。

 そしていちばん年下の子ぶたはレンガで家を作りました。

 読み手は「そうだよ! レンガで家を作れば吹き飛ばされないしそう簡単に壊せないぞ。これなら安心だ!」と思います。


 わかりましたか。

 そうです。この時点で読み手は物語に参加しているのです。

 だから読み手は年下の子ぶたに深く感情移入していきます。

 次々と襲いかかるオオカミの魔の手を、手に汗握りながら読み手は子ぶたを応援するのです。

 子ぶたは読み手の期待に応えて、次から次へとオオカミの魔の手をやり過ごします。

 最終的にオオカミは煙突から入ろうと試みますが、子ぶたは暖炉に大鍋で湯を沸かして待ち構えているのです。

 この勝負に勝つか負けるか。

 ワクワク・ハラハラ・ドキドキが揃っているのです。

 結果としてオオカミの恐怖を完全に振り払い、「これでもう誰にも脅かされない!」と読み手は歓喜します。

 もう読み手は達成感を覚えて大満足です。


 このように寓話であっても「読み手を物語に参加させる」ことができるのです。

 これが小説ならどうなるでしょうか。




小説で読み手を物語に協力させるには

『三匹の子ぶた』で明らかになったのは「失敗例を具体的にいくつか挙げる」必要があることです。


 すると読み手は「それではダメなんだよ!」「こうしたら成功するんじゃないかな?」と考え始めます。

 その読み手の思考にピタリと沿うような展開を繰り広げれば「だからこれじゃダメなんだよ!」「やっぱりこうなった!」と読み手は感じるのです。

 そのためには前もって「失敗例を具体的にいくつか挙げて」おきましょう。

 この方法はダメだった。次の方法もダメだった。じゃあどうすればいいんだろう。

 読み手にそう思わせた時点であなたの小説にも「読み手を主人公に協力させる」ことができます。




真理はえてして単純なもの

 あまりの単純さに「本当にこんなことでいいの?」と皆様は思われるでしょうね。

 しかし「真理はえてして単純なもの」です。

 アルベルト・アインシュタイン氏は自らが発見した「E=mc^2」(「^2」は「2乗」の意)というひじょうに単純な公式によって物理学における特殊相対性理論を証明しました。

 そしてこの単純な公式をもとにして原子力爆弾は開発されたのです。





最後に

 今回は「読み手を主人公に協力させる」ことについて述べてみました。

『三匹の子ぶた』はおそらく最も単純明快な形で「読み手を主人公に協力させて」いる寓話です。

 そこから学ぶべきことが多くあります。

 ただの寓話と侮るなかれ。「真理はえてして単純なもの」なのです。

「失敗例を具体的にいくつか挙げる」ことと「読み手が『これなら成功するはずだ』と思う方法で成功させる」こと。

 この二点が揃えば「読み手を主人公に協力させる」システムが構築できるのです。

 そして最後に読み手の想像を超える手段を提示します。

 イチかバチかの大勝負。主人公は賭けに勝つのか負けるのか。

 読み手の想像を超える出来事(イベント)である以上、読み手には「結末」を想定できません。

 つまり「ゴールが見えてくると読み手の興味を惹ける」のです。

 ぜひあなたの小説に組み込んでみてください。

 きっと読み手を深く感情移入させることができますよ。




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