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三百枚書けるようになるお得な「小説の書き方」コラム  作者: カイ.智水
基礎篇〜右も左もわからないときは、まずは基礎から
26/1500

26. :具体的に書く

 今回は「具体的に書く」ことがテーマです。

 小説を投稿して閲覧数は増えているけどいいね!とブックマークが伸びないのはつらいですよね。

 その原因は「具体性に欠ける」からかもしれません。

具体的に書く


 一人称視点で書かれる小説では、しばしば必要な説明が足りない事態が起こります。

 とくに主人公がある感情になった際「なぜそのような感情を抱くに至ったか」が書かれていないのです。書き手は話の筋を作る段階で主人公の心の内をすべて知りえているため、執筆中につい書き忘れてしまいます。

 人は抽象的なものを示されても頭の中で明確なイメージを抱けません。具体的な事象を示されれば容易にイメージを湧かせられます。

 書き急いでいると、つい抽象的な表現が多くなる。脳の視覚野に訴えかけるほど具体的な表現をしない限り、読み手は小説の主人公に没入してくれません。

 読み進めるほどに感情移入して「疑似体験」を得るのが小説です。「疑似体験」をするには具体的な表現を読むことが不可欠になります。




抽象的な表現とは

 抽象的な表現とはなんでしょうか。いちばんわかりやすいのが「ニュース」です。

「二〇一一年三月一一日に東日本で大きな震災が起こり、数千人が地震と津波の犠牲となった。」

 読み手に情報を伝えることを考えれば十全としているでしょう。ですがこれを読んで事の深刻さをどれだけイメージできるでしょうか。テレビであれば地震の揺れの激しさも津波の圧倒的な破壊力も映像で見られます。でもそれをそのまま文字にしたら上のニュースになってしまうのです。地震の揺れも津波の破壊力もまったく伝わりません。

 これは数千人を網羅した書き方をしているからです。数千人が被ったことを一文に表そうとすれば、全体として見える抽象的な書き方をするしかありません。

 数千人を対象にして具体的に書いてみようと考えてください。どうすれば具体的に書けると思いますか。




具体的に書くとは

 ある人は行政無線で高台避難を呼びかけるアナウンスを最期まで訴え続けながら津波に飲まれました。

 一人でも多くの住民が避難できれば自分の命がどうなったってかまわないという義心を後世に残したのです。

 それでもその方は身に迫る恐怖で打ち震えていたことでしょう。「自分も生きたい」と強く思っていたはずです。でもその方はより多くの住民を救うために命を投げ出しました。


 一方関東のある人は「津波は高波が来るんだろ」と勘違いして警戒することもなく楽しげにサーフボードを担いで海へ出て、そのまま津波に飲まれました。

 津波をただ「高い波がくる」と勘違いしている人は今でも多いのです。「三メートルの津波が来ます」と放送されれば「三メートルのビッグウェーブを楽しめるぜ」という具合に。これが間違いであることは先の東日本大震災で学んだ方も多いでしょうが、日本全国民が理解したかというとかなり怪しい。

 あれ、おかしいですね。数千人を対象に具体的に書くことを考えているのに、その中の一人ひとりを描写してしまっています。


 そうなんです。「具体的に書け」と言われれば「具体例を挙げ」なければなりません。

「具体例を挙げ」ず具体的に書くことはできないでしょう。挙げずに書けば最初のニュースの一文とほとんど同じになってしまいます。

「福島第一原子力発電所が津波を受けて、全電源の喪失と原子炉の損傷から核燃料棒がメルトダウンした結果、多大な避難区域が生じました。」という文も最初のニュースの一文よりも比較的具体性はありますが、行政無線の人やサーファーよりも抽象的です。

「多大な避難区域が生じた」のならその避難区域に住んでいる人の目線から「具体例を挙げる」ように書けば「具体的に書い」たことになります。そうでなくこのように書いてしまっては、ニュースの一文と大差ありません。




読み手にじゅうぶんな情報を与える

 書き手はまず「読み手にじゅうぶんな情報を与えているか」に気を配ってください。

 あなたの頭の中では完璧な絵が描かれているのかもしれません。しかし、読み手は書かれてある文字しか見えていません。

 文章を読んで読み手が「なぜ?」と思うようではダメなのです。

 もちろん例外はあります。物語の背景を流れる伏線として謎が用意されていて、それがなんなのかわからない。これは読み手が小説の先を知りたくなるタネですので、この「なぜ?」は重要です。しかし伏線でもないところで「なぜ?」が浮かぶようではいけません。

 過去の「あるエピソードの顛末」について言及しながら、その文以前にその「エピソード」とその「顛末」が書かれていなければ読み手にはなんのことだかさっぱりわからないのです。

 もし「宏太は母親と会わずに自室に戻れて喜んだ。」という一文があったとします。すると「宏太はなぜ母親と会いたくなかった」のかわかりませんよね。そして「自室に戻れて喜んだ」のはなぜなのか。

 読み手のこの疑問に書き手は必ず解答を用意していなければなりません。この一文には解答がないので読み手は疑問を抱くのです。

 なにも一文中に書く必要はありません。前の文または続く文で「理由」がきちんと書いてあるか。それがたいせつです。


 次に「説明や描写している対象がなにか」を明確にしてください。比喩を多用する方はとくに気をつけましょう。

 比喩に凝るあまり、どの部分に対する比喩なのかが曖昧になりやすいのです。話の中心である「対象」がきちんと示されてから比喩を用いましょう。

「対象」のわからない比喩は何も書いていないよりも読み手をがっかりさせます。「文章は長いんだけど、なにが言いたいのかわからない」というのでは足りていません。

 また出来事(イベント)を起こしたら必ず「主人公の結末(エンディング)」を書きましょう。

 出来事(イベント)を起こしただけで話が変わってしまっては、読み手の頭に「なぜ?」が浮かんでしまいます。それも特大の。連鎖的に出来事(イベント)が起こるのでなければ、出来事(イベント)には「主人公の結末(エンディング)」が不可欠です。




必要のある情報だけ書く

 といって「ではすべて具体的に視覚化できるように書けばいいんだな」とは思わないでください。書く必要のあるのは「物語に関係するもの」だけです。関係ないことをたくさん書いても「ムダ」になります。

 一人称視点で主人公が見たものすべてを書くのは冗長です。その中で物語に関係するものはなにか。それだけにポイントを絞って書いてください。

 昔のコンピュータ・ゲームに「テキスト・アドベンチャー・ゲーム」というジャンルがありました。

 これは画面に文章だけが表示され、単語を入力することでコンピュータから反応が返ってくるゲームです。このとき画面に表示された文章の中には物語に関係ないものもたくさんありますが、必ず「物語に関係する単語」が混じっていました。手がかりもなく単語を思いつくことはまずありません。

 ゲームのハドソン『デゼニランド』というCG付きアドベンチャー・ゲームは「通常では思いもよらない英単語を入力しなければクリアできない」という高いハードルが待ち受けていました。この罠に多くのプレイヤーがハマったのです。物語を最後まで見れたのは雑誌『マイコンBASICマガジン』で山下章氏の攻略記事を読んでからという方が多かった。「attach」や「polish」なんて日常では使わない動詞ですからね。

 この例でもわかるように「物語に関係するもの」が書かれていなければ、読み手は視覚的にすんなり読むことはできませんし、物語を正しく理解するのが困難になります。

「物語に関係するもの」は余さず書くこと。書かないと必ず読み手が「なぜ?」と思います。小説でこの状態が発生すると読み手には小説内世界がとても陳腐なものに感じられます。

「こんなもののためにわざわざ時間を割かなけりゃならなかったのか」と憤慨して、同じ書き手の小説は読まれなくなるでしょう。





最後に

 今回は「具体的に書く」ことについて述べてみました。

 読み手はいつも具体的なことを読んで感情移入して物語を「疑似体験」することを望んでいます。

 だから読み手はいろいろと書き手に難癖をつけるのです。こうしたほうがもっとよいのにと。

 それをどれだけ受け入れて具体的に書いていくのか。それは書き手次第です。


 やみくもに書きまくるのはオススメしません。たくさん書いたらたくさん削ることが必要です。

 書くことにも技術は要りますが、削ることにも技術を要します。どこまで書けばいいのか。どこまで削って大丈夫か。

 見極めるにはとにかく小説を書き続けて、読み手の反応を確かめるほかありません。書き手自身でできることといえば、読み手目線へ戻るためにいったん筆を止めて気分転換し、リフレッシュしてから推敲するといいでしょう。




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