215.再考篇:一日に何時間書けますか
今回は「執筆できる時間」です。
ほとんど同じタイトルになっていますが、前回の続きです。
スキマ時間の有効利用と、まとまった時間をとることについて述べました。
今回と次回は樺沢紫苑氏『神・時間術』を参考にしています。氏の他の書籍同様『神・時間術』は記憶について述べていますが、本作は「創造」で使える時間に絞って書いています。興味がありましたらぜひ原著をご購入くださいませ。
一日に何時間書けますか
あなたは一日のうちに何時間小説を書いていられますか。
これは前回の「一日に何千字書けますか」に似ています。違うことがあるとすれば「時間制限がある」ことです。
時間制限があるとどうしても焦りが生まれてきます。結果描写を端折りぎみになり「描写不足」で「主人公に感情移入できない」小説を書いてしまうのです。だから「一日に何時間書けますか」という問いは間接的に「一日に何千字書けますか」の答えになります。
スキマ時間であらすじや箱書きやプロットを固めておく
授業と授業の合間や昼食時などのスキマ時間を利用して小説を書いている人は多いと思います。そういった時間に執筆することはたいへん結構なことです。ぜひ続けてやってください。次回も「執筆時間」の話をしますが、スキマ時間の有効利用は必ずすべきです。
しかし上記したとおり時間制限があると「描写不足」を起こしやすくなります。
スキマ時間は時間制限が著しく短いので、執筆よりむしろ「あらすじ」「箱書き」「プロット」を練る時間に当ててください。
前回も書きましたが「あらすじ」「箱書き」「プロット」が固まっている文章を書くのは息をするようにできます。
固まっていなければ都度考えながら書いていくことになるのです。「あらすじ」「箱書き」「プロット」を考えることに時間の大半が費やされてしまいます。だからスキマ時間を利用して「あらすじ」「箱書き」「プロット」をしっかりと練ることが重要です。
「あらすじ」「箱書き」「プロット」が完成していれば、家に帰ってまとまった時間がとれたとき、その「あらすじ」「箱書き」「プロット」に従って文章を紡ぐだけ。作業効率がまったく異なります。
まとまった時間が一日二時間半しかとれないとしても、五千字書くことが夢ではなくなるのです。五千字はだいたい十分で読める分量ですから、読み手のスキマ時間にアプローチしやすくなります。だからだいたい一日五千字を目標にして書くとよいでしょう。
まとまった時間は不可欠
もしまとまった時間がとれなかったらどうでしょうか。たとえば一時間執筆し、一時間勉強した後に一時間半執筆するような場合です。
これだとまず一時間の時間制限に追われてしまいます。当然「焦り」が生まれて集中力を高める代わりに「描写不足」が起こるはずです。
勉強後の一時間半に再度執筆するとき、先の一時間で書いた内容を読み返して流れをもう一度掴んでから書くことになります。
そしてまた一時間半の時間制限に追われることになるのです。
「時間制限」による「焦り」は集中力を高めますが、間に別の作業を挟むのははっきり言って「時間のムダ」。こんな書き方はすべきではありません。
それなら「先に勉強を一時間して、残り二時間半で執筆する」ほうが断然いいに決まっています。まず読み返す必要がないからです。
しかも「一時間の時間制限」「一時間半の時間制限」に縛られて「焦り」を生み集中力が高まって「とりあえず書き上げなきゃ」という思いから来る「描写不足」を招かなくなります。
あなたが意識するのは「二時間半」という長い「時間制限」ひとつだけ。二時間を過ぎるまでは時間を意識しなくていいのです。高い「集中力」は発揮できないかもしれませんが「とりあえず書き上げなきゃ」という状況には陥りません。
だから余裕を持って丁寧に描写できるため「描写不足」を招くことがないのです。
小説を執筆して腕前を上げていきたいのなら「まとまった時間」が不可欠になります。
ああすればよいとかこうすればよいとか考える余裕が生まれるからです。
書き出しは後で決めればいい
小説を書こうと思っているのだけど、実際には一行も書いていないという人が結構多いと思います。
「書き出し」に悩んで試行錯誤するけど、読み手が食いつきそうな理想的な「書き出し」が書けない。だから「書こう」と思ってパソコンに向かい、数文打ってみて「これは違うな」と感じて入力した文章を削除して一行も書かないのです。
「書き出し」に悩むのもひとつの方法ですが、プロの書き手や過去の文豪ですら「書き出し」には悩みます。
まして処女作を書こうとする人が「書き出し」に悩むのは当たり前なのです。ですが今小説を書いている人は全員それを乗り越えています。
処女作の「書き出し」が決まらない人と、小説を完成させた人との差はなんでしょうか。
「あらすじやプロット」を先に作ってあること。そして「書き出し」と思われる部分の前後から書き始めることにあります。
つまり「仮の書き出し」を決めてとりあえず書いてみるのです。そして書き終えてからふさわしい「書き出し」を決めていきます。
一挙投稿をするのであればこのやり方がベストです。
しかし連載小説なら、まず「書き出し」を投稿しないことには始まりません。
そこでだいたい一週間ぶんつまり七日ぶんのストックを手元に用意し、そのうちのどこから始めるのが適当かを決めるやり方が誰でも簡単にできます。
書けない理由を「書き出しが書けない」ことに転嫁するのが一行も書けない人の言い訳です。
「前後の部分を含めてとりあえず『あらすじ』『箱書き』『プロット』のとおりに書いてみて、ストックの中から書き出しにふさわしい場所を選んで投稿する」のが小説を連載できる人の創作法になります。
ストックがあると心に余裕が生まれる
そのためには「あらすじ」「箱書き」「プロット」を固めておくことと「手元に連載のストックを持っておく」ことです。
「あらすじ」「箱書き」「プロット」はスキマ時間に書けます。ですが「連載のストック」はまとまった時間がなければ作れません。
毎日投稿一回ぶんおよそ五千字〜六千字を目安に書いていきます。しかしそれでは「連載のストック」が作れません。ではどうすればいいのでしょうか。
土曜日・日曜日・祝祭日などの休日を利用して一気に四回ぶん書いてしまえばいいのです。そうすれば一日に三回ぶんのストックが作れます。
このように連載小説にはまとまった時間が不可欠なのです。
連載で要望が出たら
もし小説を連載していてコメントが付き「こんな展開にしてください」と言われたとします。
そのときどうすればよいのでしょうか。手元には七日ぶんのストックがすでにあるのです。これを捨ててコメントに従いますか。それともコメントに関係なくストックどおりに投稿しますか。
もし要望された展開をしたうえでストックぶんの流れに戻れると判断できるのなら、迷うことなく寄り道すべきです。
読み手が読みたい展開を書かないとその読み手はこの先読んでくれるでしょうか。きっと見切りをつけてあなたの小説から離れていくと思います。ただし「たったひとりの要望」のために「あらすじ」「箱書き」「プロット」が台無しになってはなりません。
ストックを含めた「あらすじ」「箱書き」「プロット」が完璧ならば寄り道などせず今までどおりストックを投稿し続けるべきです。
「たったひとりの要望」のために全体をぶち壊したら、書き手であろうと物語の着地点が見出だせなくなります。そうやって行き当たりばったりの連載が続くと「話をまとめられない書き手だな」と感じられて多くの読み手が離れていってしまうのです。
それでは元も子もありません。
もしあなたがまとまった時間をたくさんとれるようであれば「要望された展開をした」ときにその後の「あらすじ」「箱書き」「プロット」をどう変更していけばいいのか。丸々取り替えてしまうのか。新規で書き直すのか。そういった点を含めて考えてください。
そして「あらすじ」「箱書き」「プロット」を変えたほうが面白くなりそうだと思ったのなら、ストックを投げ捨てて新たな「あらすじ」「箱書き」「プロット」を作って、それに沿ったストックを作りましょう。
これはとくに土日を休みにできる人に向いています。土曜日に新たな「あらすじ」「箱書き」「プロット」を作り、日曜日に新たなストックを作ればとりあえず三日ぶんのストックは確保できるからです。
そして次週の土日でストックを増やせば九日ぶんのストックが手元に残ります。
ただし一度要望を受け入れてしまうと、他の人からも「こういった展開にしてください」という要望がくるでしょう。
それを受けないと「あの人はよくて私はダメなの?」と感じて読み手が離れていってしまいます。
そうなるとまた「あらすじ」「箱書き」「プロット」や「ストック」と勘案してどう取り入れるのかを考えることになります。
するとまたストックを投げ捨てる必要が出てくるかもしれません。
そういった過程が面白いと感じられる人であれば、できるかぎり要望に応えて「あらすじやプロット」を変更し「ストック」を新たに積み増すことにしましょう。
さすがにそんな効率の悪いことはできないなと感じるのであれば、要望をいっさい受け付けず最初に決めた「あらすじ」「箱書き」「プロット」に従って物語を展開させてください。
そのほうが結果的に読後感のよい小説に仕上がります。
とくに次作の連載を始めて好評を博すと過去の連載小説も新しい人に読まれることになるのです。そのとき読後感のよい小説であれば新しい人が読んでも面白いと思っていただけます。
要望を受けるか受けないかは「まとまった時間がとれるかどうか」「受け入れたら物語が面白くなるかどうか」「新規の方が読んでも面白い作品になるかどうか」この三点をよく吟味して決めるとよいでしょう。
最後に
今回は「一日に何時間書けますか」ということについて述べてみました。
とくにまとまった時間がとれなければ連載小説は難しいでしょう。そういう方は三百枚を完成させてから、章や節・項単位で投稿していくべきです。
まとまった時間がとれるのならば、一日に何時間とれるのか。それによって書ける文字数が定まってきます。
分散させると効率が悪いのでひと続きの時間が欲しいところです。
もちろん集中力が切れる前に息抜きが必要になります。それに関しては次回述べていきます。
そしてスキマ時間に「あらすじ」「箱書き」「プロット」を仕上げていきます。
「あらすじ」「箱書き」「プロット」が完成したら、そのスキマ時間で執筆をしてもかまいません。というより執筆すべきです。
スキマ時間では粗い描写にとどめておき、まとまった時間でそれを丁寧な描写に置き換えていきましょう。
それが文字数を稼ぐ最も有効な手法です。




