213.再考篇:あなたの人生を他人は知らない
今回は「究極のネタ出し」です。
小説を書きたいんだけどどんな主人公が何をする話にしようか決められない。
そもそもわからないという方もいると思います。そんなときの裏技です。
しかし生涯唯一作の禁断技になります。
あなたの人生を他人は知らない
小説を書いてみようと思い立ったはいいけれど、書きたい「テーマ」が見えてこない。
魅力的な主人公も魅惑的なストーリーも作れない。だから自分には「小説を書く」ことはできないんだ。
そうお思いの方がいらっしゃるかもしれません。
でもご安心ください。誰にでも他の人が知らない主人公で、誰も知らないストーリーを作る方法がひとつだけあります。
あなたが主人公
まず小説の主人公ですが、ずばり「あなた」自身に設定しましょう。
「えっ? 私なんて何の取り柄もない、ただの一般人だよ?」
そう思われますよね。確かにそのとおりです。
しかし、読み手はあなたのことをいっさい知りません。
だからあなたの身近にいる人が読み手でない限り、主人公が「あなた」自身であることを看破る術がないのです。
「あなた」自身が主人公であれば、外見や服装の好みはどんなものなのか、どんなことが好きで嫌いなのか、こういうときはどんな行動をとるのか、性格はどんなものなのか、を決めるときに苦労しないでしょう。
「あなた」自身がそのときどうするのかすら判断できない人はまずいません。
だから「あなた」自身が主人公なら、連載小説を書いても主人公の判断基準はいっさいブレないのです。
だから、どうしても主人公が思いつかないのであれば「あなた」自身を主人公にしてしまいましょう。
純文学小説やエンターテインメント小説(大衆小説)とは異なり、ライトノベルは「読み手が共感できる主人公」が求められます。
そして「あなた」は現実に存在している人物です。「読み手に近い主人公」という点では、生身の「あなた」は読み手が最も共感しやすい存在になります。
あなた自身は「あなた」のことを魅力的な人物とは見なしていないかもしれません。
でも他人からすれば「あなた」のことなんて何もわからないのです。
「わからない」ことがあるから人物は魅力的に見えてきます。
たとえばあなたが魅力を感じる人物のことについて、すべてをわかっていらっしゃいますか。
おそらくなにがしか「わからない」ことがあるはずです。
「わからない」からこそ「その人物のことをもっと知りたい」という好奇心が刺激されます。
好奇心が刺激されるから魅力的に見えてくるのです。
よって「主人公が決められない」という人は「あなた」自身を主人公にしてしまいましょう。
ストーリーはあなたの人生に
主人公は「あなた」に決まりました。これで主人公の判断はブレません。
次はストーリーです。あなたが活躍する小説のストーリーを創れる人は、ぜひストーリーを創ってあなたを活躍させてください。
もしストーリーが思い浮かばなければ「あなたの人生」をストーリーにしてしまう手があります。
「私の人生をストーリーにしても魅惑的なものにはなりませんけど」
主人公のときにも書きましたが、その不安は当たりません。
「あなたの人生」は誰にもわからないのです。
どんな趣味や特技があってそれにどれだけの時間を費やしてきたのか、学業に励んで第一志望の学校に入れたのか、どんな人を好きになって思いを打ち明けたのか心に秘めたまま終わってしまったのか、あなたがどれだけ苦労をしてきたのかそれが報われたのか破れたのか、など。
それらはいずれも読み手にとってじゅうぶん魅惑的なのです。
だから、ストーリーが思い浮かばなければ「あなたの人生」を使ってみましょう。明治後期から昭和前期まで盛んに書かれた「私小説」というジャンルがあります。
「書き手の経験を開けっぴろげにして読み手に楽しんでもらう」というものです。
私の提案はこの「私小説」に近いものでしょう。
「あなたの人生」を書くメリットは「専門知識が豊富なジャンルを書ける」ことです。
たとえばあなたがコンピュータオンチで苦労してきた人生を歩んできたとします。
そんなあなたは「ハッカー」が主人公の小説を書けるのでしょうか。
専門知識がないので書けませんよね。書いても表面をなぞった程度で終わりますし、詳しい方が読めば「作り物」であることがひと目で見抜かれます。
でも「あなたの人生」を書けば「専門知識は豊富」なはずです。テニスに情熱を注いできた人なら、テニスの小説を書けばいい。
テニスのルールやマナーや駆け引きは実際に経験した人でなければわからないからです。
そしてテニスに情熱を注いでいるのなら専門知識も豊富にあります。
重箱の隅をつつかれても非の打ち所がないストーリーになるのです。
専門知識は小説を書くのに必要なのですが、専門用語をそのまま書くのはオススメしません。
そのジャンルを知らない読み手には何のことだかさっぱりわからないからです。
専門用語は必ず「どういうものなのか」を平易な文章で説明しておきましょう。
小説を書き慣れない人がいきなり異世界ファンタジーを書くのはとても難しいと思います。
人生経験で得た専門知識のほとんどが通用しない異世界を舞台にしているからです。
よって、どうしても小説のストーリーを書けないという人は、まず現実を生きる「あなたの人生」を書きましょう。
脚色はどんどんすべき
あなたが主人公となり、あなたの人生をストーリーにするとします。
ではそのまま自分の人生をただ垂れ流せばよいのでしょうか。
かなり気恥ずかしい思いを感じるはずですし、それに臆して筆が止まることもあるのです。
人間にはどうしても他人に隠しておきたいことがあります。そういうものはどんどん「脚色」して改変していきましょう。
大筋は「あなたの人生」ですが、とんでもない失敗は隠しておきたい。そういうのでしたら、あえてそこに触れる必要もないのです。
「脚色」大いに結構。
隠しておきたいことやこうなっていたらよかったのにということがあるのなら、積極的に「脚色」すべきです。
完全に「私小説」にする必要はありません。
「もしあのときこんな決断をしていたら、私の人生はこう変わっていたのかもしれない」
そう考えることで小説のストーリーを練る構想力が身につきます。将来架空のストーリーを書く際に「こういう出来事に直面したら、この人物ならこう動くのではないか」と考える力が養われるのです。
だから、あなたが主人公で、あなたの人生をストーリーにしてもどんどん「脚色」していってください。理想の人生を考えるのでもいいですし、失敗だらけの人生を考えるのでもいい。
「もしあのときこんな決断をしていたら」。そこから発生するのがストーリーの構想力なのです。
長編を一本完成させれば自信がつく
どんな小説であっても一本完成させて「小説賞・新人賞」に応募したり小説投稿サイトに上げたりすれば自信がつきます。
そのためにはショートショートでも短編でもいいのですが、できれば長編を一本完成させましょう。
長編が書けたときの自信の持ちようは他の追随を許しません。
三百枚をきちんと起承転結で書きあげられた。この自信は、とくに小説投稿サイトで連載を始めようとしている方にとってたいせつなものとなります。
小説投稿サイトを攻略する第一歩は、三百枚の長編小説を連載することです。
連載して三百枚できちんと終えることができれば、読み手はじゅうぶんな満足を得られます。そして次の連載を心待ちにしてくれるのです。
この好循環を起こさない限り、小説投稿サイトで目立つことはできません。
最後に
今回は「あなたの人生を他人は知らない」というテーマで、どうしても小説が書けないという方に向けて書いてみました。
あなたが主人公であなたの人生をストーリーにする。
誰もあなたのことやあなたの人生なんて知りません。
でもあなたが経験してきたことなので、専門知識もありますしストーリーの進む先もわかっているはずです。
あなた自身のことすら書けないという方は、残念ながら小説書きには向いていません。
逆にあなた自身のことならスラスラ書ける方は、小説書きの才能があります。
上記したとおり「脚色」を加えていくごとにどんどん構想力が身についてくるからです。
どうしても小説が書けなくて困っている方は、一度あなたが主人公であなたの人生をストーリーにした小説を書く努力をしてみてはいかがでしょうか。