194.再考篇:あらすじは図で書く
今回は「あらすじを図にしてみたらわかりやすいのでは」という着想から書きました。
「箱書き」だけと違い、人物の関係性や伏線の張り方が見えやすいという利点があります。
あらすじは図で書く
小説を書くには「企画書」を書いて「誰がなにをする話」なのかを決め、「主人公がどうなりたい」から始まって「主人公がどうなった」までを決める必要があります。
ですが、どんな出来事「エピソード」や「場面」をどんな順で出していけばいいのでしょうか。またどこで伏線を張ればいいのでしょうか。
これを頭の中だけで考えていると必ず焦げつきます。
PCのワープロソフトであるMicrosoft『Word』、JUST SYSTEM『一太郎』、Apple『Pages』や、テキストエディタ、スマートフォンに入力するにしても、系統立てて順番を入れ替えるのが難しい。
アウトラインプロセッサなら順番を入れ替えるのはラクになるけれど、使いこなせる人が少ない。
そういうときこそ「箱書き」が役に立ちます。しかし「箱書き」一枚はB6版ほどの大きさですから、作業領域が広くないと並べ替えるのも一苦労です。
そこで「箱書き」を図に落とし込んでみましょう。
ただすべてを図に書き込むわけではないので「箱書き」そのものは整理しておいてくださいね。
使うのはPPC用紙でじゅうぶん
「箱書き」を図に落とし込む方法をご紹介します。図の作成に使うのはキャンパスノート見開きかコピーやプリンターで使うPPC用紙でじゅうぶんです。あらすじの図は頻繁に書き直すこともあるため、ページをめくって書き写すよりもPPC用紙一枚にまとめてしまったほうがラクができます。なので一枚の単価が安いPPC用紙がオススメです。
書き込むのはシャープペンシルか鉛筆と消しゴムを用います。消せるボールペンは熱で消えてしまうので意図せず消えてしまう可能性があるのでシャープペンシルや鉛筆を用いたほうが図が長持ちします。
まずこの小説は読み手に何を感じてもらいたいのか、何を訴えたいのか。つまり「テーマ」を明確にしてください。
その「テーマ」を紙の左上隅にでも書いておくとよいでしょう。
用紙の左上に佳境を書く
次に左上に「佳境」にしたい「箱書き」のタイトルを書きます。そしてこのシーンの「時間」「場所」「何が行なわれるか(出来事)」「登場人物」をタイトルの下へ書き出してください。主人公陣営は左に、「対になる人物」陣営を右にでも振り分けておけば区別も簡単になります。もし第三勢力がいるのならその下にでも書いておきましょう。第四勢力までいるのなら主人公陣営の下に第三勢力、「対になる人物」陣営の下に第四勢力を書けばいい。
ただし「佳境」で勢力を四つ以上も登場させてしまうと、よほどの書き手でもない限り収拾がつかなくなります。
サンライズ・富野由悠季氏『機動戦士Ζガンダム』でもラストはエウーゴとティターンズとネオ・ジオンの三つ巴に収めていましたよね。できれば「佳境」までには二勢力に絞れるよう物語の展開を考えてください。
関係線を引く
人物分けが出来たら「関係線」を引きます。誰と誰がどういう戦いをするのか、何を理由に戦うのかなど、対峙するに足る関係であることを明確にするのです。
もし「関係線」が交差してしまうようなら人物の上下を入れ替えて、極力「関係線」が交差しないように気を配ってみましょう。
慣れてくれば人物をリストアップしていく段階で「人物をどの順番に書けば『関係線』は交差しない」ことを意識できます。
対決する「関係線」を引いたら負ける側や死ぬ側の「関係線」端に×印を付けておきましょう。こうすればこのシーンで誰が生き残るのか、誰がドロップアウトするのかが一目瞭然です。
もし戦争小説を書く場合は開始前の兵数と終了後の兵数を書いておけば兵数管理もできてラクになります。
もちろん味方同士でも「関係線」を引いてかまいません。
どのような協力関係にあるのかやどんな利害が一致しているのかなどは「関係線」で明確にしておくべきです。
「あらすじ」へ起こす段階に迷わないで済みます。
佳境の下に結末を書く
「佳境」の「箱書き」の図が出来あがったら次はそこから話を終える「結末」の「箱書き」の図を書きます。できれば「佳境」の下に書くと流れが明確になってよいでしょう。
「佳境」と同様にタイトルを書いてその下に「場面」の「時間」「場所」「何が行なわれるか(出来事)」「登場人物」を書くのです。
バトル小説や戦争小説では「登場人物」は基本的に「佳境」で生き残った人物が出てきます。
ドロップアウトした人物が出てくるとなればそれは幽霊のような存在であり物語がちょっとした「ホラー小説」になってしまうでしょう。
それでも「結末」でドロップアウトした人物を話の中だけでも登場させたいのなら、登場人物欄に記載して名前全体に×印をつけて区別しておけばよいでしょう。そして「関係線」を引いて「どうしてその人物について言及するのか」を記しておきます。
恋愛小説を書いていて「佳境」で主人公がライバルを蹴落としてヒロインを射止めた場合を考えてみます。
この際「佳境」での「関係線」は「対決」であり、負けるライバルには×が付くことになるのです。でも死んだわけではないので「結末」にライバルが出てきてもなんら問題ありません。
ただしライバルも「佳境」まで物語を盛り上げてくれたたいせつな登場人物のひとりです。
ライバルが主人公とヒロインの関係を認めてめでたく収まる形にしてみたり、ライバルには別の人物が近づいていたりと、ライバルを活かす展開も考えられますよね。
大団円でもすべてを閉じない
「結末」は物語が完全に閉じてしまわないようにするのが連載小説では常套のテクニックです。
ライトノベルでは基本的に大団円が望まれますが、それでも「すべての人物が完全に問題を解決してしまう」とそれ以上物語が進展しなくなります。
そうなるとこの一本の連載小説はそれ以上創作する余地がなくなってしまうのです。
長期連載を狙う作品であれば「すべての人物が完全に問題を解決してしまう」ことのないよう、どこか物足りない状態を残しておきましょう。
そうすることで読み手は「この人物の将来が気になって仕方がない」状態になって「続編を期待」してくれるようになるのです。
期待してくれればそれだけ熱心なファンが付きます。
たとえば「三百枚につき二人の問題が解決する」ようにした場合、登場人物が六人なら三巻ぶん書けることになるのです。バトル小説で「二人が戦って一人が勝ち残る」ようにすれば戦っていた二人の問題が解決しますよね。大抵の場合このように「二人が戦って一人が勝ち残る」展開が基本になるでしょう。
私が最初に触れたライトノベルは水野良氏『ロードス島戦記 灰色の魔女』です。
この作品の第一巻は主人公パーン率いるパーティーが“灰色の魔女”カーラを倒す話なのですが、カーラの意志が宿るサークレットを盗賊のウッドチャックが肉体から取り外した段階で目標は大半が達成されています。
しかし当のウッドチャックは魔が差してそのサークレットを自ら装着してしまうのです。そしてウッドチャック・カーラは歴史の闇へと消えていきます。
そこで主人公パーンはウッドチャックを捜す旅に出ることを誓うのです。これで二巻以降への扉が開かれました。
もしウッドチャックが当初のプラン通りサークレットを破壊していたら『ロードス島戦記』はこの一巻で終わっていた作品なのです。
「主人公パーンの旅はなおも続く」状態にしたから読み手は二巻を楽しみに待ちました。私も待ち焦がれたものです。
このように「大団円」は確かに「物語が完結した」ことを指します。
ですが続刊をこれからも読んでもらいたければ「大団円」に見せながらも「すべての人物が完全に問題を解決してしまう」ことのないようにするのが定石です。
佳境から遡りながら伏線を張る
「結末」の図が決まったら「佳境」の図の右側に新たな「箱書き」の図を書きます。「佳境」の一歩手前の出来事です。
ここから「伏線」を意識しつつ「箱書き」の図で出来事を遡りながら考えていくことになります。「佳境」を盛り上げるために必要なものは。勝利条件をクリアするために必要なものは。「結末」にたどり着くためにはそれまでにどうなっているべきなのか。そういったものが「伏線」になります。
まず「佳境」にたどり着くための前提条件をすべて揃えることが一歩手前までに必要なことです。
もし前提条件がすべて揃わないのに「佳境」にたどり着いてしまったとしたら。「佳境」で起こる出来事が唐突になってしまいます。
たとえば「佳境」でライバルが「対になる存在」陣営から主人公陣営に寝返って主人公たちとともに「対になる存在」と戦う設定にしていたとします。
もし「佳境」の一歩手前までの段階でライバルが主人公陣営に共感していなければ、「佳境」でライバルが寝返る行為は唐突になってしまうのです。
だから「佳境」以前でライバルが主人公陣営に共感する「伏線」を張る必要があります。
ですが「書き出し」の段階まで遡ってライバルが主人公陣営に共感してしまうのはさすがに無理があるのです。
だから「伏線」は適切な場所に配置する必要があります。
とくにライバルが主人公陣営に共感するほど重要な「伏線」であれば「佳境」の一歩手前に配置すべきです。
ライバルが好敵手として主人公陣営に立ちふさがる時間が長いほど、「佳境」でのライバルの寝返りが効果的になります。
たとえばマンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』においてナメック星でフリーザ一味と孫悟空陣営が戦うのです。そしてサイヤ人の王子であるベジータは地球にいるときから孫悟空陣営と戦ってきましたが、ナメック星の最後でフリーザから寝返ります。
それは直前にフリーザに格の違いを見せつけられた「伏線」があったからです。
もしフリーザに格の違いを見せつけられてもいないのに孫悟空陣営に寝返ってしまったのでは、あまりにも唐突で寝返りの意味がなくなってしまいます。
一歩手前でライバルが主人公陣営に共感する出来事を描いて「伏線」を張るのです。
すると他の「伏線」もここで張れないか考えると思います。
ですが「伏線」を一度に張ってしまうと物語があまりにも「出来すぎ」になってしまうのです。
たとえば童話『桃太郎』で桃太郎はおばあさんから「きびだんご」をもらいます。
この「きびだんご」の「伏線」はあまりにも強力です。これひとつで犬・猿・雉が次々と仲間に入ってきます。あまりにも出来過ぎた「伏線」ですよね。
物語を聞き慣れていない子どもならワクワクするかもしれません。しかし数多く物語を読んだり観たりしてきた私たちにとっては、きっと白けてしまう展開なのではないでしょうか。
「伏線」を張るのであれば、できるだけ分散させるべきです。またひじょうに強力な「伏線」であれば一歩手前の「箱書き」に組み込むと効果を最大限に発揮します。
そうすれば「この先こうなるんじゃないか」という予測が起こり、次回で「やはりそうなったか」と読み手を楽しませられるのです。その強力な「伏線」を導き出すための「伏線」はそれよりも前に張っておくなど工夫もできるでしょう。
このようにして「箱書き」の図を次々と繋げていきながら時間を遡っていくのです。
そうすれば破綻した物語になることを防げます。
「エピソード」や「場面」が増えるごとに「箱書き」の図は増えていきます。
三百枚を書くのにだいたい五つか六つの出来事が起こるはずです。ですが連載するとなれば出来事は延々と続きます。
そのすべてを最初に確定させてから小説を書き出す人もいますし、「佳境」と「結末」そして「書き出し」だけを決めておいて残りは筆に任せて書く人もいます。
どちらが正解かではありません。あなたが書きやすいように書くのがたいせつなのです。「あらすじを図にする」ときも、あなたが書きやすいスタイルをとりましょう。
最後に
今回は「あらすじを図にする」ということについて述べてみました。
小説には緻密に計算された「伏線」が必要です。どの程度計算するかは書き手の執筆スタイル次第になります。
それでも最低限「佳境」と「結末」そして「書き出し」を図にしておくことが「小説のあらすじを書く」ためには不可欠なのです。
「佳境」と「結末」に求められる「伏線」をそれぞれの図の中に書いておけば、その「佳境」と「結末」で終わるために必要な「伏線」を張り忘れる事態は避けられます。
連載をしていて「綺麗に終われないかも」と思ったら、一度「あらすじを図に」してみましょう。きっと今までの展開で物足りなかった「伏線」の存在に気づくはずです。