151.応用篇:五感と直感を書く
今回は「五感と直感」です。
たいていの書き手は聴覚が書けます。
少し書けるようになると視覚を書きます。
残りが書けると表現力はいや増すのです。
五感と直感を書く
ネタをたくさん集めたから順番で書けばきちんと読み手に伝わる、とは思わないでください。
読み手は「予備知識ゼロ」であなたの小説を読むのです。
その「予備知識ゼロ」の人に向けて文章を構成する必要があります。
予備知識ゼロの人に向けて
あなたの小説の読み手は、あなたの小説を「予備知識ゼロ」で読みます。そのときどうやって物語を綴ればいいのでしょうか。
「赤の他人に物語世界で行なわれている出来事を、まるでその人が体感したかのように詳しく丁寧に書く」ことです。
ではどのくらい丁寧に書けばよいのでしょうか。ある小説賞の応募要項に「十二万字以内」と書かれていてもそれを遥かに超えるくらい詳しく丁寧に書きましょう。書きすぎてしまったぶんは推敲の段階で削ぎ落としていくので今は気にしません。
わかりやすく伝わるには
「赤の他人」で「予備知識ゼロ」の人に向けて書くにはどうすればいいのでしょうか。
「五感」と「直感」を織り交ぜて、読み手の「五感」と「直感」に働きかけるようにします。つまり「耳で聞いた音声(聴覚)」「目で見た形状や色彩(視覚)」はもちろんのこと「鼻で嗅いだにおい(嗅覚)」「舌で感じた味(味覚)」「肌で感じた体感(触覚)」と「直感」に訴えるということです。
聴覚と視覚
基本的に小説は「聴覚」が重視されてしまいます。つまり「誰かが話した声」「何かが発した音」については詳しく書ける人がほとんどなのです。
それなりに小説が書ける方は「会話文」やカンカン、キンキン、ゴーゴーなどのオノマトペは自然に書けると思います。
文芸小説やエンターテインメント小説(大衆小説)などではゴーゴーという音なら「轟く」、カンカンなら「金属の乾いた軽く打ち当たる音が鳴る」のようにオノマトペを書かずに動詞として地の文に組み入れることがほとんどです。
ですがライトノベルではとりわけ「聴覚」を重視した書き方がなされています。
地の文が少なくて、あっても改行だらけ。それと同じかそれ以上の分量の「聴覚」つまり「会話文」「心の声文」「オノマトペ」が入るのです。
だからといってライトノベルで「オノマトペ」を多用しないでください。「オノマトペ」は使うほどに小説の格を落としてしまうのです。
少し書けるようになってくると「視覚」を意識し始めます。
「視覚」はなんと健常者の脳に入ってくる情報の八割と言われるくらいです。
でもライトノベルではあまり書かれていないことがままあります。
文学小説や大衆小説をよく読む方は「視覚」の情報もかなり詳しく書ける傾向があるのです。
文学小説・大衆小説をよく読む駆け出しの書き手ならキャラクターの容姿や髪や目の色くらい普通に書けます。
でも空や明かりや絵画の色合い、町並みや人の賑わい具合、建造物の外観と内部構造、キャラクターのクセ、物体の形状や材質といった部分にまで説明が及ぶことはまずありません。
私もその分野に疎いのでよくわかります。
ですので、これからライトノベルで一旗揚げようと思っている方は、とくに「視覚」を詳しく書けるように意識したほうがよいでしょう。
嗅覚と味覚と触覚
「聴覚」と「視覚」は小説で最低限求められます。そこに「嗅覚」「味覚」「触覚」といった「五感」すべてを刺激する文章を綴っていくのです。
そうすれば文章に華やかさが生まれます。
「嗅覚」は「におい」のうちよい「匂い」なのか悪い「臭い」なのか、「芳しい」のか「くさい」のか、「香ばしい」のか「焦げくさい」のか。和語ならだいたい形容詞で書くことになりますね。
「馥郁たる梅の花」「酸の入ったようなすえたニオイ」「ガス栓がにおう」「ほのかに石鹸の匂いが香る」「男の汗の香りがきつい」のように形容動詞や動詞や名詞で書けるなら、一般的な形容詞以外の表現ができるようになるのでオススメです。
「味覚」は「甘い」「酸い(すっぱい)」「辛い」「苦い」「鹹い」の「五味」が有名です。
他にも「おいしい」「うまい」「まずい」という抽象的なものもあります。
こちらもそのまま書くと和語ならだいたい形容詞になるでしょう。
「まろやかな味わい」や「このスープはコクがありますね」のように形容動詞や名詞などでも表されます。
「味覚」のこういった表現は、グルメ番組(彦麻呂氏や石塚英彦氏などの食レポ)やグルメ雑誌・グルメ漫画(『美味しんぼ』『ミスター味っ子』など)やグルメ小説(池波正太郎氏に代表される)をよく観たり読んだりして語彙を増やしておくべきです。
近作としては犬塚惇平氏『異世界食堂』がアニメで放送されていますし、附田祐斗&佐伯俊『食戟のソーマ』の第三期アニメが控えていますので、そちらで研究することもオススメします。(2017年11月25日時点ではすでに第三期を放送中です)。
「触覚」は「痛い」「冷たい」「暖かい」「温かい」「ぬるい」「熱い」「暑い」「寒い」などこちらも形容詞が多くなります。
他に「冷ややかな」「暖かな」「温かな」「ごわごわなタオル」「ザラザラとした手触り」「ジンジン痛む」「しくしく痛む」など形容動詞化したものや名詞やオノマトペを加えた動詞や副詞もありますので、表現の幅は「嗅覚」「味覚」よりも幅広くなります。
数が多いためどれだけ的確な単語を使えるかが文章の質を高める素になるでしょう。
直感
そして「直感」です。実はこの「直感」を正確に書ける人はプロの書き手に最も近づけます。
「ふと思いついた」。これがいちばんよく使われる「直感」の表現になります。この「ふと」は万能な副詞で、一人称視点で「直感」を書く際はたいてい「ふと」が用いられるほどです。
似たようなものに「違和感を覚えた」というのがあります。「違和感」とは「違和を感じる」という言葉なので「違和感を感じる」は重複表現となりアウトです。通常「違和感」という語なら「違和感を覚える」「違和感を抱く」「違和感を持つ」「違和感がある」などを用います。
「ピリッとした」もよく使われる表現です。
「ピリッとした感覚が湧き立つ。気になって自動車を路側帯に停めて点検すると、果たしてブレーキワイヤーが切れそうになっていたのを発見した」「面接会場に足を踏み込むとピリッとした空気が伝わってくる」のような使い方をされます。
「パッとひらめいた」のように「パッ」もよく使われる表現です。
一時代を築いた「ビビビッときた」という松田聖子さんの会見における発言も「直感」を表しています。
これはほんの一例です。実にさまざまな「直感」の文章が綴られてきました。だから「『直感』を正確に書ける人はプロの書き手に最も近づける」と書いたのです。
たいていの小説では「直感」そのものが書かれていない小説も珍しくありません。あなたの小説ではどのような「直感」表現がされているのでしょうか。
書き終わってから繁多なところを削る
前述したとおり推敲の段階で削ぎ落としますので、まずは書きすぎるくらい「説明文」と「描写文」に文字を費やしましょう。
目安としては十二万字が応募規定上限なら十五万字から十八万字といったところです。
表現を削るだけでこの分量なので、「場面」を丸々削ることまでやろうとすれば二十万字から二十四万字つまり倍近く書くことも珍しくありません。
ただ「場面」の並び順は「プロット」の段階で完璧にこしらえてあるはずです。ほとんどの方は多くても五割増しくらいに抑えるべきでしょう。
最後に
今回は「五感と直感を書く」ことについて述べました。
誰でも書けるのが「聴覚」です。ある程度書けるようになると「視覚」が入ってきます。
でもそこにとどまらず「嗅覚」「味覚」「触覚」を織り交ぜて読み手の感覚とシンクロさせ、さらに「直感」を書くことで一体化を目指すのです。
このレベルに達すれば「五感」と「直感」は読み手へ必ず伝わります。