1446.端緒篇:箱書きを創る(No.46、73再考)
物語の創作術では、とくに「箱書き」を重視する傾向があります。
どんな場面を順番に出せば流れが良くなるか。それが一読してわかるからでしょう。
本コラムでは二回だけ説明しているのですが、物語創りを振り返っていますので、ここもきちんと書かなければなりません。
とはいえ、時間もないので例文は使いまわしですけどね。
箱書きを創る(No.46、73再考)
人はキャラクターが先か場面が先かを問わず、その双方が揃ったときに小説を書きたくなります。小説を書く強い動機です。
その着想から小説を書きましょう。
しかし思い浮かんだのはそのキャラクターや場面のみ。よくあります。それに関係する場面が頭の中ですらすら構築できてしまう書き手もいるでしょう。
多くの書き手は他の場面はどうしたらよいものかと迷います。
それを解消するために「箱書き」を創りましょう。
そもそも箱書きとは
「箱書き」はそもそもアメリカのドラマ脚本で用いられる手法です。
脚本陣が場面を視覚的にわかりやすくするため「一枚の紙」へ書いたものです。この「一枚の紙」を「箱」と呼びます。
「一枚の紙」つまり「箱」に場面ごとの「時間」「場所」「天候」「人物」「出来事」「言わせたいセリフや書きたい描写」などを書き込みます。
この「箱書き」は物語であれば小説にも応用できるのです。
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時間:夏休みの午前六時
場所:主人公の自宅の自室
登場人物:主人公、主人公の母、主人公の女友達
出来事:夏休みで長寝がしたい主人公だが、主人公の母が起こしにくる。どうやら主人公を訪ねてきた人物がいるらしい。しかも女子生徒だという。女友達が遊びへ誘いに来たようだ。主人公は眠い頭をなんとか叩き起こして身繕いし、女友達の待つ玄関へと向かう。
会話:「あんた起きなよ」「夏休みなんだから寝ててもいいだろ」「あの子(女友達)が来たんだよ」「そういや、今日は用事がないからどこかに行こうかなんて話していたっけ」「機嫌を損ねないうちに顔を見せないと後が怖いからな」
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以上のようなことが書いてあるのが「箱書き」です。
他にも主人公の心象を表すために「天候」を「箱」に記す書き手もいます。物語を創るうえで必要だと感じた項目はとりあえず「箱」に記しましょう。
「箱書き」は場面の数だけ創ります。
当初は着想したアイデアだけが書かれていますよね。
そこから派生して「この後にこんな場面が欲しいな」とか「この前にはこういうエピソードや出来事があったほうが『伏線』になるな」とか考えていくのです。そうやって思いついた場面を片端から「箱書き」にしていきます。
「この場面は使えそうもないな」と思っても、思いついたものはすべて書き出してください。後日改めて眺めたときに必要となる可能性もあるからです。
「箱書き」を創ると、その場面が「いつ」「どこで」「(その場面の)主人公に(主・起)」「出来事が起きて・を起こして(謎・問)」「どう対処して・収拾して(解・答)」「(その場面の)主人公がどうなった(惹・変)」か明らかになります。
つまり場面に盛り込むべき時間と場所と「連載の起承転結」が詳らかになるのです。
その情報を小説の文中に余すところなく書くためにも「箱書き」は必要となります。
「箱書き」はいわば物語の最小の形なのです。
実際に紙に書く
「箱書き」はコンピュータソフトウェア、スマートフォンアプリやメール機能などで代用しないでください。
「箱書き」は並べ替える作業が必要になります。よほど作業スペースが広いPCでないと「箱書き」したファイルを一覧で見られないからです。
なので実際に文房具店で売られているA5サイズやB6サイズなどハガキくらいの大きさのメモ用紙を使ったほうがよいでしょう。罫線が入っていると書き込みやすくなります。たいていの文房具店には置いてありますよ。
さらに横に穴が開けてあるものを使うとバインダーでの管理が楽になるのでオススメです。
具体的にはコクヨ『情報カード B6 横罫 8.5mm罫 2穴 シカ−13』『情報カード B6 横罫 6mm罫 2穴 シカ−13B』を選びましょう。違いは罫線の間隔だけです。どちらもバインダーに収められますので、小説を書き切ったときにそのバインダーが作品の設計図として保存しやすくなりますよ。
また『Post−it』などの付箋は情報を追加したいときに便利なので、「箱」を買ったらついでに買っておきましょう。
箱書きを並べ替える
「箱書き」にあらかた記し終えたら、それを並べ替えて構成を決めます。
この場面の次にこの場面を持ってきて、この場面は前に持ってきて……をやります。
この作業をスムーズに行なうためにも「箱書き」は紙に書くべきです。
紙なら物理的に並べ替えればそれで済みます。
しかしコンピュータ上ではコピー&ペーストして順番を入れ替えなければなりませんし、その状態だとすべての「箱書き」を一覧で読めません。
一部の「箱書き」だけしか見えないのでは作業効率が著しく落ちます。
「箱書き」の数だけウインドウを開いて並べ替えることもできなくはないのですが、そんなに広い作業スペースを持っている書き手はまずいないでしょう。
その点、紙なら一覧できてスムーズに並べ替えられます。やはり「箱書き」は紙に書くべきなのです。
並べ替えた結果、シーンが足りなかったりつながりが悪かったりするときは新たな「箱書き」を加えます。冗漫な展開になるようなら思いきって「箱書き」を列から外すのです。
入れたり外したりした結果、時間順を並べ替える必要が出てくるかもしれません。そのときは何度でも並べ替えて入れたり外したりを繰り返しましょう。
頭の中では気づかなかったことも、紙に書いて目の前で一覧し、並べ替えると気づけるものです。
「箱書き」の流れを読んでいれば「このような場面を挟めばうまくつながりそうだな」と着想も湧いてきます。
初めは短編小説を書いて「箱書き」創りの経験を積みましょう。いきなり長編小説の「箱書き」を書くのはかなり難易度が高いのです。
余った「箱書き」はけっして処分しないで保管してください。連載しているとそのうち必要になる場合もあります。少し手直しすれば使える可能性もあるのです。
また今の連載では使いどころがなくても新作で使えるかもしれません。だから処分しないで大切に保管しておきましょう。
着想はそう簡単に降って湧きません。どんなにくだらないと思っても着想したらすぐにメモをとり、できれば「箱書き」まで書いてください。そのストックの数が書き手としての引き出しの多さにつながります。
「箱書き」の束の厚さこそ、書き手の今後の作家人生を左右するのです。
だから今のうちに、着想は余さず「箱書き」にして保存するクセをつけてください。
箱書きは伏線の埋設に最適
「箱書き」のよいところは場面の「並べ替え」をいつでも行なえる点にあります。
また「佳境から結末」までの箱書きを決めてから、遡る形で「出来事」を積み上げていきましょう。
そうやって場面の「箱書き」を創れば、「伏線」を容易に仕込めます。
物語を強力に推し進めるのが「伏線」の役割です。
「伏線」のない小説は淡々として退屈にすぎます。
ワクワク・ハラハラ・ドキドキ、スリル・ショック・サスペンスのない小説に魅力はありません。
「伏線」こそが小説を読む大きな魅力なのです。だから「伏線」のない小説を書こうとしないでください。
推理しない推理小説は面白いのでしょうか。
「伏線」のない小説は「推理しない推理小説」と同じです。
小説がただの散文と異なる理由が「伏線」の有無にあります。
「フィクション」を書くなら「因果」をはっきりさせましょう。ある出来事が起こるのは、以前あることをしたから。そうでなければ「フィクション」に現実味を持たせられません。
つまり「伏線」という「因」を前フリすることで、「現状」という「果」が生み出されるのです。
箱書きは小説の屋台骨
「出来事」を構成する場面の「箱書き」が揃ったら、一度流れを追って読み返してみてください。
時系列どおりに流れていますか。現在の状況に至る過去の出来事を説明するシーンは一箇所に集められていますか。言動が食い違っていませんか。受け答えがしっかりしていますか。そして肝心の物語が自然に進んでいますか。
時系列の順に「箱書き」を並べ替えてみて、きちんと物語が進むかを調べるのです。
「出来事」がよどみなく流れるようになったら、場面の順番を確定させます。
順番を確定させたら「箱書き」を手直ししては「出来事」の流れと適合しているかチェックするのです。
この段階で箇条書きの一文や単語を整理して文章を作っていきましょう。
かなりの手間と時間が必要になります。一文や単語を文章に書き換えただけで分量が爆発的に増えるのです。
そんなことをしなくても私は筋道の立った文章が書ける。そう思う書き手は多いでしょう。
でもその自信はどこに根拠があるのでしょうか。
創作活動をしていて、泉が全く凅れない保証はどこにもないのです。着想があるうちにどれだけストックして溜め込んでおけるか。
とくに連載小説を書こうとするならストックは必須です。
着想のタネ切れで連載が中断してしまっては元も子もありません。読み手のために小説を書き続けるべきだからです。
マンガやアニメなどもストックする
意外と忘れがちなのですが、他人の小説やマンガやアニメ、ドラマや映画、さらに歌や音楽、ゲームなどを観たり聴いたりプレイしたりしていると、着想も湧いてきます。
そのままではただのパクリになりますので「箱書き」には大まかな流れだけを書き溜めてください。それもまたストックして保存しておくのです。
自分が好きで読んでいる小説やマンガ、次回が待ち遠しいアニメやドラマ、二時間前後に凝縮された映画、歌詞が魅力的な歌やメロディーが印象的な音楽、感動的にゲームなど。
私は自分の頭の中だけでなく、他の作品などからも多く着想します。
積極的に他の作品に触れて大いに着想を得るのも、創作活動を続けていくには不可欠ですよ。
最後に
今回は「箱書きを創る(No.46、73再考)」について述べました。
小説は書きあげて発表しなければただの「独り言」にすぎません。
しかし終わりの見えない連載も、やはりただの「文章」なのです。
超長編の連載小説に手を出したはよいが、いつまで経っても終わりが見えないような方は、まず手を休めて「箱書き」を書くことから始めてみてください。
そうしないといつまで経ってもその連載は終わりませんよ。




