143.応用篇:感情移入してもらう
体調不良なため、本日の投稿はストックからチョイスしました。
前回に引き続き「感情移入」のお話です。
感情移入してもらう
読み手を小説に没入させて、キャラクターに感情移入してもらうにはいくつかのルールがあるのです。
どんなルールなのか、少し述べてみましょう。
導入
小説の冒頭が「導入」になります。ここで主人公を出すのが当たり前です。「導入」で誰も登場しないなんていうのは「詩」の類いであり、物語を読ませる小説とは言えません。
主人公だけ出せばいいというものでもなく、できれば「対になる存在」も出しましょう。存在する場所が異なっている場合は「話題に上る」だけでもいいので存在に触れておくとよいと思います。
主人公と「対になる存在」が出てきただけではダメで、きちんと世界観や舞台や社会構造などの紹介もしっかり行なってください。人は出てくるんだけどどんな場所が舞台となって動いているのかわからなければ、「暗幕の前でピンスポットが当たって芝居をしている」ような印象を読み手に与えます。世界の広がりがさっぱりわからないのです。
でも冒頭一文は主人公の描写にすべきで、世界観や舞台などは主人公の行動に沿って少しずつ開示していくようにしてください。そうすれば「説明されている感」が薄らぎます。
共感
「導入」の次は「共感を得る」ことを重視します。
「共感」できない物語には読み手を没入させる力がありません。つまり感情移入してくれるはずもないのです。
日常のシーンを入れてキャラクターがその世界でどんな日常を送っているのかを書きます。
登場人物同士の会話やある出来事に対する主人公の反応などを読ませれば、読み手は自然と主人公に共感を持ってくれるでしょう。
会話は人間関係の説明にはもってこいなので、誰が親友で、誰が仲間で、誰がライバルなのかなどの情報は会話によってわかりやすくなります。
どんな出来事が起きて、主人公はどんな反応を示し、どんな行動を起こすのか。この積み重ねによって読み手は「主人公はこういう人間なんだ」と理解してくれます。
そしてその主人公像が読み手と近しければ、読み手は主人公に「共感」を覚えるのです。
物語がスタートしたら、とにかく出来事を起こしては対処させていきましょう。あまりに大きな出来事を出してしまうと「佳境」が盛り上がらなくなるので、序盤の出来事はごく日常的で軽微なものでかまいません。
主人公の性格がわかるだけでもじゅうぶんなのです。
細かな世界観や舞台の設定はこの段階で入れていきますので「導入」では大まかな説明にとどめてもまったく問題ありません。
深掘り
主人公が読み手から「共感を得る」ことさえできれば、次は主人公の内面を「深掘り」していけます。
主人公はなぜそんな性格になったのか。なぜそんな行動をとるようになったのか。なぜそんな境遇なのか。そういったことを「深掘り」していくのです。
ここで掘れるだけ掘っておくことで主人公に深みが増します。つまり没入する穴が大きく深くなるのです。
「共感を得る」段階よりも大きな出来事を起こして、それにどんな反応を示したのかを「深掘り」していく。どんな行動を起こしたのかを「深掘り」していきます。つまり出来事が大きくなるにつれてより深く人物像を掘り進めていくわけです。
ただ「深掘り」段階でも「佳境」ほど大きな出来事にしてしまうと「佳境」が盛り上がらなくなるので、ほどほどの大きさの出来事と割り切って書きましょう。
「深掘り」していった結果読み手が興味を持ってくれたら、この小説はあなたの勝ちに決まります。
反対に「深掘り」したのだけど読み手から評価もいいねもブックマークも付かないようならあなたの負けです。
それほど「深掘り」作業は物語の成否を分けるポイントになります。
なぜなら「深掘り」段階で読み手が「面白い」「楽しい」と思ってくれなければ、「佳境」で想定外の「こうなるのか!」という驚きを存分に与えられないからです。
「佳境」の出来不出来が作品の評価を左右する面は確かにあります。
ですが「深掘り」段階でどこまで没入させられるかによって「佳境」が受け入れられるかどうかが定まってしまうケースが多いのです。
ですから、最も書きたい「佳境」を魅力的に見せるためには、「深掘り」でどこまで読み手を物語に没入させられるかが決まります。
佳境
「佳境」は物語最大の見せ場になります。ここが最も盛り上がっていない小説は、「佳境」の配置が間違えているということです。
「佳境」で主人公がかっこよく出来事を解決していけば「こんなふうに解決するのか。自分もこんなことができる人間になりたいな」「こうなりたいなぁ」と読み手が思って主人公に「憧れ」を抱きます。
主人公が泥くさく頑張って出来事を解決していき、「この主人公だってこんなに頑張っているんだ。自分もこのくらい頑張ってみるべきだよな」と読み手が思ってくれれば、主人公から「励まされている」ような感覚になるのです。
「佳境」はときに生死を賭けたバトルであることもあります。そこをどのように解決するのか。
鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』の上条当麻のようなスカッとした解決方法をとれば「憧れ」を覚えます。
生死を賭けたバトルではないですが、渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の比企谷八幡のような「こんな方法で解決しちゃうの?」という解決方法をとれば「興味」を持ってくれるでしょう。ある種「ためになる」解決方法の提示ということになりますね。
書き手は意図的にそういった場面を作り、読み手は無意識にそういった場面で反応するのです。
だから自分の好きな小説を「書き手目線」で何度も読み返し「ここで難題をこうやって解決しているからこの小説は面白いんだな」と理解できるようになりましょう。
結末
「佳境」を乗り越えてたどり着く場所が「結末」です。あらすじで考えていた「主人公がどうなった」つまり「主人公の結末」が示されます。
「佳境」が終わってから最後の「めでたしめでたし」までに入れておきたい事項は「世界」「主人公」「仲間」「ライバル」「対になる存在」などがどう変わったのかです。
なにかが変わらなければ物語にはなりません。ただの日常が描かれた日記でしかないのです。
「佳境」までの流れを踏まえたうえで、書くべきものを書く。
ライトノベルなら「大団円」が理想です。敵ともわかりあって平和な日常を取り戻す。そんな終わり方ですね。
読み手は主人公と自分とを重ね合わせて小説を読みます。つまり没入して感情移入しながら読んでいるのです。
だから「ハッピー・エンド」なら読後感がよくなります。
完全にすべてを失って希望が潰える「バッド・エンド」だと読後感が悪くなってカタルシスを感じますから、中高生が主要層のライトノベルでは避けたほうがよいでしょう。
でも「絶望の後に残された唯一の希望」という終わり方ならただの「バッド・エンド」よりも味があります。
水野良氏のファンなのでよく例に出していますが『魔法戦士リウイ』シリーズは「ハッピー・エンド」に向かいつつ少しだけ「バッド・エンド」を加えて終わっています。その後の話である『魔法戦士リウイ ファーラムの剣』シリーズは「バッド・エンド」に向かいつつ少しだけ「ハッピー・エンド」を加えて終わっています。
シリーズの前半分と後ろ半分とでは話の作り方が真逆なのです。だからライトノベルとしては前半分の『魔法戦士リウイ』が、エンターテインメントとしては後ろ半分の『魔法戦士リウイ ファーラムの剣』が参考になります。
まぁ『魔法戦士リウイ』シリーズは雑誌連載が前提の「エンターテインメントとして読ませる娯楽性」が重視されていましたから、こんな複雑な構造になってしまったとも言えるのではないでしょうか。
最後に
今回も引き続き「感情移入してもらう」ことについて述べてみました。
感情移入するためには、読み手を物語と主人公に没入させる必要があります。
没入させるには、どれだけ主人公や世界観を「深掘り」できるかにかかっているのです。
そして「深掘り」するには読み手にきちんと「こんな世界観」で「こんな主人公」が活躍する物語ですよと宣言しておくべきでしょう。