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三百枚書けるようになるお得な「小説の書き方」コラム  作者: カイ.智水
応用篇〜小説を書くために一歩踏み込んでみる
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128.応用篇:異世界はなぜ剣と魔法のファンタジーなのか

 日本のファンタジー小説はたいてい「剣と魔法のファンタジー」です。

 なぜ他の道を模索しないのでしょうか。

異世界はなぜ剣と魔法のファンタジーなのか


 小説投稿サイトで作品を読んでいると、ほとんどの「異世界」ものが「剣と魔法のファンタジー」世界であることがわかります。

 なぜ「異世界」は「剣と魔法のファンタジー」である必要があるのでしょうか。




異世界のSFは可能か

 SFは現代の延長線上にあり、科学技術の発達した世界であることが多いと思います。

 たとえばアニメの安彦良和氏&富野由悠季氏『機動戦士ガンダム』も宇宙世紀の前は西暦を使っていますし、現実世界の地球圏を舞台にしているのです。「現実世界」のSFといえますね。

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』も銀河全域が舞台のSF小説ですが、そこにも地球は出てくるのです。「異世界」ではなく「現実世界」のSFになりますよね。

 他にも筒井康隆氏『時をかける少女』、新海誠氏『君の名は。』も「現実世界」を舞台にしたライトSFです。大友克洋氏『AKIRA』も士郎正宗氏『攻殻機動隊』もアニメ『COWBOY BEBOP』も「現実世界」のSFです。笹本祐一氏『ARIEL』も「現実世界」のSFでした。

 SFには「現実世界」を舞台にした作品が数多くあります。「異世界」を舞台にしたSFはあるのでしょうか。

 あります。それも世界的に有名な作品です。知らない人はいないと思います。

 映画のジョージ・ルーカス氏&スティーブン・スピルバーグ氏『STAR WARS』です。『STAR WARS』には地球が出てきません。多くの異星人が多くのロボットとともに生活をしている世界です。「現実世界」とは一線を画す作品であることは間違いありません。

 このように「異世界」を舞台にしたSFは可能なのです。しかし人類の存在を前提にするとどうしても「現実世界」の延長線上にある作品にしたほうがわかりやすくなります。

 ある程度の筆力がついてきたら「異世界SF」にも取り組んでみてはいかがでしょうか。




なぜ異世界は剣と魔法のファンタジーなのか

 では小説投稿サイトで人気のあるジャンル「異世界転生」「異世界転移」「異世界」はなぜ「剣と魔法のファンタジー」なのでしょうか。

 これは始祖であるJ.R.R.トールキン氏『指輪物語』の影響が強いのです。そしてそれを土台にしたTRPGテーブルトーク・ロールプレイングゲーム『Dungeons & Dragons』の普及も後押しした形になりました。

 日本では栗本薫氏『グイン・サーガ』に始まって水野良氏『ロードス島戦記』が決定打となったのです。そして「異世界」といえば「剣と魔法のファンタジー」であるという認識が書き手と読み手の間に出来あがりました。その傍流として「異世界転生」「異世界転移」がジャンルとして生まれたので、結果的にいずれも「異世界」は「剣と魔法のファンタジー」であることになったのです。




剣と魔法のファンタジーである必要性は

 書き手として「ファンタジー」はとても書きやすい。なにせ自分でその作品世界を丸々創造できますから。書き手が錯誤しないかぎり設定の齟齬など生じようもありません。

 だからといって「ファンタジー」を書こうと思い立つ人はすべからく「剣と魔法のファンタジー」を書いてしまうのはなぜでしょうか。

『グイン・サーガ』と『ロードス島戦記』の恩恵があったればこそです。この二作に触れた書き手が「ファンタジー」小説を書こうとするとどうしても「剣と魔法のファンタジー」にしたくなります。ほとんど「パブロフの犬」つまり条件反射でそう考えてしまうのです。それらのフォロワーが今執筆活動をしているので「ファンタジー」といえば「剣と魔法のファンタジー」が定番になりました。

 でもそれは本当に正しいことなのでしょうか。

 その問いに対する一つの答えとして、私は『暁の神話』(旧題『希望の灯』)を書きました。「剣は出てくるが魔法は出てこないファンタジー」です。それでも登場人物に「異民族の使う魔法」という言葉を話させて「その世界には魔法も存在する」ことを暗に匂わせています。これは「単一世界の連作」を意識していたからです。つまり他国に目を転じて小説を書こうとするときに「魔法」が使えるようにしておきたかった。端的にいえば「楽がしたかった」からです。実は元々の『希望の灯』のほう(『pixiv小説』に投稿してあるのは改稿してあります)では「異民族の使う魔法」という言葉自体が存在していません。「異世界ファンタジー」でありながら「魔法」を否定していました。「なぜ異世界ファンタジーは剣と魔法がなければいけないのか」と純粋に違和感を覚えていたからです。

 このように「異世界」だからといってすべて「剣と魔法のファンタジー」である必要なんてありません。「異世界SF」だって作れますし「異世界剣劇」や「異世界ミステリー」だって書けるはずなのです。




剣と魔法のファンタジーでない異世界

「異世界」を「剣と魔法のファンタジー」に限定してしまうのは、書き手として自分の首を絞めているのと大差ありません。『STAR WARS』のように「異世界」で異人種やロボットがたくさん出てきても構わないのです。

 要は書き手に着想力があるかどうか。残念なことに世界観を作る手間が嫌だから「剣と魔法のファンタジー」を選択する書き手が多いように思います。そして何の説明もなくエルフやドラゴンが登場するのです。ここまでくるともう没個性で独自性なんて皆無になります。

 でもその安直な選択は、本当に書き手であるあなたの成長に寄与するものでしょうか。あなたが作ったオリジナルの世界観だと言い切れるものでしょうか。

 評価は読み手がつけてくれます。『小説家になろう』でも「異世界」が「剣と魔法のファンタジー」という作品だけが高評価を受けるわけでないことをランキングが教えてくれているのです。

 VRMMORPGではありますが、川原礫氏『ソードアート・オンライン』のアインクラッド編には魔法がなく、剣技だけを頼りにデスゲームをクリアしなければなりません。魔法を省いたことで現実のバトルのような緊迫感が醸し出されました。




魔法は万能ではない

 それでも「剣と魔法のファンタジー」を書きたい。そう思う書き手を制限するつもりはありません。ただそれが作品の「テーマ」に似つかわしい世界観なのか。それが重要なのです。

 もし「剣と魔法のファンタジー」を書きたくなっても、「魔法が万能」であることは大きなマイナスになります。「魔法が万能」であれば、剣を使う必要なんてないのですから。それでは「剣と魔法のファンタジー」ではなくただの「魔法ファンタジー」でしかありません。J.K.ローリング氏『ハリー・ポッター』シリーズは「魔法ファンタジー」でしたね。


「魔法ファンタジー」というのは面白い着想なので、そんな世界観の作品の中にも面白い小説がいくつかあります。現代風にするなら「超能力ファンタジー」とでもいうべきでしょうか。

 昔から「超能力」を題材にした小説やマンガやアニメは多いのです。平井和正氏『幻魔大戦』やマンガの聖悠紀氏『超人ロック』、マンガのまつもと泉氏『きまぐれオレンジ☆ロード』など枚挙に暇がありません。また鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』やマンガの堀越耕平氏『僕のヒーローアカデミア』では「能力者」「個性」という形で特殊能力が使える設定になっています。「魔法」を「超能力」「特殊能力」「個性」に置き換えるだけで、なにか面白い作品が生まれてきそうではないですか。


 話が逸れました。要は「魔法には欠点が必要」だということです。使用者の精神力を大きく消耗してしまうなり寿命が減っていくなり代償として何かを要求してくるものが望ましい。

 たとえばアニメ・タツノコプロ『宇宙の騎士テッカマンブレード』では終盤、主人公Dボゥイはテッカマンブレードに変身するたびに記憶を失っていく状況に追い込まれています。「欠点」があるから頻繁に「変身(魔法)」が使えないのです。だから「剣(ソルテッカマン1号・2号)」が活躍する場面も生まれてきます。

「魔法に欠点がある」から「剣と魔法のファンタジー」は成立しているのです。その根本をわきまえず「魔法が万能」というのでは、もう「剣」の存在意義がありません。剣を持つ者はすべて無能などというくだらない作品に堕してしまう可能性もあるのです。

 神坂一氏『スレイヤーズ』も天才魔道士であるリナ=インバースはドラゴンさえもたやすく魔法で倒します。その後一緒に旅をすることになる剣士ガウリイ=ガブリエフはバカです。つまり『スレイヤーズ』では「魔法にそれほど欠点がない」ので「剣を使う者は無能」になっています。





最後に

 今回は「異世界はなぜ剣と魔法のファンタジーなのか」について述べました。

 書き手の皆様は「異世界」ものを書こうとして無条件で「剣と魔法のファンタジー」を選んでいませんか。その選択はあなたが書きたいテーマに本当に沿っていますか。

 そこを問い直し、それでも「このテーマを書くにはどうしても剣と魔法のファンタジーでなければならない」、そう判断するのであればぜひ「剣と魔法のファンタジー」を書いてください。

 もし「別の世界観のほうがテーマに即しているように感じられる」のであれば、安直に「剣と魔法のファンタジー」を選ばず、適切な世界観を用いるようにしましょう。「剣槍のファンタジー」だって「魔法ファンタジー」だってあるわけですからね。




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