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三百枚書けるようになるお得な「小説の書き方」コラム  作者: カイ.智水
応用篇〜小説を書くために一歩踏み込んでみる
124/1500

124.応用篇:バトルの本質

 バトルにもさまざまな側面があります。そもそも「バトルの勝者」はどうやって決まるのでしょうか。

 「終戦記念日」前日のテーマとして価値があると思ったので本日投稿致します。

 (『ピクシブ文芸』には2017年8月14日に投稿していました)。

バトルの本質


 人にはそれぞれ主義主張があります。人が集まればぶつかりあうときは必ず訪れます。

 そう、日常ものであってもバトル要素が混じってくるのです。

 そこで、今回は「バトルの本質」について書こうと思います。




バトルの形態

 バトルといえばマンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』や尾田栄一郎氏『ONE PIECE』のような「力と力の戦い」であると誰もが思うでしょう。

 ですがマンガの大場つぐみ氏&小畑健氏『DEATH NOTE』のように「頭脳と頭脳の戦い」というものもありますし、マンガの福本伸行氏『賭博黙示録カイジ』のように「心理と心理の戦い」というものもあります。

 さらに中国古典『孫子』のように「力に対して頭脳で勝負」したり、かなり古いですが日本テレビ系クイズ特番『史上最大!アメリカ横断ウルトラクイズ』のように「頭脳に対して運で勝負」したりという異種格闘戦を行なうこともあるでしょう。

 また恋愛小説もいわばバトルです。好きになった相手に対してアプローチを続け、こちらの気持ちに気づいて振り向いてもらうのは「攻め」といえますよね。逆に相手からアプローチされて、どう対処してよいのかというのは「守り」といえるでしょう。とくに三角関係はバトルが激しくなります。

 推理小説やミステリー小説なら「謎と論理」のバトルです。ホラー小説なら「死の恐怖と生」のバトルといえます。


 このようにバトルにはさまざまな形態があるのです。恋愛小説だからバトルなんて関係ないと考えてはいけません。さまざまなライバルの中から意中の人に射止められるには、誰よりも強くアピールする必要があります。恋愛小説にはライバル同士のアピール合戦という側面もあるのです。




損益分岐点

 どんな小説にもバトル要素はあることがわかったと思います。ではバトルの勝敗はどうやってつけるのでしょうか。

 たとえばボクシングマンガ・森川ジョージ氏『はじめの一歩』のように「力と力」で戦えば、相手をマットに沈めてKOするか最終ラウンドまで耐えて判定を待つかです。鷹村守や幕之内一歩や千堂武士のようにすべてKO決着する選手もいれば、青木勝や木村達也のようにドロドロの判定決着が多い選手もいます。それぞれの性格やボクシングスタイルで勝敗は異なってくるのです。このようにスポーツはルールに従って勝ち負けが決まります。


 では戦争での勝敗はどうでしょうか。まず野戦から開始されます。そして相手を殲滅するか退却させれば勝ち、こちらが殲滅されるか撤退させられれば負けです。また命を賭けた勝負ですから、相手を殲滅したのに味方の大将が討ち取られたなんてこともありえます。「戦いに勝って勝負に負けた」パターンですね。

 また野戦の次に攻城戦に移る場合があります。こちらは完全な持久戦です。防御側の食糧が尽きるのが先か、攻城側の食料が尽きるのが先か。補給線が鍵を握ります。これが戦争での勝敗なのです。


 恋愛小説では意中の人と結ばれれば勝ち、ライバルに奪われてしまえば負けになります。巷で話題の「不倫」は最愛の人をライバルに奪われてしまうわけですから、妻の負けになるのです。だから妻は「不倫」を絶対に許すことができません。認めてしまえば敗北を認めたと同然なのですから。


 ホラー小説なら生き延びられれば勝ち、殺されてしまえば負けになります。単純でわかりやすい。

 推理小説なら犯人を(あば)いて自供させれば勝ち、迷宮入りしたら負けです。


 このように、自分に利益があるか相手に不利益があれば「勝ち」であり、相手に利益があるか自分に不利益があれば「負け」という判断になります。

 これは簿記でいうところの「損益分岐点」という概念です。あるところまでは損失が上回り、あるところからは利益が上回ります。そんな中で損失も発生しないが利益も出ない点が存在するのです。それを「損益分岐点」と呼びます。


 ただしほとんどのバトルには「引き分け」という概念があります。自分に利益があるけど相手にも利益がある場合や、逆に自分に不利益があるけど相手にも不利益がある場合などです。戦争においても双方撤退して「引き分け」に終わることがあります。これも「損益分岐点」の話といっていいでしょう。

 このようにバトルはおおかた損得によって勝敗は決まります。「損益分岐点」をきちんと把握しておくことが書き手には求められるのです。今こちらはどの程度得をしていて、相手はどの程度得をしているのか。それを管理するのです。


 と、ここまで書いてきたことをすべてぶち壊します。唐突ですみません。




本当の勝敗は

 実はバトルにおける勝ち負けは「相手の心を挫く」ことにあります。

 ボクシングでいくらダウンを奪ったからといって「相手の心が挫けず」に何度も立ち上がってくるようでは、とても勝ったとは呼べません。たとえTKOテクニカル・ノックアウトで決着がついても、最終的に立ち上がってきたのであれば「相手の心は挫けていない」のです。「試合に勝って勝負に負けた」状態と言えますね。

 このことは先述の『はじめの一歩』やマンガの高森朝雄氏(梶原一騎氏)&ちばてつや氏『あしたのジョー』を読めばわかるでしょう。

『DEATH NOTE』は最終盤で主人公・夜神月が腕時計に仕込んでいたデスノートの切れ端を使えなくなって死神リュークを頼ります。この最終局面において「月の心が挫けた」のです。「思いを貫けなかった」月の完全な敗北といってよいでしょう。それを見たリュークはデスノートに月の名前を書き込みます。

 ホラー小説ならどんな恐怖を与えられても「必ず生きて帰る」と強く信じて行動すれば「心が挫けていない」のでその時点では勝っている状況なのです。

 推理小説でいくら名探偵が犯人を追い詰めても「犯人の心が挫けなければ」自白を引き出すことはできません。そのために名探偵は多角的に犯人を追い詰めてボロを出させるのです。名探偵と犯人と「どちらの意志が強いのか」が試されます。

 明日は日本の「終戦記念日」です。日本はなぜ1945年8月15日に降伏したのでしょうか。それまで各地で行なわれていたアメリカ合衆国の絨毯爆撃を受けながらも降伏を主張などしなかったのに。

 おそらく8月6日の広島、8月9日の長崎と2回の原爆投下が「日本帝国軍首脳部の心を挫いた」のでしょう。たった一発の爆弾で何十万人にも民間人が抵抗もできずに焼き殺されたのです。現地を調査したアメリカ人たちの心に与えた影響すら計り知れません。

 日本が「終戦」に向かったのもアメリカのトルーマン大統領がとった「首脳部の心を挫く」原爆投下にあったと言えるでしょう。それは戦略的には正しかったのは間違いありません。人道的に正しかったか否かは問わずにですが。

 この「戦略」と「人道」のどちらをとるのかは、「バトルの勝敗」にどのような意味をもたらすのでしょうか。田中芳樹氏『銀河英雄伝説』において描かれた「数百万人の兵士の命」と「数十万人の民間人の命」のどちらを守るのか、という問題への答えにつながっています。

「戦略」と「人道」のどちらを重んじるのか。その葛藤を描くことも小説が打ち出す「テーマ」のひとつになります。





最後に

 今回は「バトルの本質」について述べてみました。

 どんな小説にも「バトル」の要素はあるのです。そして「力には力を」といった直接対決ものと「力には頭脳を」といった異種格闘ものなどがあります。

 どこまで有利になれば勝ちなのか、どこまで不利になれば負けなのか。これを知らなければバトルの勝ち負けは着きません。そのため書き手は「損益分岐点」を明確に把握していなければなりません。

 しかし「損益分岐点」だけが勝敗の基準ではないのです。

 バトルの本当の勝敗は「相手の心を挫く」か否か。心を挫かないかぎり何度だって相手は戦いを挑んできます。

 バトルの本質とは強い信念を貫いて「相手の心を挫く」ことなのだと理解してください。




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