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三百枚書けるようになるお得な「小説の書き方」コラム  作者: カイ.智水
技術篇〜いかにして名作が創られるか
1158/1500

1158.技術篇:名前の書き方

 今回は「名前の書き方」についてです。

 小説が始まってすぐに「オッス、オラ悟空!」なんてやるわけにはいきません。

「文豪」も人物の「名前の書き方」には工夫を凝らしています。

 太宰治氏『走れメロス』のようにド直球な書き方もありますが、あれは例外です。

名前の書き方


 登場人物には名前があります。もちろんニックネームだけで進める物語もあるのです。でもそれはごく少数。ほとんどの作品では正式な姓名がつけられています。

 ではどのように名前を読み手へ提示するのが自然なのでしょうか。




主人公の名前

 一人称視点で最も難しいのが「主人公に関する情報」を、読み手へいかに違和感なく伝えられるかです。

 夏目漱石氏『吾輩は猫である』は、そのものズバリ「吾輩は猫である。名前はまだない。」と地の文で堂々と名乗っています。(名前がないわけだから名乗っているというのかどうかは別の話です)。

 三人称視点なら「主人公の名前」はいつでも書けます。ただし「書き出し」で名指しはほとんどしません。太宰治氏『走れメロス』は「メロスは激怒した。」と「書き出し」でいきなり名指ししています。これは例外です。

「書き出し」に「彼の名は高橋由伸。プロ野球・東京読売巨人軍の元四番打者で元監督でもある。」と書いたとします。主人公の設定を思いっきり説明しています。

 設定を説明するのが「書き出し」の役割ではないのです。あくまでも「どういう人物が主人公なのか」を場面(シーン)で読ませるのが「書き出し」の役割になります。

 心優しい主人公なら、捨て猫を放っておけないかもしれない。それなら「捨て猫に餌を与える場面(シーン)」を「書き出し」で書いてしまうのが手っ取り早いのです。

 主人公の名前は第一話に書く必要なんてありません。

 一人称視点でも三人称視点でも、これは同じです。

 一人称視点なら「私」「わたし」「あたし」「僕」「(わし)」「あっし」などの代名詞を用いるだけでもよい。無理に主人公の名前を入れようとするから、あざとさが目につきます。


 そもそもあなたは意識の中で自分の名前を言うでしょうか。言いませんよね。自分の名前なんて改めて意識する人もほとんどいませんし、口に出す人も少ない。せいぜい自己紹介の場面(シーン)なら言うくらいでしょう。

 たとえば「人助けをして名前を聞かれ、断ろうとしてもしつこく聞かれるので、辟易しながら名乗る」ような場面(シーン)なら名前を口にしますよね。

 また自分が名乗らなくても、他人から声をかけられることはあるはずです。とくに知人・友人・仲間からは名前や愛称で呼ばれます。

 高校生が主人公なら、授業中に教師から名前を呼ばれたり、休み時間に級友から名前を呼ばれたり。

 他人から名前を呼ばれて主人公が反応する。これが主人公の名前を自然と読み手へ伝える最善手です。けっして自分の名前を地の文に書かないようにしてください。

 懐かしのアメリカドラマ『特攻野郎Aチーム』のオープニング映像のような自己紹介は小説では最低です。以下のような自己紹介を小説では絶対にしないでください。パロディーでやりたいのならかまわないのですが。

――――――――

「俺はリーダーのジョン・スミス大佐。通称ハンニバル。奇襲戦法と変装の名人。俺のような天才策略家でなければ、百戦錬磨のつわものどものリーダーは務まらん!」

「俺はテンプルトン・ペック。通称フェイスマン。自慢のルックスに女はみんなイチコロさ。ハッタリかまして、ブラジャーからミサイルまで、何でも揃えてみせるぜ」

「B・A・バラカス、通称コング。メカの天才だ。大統領でもぶん殴ってみせらぁ! でも、飛行機だけは勘弁な!」

「よぉ、お待ちどう! 俺様こそマードック。通称クレイジーモンキー。パイロットとしての腕は天下一品! 奇人? 変人? だから何?」

 俺達は、道理の通らぬ世の中に敢えて挑戦する、頼りになる神出鬼没の、「特攻野郎Aチーム」!

 助けを借りたい時は、いつでも言ってくれ! 

――――――――

 今だと「戦隊ヒーローシリーズ」の自己紹介場面(シーン)のほうがわかりやすいかもしれませんね。




知人の名前

 主人公の名前は書きづらいのですが、知人の名前は書きやすい。ですが、正しい書き方があるのです。

 書き慣れていない方は「俺は前を歩いているうちの高校のブレザーを着た短髪の女子に話しかけた。「おい、田所」」と書いてしまう。

 書き慣れていれば「俺は前を歩いている田所に話しかけた。」だけで、知人の名前が「田所」だとわかります。

 歩いている人物を知っていたら、どんな容姿かよりもまず名前が出てくるはずです。

 しかし書き慣れていないと、まず容姿を明らかにしてから名前を呼ばせようとしてしまうのです。これではあまりにも説明口調すぎます。

 あなたは普段、知人を見つけたときどういう思考をしているのでしょうか。

「あれ? 前を歩いているのって田所だよな」と思いませんか。「あれ? 前を歩いているうちの高校のブレザーを着た短髪の女子って田所だよな」とは思わないはずです。

 先に人物のあたりをつけて、それから「うちの高校のブレザーだし、あの特徴的な短髪の女子は田所以外にはいないだろう」と考えを進めますよね。

 知っている人物だからこそ、顔や姿を見たらまず名前が出てくる。どんな容姿をしているかなんて見飽きているはずだからです。

 容姿を説明したいのなら、名前を書いてからにしてください。

 しかし単に「特徴的な短髪でうちの高校のブレザーを着た女子が振り返った。」と書くのもNGです。

 正解があるとすれば、以下のような書き方になります。

――――――――

 前を歩いている田所に話しかけた。

 俺の声を聞いて、うちの高校のブレザーを着た女子が振り返る。

 なにか用でも? と言いたげな視線を投げてきた。特徴的な短髪が印象的だ。

――――――――

 これなら設定がすんなりと頭に入ってきますよね。

 知人の名前を読み手に知らせたければ、主人公の思考を再現すればよいのです。

 まず名前を呼び、その反応を書きながら相手の容姿を説明していけば、とても自然な認識の流れになります。

 もちろん、あたりが暗いとか全身が見えないとか雰囲気が違うとかで、相手を断定できない状況はあるのです。そういうときはわかる範囲の容姿から書き始めましょう。

 たとえば田所が綺羅びやかなドレスを着て、いつもと雰囲気がまるで違っていたらどうでしょうか。

 第一印象から田所だと気づけますか。いつもと雰囲気がまるで違っていたら、まず初見で田所だとは気づけないと思います。そういうときは、まず容姿を書くのです。そうしてから「あれ? どことなく田所に似ていないか」となって「お前、田所かよ!」となりますよね。


 このように相手を瞬時に特定できるのなら、名前を真っ先に書くべきです。いつもと雰囲気が違っていたりそれほど記憶に残っていない人物であったりしたら、真っ先に容姿を書きましょう。

 そういうところを「小説賞・新人賞」の選考さんは的確に見分けます。





最後に

 今回は「名前の書き方」について述べました。

 単なる「名前の書き方」ひとつで、一次選考を通過するかどうかが問われるのです。

 自分の名前は地の文には書けません。誰かの口を介して読み手に名前を認知させましょう。または手紙やダイレクトメール、Eメールなどの宛名として書いてあるのなら、その文章を書きながら自分の名前を紛れ込ませてもよい。

 知人の名前はよく知っている人物なら、まず名前が浮かんできます。雰囲気が違ったりあまり知らなかったりした人物なら、名前が浮かばないので容姿から書くしかないのです。

『特攻野郎Aチーム』のような自己紹介は、パロディー以外ではやらないようにしてくださいね。




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