1155.技術篇:手紙のような語り口(書簡体小説)
昔は結構「書簡体小説」がありました。
しかし現在ではほとんど見ません。そもそも書簡(手紙)を出す文化が絶滅しつつあるので、その発想自体がなくなったように思えます。
そんな絶滅危惧種である「書簡体小説」について述べます。
手紙のような語り口(書簡体小説)
小説の中に「まるで手紙でも書いているような語り口」の地の文を書くものがあります。古くは「書簡体小説」と呼びます。
しかし現在の日本では「書簡」つまり「手紙」はほとんどやりとりされていません。完全に市民権を失っているのです。
今さら「書簡体小説」は流行らないのでしょうか。
手紙に変わるツール
現在の日本では『LINE』のトーク、『Twitter』のツイートなど、皆がきわめて短文で意思疎通を図っています。
では「書簡体小説」は絶滅してしまったのでしょうか。
『LINE』のトークのやりとりのような語り口の作品も生まれました。主に会話のやりとりだけで進行するため、とくにまったく小説を書かなかった若い世代の書き手に支持されています。
ただし一文で話者が切り替わるため、今どちらが話しているのかを見失いがちです。まさかカギカッコの上に名前を書くわけにもいきませんよね。と言いたいところなのですが、『LINE』風小説なら、話者の名前をカギカッコの上に書くのも「あり」です。そのほうが『LINE』の感覚に近いですよね。
『Twitter』のツイート風の作品なら、タイムライン形式にしてみたり、リプライ形式やリツイート形式にしてみたりと、いろいろ工夫できます。
インターネット・メール
『Twitter』『LINE』が流行るひと昔は、「Eメール」つまり「インターネット・メール」でやりとりしていました。
こちらはある程度の文字数制限はありましたが、「手紙」と同じような長さで書けたのです。今でも『Twitter』のDMで『LINE』のトークとミックスしますが、「手紙」のように使えます。
「Eメール」が爆発的に普及したのは、「写メール」と呼ばれるサービスからです。今でも「インスタ映え」のように写真をSNSに投稿して「いいね」をたくさん付けてもらっていますよね。「写メール」は携帯電話にカメラが付いて、その写真を「Eメール」で指定した相手に直接送信したものです。
そんな「写メール」も、今では『Instagram』『Twitter』で不特定多数に見てもらったり、『LINE』『Facebook』で限られた範囲内の人に見せたりできる時代になりました。
ですが「写メール」でのやりとりを小説にするのは不可能です。イラストやマンガなら再現可能ですが、文字だけで読み手に物語を伝えなければならない小説ではイラストや写真をふんだんに載せるわけにはいきませんからね。
そうなると小説で書ける「Eメール」は、単に「手紙」をインターネットで送っただけのものです。つまり「写メール」以前の形しか書けません。
今では『Twitter』『LINE』でも写真を送れます。文章だけで伝えなければならない小説は、若者にとってすでに時代遅れなのかもしれません。化石とすら思われているのかも。
インターネット時代の書簡体小説
「書簡体小説」はすでに古いスタイルです。
使えるとすれば「やりとりに時間がかかる状況」または「インターネットが存在しない状況」くらいでしょうか。
たとえば「地球」と「太陽系外」であれば、通信にかかるタイムラグは相当なものですよね。光を用いた通信だったとしても数時間かかるかもしれません。そんな状況で写真をやりとりするのもなかなか難しい。アメリカの太陽系惑星観測用人工衛星『ボイジャー』は、地球に木星や土星の写真を送信してくれた、まさに時代を何歩も先取りしていたのです。
しかし「太陽系外」に多くの人々が拡散していった世界なら、「光通信」は数が多すぎてうまくやりとりできなくなるでしょう。
しかも1光年も離れてしまったら、こちらから「光通信」を発しても相手に届くのは一年後です。相手から届くのはさらに1年後になります。こうなるともはや『Twitter』『LINE』のように気軽にやりとりできませんよね。
これは「SF」の領域なので、皆様がよく書くであろう「剣と魔法のファンタジー」には使いにくいと思います。
しかし「剣と魔法のファンタジー」であれば「インターネットが存在しない状況」ですので『Twitter』『LINE』など当然存在しません。そうなれば相変わらず「手紙」が用いられているでしょう。
もちろん魔法で「手紙」を瞬時に届けたり、インターネットのような遠距離通信アイテムがあったりと、「やりとりに時間がかからない」「インターネットの代わりに瞬時にやりとりできる」ものがあるかもしれません。
そうなると『Twitter』『LINE』のようなやりとりも可能となるでしょう。
「書簡体小説」はそういった魔法やマジックアイテムが存在しない、ごく原始的な「剣と魔法のファンタジー」ならじゅうぶんに使えるスタイルです。
現在「書簡体小説」が少なくなったからこそ、「小説賞・新人賞」へ応募する作品としてはかなり「目立てる」と思います。実際にそういった作品もいくつか小説投稿サイトに存在するのです。
インターネット時代だからこそ、「書簡体小説」が斬新さを生む可能性はじゅうぶんあります。72万超と圧倒的な作品数を誇る『小説家になろう』ですら、「書簡体」で検索すると29件しか作品がヒットしません。
小説を書くのが得意な方は、腕試しに「書簡体小説」へ挑戦してみてはいかがでしょうか。
また、これまで小説が書けなかった方。「手紙」を書くつもりで作品が書ける「書簡体小説」は意外と書きやすいかもしれませんよ。
こちらの状況や気持ちを伝える。相手の状況や気持ちが返ってくる。
一時期、世界中で流行った「書簡体小説」には、いまだに「夢」が詰まっているのです。
最後に
今回は「手紙のような語り口(書簡体小説)」について述べました。
「書簡」つまり「手紙」のやりとりで書く小説は、今の若い人にはなかなか書けません。そういう文化を経験していないからです。
「口語体による一人称視点」は今の若い人でも書けます。
だからこそ「書簡体小説」は差別化要素なのです。
普通の小説を書き慣れている方には難しいかもしれません。
逆に今まで小説を書いていなかった方には、案外普通の小説よりも書きやすいかも。
一度挑戦するだけしてみてください。
実際書けるのか書けないのかを知るだけでも、自分の才能を測れると思います。