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三百枚書けるようになるお得な「小説の書き方」コラム  作者: カイ.智水
応用篇〜小説を書くために一歩踏み込んでみる
113/1500

113.応用篇:キャラは勝手に動き出すのか【動機】

 コラム基礎篇No.7とは求めるものが異なっています。

 これは書き手の成長を見越してのことですので、心得として憶えておくと役に立つと思います。

キャラは勝手に動き出すのか【動機】


 人が行動するには「動機」が必要です。「動機」もないのに行動する人は徘徊者と変わりません。

 小説も同様です。主人公に限らず登場人物が出来事(イベント)に対して行動するにも「動機」が必要になります。




動機があるからキャラは独りでに動き出す

 よく人気小説家や人気漫画家が「キャラが勝手に動き出すんですよ」と言っている記事が載っていますよね。

 でも実際自分が書いてみると、いっこうに「キャラが勝手に動き出してくれない」のです。

 この違いはなんなのでしょうか。


 それは「行動せずにはいられない『動機』があるかないか」です。

 「動機」があればキャラはそれに突き動かされるように行動せずにはいられません。「動機」がなければキャラは行動する理由もないのです。


 書き手であるあなたのことを思い返してください。

 あなたは出来事(イベント)が起きたときに「なにがしかの利害」が生じるから行動を起こしますよね。とくに利害が生じないのに行動していますか。

「ボランティアがあるじゃないか」という方もいらっしゃると思います。でも「ボランティア」は「奉仕したい」という自分の欲求に従って動いているのです。ちゃんと「動機」があります。

 それ以外で利害が生じないのに行動した経験はありますか。おそらくいくら考えても出てこないと思います。

 人は何か出来事(イベント)に出くわすと、その出来事(イベント)によって自分が身体的・精神的・経済的に得をするのか損をするのかを無意識のうちに判断して行動しているのです。


 小説の登場人物もあなたと変わりありません。利害が発生するから自然とそう動くのです。害を受けることを承知のうえであえて行動するキャラなんてまずいません。皆自分の都合のいいように動こうとするものなのです。

「動機」を無視してキャラを動かそうとしても、その人の行動原理に沿わないため「書き手都合により動かされている」状態になってしまいます。これでは動いてほしいと思っても動いてくれませんよね。だってそのキャラが動きたくなるような「動機」がないんですから。

「動機」があるからキャラは独りでに動き出すのです。ある出来事でキャラを思惑通りに動かそうとするのならば、そのキャラが動かざるをえない「動機」を作ってやることです。




動機は身近なものがいい

 ですが、キャラに大義名分を与えて「正義の行動」をとらせよう、などと考えてはいけません。ほとんどの読み手はそんな大きな「動機」を提示されても白々しく思います。やはり「書き手都合により動かされている」ように感じるのです。

 ではどのような「動機」があれば読み手はキャラに共感し、主人公に感情移入しやすくなるのでしょうか。

 それは「自分が守りたいものを守るために」という「動機」です。

 愛する人を守りたい。地位を与えてくれた人を守りたい。親友を守りたい。家族や子どもを、信念を守りたい。

 そんな身近な「動機」です。

 読み手の価値基準と近しい必要があります。だからこそ読み手はキャラの行動に共感し、主人公に感情移入しやすくなるのです。

「思いを伝えたい異性を守るために、頑張ってこの出来事(イベント)を解決するんだ」

 その思いこそが必要なのです。




人気作を分析してみよう

 あなたがよく読む小説やマンガ、よく観るアニメやドラマや映画を思い返してください。

 主人公は「何かのために行動しています」よね。皆「動機」があるのです。主人公に限らず脇役やライバルも「動機」があって動いていますよね。そこに「書き手都合により」という無理は見えないはずです。

 売れる作品というのは、登場人物がきちんと「動機」を持って出来事に当たっています。


 水野良氏『ロードス島戦記』では主人公のパーンは「立派な騎士になりたい」という「動機」を持っています。だからこそ目の前で困っている人がいれば助けずにはいられないのです。ハイエルフのディードリットはそんなパーンを守ってあげたいと思うから、彼と行動を共にします。魔術師のスレインはドワーフのギムを気遣って付いてくるのです。

 同じく水野良氏『魔法戦士リウイ』では主人公のリウイは当初なんの「動機」も持っていませんでした。魔術師なのにただひたすら己の肉体を鍛える日々を過ごしています。そんなとき冒険者酒場で乱闘騒ぎが起こり、ケンカ好きのリウイはその中へ割って入るのです。そうやってミレルやジーニやメリッサと出会い「冒険者」という存在を知ります。

 リウイは未知の存在に出会える「冒険者」に憧れを抱くのです。「冒険者になりたい」という「動機」ができました。そこに神託を得たメリッサが仲間のミレルとジーニを連れて訪ねてくるのです。

 リウイは晴れて「冒険者」になることができました。

「動機」がなければ作ればいい。『魔法戦士リウイ』のこの導入部はとてもよいお手本になります。未読の方がいらっしゃれば、ぜひ『魔法戦士リウイ』を読んでみてください。きっと創作のお役に立てるでしょう。


 渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』では主人公の比企谷八幡も当初はなにかやる「動機」がない状態でスタートします。人付き合いが面倒だからなにもしようとしない。

 それを見かねた国語教師の平塚静が八幡を奉仕部へと強制的に入部させるのです。でも強制的にですから本人にはやる気がまったくありません。

 奉仕部部長の雪ノ下雪乃と部活をするうち、次第に部活へやりがいが生まれてくるようになってきます。ここまできてようやく八幡にも「動機」が生まれました。こちらも未読の方はぜひ読んでほしいですね。


 賀東招二氏『フルメタル・パニック!』では主人公の相良宗介は、ヒロインの千鳥かなめを「護衛する任務」を帯びています。だから「靴箱が変だ」と感じたら即座に爆破処理するのです。

「護衛する任務」という「動機」があるからこそ宗介のそんな行動は彼にとって自然に感じられます。

「戦争ボケ」しているという設定は、靴箱爆破が自然に行なえる人物になるためのものであって「動機」ではありません。


 鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』では主人公の上条当麻が「自分の信念」を貫き通すために敵と戦います。

 相手の理屈はお構いなしです。当麻が「自分の信念」に合わなければ、どんな相手であってもぶん殴って粛清します。


 ここで挙げた以外の脇役やライバルのキャラにも当然「動機」があるのです。





最後に

 今回は「キャラは勝手に動き出すのか【動機】」ということについて述べました。

 基礎篇では「キャラ設定を詰めない」ことを求めましたが、応用篇では「動機を持たせる」ことを求めています。

 これはある程度書き慣れてきた書き手に対して、より実践的なお話をする必要があるだろうと感じたからです。

 (おのおの)のキャラに「動機」を持たせることは、物語の展開を拘束する「諸刃の剣」となりえます。ときとして書き手の想定を逸脱する行動をとってしまうものなのです。

 応用篇まで付いてこられた書き手の方なら、キャラや展開の制御はたやすいはず。よりよい作品にするためにも、キャラに「動機」を持たせてみましょう。




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