112.応用篇:キャラには長所と欠点を
本日は前回の補講も含めて2回目の投稿となります。
「魅力的なキャラとはなにか」について述べています。
キャラには長所と欠点を
ライトノベルは「キャラクター小説」とも呼ばれるほど、登場人物の人となりや人間関係のやりとりを中心として描かれています。
中でも一人称視点のカメラセンサーとなる主人公は、読み手が自然と感情移入できる人物像である必要があるのです。
以前「共感」と「憧れ」を主軸に置いてお話し致しましたが、今回はそれを「欠点」と「長所」として主軸に置きます。
長所が読み手を惹きつける
ライトノベルの主人公は、なにがしかの「長所」を持っています。たとえば百メートルを七秒台で走れると設定するのです。それだけで「長所」になりえますよね。なにせウサイン・ボルトの持つ世界記録よりもはるかに速いのですから。
このような「長所」が物語の展開と不可分な要素であるなら、主人公はその物語で英雄に成りえます。
たとえばマンガのモンキー・パンチ氏『ルパン三世』で主人公のルパンは変装の名人であり、秘密道具作りの腕前も超一流です。その「長所」を活かしてルパンはさまざまなものを盗んでいきます。「対になる存在」である銭形警部に化けることも一度や二度ではありません。それでも誰もが騙されてしまうのです。誰も『ルパン三世』の主役がルパンでないとは言わないでしょう。
脇役にもすぐれた「長所」があります。次元大介は拳銃の早撃ちなら誰にも負けません。石川五エ門はすぐれた剣術の使い手であり愛刀「斬鉄剣」は切れないものはこんにゃくだけとされるほどのチートっぷりです。峰不二子は惚れない男がいないほどの美貌と悪知恵を誇っています。
ルパン一味には「長所」がふんだんに盛り込まれていることがわかりますね。
完璧超人にしない
だからといって、なんでもできる「完璧超人」にしてしまうのはよくありません。主人公がどんな大ピンチに陥っても「どうせ主人公はなにがしかの力を使って解決してしまうんだろう」と見透かされてしまうからです。
とくに連載初回の冒頭「三ページ」で「完璧超人」であることがバレると、読み手は一気に興味を失います。「どうせ勝つんでしょ」と思うからです。
それ以降がどんなに名作であろうと、一度付いた「完璧超人」のレッテルは剥がすことができません。そうなるとフォロワーさんがつかなくなります。
「完璧超人」にしないと解決できないような物語の展開が待ち受けているような場合もあるでしょう。
だからといって、まさかそのときだけ「完璧超人」にするわけにもいきませんよね。そんなご都合主義がまかり通っては、せっかく世界観を作り上げた労力が一瞬にして台無しになります。
「完璧超人」にしないと解決できないような出来事は起こさないことです。起こしてしまったら必ず失敗することが求められます。主人公ならなんでもかんでも成功するのでは感動もなにもあったものではないのです。
「長所」が活かせる出来事なら成功するし、「長所」が生かせない出来事なら失敗して当然。主人公に失敗させたくないのなら、そんな出来事を起こさなければいいのです。
でも失敗しない出来事だけが起きても、読み手はハラハラ・ドキドキできません。
主人公に感情移入している読み手なら、主人公にはどのような能力があって、このくらいなら主人公は成功するに決まっている。このくらいなら失敗するだろう。そう考えます。だから失敗することは恥でもなんでもないのです。
物語をスリリングにして読み手をハラハラ・ドキドキさせるには、時に失敗する出来事を挟んでいくようにしましょう。
欠点が親しみを与える
では「完璧超人」で無くすにはどうすればよいのでしょうか。
あえて「欠点」を作ってやることです。フルマラソンで2時間を切るタイムを持つほどの主人公ですが、水泳はまったくのカナヅチというのはどうでしょうか。
フルマラソンに限れば「完璧超人」ですが、水泳ではまったく使えません。そんな「欠点」を文章にすれば、読み手は「この人はこんな弱点があるのか」と親しみを持つようのになります。
再び『ルパン三世』でいえば、主人公のルパンは女好き、次元は子供嫌い、五エ門は女に免疫がない、不二子はお金に目がないという具合です。必ず「欠点」がありますよね。
マンガ・北条司氏『CITY HUNTER』の主人公・冴羽リョウは射撃の天才であり、その腕前はプロの世界でもナンバー・ワンです。「射撃」が「長所」となります。しかし無類の女好きですぐ「もっこり」する「欠点」があるのです。それによって何度かピンチに陥ってもいますし、パートナーの槇村香からも「もっこり」のたびに100トンハンマーを喰らっていますが、いっこうに改める気配がありませんよね。
また原作では子どもの頃の記憶のせいか「飛行機に乗って空を飛ぶ」ことを生理的に受け付けません。アニメではたびたび飛行機に乗っているのですが、原作で「実は飛行機に乗って空を飛ぶのがダメなんです」と明かされて矛盾が生じたのです。まぁアニメで「飛行機に乗って空を飛べない」エピソードが出たのは一回しかありませんので、多くの視聴者はとくに気にならなかったと思います。
このように「欠点」があると、読み手はそのキャラクターに親しみを感じるのです。『CITY HUNTER』も序盤はマンガ・武論尊氏&原哲夫氏『北斗の拳』のようなハードボイルド路線だったのですが、あまり人気が出ませんでした。
北条司氏『CAT’S EYE』のアニメが好評で、氏の次作である『CITY HUNTER』もその流れでアニメ化が決まっていました。しかしどうにも連載の人気が上がらない。
あれこれ試行錯誤していった結果「もっこり」を出した回のアンケートがひじょうに好評を得たのです。そこから世界観を作り変えて、主人公・冴羽リョウの性格も「決めるときは決めるが、普段は女好きの『もっこり』男」となりました。
そしてアニメが放映されるとED曲のTM NETWORK『Get Wild』とともに一世を風靡することになったのです。この試行錯誤の過程はマンガ単行本を読めばわかりますので、ぜひご一読してください。本当にあれこれ試していることがわかりますよ。
愛されるのは長所と欠点の組み合わせ次第
「長所」で惹きつけて、「欠点」で親しみを感じさせます。それだけでキャラクターが読み手から愛されると思うのは早計です。
「長所」と「欠点」の組み合わせが重要になります。『ルパン三世』も『CITY HUNTER』も「長所」と「欠点」の方向性が異なっているのです。
ルパンは変装と秘密道具が「長所」で女好きが「欠点」、次元は早撃ちが「長所」で子供嫌いが「欠点」、五エ門は剣術が「長所」で女に免疫がないのが「欠点」、不二子は美貌と悪知恵が「長所」でお金に弱いのが「欠点」になります。冴羽リョウは射撃が「長所」で女好きの「もっこり」が「欠点」です。
このように並べてみると「欠点」が「長所」の方向性に沿っていない、まったく異なる方向性であることがわかります。
愛されるキャラクターというのは、このように方向性の異なる「長所」と「欠点」を持っているものです。
マラソンが速く走れるのが「長所」だけど、百メートル走を速く走れない「欠点」というのは、方向性が同じなので「長所」としても「欠点」としてもあまり際立ちません。方向性を違えることが重要なのです。
最後に
今回は「キャラには長所と欠点を」について述べました。
ライトノベルは「キャラクター小説」です。キャラが立っていない作品は退屈なだけで、なんの魅力も感じさせません。
キャラを立てるには「長所」と「欠点」を読み手に見せることです。その他が平凡であろうと「長所」と「欠点」がわかれば途端に魅力的に感じられます。
モブキャラでもないかぎり、登場人物にはすべからく「長所」と「欠点」を設定しておきましょう。
「長所」を活かせる出来事を発生させれば読み手はワクワクしてきます。
「欠点」が足を引っ張りそうな出来事を発生させれば読み手はハラハラ・ドキドキしてくるのです。
小説の魅力は「ワクワク・ハラハラ・ドキドキ」にかかっています。そう思えるような描写をしていれば読み手はより深く感情移入してくれますし、その小説のフォロワーになってくれるのです。
「どうも自分の書く小説は、評価やブックマークが付かないな」と思ったら、一度キャラを見直してみましょう。「長所」と「欠点」がしっかり活かせているのか。評価もブックマークも付かないのは初回投稿の冒頭「三ページ」で主人公の「長所」か「欠点」を活かした出来事が起きていないということです。ワクワクもしませんし、ハラハラ・ドキドキもしません。これで「先を読んでくれればもっと面白くなるよ」といくら書き手があらすじで煽っても冒頭「三ページ」で見切られて終わりなのです。
キャラとくに主人公には「長所」と「欠点」を設定し、冒頭「三ページ」でそれを活かした出来事を起こす。そこに重点を置いてください。