11. :主人公の結末から佳境を創る
「小説は書き出しから書くべきだよなぁ」というのは紙の原稿用紙に縛られていた世代の考え方です。
インターネットやコンピュータの世代ならどこから書き始めてもいい。
いちばん書きたいのは物語の佳境ですよね。
ここでどれだけ読み手を魅了するかで作品の出来不出来が決まります。
主人公の結末から佳境を創る
あらすじを書くとき、書き出しにあれこれ悩んで時間がかかることがあります。
ですが、あらすじの段階では書き出しを先に考えてはいけません。
考えるべきは人物設定をしたときの「主人公の結末」へたどり着くように「佳境」をどう盛り上げるか。この一点に尽きます。
佳境は物語でいちばん盛り上がるところです。ここでうまく盛り上げられないと、いくら書き出しに苦労しても大した小説にはなりません。
書き出しもその後の展開も順調に読み手の心を煽って盛り上げてきたのに、佳境がうまく盛り上がらない。
せっかくの作品が台無しです。
佳境でどれだけ読み手の「心に痕跡を残す」のか。じゅうぶん以上の深さで爪を立てるのです。
そのためにもまずどのような「佳境」ならば劇的に盛り上がるのかを計算して創ります。
鉄板の佳境パターン
英雄ものなら「ラスボスとの最終バトル」ですよね。ここでどれだけ読み手をワクワク・ハラハラ・ドキドキさせられるか。
一般的には「いったん崖っぷちまで追い込まれるも逆転の一手を仕掛けて倒す」ことになるでしょう。
主人公が死にそうになったり世界が崩壊する手前までいったり。
そういった崖っぷちを作ることで読み手はハラハラ・ドキドキします。そこで繰り出される逆転の妙手。
それで事態が急変して一気に逆転することで、それまでマイナスに振れていた読み手の感情も一挙に解き放たれてワクワクします。
「痛快さ」を演出するために昔から用いられている鉄板の佳境パターンです。
恋愛ものなら「意中の異性と付き合えるかどうかの告白タイム」であったり「付き合っている異性たちの中から一人を選ぶ」であったりします。
こちらも「いったんうまくいかないんじゃないかと思わせて追い込まれた主人公の勇気ある決断で状況が一変する」ことになるでしょう。
このように「いったん崖っぷちに立たされ、それを一挙にひっくり返す」と佳境は最も盛り上がります。
読み手もこの種の佳境パターンの作品に数多く触れているはずです。そうであっても何度でも効果を発揮します。
魔法のパターンですね。
シチュエーションを工夫してみる
この種の佳境パターンが最善であるという前提に立ち、「ではどういうシチュエーションでこの佳境パターンを繰り広げようか」と考えましょう。
仲間が次々と打ち倒され、残っているのは勇者ただ一人。これも崖っぷちに立っています。
ラスボスが強すぎてパーティーが圧倒され、もはや打つ手なし。これも崖っぷちに立っています。
世界が崩壊への道をたどろうとしている。これも同様です。
シチュエーションの工夫次第で他の作品と差別化を図れます。
でもあまり悩まないでください。書き手が「この展開ではベタ過ぎるのでは」と思っているものは確かにベタです。
でも「この展開は誰も作ってこなかったはずだ」と思っているものであっても注意を要します。
この世にはすでに幾億万の物語が存在しているのです。「誰も作ったことのない展開」というものはまずありません。
たいていどこかの誰かが書いた作品ですでに発表されています。とくに展開に凝ろうとしなくてもいいのです。
展開がいかにベタであっても、鉄板のパターンであれば確実に読み手の「心に痕跡を残す」ことができます。
書き手は「シチュエーションを工夫する」という意識だけを持っていればよいのです。
人物が変われば陳腐でなくなる
では何を工夫すればいいのか。「主人公と、対になる存在」との関係性を工夫しましょう。まぁこちらも幾億万の物語の中で必ず同じものがあるでしょうけれども。
それでも読み手に「まさか」と思わせられればしめたもの。展開がベタでも関係性がベタでもかまわないのです。
要は読み手に「まさか」と思わせることにあります。
そうとわかっているのにミステリーファンは何冊でもミステリー小説を読みますし、サスペンスドラマを観ます。
登場人物を変えるだけで推理ものは「陳腐化」から抜け出しているのです。
これをあなたの小説で使わない手はありません。
そのためにはそれまでの物語内で「伏線を張る」「フラグを立てる」をしておきましょう。
なんの脈絡もなく佳境のシチュエーションを見せたところで「はぁ? なんでそんなことになるんだよ」と読み手に呆れられるだけ。
伏線・フラグは必ず前フリしている必要があります。
佳境が定まったら一つ前の出来事を作る
これで書き手は佳境を定めることができました。では伏線を張っていきましょう。
具体的には佳境の一つ前のエピソードで前フリしている必要があります。ここで前フリがないと発想が突飛すぎてしまい読み手がついてこれません。
一つ前のエピソードで最後の伏線を張ってあればいいのです。後はどれだけ前に伏線を張っておいても構いません。
佳境の一つ前のエピソードできちんと佳境の前フリをしておきます。
これは高くジャンプするために、いったん体を屈ませるのと同じこと。より佳境で盛り上げるためには直前の沈み込みが不可欠です。
まず主人公が崖っぷちに立たされそうだという沈み込みを直前のエピソードで作ってあげましょう。それだけで佳境はぐっと盛り上がります。
次々と遡って出来事を作っていく
このようにして佳境とその一つ前のエピソードとを決めていくのです。
そして後は世界設定とキャラ設定を必要に応じて付け足したり変更したりしながら、結末を書き、そこから物語を遡る形でエピソードを作っています。
現実世界でも「この出来事は、ある出来事の結果から発生している」の積み上げです。
世界設定と人物設定はほとんどしなくていい、という理由もここにあります。
必要に応じて付け足せたり変更したりできるから物語の筋が通しやすいのです。
人は成長するもの
また人間に限らず生物全般は出来事を通じて「何かが変化する」ように出来ています。
出来事が起これば性格や性質も少しずつ変化していくのです。
心境の変化と出来事の結末はリンクしています。だから物語の書き出し当時の性格や性質が、当初想定していた「主人公の結末」を迎えたときと異なっているべきなのです。
もし終始貫徹していたら読み手の「心に痕跡を残す」ことはできるでしょうか。なかなか難しいと思います。
ギャグものであれば貫徹しているほうがバカバカしくて痛快です。
でも英雄ものや恋愛ものなどで貫徹してしまうと「まったく成長していないじゃないか」と読み手は感じて「つまらないものを読んでしまった」と思います。
物語が進展するから英雄ものや恋愛ものなどは需要があるのです。主人公になんの成長もなければ、読み手自身も読書の「疑似体験」を通じて成長することはできません。
物語性を重視して深く「心に痕跡を残す」ためには主人公は成長しているべきなのです。
最後に
今回は大まかなあらすじの作り方を論じてきました。
主人公がいて「対になる存在」がいる。主人公に出来事が起きて成長を重ね、それを続けて佳境で崖っぷちを一挙にひっくり返す。その結果、当初想定していた「主人公の結末」を迎えれば万端です。
ただ主人公も意志を持ったひとりの人間です。書き手の手を離れて勝手に動き出すこともあります。
そのときは次の出来事で軌道修正を図るようにしてください。
それでも離れていくようなら、いっそ「主人公の結末」をすべてチャラにしてしまったほうがいい。
書き手はそれくらいの柔軟性を持つべきです。