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三百枚書けるようになるお得な「小説の書き方」コラム  作者: カイ.智水
鍛錬篇〜まったく書けない方が書けるようになる
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1081.鍛錬篇:世界の広狭がジャンルに適しているか

 今回は「世界の広狭」についてです。

 想像力は人によって広狭さまざまです。

 ジャンルによって求められる「世界の広狭」は異なります。

世界の広狭がジャンルに適しているか


 小説を構想するとき、ついあなたの頭の中だけで物事を考えてしまいませんか。

 世の中は限りなく広いのです。あなたの頭の中だけでは考えもつかない出来事が現実に起こっています。

 小説は書き手の想像力の広さが如実に反映されるのです。




あなたの頭は無限でない

 あなたの頭は無限でない。という現実を直視してください。

 書いた小説の世界観は、書き手の想像力の広さを反映するのです。

 私の『秋暁の霧、地を治む』も、大陸のごく一部しか想定していません。しかも出てくる場所は大別して四箇所しかない。これなどは世界がとても狭く感じられるはずです。

 この世界観だと中編小説の域を出ないように感じられませんか。とても十万字以上の長編小説には不向きだと思いませんか。

 私がもし『秋暁の霧、地を治む』の「企画書」「あらすじ」を読んで講評するなら「世界が狭い」と言うでしょう。

 王都、帝都の他に、戦場としてテルミナ平原とカンベル山陵が出てくるのみ。確かに「世界が狭い」のですね。

 レイティス王国とボッサム帝国のある平野を囲む山脈の向こうに異民族がいる設定にしてはいます。でもそこが舞台になることはいっさいありません。つまり「設定はあるけど、活かされていない」のです。

 私の小説は「世界が狭い」という共通点を持っています。

 しかし「文豪」も「世界が狭い」作品を書いているのです。

 ノーベル文学賞を獲得した川端康成氏の代表作『雪国』『伊豆の踊子』はいずれも越後湯沢、伊豆という狭い世界でドラマが繰り広げられます。

 芥川龍之介の『羅生門』も京都が舞台ですよね。

 共通しているのはすべて「短編小説」であること。

「短編小説」なら「世界が狭く」ないと具体的なイメージが湧きづらいのです。

 たとえばゲームのエニックス(現スクウェア・エニックス)『DRAGON QUEST』が「短編小説」だとしたら。王都とラスボスの居城の二箇所しか出せません。道中を書いてしまうととても「短編小説」には収まらないからです。

 王都で国王からクエストを受け、ラスボスを倒し、さらわれた姫を王都へ連れ帰る。

 ただそれだけの物語になります。

 これではさすがに「世界が狭い」。

 とても「壮大な剣と魔法のファンタジー」とは思えないでしょう。

 比べるのもおこがましいのですが、私の想像力と、堀井雄二氏の想像力はこれほどまでに広さが異なるのです。

 それではあなたの書いた小説、今構想中の作品はどのくらい「世界が広い」でしょうか。

 どこが舞台となっているのかをコピー用紙にでも書き出してみてください。

 すると主人公のスタート地点、旅の途中で立ち寄る町、ラスボスの居城くらいしかないなんてことがあるかもしれません。それでは「世界が狭い」のです。

 堀井雄二氏のレベルを目指しましょう。

 大陸を股にかけた冒険こそ「剣と魔法のファンタジー」にふさわしい「世界の広さ」なのです。




世界の広狭

「世界が広い」と有利な点があります。

 続編が作りやすいのです。

 もし「小説賞・新人賞」へ応募する作品の「世界が狭い」と、その長編小説一本しか書けません。

 しかし「世界が広い」と、他の場所を遍路する旅も書けます。つまり「応募作を連載小説にできる」と選考さんや編集さんが判断するのです。

 これって「小説賞・新人賞」に有利だと思いませんか。

 ここで重要になるのがどんな「小説賞・新人賞」なのかです。

 ライトノベルの「小説賞・新人賞」の場合は、受賞作の連載化を前提としているので、できるだけ「世界が広い」作品のほうがよしとされます。「この作品は魅力的だし、世界が広いから連載する余裕もある」と見なされたほうが、選考ウケがよいのです。

 だからといって「世界が狭い」ライトノベルが駄目なわけではありません。渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』のように、高校を舞台とした「現代もの」なら「世界が狭く」ても人気は出ます。

 要は「異世界ファンタジー」なら「世界が広い」ほうが有利ですし、「現代もの」なら「世界が狭い」ほうが有利です。


 文学小説の「小説賞・新人賞」の場合は、作品内で物語が完結していることが望ましい。だから「世界が狭い」ほうがよいでしょう。

 ただ「世界を狭く」するだけではなく、ムダな場所をなくすようにしてください。寄り道をせず一本道を行くぶんには、「世界が広く」でもかまわないようです。

 川端康成氏『雪国』を挙げましたから述べますが、主人公・島村が上野方面から越後湯沢へやってくる冒頭の描写は、実はなくてもかまいません。ただし舞台の越後湯沢を説明するためには、書いたほうがよいのです。

 しかし下手に「上野駅から国境の長いトンネルを抜けると、雪国だった。」と書いてしまうと「上野駅」になにか伏線があるのかと思われてしまいます。『雪国』では「上野駅」が物語の鍵を握らないので、「上野駅」という情報はムダなのです。

 文学小説は「ムダを可能なかぎりなくした」作品、つまり「スリム化した」作品が求められます。

 書いた単語がすべて意味を持つ作品でなければならないのです。

 可能であれば「比喩」も物語で意味を持っていることが望ましいとされます。

「猿のお尻のように赤いほっぺた」と書いたら、物語で実際に猿が出てくるような展開が望まれるのです。

「夕日のように赤いほっぺた」と書いたら、物語で実際に夕日を出しましょう。

 そこまで計算された文学小説は、かなり高い評価をされるようです。

 文学小説の「小説賞・新人賞」の選評では、よく「すべてにムダのない作品」とか「書きたかったことがスッと入ってくる作品」とか言われます。

 それは「世界が狭い」からです。

「世界が狭い」から語られるものが限られてきます。だから「ムダのない作品」に仕上がるのです。

「ムダのない作品」は、その長編小説一本ですべてが語られています。それ以上の広がりはありません。




世界の広さは行き先の選択肢の多さで決まる

「世界の広狭」は物語の満足度を左右します。

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』は銀河全域を舞台とした「世界が広い」作品です。

 もし地球とシリウスとの戦いだけであれば、『銀河英雄伝説』ほど奥深い作品に仕上がったでしょうか。かなり難しいと思います。

『銀河英雄伝説』ほど奥深い作品を作るには、銀河全域ほど「世界が広い」ことが求められたのです。しかも一本道ではありません。

 銀河帝国と自由惑星同盟をつないでいるのは、主戦場となっていたイゼルローン回廊だけでなく、非武装地帯とされるフェザーン自治領のあるフェザーン回廊もあります。多くの軍人はイゼルローン回廊を突破することだけを目標としていましたが、主人公ラインハルト・フォン・ローエングラムやヤン・ウェンリーは非武装地帯とされていたフェザーン回廊を突破する戦略を想定していました。

 行き先の選択肢としてイゼルローン回廊だけでなく、もうひとつあることで「世界が広い」作品だと認識されているのです。もし銀河帝国と自由惑星同盟をつないでいるのがイゼルローン回廊だけだったとしたら、銀河全域が舞台だとしても「世界は狭い」と思わせてしまいます。

 マンガの松本零士氏『銀河鉄道999』では、星野鉄郎とメーテルが地球からアンドロメダ銀河まで旅する物語です。しかし「999号」に乗った一本道ですから、『銀河英雄伝説』ほどの「世界の広さ」は表現できていません。

 そういう意味でも『銀河英雄伝説』はSF小説としてすぐれているのです。





最後に

 今回は「世界の広狭がジャンルに適しているか」について述べました。

 受賞作の連載が基本路線のライトノベルの「小説賞・新人賞」であれば「世界が広い」ほうがよい。

 受賞作単品が出版される文学小説であれば「世界が狭い」ほうがよい。

 また「ファンタジー」ものと「日常」ものとでも「世界の広狭」に差がなくてはなりません。「世界が狭い」ファンタジーものと、「世界が広い」日常ものは評価されないのです。

 ジャンルによる「世界の広狭」の最適さは、人気作を読めばある程度つかめてきます。

「書くなら読め」と言われるのもそのためです。




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