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1035.面白篇:小説投稿サイトの書式は携帯小説の書式

 今回は「現在の小説投稿サイトで主流の書式」の源流についてです。

 老舗の小説投稿サイトである「小説家になろう」では、少し前まで携帯メールから直接作品を投稿できる機能が付いていました。

 つまり小説投稿サイトは「携帯小説」から派生した場所なのです。

小説投稿サイトの書式は携帯小説の書式


 小説は生き物です。環境に適応してその姿を変えます。

「紙の書籍」では当たり前とされている書式が、小説投稿サイトでは通じない、ということがよくあるのです。

 そんな書式の差異を挙げていきます。




行頭一字下げしない

「紙の書籍」時代は「行頭一字下げ」できていないだけで原稿がハネられていました。

 どこが行頭なのか区別がつかないからです。

 しかし小説投稿サイトでは「行頭一字下げ」をしなくなりました。

 なぜでしょうか。

 初期の小説投稿サイトやその大元である「携帯小説」に根源があります。

「携帯小説」は携帯電話から投稿できる閲覧サイトに掲載された作品を指します。

 マンガの青山剛昌氏『名探偵コナン』でも登場しましたので、ご存じの方もいらっしゃるでしょう。

「携帯小説」へは通常「携帯メール」で連載をアップロードしていました。

 そして当時は文字数で通信料金が決まる時代だったのです。

 だから「行頭一字下げ」をするとそれだけお金がかかります。

 また携帯電話では文字入力の際、ほとんどの機種で「日本語を入力しているときに空白を入れようとすると、半角空白しか入力できません」でした。

 このふたつの要因で「携帯小説」や初期の「小説投稿サイト」では「行頭一字下げ」が行われなかったのです。

 しかしそうするとどうしても視認性が悪くなります。どこまで読んだか読み手が把握しづらいのです。

 そこで次の差異が生じました。




一文で改行してしまう

 一行に複数の文が入っていると、小さな携帯電話の液晶パネルは文字でびっしり埋まります。するとどこまで読んだのかわかりづらくなるのです。

 これを解決するために「携帯小説」では「一文で改行する」書式が用いられるようになりました。

 一文で改行してあれば、どこまで読んだのかはひと目でわかります。

 とくに「行頭一字下げ」しない「携帯小説」では、この視認性がとても有効なのです。

「紙の書籍」で改行するのは、主体が変わったとき。だから文意を過たず伝えられたのです。

 その点「携帯小説」では一文ごとに改行しますから、文の主体が変わったことを読み手に伝える(すべ)がありません。

 そこで次の差異が生じました。




空行で主体の切り替える

 本来の「紙の書籍」の書式では、一行は同一の主体を持つ文で構成されています。

 しかし「携帯小説」の書式では、一行に一文しかありません。だから「紙の書籍」のような「一行同主体文」というわけにはいかないのです。

 そこで「携帯小説」では、空行をひとつ入れて主体を切り替えます。

 空行がひとつ入るだけで、意味の塊を作っているのです。

 よく考えれば、最初に挙げた「行頭一字下げ」の理由のひとつ「字数を削減する」に逆行しています。これはパケット通信定額制の導入が大きく寄与しているのです。

 となれば本来なら「行頭一字下げ」をするだけの余裕もあったはず。ですが実際には依然として携帯電話で日本語入力するとき、全角空白を簡単に入力できませんでした。かといって半角空白にすると携帯画面で文字の並びがいびつになるため、結果として「行頭一字下げ」は改善されなかったのです。

 しかし、主体の変化を空行で表しているため、違う問題点が浮かんできました。




改段落は空行ふたつで表現

 本来の「紙の書籍」の書式では、空行は段落を改めるときに用います。

 しかし「携帯小説」の書式では、空行は主体を切り替えるためのサインです。

 これでは本来の改段落を表現できません。

 そこで「携帯小説」では「空行ふたつ」を入れることで改段落を意味することになったのです。

 こうしてどんどん画面が淡くなっていきます。




三点リーダーやダッシュの一字使い

「紙の書籍」では三点リーダー(……)もダッシュ(――)も、二個セットが原則です。

 しかし携帯電話では三点リーダーもダッシュも、変換すると一個しか出てきません。そのため三点リーダーもダッシュも「一個しか使わない」方が殊のほか多いのです。

 しかも三個以上連続させて使用するケースも多々あります。

 しかし「紙の書籍」の書式では、三点リーダーとダッシュは短くも長くもなく、必ず二個セットでのみ用いるのが原則です。

 たとえば「……誰か……助けて……」のように。

 それぞれの三点リーダーの示す長さが異なっていたとしても、必ず二個セットでしか用いません。

 短く表したいなら句読点を入れればよい。長く表したいなら文を分ければよいのです。




携帯小説から小説投稿サイトへ

「携帯小説」全盛期に小説投稿サイトの運用が開始されました。そのとき「携帯小説」同様、携帯メールから直接投稿できる機能が付いたのです。

 携帯電話から読める「携帯小説」サイトの延長から小説投稿サイトが生まれました。だから「携帯小説」と同様、携帯メールから直接投稿できる機能が取り入れられたのです。

「小説投稿サイト」の老舗である『小説家になろう』に、最近まで携帯メール投稿機能が付いていたのはその名残りだったのです。

 こうして「小説投稿サイト」の書式は、「携帯小説」の書式がそのまま採用されることとなりました。

 なぜ現在でも「携帯小説」の書式がまかり通っているのか。

 それは「携帯小説」の書式で書かれた作品が高い評価を得て「紙の書籍」化していったからです。これは現在進行形で続いています。

 そうです。「小説投稿サイト」の書式が「紙の書籍」の書式とかけ離れているのは、「携帯小説」から続く「紙の書籍」化の流れによるものだったのです。




スマートフォンは書式の転機となるか

 現在はスマートフォン全盛であり、縦書き表示が可能な小説投稿サイトも生まれました。もう「携帯小説」の書式でなくても、苦もなく書けるし読める時代なのです。

 では、これからネット小説が「紙の書籍」の書式に戻ってくるのでしょうか。

 これがなかなかうまく進みません。

 なぜなら「紙の書籍」化されている作品のほとんどが、依然として「携帯小説」の書式を採用しているからです。

 そんな中で「紙の書籍」の書式に戻せる条件がひとつあります。

「紙の書籍」の書式を採用したネット小説が次々と「紙の書籍」化されるようになったら、戻る可能性があるのです。

 現在はまだ「携帯小説」の書式が大手(おおで)を振っていますが、いつか「紙の書籍」の書式に戻ってくると、私自身は感じています。小説投稿サイトをスマートフォンで見られるようになって「紙の書籍」の見た目へだんだん近づいているのです。

 また、スマートフォンで電子書籍が読めるようになり、「紙の書籍」と同じ書式で液晶パネルへ表示されます。縦書きで「行頭一字下げ」され、改段落で空行が入るのです。


 時代は再び「紙の書籍」の書式に戻ってきます。

 いつまでも「携帯小説」の書式にしがみついていると、「紙の書籍」化が遠のく時代がやってくるのです。

「紙の書籍」の書式が復権すると、出版社レーベルも「小説賞・新人賞」の選考がかなりラクになります。出版社レーベルとしてはやはり、選考のときから印刷品質で読みたいものですからね。

 そろそろ書式を改める時期に来たのかもしれません。





最後に

 今回は「小説投稿サイトの書式は携帯小説の書式」について述べました。

 現在の改行だらけでスカスカの書式の根源は「携帯小説」にあります。

「携帯小説」が次々と「紙の書籍」化されたことで、そこから派生した小説投稿サイトも「携帯小説」の書式が持て囃されたのです。

 しかし世はスマートフォンの時代。電子書籍がシェアを伸ばしている時代です。

 小説投稿サイトも積極的に「紙の書籍」の書式で縦書き表示できるようになってきました。

 そろそろ「紙の書籍」の書式が復権するのではないでしょうか。




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