10. :ネット時代の小説のあり方
スマートフォンの普及により、いつでもどこでも気軽に無料で小説が読めるようになりました。
それに伴い、小説のあり方もそれに対応することが重要です。
ネット時代の小説のあり方
前回は「今、小説はインターネットで読まれている」と論じました。
すると当然ですが、インターネットで読ませるための工夫が必要になります。
スマートフォンはいつでもどこでもインターネットにつながるのです。仕事をしていても学業をしていても空き時間は必ず生じます。そんなときはSNSかスマホゲームかが大半ではないでしょうか。
スマホゲームは基本無料で都度課金システムを採用しているものがほとんどです。諸事情によりそれが゛てきない層が小説やマンガを無料で読んでいます。「無料」なところがポイントです。
だからインターネットで小説を読もうと思う読み手は確実に存在します。彼らは毎日のように小説投稿サイトを覗いて「読みたい小説」を選んで読んでいるのです。
読みたい小説の選び方は前回ご紹介いたしました。「実績・表紙・題名」です。
今回は読んでもらえてからフォロワーやリピーターを確保する要点をお話し致します。
定期的に新エピソードを
まず「毎日もしくは毎週のように定期的に新エピソードをアップロードする」ことです。
読み手は毎日のように小説投稿サイトをチェックしています。そんなあるときふと一片の小説が気になって読み始めるのです。
つまらないと判断されたら別の小説に気が移ります。そして二度とその書き手の小説を読もうとはしなくなり「ブラックリスト」に載せられるのです。
気に入ったらその作品の過去投稿ぶんがすべて読まれます。その後、物語の続きが気になって新エピソードを読みたくなるのです。
ではふとした読み手に「気に入られる」にはどうすればよいのでしょうか。
エピソードで必ずオチをつける
小説は「場面や状況」の積み重ねで出来ています。そしてエピソードとはその「場面や状況」をまとめたひと単位です。
読み手がどのエピソードから読み始めても読み手を魅了する。かなり難しいハードルに感じますよね。
でもご安心ください。それほど難しくはありません。
要は「ひとつのエピソード内で心に痕跡を残す」ことができさえすればいいのです。
すでに「心に痕跡を残す」という言葉は私のコラムでおなじみになっていますね。
前回言及したように、笑いでも悲しみでも憤りでも萌えでもなんでもかまいません。
「出来事が起きて、その結果主人公はどうなったのか」を読ませるのです。
逆に言えば「エピソードの中で話が完結している」必要があります。もちろん伏線も張っていないと続きを読もうとは思いませんが。
もし出来事だけ起こして結末を書かなければ、読み手は面白いのか面白くないのか判断がつきません。
次の投稿まで憶えてくれたらいいのですが、たいていはそうならないのです。「中身のない話を書く書き手だな」と思われて別の小説へ移って一顧だにされなくなります。
フォロワーもリピーターも確保できないでしょう。
「エピソードの中で話が完結している」ことは最低条件なのです。
一回の投稿ぶんで必ずオチをつけてください。
求められる主人公像
次に読み手にウケる主人公像についてです。
日常ものなら「親しみを持てる主人公」、ヒーローものなら「憧れを持てる主人公(ヒーローもの)」、ギャグものなら「くだらない主人公」に設定しましょう。
「親しみを持てる主人公」とは読み手に共感してもらえる存在です。
とくに若者は「俺でもここはこうするだろうな」という話を好みます。でもまったく同じ行動をしても読み手の「心に痕跡は残せ」ません。
主人公は読み手とは少しだけ異なった感じ方・考え方をしているのです。すると「あ、俺もこういうときはこうすればいいのかな」や「こういうときはこうするとマズいのか」という経験知(あえて「値」ではなく)がたまります。これが「心に痕跡を残す」ことなのです。
読み手とまったく同じ行動をする主人公では読み手の経験知にはならず、「心に痕跡を残す」こともできません。
「憧れを持てる主人公」とは読み手がこうなりたいなと思える存在です。
俗に言う「俺TUEEE」「チート」な主人公で、どんな出来事が起きてもあっさりと解決してしまう。読んでいて痛快さを覚えると純粋に「この小説は面白い」と思ってもらえます。
「次はどんな出来事が起きて、どう解決するんだろう」とワクワクしながら続きが読みたくなる。
「楽しさ」で「心に痕跡を残す」わけですね。
「くだらない主人公」とはひじょうに下卑た存在です。
とくに若者はシモネタを好みます。ご自分の若い頃はどうでしたか。
エッチだったりマヌケだったりする主人公のやることなすことがすべてくだらない。
日常にいるととても下品なんだけど、物語として読むぶんには不快に思わない。どころか嬉々として受け入れられます。
そんなくだらない主人公でもいざというときには実力や運などによって出来事を解決してしまう。奇想天外な物語は「心に痕跡を残す」ことに特化した主人公といえるでしょう。
小説そのものが「心に痕跡を残す」ために書かれるものです。そしてエピソードも同様に「心に痕跡を残す」ために読ませるものです。エピソードが積み重なってひとつの小説作品の体をなします。
主人公をひとりにさせない
主人公に出来事が起こる。主人公の行動はその前後どちらか。
これに囚われると主人公ひとりだけで話を進めようとしてしまうことがあります。
でも待ってください。主人公がひとりで行動する物語を読み手は求めているのでしょうか。
古いアニメですが『機動戦士ガンダム』にしろ『新世紀エヴァンゲリオン』にしろ、主人公がひとりで鬱々とした場面が出てきます。昔のアニメやマンガの主人公は皆そうでした。
今の若者はこの光景を観ると興醒めするそうです。「なにひとりでウジウジやってんだよ」と。
ライトノベルの黎明期において読み手はひじょうに内向的で内省的なオタク層でした。現実では周囲から距離をとられて孤独感を味わい、自己否定が強まります。そのはけ口としてライトノベルの主人公に英雄的な活躍を期待し、その主人公に没入して同化した気になって不満を吐き出す。
そのためには読み手と主人公が近しくないといけない。ゆえに黎明期はヒーローものの主人公がほとんどでした。
しかし現在は日常ものの主人公が好評です。読み手の層が変わりました。
今の若者はマンガやアニメを観ていても親や級友から白眼視されません。むしろ学校の友人と交わす話のネタとして積極的に観ています。
もちろんライトノベルもすでに旧オタク層のものではなくなりました。
そんな価値観を持つ読み手に対して、主人公をひとりにして鬱屈とした話を展開しても共感は得られません。本を閉じて紐でくくって資源ゴミに出されます。
今求められるのは社交的な主人公です。皆で話し合ったり力を出し合ったりして解決していく姿がウケます。
最後に
今回は「ネット時代の小説のあり方」についてお話しいたしました。
インターネットを使って無料で小説が読める時代です。
そこで注目されるには、その作品を初めて読んでくれた人の「心に痕跡を残す」ことのできる小説になります。
そのためにもエピソードでは必ずオチをつけることや、読み手に求められる主人公像に沿うことのたいせつさを考えてもらいたかったのです。