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指輪の魔法  作者: き・そ・あ
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2-3 テントの中は未知の世界

 だいぶテントが近くなり、見張りの姿がはっきりと見えるようになってきた。

 残る一人の見張りを警戒しながらアリアとルカは少しづつ前進していく。

 残されている一人は男。先程の親分とは違い、それほど大柄ではなく、むしろヒョロッとしている印象を受ける。

 手元は見えないが、指輪をしている様子はなさそうなので魔装使いではなさそうだ。

 切り株に座ったり、あたりをウロウロと落ち着きなく動いている。


「もう1人の見張り・・・。どこに行ったのかな?」


「普通にトイレとかじゃないのか?」


「ちょっと、やめてよこんな森の中で」


 ルカのデリカシーのない発言に本気で嫌そうな顔のアリア。

 彼はそんなのおかまいなしで残った一人の行動をじっと見ている。


「魔装使いじゃないなら、どこかに武器になるようなものがあるんじゃないか?」


 ルカは見える範囲で周りを見てみるも、それらしきものは全く見えない。

 どこかに隠している可能性は否定できないが、どうやら本当に警戒してはいないようだ。

 男はキャンプの周りを一通り確認し誰もいないことを確認すると呑気に鼻歌を歌いながら上機嫌でテントの中に姿を隠した。


「ふぅ・・。アリア、魔装できる?」


「でで、できるけど。何するの?まさか、ほんとに行くの!?」


 下を見てため息をこぼすルカ。少し沈黙し何かを考えたあと、彼の口から出た言葉はここしばらく弱気だったルカからは想像もできない言葉だった。

 アリアは【意気地なし】、【怖がり】、【臆病者】とクラスのみんなから思われているルカを見ていて辛かった。正直、アリアも言葉にしないだけで本当に立ち直れないかも、とすら思うときもあった。

 子供の頃のように活発な行動力のあるルカはもういない。と。

 昨日まではそう思っていたけど、今日はいつもと違って、頼りがいのある昔のルカのようで、正直アリアは嬉しかった。


 アリア自身も現状【恐怖】は感じている。

 それでも、一人くらいならどうにかなるかもしれない。ルカがこのまま自信をつけてくれれば。と思うと恐怖より【このまま続けたい】という気持ちが強くなった。

 ルカは、魔装同士の戦いは正直好きではない。

 でも、それは剣と剣のような普通の武器による戦いで、アリアのように魔力を弾丸とする銃型の魔装であると【魔装を使う戦い】に対する嫌悪感は薄らいでいた。

 それよりも、今は自分を呼ぶ声が気になって仕方ない感じだ。


「あぁ。きっと、あの大きなテントの中に僕を呼ぶ声の主が居るはずなんだ。助けてって、僕を呼んでる。罠かもしれないし、何がいるのかわからないけどここまで来たら確かめてみたいんだ。アリアはそこにいるだけでいい。中には僕ひとりで行くから。見張りを倒す手伝いをして欲しいんだ。」


「わかった。私はここで見張りをしながら待ってる。でも、あいつらの仲間が戻ってきたり、危ないと思ったらすぐ帰るんだよ?無茶はしないで。それが約束。」


「オッケー、それじゃ、見張りを頼みます!頼りにしてるよ、純特待生殿」


「もうっ!それってイヤミ?帰ったら私の好きなものおごってね!」


 ルカは黙って笑うと、そのまま少し前に進んで姿勢を低くしてその時を待った。

 アリアは左手を前にだし、静かに広げた。

 シルバーの指輪が、淡く輝き出す。


「時の狭間にたゆたいし、その名を忘却の彼方へ置き忘れた名も無き英雄よ。

 我は何時の力の化身を持つ存在。

 大いなる時の流れを超え、我が前にその力を解放せよ。

 我が与えるのは汝が力。

 我が力は大いなる魔力。

 再びこのうつし世へ荒ぶる魂を解放せよ!

 魔弾ヘル・射手ゲヴェーア!」


 アリアの言葉とともに光が収束し、指輪の姿は一瞬で消えると、鈍く光る黒い小型の銃がアリアの手のひらに現れる。

 ギュッと、力強く現れた銃をその手で握り締めると、ルカに視線を移し、静かに頷く彼女。

 ルカもまた、アリアの様子を見て無言で頷く。

 準備はできた。

 風で揺れる葉の擦れる音さえも聞こえないほど、二人に緊張が走る。

 アリアも、学園では100メートル先の的でも余裕の射撃だが模擬戦とは比べ物にならないプレッシャーに汗が止まらない。

 耳のすぐ真後ろに心臓があるのではないか?と思えるほど自分の心臓の鼓動が大きく聞こえる。

 いつもよりも、銃が重い。


 1秒1秒がとても長く感じる瞬間だった。


 アリアはテントの入口をジッと睨み、構えたまま動かない。

 テントが風で揺れるたび、ふたりの心臓は大きく高鳴り、呼吸すら忘れてしまうほどの緊張だった。


「アリア、少し落ち着こう」


 タァン!!


「うぐっ」


 ・・・ドサッ


 ルカがしびれを切らしてアリアの方へ振り向いた瞬間だった。

 黒紫に光る弾道がルカのすぐ隣を走った。

 アリアは手が小刻みに震えていた。ルカは慌てて振り向くと、そこにはテントの入口で横たわる何かがあった。


「こ、殺したのか?」


「う、ううん!!」


 殺した、という言葉に一瞬驚いて体をビクつかせたが、すぐに大きく首を横に振って否定するアリア。


「私の魔装、学園で支給されているのは命中すると催眠の効果があるものだから・・・。多分寝ているだけだと思うけど・・・」


 殺したはずはない。と思っていても目の前で、自分の放った弾丸が人に命中し倒れると怖くなってしまい動揺を隠しきれない様子。


「ちょっとまってて、様子みてくる。何かあれば合図ヨロシクっ!」


 力なく答える彼女の言葉を聞くと、ルカは周囲に人影がないことを確認すると恐る恐る倒れた男のそばに歩み寄った。茂みの中ではアリアが心配そうに見守っている。

 男が入ったテントは寝床と、わずかな食料といったものしかなく、特段何かあるわけではなかった。寝床の隣に少し大きめの袋があったがルカはそこまで不審に思わずすぐに倒れた男を調べた。

 実際に隣へ来てみると、見た感じは30代のそのへんにいそうな普通のおじさん。といった印象だった。


(こんな、どこにでもいそうな人が奴隷商人なのだろうか?)


 ルカは疑問に思いながらも顔を覗き込むとわずかに呼吸の音が聞こえる。どうやら本当に寝ているだけのようだ。


【寝てたよ!】


 小声ではあるが、アリアに大きくジェスチャーを交えて身振り手振りで報告すると、彼女はホッと胸をなでおろした。

 その顔には安心下した様子と、少し自信がついたような感じだった。

 ルカは彼女が軽く手を振り返して来るのを確認すると、大きなテントを指差して、そっと歩いて行った。

 テントの周りに人の気配はしない。

 中も誰もいないように感じる。気配はしない。


(助けを呼ぶ声は聞こえたのに・・・)


 テントに入る前に一瞬の躊躇はあったが、ルカはそのまま中に入っていく。

 アリアはそれを静かに見守っていた。

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