2-2 緊張と興奮と恐怖と
(人間とは、きっと後悔する生き物なんだわ。)
つい数分前、ルカに『いきなり殺されはしないだろう』。なんて言われてノコノコ付いてきたけど、これはやばい。
きっとやばい。
目の前、盆地の高みから下を見下ろした時、見えたモノを見たアリアは汗が止まらない自分に驚いていた。
ルカも何も言わないけど、きっと同じようなことを考えているに違いない。
・・・先ほどの爆発音が聞こえた場所へと向かって移動した二人は割と早めに目的のポイントにたどり着くことができた。
森の中。もともと木々が少ない場所で、少し開けたような盆地がある。高低差があるおかげで上から見やすくて助かる。
あの人たちがやったのか、簡易的ではあったが草木を除去してあってそこは小さなキャンプになっていた。
2人はテントの周囲を気にしていて、誰かを探しているようだった。
遠目からではしっかりと確認できないが、人が数人いるようだ。
こんな人気のないところに隠れて何かをするなんて、絶対に善良な市民がすることではない。
声に出さなくてもなんとなく2人は察していた。
「ルカ・・・。戻る?」
「しっ!・・・もう少し様子を見てみよう。まだバレていないようだし」
草むらの中からこのまま様子を見ることになると、2人の間には再び沈黙が流れる。
まだ距離がある。最悪見つかてっも全力で人がいるところまで戻れば助かるだろう。
ルカはそんな考えだった。
「あいつら・・・何をしているんだ?こんなところで」
ルカの喉の音がゴクリ。と聞こえた。
コテージ、といえば聞こえがいいけど、少し大きめのテントが一つ。小さいテントがふたつ。
今見える範囲では外に人影が2つ見える。
観察している中、2人の行動にはあたりを警戒する様子はなく、『ここなら安全、見つからない』と言った感じで油断している様子だった。
確かに、こんなところなら普通は来ない。ルカがなにかの臭いを嗅ぎつけてここまで来なければ。
「そりゃ、畑仕事ではないでしょうね」
「わかってるよ!人の目から隠れないといけない理由でもあるのか?あの大きなテントの中には何があるんだ?」
アリアの冗談も、今はルカには聞かないようだ。
大きさは大の大人が15人くらいは入れるのでは?と思うほどの大きさのテント。
周囲は静かなもので今いる見張り以外には人の気配はしなかった。
「もう少し、近づけたらいいんだけど・・・。1人どっか行かないかな。」
「そんな都合よくいかないわよ。」
そんな時、見張りの二人は意識がルカたちとは逆方向。テントの裏側を気にしていた。
「おぉ!いけそうじゃないか?」
「うそ・・・。そんなご都合主義なの?」
ルカはニヒヒっと笑うと姿勢は低いままゆっくりと前進を始めた。
「ちょ、ちょっと!!」
アリアは慌てて先を急ごうとするルカの服を引っ張り静止させる。
「まってルカ!あれ、見てよ!」
アリアはその場にしゃがみこんでテントの方を指さした。
ルカもつられてその場にしゃがみこむ。
彼女が指す指の先を確認すると、裏側から男が1人歩いてきた。
見張りらしき2人は何かを話しかけながら新しく現れた男のもとに近づいていった。
ガタイがよく、手には大きな何を掴んでいる。
様子から察するに、あれがボスのようだ。人相までは確認できないが、とても大柄な男だと思う。さっきの爆発音はあいつが起こしたものに違いない。
始めて目の当たりにする自分とは敵対する可能性がある魔装使いに2人は息を殺しながら注視し、怯えていた。
『見つかれば・・・死ぬ』
その場に漂う空気からそう感じ取れる。
手に持っていた何か。・・・先程撃ち殺した鳥を二人に渡すと何か少し話して男は去っていった。
その光景を固唾を飲んで見ていた2人は、大きな溜息とともにその場に座り込んだ。
表情には脱力の色が伺える。
「は、ははは。今のは、やばかったな」
力なく笑いながらアリアの方を見る。
アリアも、過呼吸気味なのか不自然に肩が大きく上下に動いている。
「うん。授業や訓練なんかとは全く違ったね」
お互いの無事を確認すると顔を見合わせて笑い合う2人。
戦場にある独特の張り詰めた空気は精神的にこたえたようだ。
「あ、あれ見て。1人どっか行くみたいだよ?」
アリアは見張りの1人がいなくなるのを見た。
2人で何かを話して片方が鳥を受け取り、片方は森の中へ消えていったのだ。
先程の男とは別の方向に行ったことを見ると要件は別にあるようだ。
「ほんとだ・・・。どこいくんだ?でも、今しかないな」
「ほんとに行くの!?まだ他にも仲間が近くにいるかも知れないのに」
「いや・・・。多分もういないと思う。推測だけど小さいテントはあの二人のもの。大きなテントはさっきの親分の分じゃないかな。」
「そんな、予想だけで行くなんて危ないよ」
「大丈夫!あの見張り1人ならそんな怖くないし。最悪、学園の課外授業で迷ったとか言って逃げ切ろう。先生も近くにいるとか言えば大丈夫だろ」
「そんなの、通用するのかな?・・・」
さっきの魔装使いの影が網膜に焼き付いているアリアはルカの楽観的でいきあたりばったりなところに不安を感じながらも、今までに経験したことがないようなワクワク、ドキドキの興奮に心を奪われてきていた。
「とにかく!このまま見てるだけだったらまたさっきのあいつら二人帰ってきちゃうから行ってみよう!声も聞こえなくなっちゃったし」
ルカは草むらに隠れながらテントへとゆっくり近づいていった。
アリアもポケットにしまってあった指輪を取り出し右手の小指につけると、静かに後を追った。