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指輪の魔法  作者: き・そ・あ
4/9

1-3 窓際の湖と胸元

 

「・・・ぃ」


 朝方、アリアは聴き慣れた声で目が覚めた。


「・・ぉぉぃ・・・リア」


 眩しい光が降り注ぐ。

 昨日最後に見た真っ暗な夜は終わり、いつも通りの朝が来た。

 ただ一つの例外を除いて。


「お~い、アリアぁ。起きたか?」


 目ぼけた瞳であたりを見ると、そこはベッドではなかった。

 目の前には外の世界。

 眩しい光が寝起きには辛い。

 どうやら窓枠で外を見ていたまま寝てしまったようだ。

 窓枠にうっすらと湖が・・・。

 そしてこの声の主。窓枠から少し下を覗くと、そこには昨日まで向こうのベッドで横になっていたルカがいた。


「おはよう、アリア。そんなところで何してるんだ?」


「お、おおお、お、おはよう、ルルル、ル、ルカこそ早いじゃない。どうしたの?」


 まさか、昨日あなたの部屋をここから覗いていました。

 なんて口が裂けても言えない。

 下から見えないと思うが、アリアは窓枠にできた湖をパジャマの袖で直ぐに拭いて誤魔化した。


「いや、あの・・・。」


「い、いいから待ってて!すぐに支度するから!」


「あ、アリ!!・・ア・・。」


 ルカが呼び止めようとしても、アリアはそのまますぐにカーテンを閉めて見えなくなってしまった。

 家を出るときに、


『昨日はごめん!今日は、たまには一緒に行こうよ』


 と何回も練習したのに窓際で寝るアリアの姿を見たときに全て忘れてしまった。

 子供の頃と変わらない無邪気な寝顔。

 ルカはそれに見惚れていたと言ってもいい。

 昨日のことを謝りそびれたルカは家の前でウロウロとさまよいながら落ち着きがない様子。

 当然、ほかの関係ない方々から見たら不審な目で見られてしまう。

 その視線に気づいたルカは苦笑いをするも、頭の中はなんて切り出すか不安でいっぱいだった。


「ごめん!お・ま・た・せ♪」


 玄関前の階段をリズミカルに降りてくるアリア。

 ピョコピョコと動く彼女。色白で柔らかそうな太ももが階段から降りて来る時に視線に入り、思わず目線を外してしまう。


(昨日の学園でのこと・・・。気にしてないのかな)


 にひひっ!っと笑うアリア。その顔からは、怒りの感情は受けられなかった。


「あ、あのさ・・・。その。昨日はごめん」


「昨日?なにが??」


 何も言葉を交わさずとも、二人の足取りは自然と学園へと向けて動き出す。

 アリアは【昨日】、と言われた瞬間に一瞬焦っていた。

 昨日、自分が夜窓際で居眠りしながらルカの部屋を見ていたことがバレたのではないか。と思ったからだ。

 しかし、彼女はルカの様子を見るにそのことではないとすぐに察した。


「ほら。学園で夕方。ひどい言い方したから」


「あぁ~。」


 頭を大きく【ウン、ウン】と頷かせながら相槌をうつ。


(よかった。窓から見ていたことがバレたはいないようね)


 内心ホッと一息ついたアリア。

 まさか、朝から『昨日覗いてた!』とでも言われたらと思うとさすがに穏やかではいられない。

 正直、昨日の夕方のことは気にしていない。とは言わないけどルカの傷口?に触ったのはアリアの方だったのでそんな謝られるほどのこととは思っていなかった。


「あれね~・・。あぁー。けっこう傷ついたなぁ」


 アリアはいたずらな顔をしてルカに笑いかけた。

 彼女はいたずら・・・。またルカをイジることを思いついたのだ。


「昨日・・・。全然寝れなかったな」


 笑った。と思えば急にしゅん・・・。として見せる彼女。


(それで、ベッドじゃなくて窓際で寝てたのか)


 急におとなしくなったアリアを横目で見ながら、妙な責任を感じるルカ。

 彼もまた、お人好しで騙されやすいようだ。

 頭の中で部屋で落ち込みながら寝付けず、窓際で星を見ながら涙を流し寝ているアリアを思うと胸が痛くなる感じがした。


 ・・・。実際は窓の外に誰かいないか見て、偶然見つけたルカの部屋を覗きながらそのまま寝てしまい、涙の代わりにヨダレを出しながら寝ていたのだが・・・。


 何も知らない少年は彼女の言葉を間に受けていた。

 アリアのいたずらとも知らず、彼女の顔色を伺いながらなにか気の利いた言葉を探すも、なにも思い浮かばない。

 そんなオドオドとするルカを見て面白くなったアリアはルカの手をギュッと握り締めた。


「!?えっ?」


 急な出来事で驚くルカ。

 その次に何かを考える間もなく今度は勢いよくグイっと前に引っ張られた。


「ど、どこにいくの?!」


 急に手を引っ張られてヨタヨタとしながらも走ってついて行く。


「いいところよ!懐かしくて静かなとこ!!」


「い、いいところって・・・」


 ルカは目の前にある学園が少しづつ遠のいていく様子をみてアリアを止めようともした。


「っ・・・。」


 それでも、この先彼女とこうやって過ごす時間がなくなるかも知れない。何度とアリアに『戻ろうよ。学園に遅刻する』と言いかけた。それでも、この先にある彼女との時間を思うと学園へ行くよりも今手にある彼女のぬくもりを優先してしまった。

 学園への道をそれて森の方へ向かう二人の姿は朝の賑わう市場へと消えていった。



 二人の住むアダンプは丸く円を画くような構造をした街だ。

 噴水のある公園を中心に丸く広がった街。

 学園は街の南側。北へ行けば鉱山がある。

 西には隣の町へと向かう街道、と森。

 お生い茂る木の量が多く、昼間でも薄暗く好んで近づく者はいない。

 街道の入口にある大人2人分くらいの大きさはある巨大な岩が子供たちの遊び場であり、森の入口。

 アリアは昔よくルカと遊んだ大岩のことを思い出したのだ。


 こんな朝では街の子供たちもいない。

 今のルカは昨日と違って自分に意識を向けてくれている。

 理由はわからないけど、ちゃんと話すにはいい機会だ。

 アリアはそう思うと何も考えないで夢中でルカの手を握って走ってきた。


「はぁ、はぁ・・・。」


 息を切らせて走る彼女。


「いきなり、どうしたって言うんだ。こんなところへ」


 子供の頃よく来た大岩のあたり。

 ルカは懐かしそうに周りを見渡していた。

 随分と、表情には余裕が感じられる。


(ず、随分体力に差があるのね。子供の頃はこんなんじゃなかったのに・・・)


 肩を上下に呼吸するアリアは涼しげな顔のルカをみると大岩に腰をかけた。


「ちょ、ちょっとだけ・・まってよ」


 胸元のボタンを1つ外すとパタパタと風を送り込んで涼みながら呼吸を整える。

 ルカはその仕草を見ると慌てて視線を外した。

 子供の頃は何も意識しなかったが、あれから数年経った今、大人な体になったアリアを見るとあの頃とは違うように見えてくる。


(ば、馬鹿か僕は。アリアは幼馴染なんだ。何を意識してるんだ?か、彼女は・・・)


 理性を保とうとするも、ルカの視線はどうしてもアリアに行ってしまう。

 緩んだ胸元。

 別に特段大きいわけではないが、形が良くみえ、汗で湿った上着からわずかに見える下着が気になってしまう。

 普段は気にしないが、二人きりとなると気になる短めのスカート。

 やわらかそうな太ももがスカートの向こうで見え隠れしていると気になって仕方がない。


「・・・」


(いやいやいやいやいや!!)


 頭をブンブン左右に振ると、ルカは再び視線を外し、あえて離れていった。

 アリアはそれを見て何をしているのかわからない様子で首をかしげている。

 少なくとも、彼女は自分がルカからそのような意味の視線を送られているとは思っていない。


「アリアにはバレないように・・。アリアは幼馴染・・・アリアは幼馴染・・・」


 ブツクサとなにかの呪文のように自分に言い聞かせるルカ。

 ルカはしゃがみこむとその場にある雑草抜きながら言い続けた。

 それはあまりに声が小さくアリアの耳には入らないようだ。


「えっ?なぁに?何か言ったぁ??」


「ななな、なんでもないよ!!あは、あはは・・・は?」


 一瞬体を大きく揺らすルカ。

 精一杯ごまかすように彼は両手で懸命に雑草を抜きさる。

 ひたすらに雑草を抜いていると、ルカは何かおかしなものに気がついた。


(ここ・・・。こんなに人が来るのかな。)


 草むらに隠れた多数の足跡。

 ルカはそれを見て違和感を感じ何かを考えていた。


「ねぇ?どうしたの?いきなり」


 アリアが後ろから覗き込む。

 最初は何を見ているのかわからない感じではあったが、次第にルカが足跡を気にしていることに気がついた。


「これ、おかしくない?」


「なにが??足跡??」


「そう、足跡なんだけど、なんか引っかかるんだ」


 うっすら残る足跡。

 地面に軽くめり込んだような足跡。

 それらは一度森から出てくるも、一斉にUターンして森へ戻った。

 まるで、人目が気になり森から出ることをためらったかのように・・・。


「なんで、裸足なんだろう?」


 アリアが足の指がうっすらと残る足跡を指さした。


「そうか!裸足なんだ!だから靴の模様がなかったんだ!それだよ!」


「で、でも裸足って・・・どうして裸足なの?」


「そりゃ、靴が履けないんだよ。それこそ・・・」


 ルカは立ち上がりアリアの手を握り大喜びだった。

 ずっと頭でモヤモヤしていた何かが消えていくような感覚だった。

 アリアは急なことに胸を高鳴らせたが、裸足の理由が気になっていた。

 それは、ルカが喉まででかかっていたものに答えがある。


『奴隷・・・商人』


 昼間でも薄暗い森の入口。

 二人の少年と少女はその入口で立ち止まった。

 二人共考えたことは同じだ。

 奴隷商人がこの近くにいる、かもしれない。

 この足跡は奴隷商人御一行様のもの。その中で裸足なのは奴隷がいる証拠。

 巷を騒がせている奴隷商人がいると思うと、二人は動けなかった。

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