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指輪の魔法  作者: き・そ・あ
3/9

1-2 思い合う気持ち

「はぁ・・・」


 ベッドに転がるように倒れこむと今日一日の疲れが溜息と一緒にこぼれ落ちる。

 今日一日。と言うよりも、夕方アリアに絡まれてからの疲れ。と言ったほうが正しいだろう。

 一人で帰るはずの帰り道、学園を出てからずっと一定の距離を保ちながら後ろをついてくるアリア。

 ルカはそのプレッシャーに負けているようだった。

 無論、アリアにプレッシャーを与えている自覚はない。

 ルカも、幼馴染で家が同じ方向で近所なのだから帰り道一緒であることは承知している。

 それでも、後ろをずっとついてこられているようであまりいい気持ちはしなかった。


(みんな、どうして戦える?魔装して、女の子を傷つけて・・・。)


 ベッドに沈みながら、頭に浮かぶのは目の前で殺されたモンスターと、その返り血のついた剣。

 あの切りつける瞬間、血を浴びる瞬間、彼女は何を考えているのだろうか。

 ルカの頭には最近同じことしかループしていない。

 そこで、今日のアリアの言葉。


「怖い・・か。」


『怖くなったんでしょ』

 彼女に言われた言葉が胸に突き刺さる。

 正直、魔装ができないほど心に迷いがある今の状態では、あの学園を卒業できないだろう。

 それに対し奇跡的にも全属性を操ることが出来るアリアはその器用さ、能力を買われ準特待級生徒として王都へ召集されるメンバーに入っているに違いない。

 子供の頃からの付き合いも、学園の卒業と同じくして終わり。


(僕は口先だけの落ちこぼれ、アリアは学園から期待の準特待。差が開いたなぁ)


 小さい頃は、アリアを守る、とか言いながら街に近い森の入口で枝を持って振り回していた頃が遠い過去のように感じられる。

 いつの間にか、そんなアリアに学園でさ差をつけられてしまい、今の自分が無性に悔しいような、つまらなく、モヤモヤした怒りでいっぱいだった。

 ふと、窓の外に視線をやると少し離れたところにあるアリアの家、彼女の部屋からこぼれる光が目に入った。


 彼女も、この時間まで起きている。

 勉強をしているのか。

 魔装の訓練か。

 いないとは思うが、恋人といるのか。

 急に今日の夕方冷たい態度を取ってしまったことを後悔してしまう。

 自分で解決できない苛立ちをルカはアリアへぶつけてしまった。

 彼女が王都へ行ってしまうのは自分としてはおもしろくない。

 今までずっと一緒にいて、これからもこのまま大人になると思っていたが、ルカは現実の壁にぶち当たっていた。


 才能あるアリアは王都で活躍。

 対照的なルカは田舎町に残り。


 口も出していないし、誰かに言ってもいないが、二人の現実はルカにとってはまた重たいプレッシャーだった。

 いつも、隣で笑っていてくれて自分を認めてくれたアリア。

 今日も彼女はルカを励ますつもりで来たのだろう。

 ルカもそれは理解している。

 むしろ、わかっているからそれが逆にまたプレッシャーになり、自分では消化できないモヤモヤになってしまう。


(明日、朝謝ろう。・・・まずは、アリアと仲直りして、ちゃんと頑張ろう。アリアと・・・離れたくはない。)


 彼女の部屋の明かりを見ながら気持ちの整理をしていると、睡魔に襲われてくる。

 ルカは自分の部屋の明かりを消すことも忘れ、そのまま眠りに落ちた。



「・・・」


{奴隷商人摘発!!

 ルグナリア国内で今年に入って4件目!増える奴隷商人、行き着く先はどこか!?}


 夜、家族との団欒を終えたアリアは自室にこもると学園で見つけた資料を読み返していた。

 警備室の前にある定期的に更新されるルグナリア国内で起きた問題を紹介するこの資料は『準特待級生徒候補』として来年王都に召集される可能性があるアリアにとって他人事ではない。


 王都ではどのようなことが起きているのか下調べをするのも彼女の習慣だ。

 今回は近年増えている『奴隷』のことだった。

 女性ばかりが忽然と消えてしまう。

 その行き先の9割がこの奴隷商人だと言われている。

 なんでもここ数年、奴隷商人の中に急激に力をつけた者がいて、自警団、王国兵をも蹴散らす魔装が使えるとか。


 まだ15歳のアリアもまんざら他人事ではない。このアダンプではまだそのような報告は聞かないがいつ巻き込まれるかわからない。自警団や王国兵すら負かすことができる敵に勝てる自信はなかった。


「狙うのは女の子ばかり・・。なにが目的なのかしら?」


 記事を読んでいっても、特に確証に迫る内容は書いていない。

 ただ、


 遺跡を根城に暗躍中の組織摘発。

 魔装が使える奴隷商人現る。

 帰宅途中に拉致、人の目も気にせず。

 組織化が進む奴隷グループ。派閥間の争いか?


 などしか書いていない。

 カーテンが風に揺らいでいるのを見ると、背筋が一瞬冷たくなる。

 この布一枚向こうから、いきなり誰かが来るかもしれない。

 そう思うと不安でしょうがなかった。


 しゃがみながらそっと窓のそばまで行くと、カーテンを小さくめくり外を覗いてみる。

 暗い夜の中、家の明かりがいくつか見える。いつもと変わらない、田舎町の静かな夜だ。

 不意に、ルカの部屋が見えた。

 彼の部屋はカーテンもしめないで無防備な状態だった。外から見える位置に置いてあるベッドの上に、青い髪が寝転んでいる姿が見えた。

 どうやら、疲れて寝ているらしい。

 子供の頃は、ここからお互い手を振っていた事が懐かしい。


「アリア?早く寝なさいよ?遅くまで来てないで」


「は、はぁい!すぐに寝るね!」


 窓の外を覗いていると、ドアの向こうから母親の声が聞こえた。

 彼女は見られているわけでも、見られても別にやましいことをしているわけではないのだが慌てて振り向き、直ぐに立ち上がり部屋の明りを消した。

 暗くなった部屋で、ベッドに向かったが彼女はもう一度窓の方に向かうと、隙間から外の景色を眺めた。

 正確には、明かりが点いたまま寝ているルカを見ている。


 王都へ行くと、国から家族に報奨金が出る。

 彼女は親・・・、里親の両親へ恩返しがしたく、この王都からの報奨金をプレゼントしたい。

 彼女は自分の親のことを知らない。気がついた頃には今の里親と暮らしていた。

 里親への感謝もある。でも、ルカと離れることも嫌だった。

 子供の頃から、ずっと一緒にいた家族のような存在。

 兄のような、弟のような。このままずっと一緒になんだかんだいるのではないか?と思っていたのに。


(自信、取り戻してくれないかな)


 アリアには、ルカがなんで魔装できないのかうっすら勘付いていた。

 いつも、変なところが優しくて、気にしがちなルカ。

 今回も、急に目の前でモンスターを殺されて、何かがトラウマになっているに違いない。

 子供の頃、近所の森であんなに魔装ごっこをして過ごしていたルカがなにに怖がっているのか想像ができなかった。怖がっている。というよりも何かを『気にしている』のではないかと思っていた。

 このままではルカと離れ王都へ行く事になる。

 アリアはルカにも一緒に王都へいけるように、今からでも頑張ってもらいたかったのだ。

 動かないルカを見ながら、アリアは窓枠にもたれながら大きなあくびをするとそのまま瞳を閉じた。

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