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指輪の魔法  作者: き・そ・あ
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1-1 夕焼けにジメッっとカビのごとく

 夕暮れの校舎、赤く染まる教室に伸びる影がひとつ。


 ここは辺境の街 アダンプ

 王都ルグナリアから離れたこの街は特に名産があるわけでも、観光スポット、遺跡、特産品があるわけでもないただの普通の街。


 この世界には魔法が広く浸透している。

 魔法、と言ってもいきなり手から炎や水を出せるわけではない。

 特別な魔装。それを操る必要がある。魔装=魔法。と考えればわかりやすい。

 魔装の源は指輪リングだ。

 魔法の力が込められた指輪を、己の魔力で増幅させ指輪から再び武器の形に戻す。

 それがこの世界で魔法を使う唯一の方法。


 魔装には2種類ある。

 自分の体に憑依。

 と、言うと大袈裟だが、自分の体の一部に特殊な力を持たせること。

 もう一つは完全な自律思考行動型。

 人間の女の子の姿をして自分の意志で行動できるタイプ。

 以上の2種類がある。


 完全な自律思考型はかなりレアだ。人の姿、形、言葉を発することができる。迷信だが使い手の魂が宿っているとさえ言われている。

 なぜ一人で動くのか。

 なぜ、女性の姿をするのか。

 誰の命令を受けているのか。

 目的があって動いているのか。

 魔装には不思議なことが多く、その多くが解明されていない。


 ここは、そんな魔装の素質がある子供探し出し、有能な魔装使いにするべく教育、訓練をするところ。

 そして、ここは今年卒業する生徒の教室。

 この時間に1人黄昏る彼もまた、今年卒業する予定の生徒である。

 青い髪、青い瞳。

 年の頃15、6歳。見た目にも高身長でもないし、なにかが優れているわけでもない。

 どこにでもいるような、一般的で普通の少年だった。

 窓から外を見つめる視線の先には、ただ赤く染まる世界があった。


「天地すら定まらない世界。

 創造主は心癒される蒼い空を作られた。どこまでも深く、どこまでも広がる蒼い世界。

 創造主は、美しい天空から降り注ぐ光を受け止める大地を作られた。

 蒼い世界からは命のめぐみ。雨が降り注ぎ、大地は碧色に染まり、雨は天空を反射する鏡面となりて美しき世界が広がった。

 やがて、創造主は―」


 少年が窓の外を見ながら小さな声でつぶやく。

 誰かに話しかけるわけでもなく、自分に言い聞かせるように。


 そこに、淡い桜色の髪をした少女が現れる。

 開いたドアの向こうから、少年がつぶやく声が聞こえると、少女はため息一つ、その先の言葉を並べ始めた。


「創造主は、力を失い、自らが創造した世界にその身を指輪に変えて堕ちていった。

 創造主は世界を守護するべく始祖の指輪を残し、その指輪たちもまた、世界を守るべく自らから眷属を生み続けいく。

 今も創造主はこの世界を守護し続ける、始祖の指輪たちとともに。・・・だっけ?」


 少年のそばまで来ると、少女は首をかしげながら問いかけるようすを見せる。


「ちがうよアリア。正確には『今も創造主はこの世界を守護し続ける』じゃなくて、『今も創造主はこの世界を見守り続ける』だよ。」


「そーだっけ?

 もぅ!いちいちそんなとこ突っ込まなくていいのよ!そんなんだからルカは暗い、とか、何考えてるかわからない。とか、実技試験で緊張しちゃうんだよ!」


「じ、実技試験は関係ないだろ!僕は、・・・その、魔装で戦うのとかが苦手で・・・」


 この学園には知識を学ぶこと以外にも実際に魔装を使って模擬バトルを行ったりすることがある。

 ルカは先日の実技試験で魔装が出来ず、指輪を武器へと変化させることができなかった。


「うそだ!!野外研修であったこと・・・。あれが原因で戦うことが怖くなったんでしょ」


 大きな胡桃色の瞳がルカを捉える。

 ルカはその瞳に縛られたように、そのまま動けなくなってしまう。


 ルカは、昨年の野外研修にて森でモンスターに襲われた。

 教員がすぐに駆けつけたので大事にはならなかったが、ルカは自分で魔装をする間もなく、動揺してしまい何もできなかった。と周りには説明があった。

 確かに、ルカは急なことで驚き魔装にもたついてしまった。それは事実だ。でも彼の悩みは違うところにあった。


 魔装の源は指輪。

 それは、憑依型も、自律型も元は変わらない指輪の形をしている。

 自律型のモデルはすべて少女。自分と同じ年のものから、もっと子供。もしくは年上のものも存在する。

 自律型のモデル。つまり、その姿は何を基準に決まるのか判明されていない。


 もしかしたら、憑依型の指輪も本当は女の子の姿をしているのかもしれない。

 すくなくとも、女の子の魂が宿っているかもしれない・・・。

 彼はいつの間にかそんなことを考えていた。

 自分は、女の子を武器に戦っている。戦おうとしている。

 そう思うと、ルカは指輪を、魔装を武器にして戦う、殺し合うことなんてできなくなっていた。


 いざ目の前でひとつの命が奪われ、その決め手が魔装の武器。


 もしかしたら、モンスターの血を少女が浴びているのかもしれない。


 もしかしたら、モンスターの血をすすり舐める狡猾な女性なのかもしれない。


 ルカの脳内ではそのような思いが交錯し自分の魔力を無意識に操れないでいた。

 魔力とは、別の考え方で心の力。つまり、精神力が左右してくる。

 精神的に決定力、意志の力が散漫している状態で魔装が使えないルカでは、指輪はタダの装飾品でしかなかった。


「そんなことないよ。戦うのが怖いわけじゃないよ」


『怖くなったんでしょ。』と言うアリアの言葉を聞いてルカの脳裏には少女がモンスターの返り血を浴びている姿が浮かんだが、彼はアリアに悟られる前に必死にそれをぬぐい去った。


 魔装は女の子。剣は女の子。ルカは初めて『死』に直面した時に、子供の頃に聞いていた絵本の世界にいた王様のように、冒険に行ってモンスターを倒して世界を変える英雄になる!なんて大層な夢を失っていた。


「魔力・・・。術者の精神力の力を増幅し魔装となるものとする。教科書にも書いてあったろ。今は、僕は今魔装して戦うとか、なにかを守るとかは考えられないんだ。」


 ポケットにしまってあった指輪を出して、夕焼けに照らしてみせる。

 彼が持っているのはこの学園で配布される最下級の指輪。いうなれば試供品のようなものだ。

 学園の生徒は入学の際適正テストを受け、自分にあった属性・形態の魔装を教えられる。

 ルカは水、剣型。

 アリアは炎、銃型だった。


「そんな、・・・だって小さい時はあんなに冒険がしたい!って、絵本の王様みたいに悪いモンスターを倒すって言ってたじゃない」


 寝るときに母親に読み聞かせてもらっていたお気に入りの絵本。

 悪いドラゴンを王様がこらしめて仲良くなるお話。


(幼馴染のアリアには何回もその話をして、大きくなったら世界は俺が変えるんだ、とか言っていた。

 でも、正直・・・)


 今の彼には、なにか目標があるわけでもなく、毎日ただダラダラと過ごしているだけで正直迷惑な話だった。子供の頃の夢を引き合いに出されても困る。と言いたそうな顔だ。


「あぁ。子供の頃はね。でも、今は違う形で魔装と・・・指輪と向かい合えないかと思っているんだ・・・。とにかく、今は一人にしてくれ」


 ルカは机に置いてあった荷物を持つとそのままアリアをおいて教室のドアを出て行った。

 アリアは何も言えないまま、その姿を見送る。

 アリアにとって、子供の頃毎日聞いていた幼馴染のルカの話は、それだけで夢や希望を与えてくれるものだった。

 目を輝かせて、『俺は、世界を変えるんだ!』と木の枝を振り回しながら魔装ごっこをしていたルカ。

 あの時の自信に満ち溢れた顔が好きだった。

 夢や目標が変わるのは仕方ないけど、今のルカには魔装へ対しての夢も希望もなく、距離を取ろうとしているのは見ればすぐわかった。

 それが、彼の葛藤であることも。


(変わったな・・・。昔はあんなに冒険がしたいって言ってたのに。)


 彼女もまた、幼馴染の力になれず心にモヤモヤを残したまま教室を離れ、とりあえずルカの後を追いかけることにした。


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