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そしてみんな笑顔になった

5/9、一部加筆、表現の変更、行間の調整をしました。


「ね、ちょっといいかしら?」

「なんです?」

「氷のお代はいいからさ、私もあれ食べたいなぁ」


 上目遣いに伝えてくる魔法使いさん。どうやらおいしそうに食べているリュミリアスさんをみて食べたくなったんだろう。

 余談になるがこの魔法使いさん、すごい美人さんだ。そんな人にこんなお願いをされたら女性に弱い俺は(以下略

 で、断れない。

 まぁ材料には余裕を持って余分に用意してあるからいいか。


「いいですよ。じゃあ後で追加分を凍らせてくださいね?」

「わかったから早く早く」

「わかりましたからせかさないでください」


 残りの氷をシャリシャリと削っていく。


「ねぇまだ?」

「まだ削り始めたばかりですよ。そう時間はかかりませんので待ってください」

「うー。だってがまんできないよ。ねぇリュー、一口頂戴」

「ダメだ。これは私のだ」

「リューがそんなこと言うの珍しいけどなんで今なのよ!」

「ミュートのぶんは今作ってもらっているだろう?」

「むー。ねぇまだ?」

「まだです」


 この「ねぇまだ?」攻撃は完成するまで続いた。




「うわぁ、本当においしい!冷潔の騎士なんて呼ばれてるリューが珍しく絶賛するから確信はあったけど期待以上だよ」


 リュミリアスさん二つ名持ってるんだ。かっこいいな。


 そんなことを思いながらリュミリアスさんを見ると、羨ましそうに魔法使いさんを見つめていた。

 ……冷潔の騎士?

 思わず首を傾げた。


 いや、普段のリュミリアスさんにはぴったりだと思うんだけれどね?


 しかし、だからこそ普段のギャップとあいまって恐ろしい破壊力を持ったかわいさがそこにあった。

 やばい。今すぐおかわりをつくってあげたい。でもここでこれ以上材料を使うと、今回食べさせてあげたい人の分が足りなくなる恐れがある。

 俺は鉄の意志で我慢する。

 リュミリアスさんには申し訳ないが諦めてもらおう。 


 しゅーん


 申し訳……ないが……


 しゅーん


 諦めて……もら……


 しゅーん


 ……


「あの、良かったらまた今度作りましょうか?」


 無理無理。こんなかわいい生き物放っておけるわけないって。

 それでも今すぐ作るって言わなかった自分を褒めてあげたい。


「何? いいのか!?」


 すごい勢いで僕に迫ってくるリュミリアスさん。

 近い!顔が近い!

 惚れてまうやろー!


「え、ええ。こんなに喜んでもらえたのなら次も作りがいがあります。ただ冷たい食べ物なのでたくさは作れませんよ。おなかを壊してしまいますから」

「ああ!約束だぞ!えっと……」

「あ、そういえば名乗ってませんでしたね。俺はトモシって言います」


 俺の心臓、今めっちゃバクバクいってる。

 頭の中真っ白で何喋ってるのかわからない。


「わかった、トモシ殿。私のことはリューと呼んでくれ。親しいものはみんなそう呼ぶ」

「え?いいんですか?」

「もちろんだ。これから仲良くしてもらえると嬉しい」

「こっ、こちらこそ!」


 差し出された手に、自分の手を服で拭いて応じる。

 俺、今あこがれの人に迫られた上に握手してる。仲良くしてくれると嬉しいって言われてる。

 何これ夢?夢なら覚めないでくれ。

 え?現実?そうか現実か。でも今なら魔法だって使えそうな気がする。


「あ、私も私も~」


 そんな空気をぶち壊してくれたのはシャーベットもどきを食べ終えた魔法使いさん。この人イ○ジンブレイカー(空気読まない人)か。

 いや、おかげで少し冷静になれたけど。


「ミュート」

「別にいいでしょ?私だってまた食べたいもの。それにこれ、氷の魔法が使えないとできないわよね?」


 スプーンで器をつっつくミュートさん。こういう仕草も美人がやると絵になるというか様になるというか。


「トモシ殿」

「あ、あぁ、俺は別にかまいませんよ。この町にきてまだ知り合いも少ないですし、仲良くしてもらえるのは嬉しいです」


「じゃあ改めて。私はミュートリア。みんなは私をミュートって呼ぶよ。よろしく、トモシさん」

「よろしく、ミュートさん」


 それから少しの間、夢のような楽しい時間をすごした。

 その後、新しくシャーベットもどきの素も凍らせてもらった俺は、また来ますといってお店を後にした。

 

 

 しかし思いもよらぬところでリュミリア、っとリューさんに出会ったな。なんだかまだふわふわした気分だ。

 でもいいタイミングで出会えたおかげで、感謝の気持ちを形にして渡すことができた。

 それどころか友達認定してもらえるなんて。

 しかも一緒に美人の友達もできたし、なんだかうまく行き過ぎてる気がする。この後に悪いことが起こらなきゃいいけど。

 ってこの考えはなんだかフラグっぽい!

 余計なことを考えて変なフラグを立てないように、早く帰ろう。うん。


「いらっしゃいませ!あ、トモシさんおかえりなさい。」

「ただいまシーナちゃん」


 宿に帰るといつものようにシーナちゃんが挨拶してくれた。


「トモシさん、本当に嬉しかったんですね。もうずっと笑顔じゃないですか」

「え?まじ?」


 俺、笑顔はデフォルトだと思ってたんだけど。

 あ、いや、不安で一杯だった一昨日までは笑顔だった自信ないかも。


「ええ。それとも何かいいことでもあったんですか?」

「あはは。まぁね」


 さっきのことはまぁ、別に話すことでもないか。それよりもちょうどいい。


「ところでズィードさんは?」

「たぶん調理場にいると思いますよ。そろそろ仕込みの時間ですから」

「ありがとう。シーナちゃん、悪いんだけど少し時間もらっていいかな?」

「かまいませんけど……どうしたんですか?」

「昨日と今日のお礼においしいものを食べさせてあげる」

「本当ですか!?」


 シーナちゃんの目が輝く。


「うん。たぶん期待を裏切らないおいしさだって思う」


 シーナちゃんが喜んでくれそうなチョイスをしたからね。

 それにリューさんたちの反応もよかったのもあって、自信がある。


「楽しみです。さぁ行きましょうすぐ行きましょう」

「ちょっ、シーナちゃん引っ張らないで」


 シーナちゃんは俺の手を掴んで足早に進んでいく。


「おとーさ~ん」

「おう、シーナ。それにトモシさんか。どうした?」

「トモシさんがね、昨日と今日のお礼においしいものを食べさせてくれるって」

「ええ。今大丈夫ですか?」

「おう。まだ大丈夫だ。んで、何を食わせてくれるんだ?」

「これです」


 俺はミュートさんから貰った箱からシャーベットもどきの素を取り出す。


「うわぁきれい。なんだろう?石?」


 あはは、確かに見た目は大理石みたいかも。


「石は食えねぇだろ?冷気を感じるから氷じゃねぇのか?」

「そうです。それをこうやって」


 おろし金で削っていく。


「うわぁ、うわぁ、雪みたいだよ、お父さん!」

「おう」

「きれい……」


 シーナちゃんが見つめる中、1人分が完成。


「はいシーナちゃん」

「ありがと~」


 シーナちゃんは嬉しそうに器を受け取ると早速一口ぱくり。


「んんんんんんん!!」

「どうしたシーナ!?」


 シーナちゃんがスプーンを銜えたままぷるぷる震える。

 もしかしてキーンときた?いやまさか一口目で?

 なんてちょっと心配してると、がばっと顔が上がる。


「すっっっっっごくおいしい!冷たくてふわふわで甘くてしゃりしゃりしてて」

「落ち着けシーナ」

「とにかくすっごいおいしいの!コロッケやメンチカツもおいしかったけど私これが一番好き!」


 よっし!

 想像以上のシーナちゃんの反応に心の中でガッツポーズ。

 さすが俺。


「それはよかった。今回はシーナちゃんのために作ったといっても過言じゃないからね」

「私のために……ありがとうトモシさん。すっごく、すっごく嬉しいです」


 シーナちゃんの極上の笑顔に心が綻ぶ。


「トモシさんよ、シーナはやらねぇからな?」

「ヒィィ!」


 ズィードさんの地獄の底から聞こえてきそうな声に暖かな気持ちもぶっ飛んで心から震え上がった。


「もう、俺がそんなつもりじゃないことは分かるでしょう?そんな意地悪言うとズィードさんの分は次回にしちゃいますよ?」

「悪かった、悪かったよ」

「お父さんの馬鹿」


 ズィードさんが謝ってくる。俺がシーナちゃんを狙ってこういうことをしてるわけじゃないって知ってて半分冗談で言ってるんだろう。まぁ半分は本気だろうけど。

 そしてシーナちゃん?さっきまで機嫌よかったのになんで不機嫌そうな顔してるの?

 まぁその間もしっかりと手と口は動いてるんだけど。


「はい、ズィードさん」

「おう」


 ズィードさんのぶんを渡すと、俺は頭を下げた。


「今回の件、本当にありがとうございます。しばらくお世話になりますのでよろしくお願いします」


 ズィードさんは凶悪(ゲフゲフ

 ……素敵な笑顔で答えてくれた。


「おう。歓迎するぜ。トモシさん」


 こうして俺の運命の一日は過ぎていく。

 なんとかこれからもこの異世界で食いつないでいけそうだ。


「うめぇぇぇぇぇぇ!」



 それはよかった♪



これで終了です。

いかがだったでしょうか?

もしかしたら続編をやるかもしれませんが、そのときはまた読んでもらえると嬉しく思います。

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