そしてお店がはじまった
5/7、一部表現の変更、行間の調整をしました。
5/7、後半部分に一部加筆しました。
翌日、天気は快晴。少し心配してたからよかった。
俺はいつも通りの時間に起きて朝食を済まし、屋台の準備に入っている。器具や材料は準備完了。今は昨日寝かせておいたメンチカツのタネにパン粉をまぶしているところだ。
「おう、やってんな」
「ズィードさん」
ズィードさんが様子を見に来てくれたみたいだ。
「少し遅い時間にあけるんだな。昼の客狙いか?」
「ええ。お昼前から夕方くらいを狙ってます」
「朝や夜はやんねぇのか?」
「朝はお客がこないでしょうし、夜は材料が残ってれば、ですね。あまりやりすぎてズィードさんのお客さんをとっちゃダメですから」
「はっ、言うじゃねぇか」
俺の冗談にズィードさんが笑う。
まぁ必死とはいえ、あまり長い時間働きたくないっていうのもある。
もしこの先うまくいっても、ブラックな労働時間だとそれはそれで辛い。
「そんな口たたけるなら心配ないか。あーそうそう、一応ウチの前でやってるからこっちに注文するヤツもでると思うんだ。そういうヤツらはどうする?」
あー。それは考えてなかったな。
「そうですね。そこはご迷惑をおかけしますが、代金をちゃんともらえればそちらで注文を受けもらっても大丈夫です」
「わかった。まぁ迷惑とかはきにすんな。それも含めてこっちは許可をだしたわけだしな」
この人顔に似合わず本当にいい人だ。シーナちゃんがいい子に育ったのも納得できる。
「わかりました。じゃあ俺はズィードさんのくれたチャンスを最大限に活用させてもらいますよ」
「おう。がんばれよ」
「はい」
「……たぶんすっげぇ大変だと思うからな」
「え?最後がよく聞き取れなかったんですけど?」
「なんでもねぇよ。んじゃ、こっちもそろそろ店をあけるかな」
そう言うとズィードさんはお店の中へと消えていった。
さて、ズィードさんがつぶやいた言葉がちょっと気になるけどこっちも始めるか。
コロッケとメンチを油に投入。ジュワッと威勢のいい音が響く。
パチパチパチ・・・
音がどんどん軽くなっていく。そろそろ頃合かな?
どんどん上げて油を切っていく。
そういえば一晩寝かせたメンチの味がふと気になる。
出来立てをひとつ手に取り、真ん中から割る。すると湯気があがり、重厚な香りが鼻を通り食欲をそそる。
我慢できずに早速ばくり。
サクッ。
軽快な音と共に口の中に濃厚な肉汁が口いっぱいにあふれ出す。
うん。昨日よりもうまい。…気がする(笑)
これなら人に出しても恥ずかしくない味だ。もっとも、この世界の住人の舌に合うかどうかっていうのはあるが。
「おいおっさん。なんだそれ?」
「あ、はい、いらっしゃいまうぉっ!?」
ふと気づけば人だかりができてた。
「いつのまにこんなに人が」
「あ?うぉっ!?ほんとだ、いつの間に」
いや、お前もかよ。
「お客さんも気づかなかったんですか?」
「いや、たまたま通りかかったら見慣れない露店があって面白そうなことしてるからさ、つい見入っちまった」
俺に話しかけた冒険者らしき若い男が説明してくれる。
なるほど、みんな物珍しさで集まったわけね。
でもこれってチャンスじゃね?
「んで、それはなんなんだ?」
人だかりには動じないんかい。なかなかに鋼鉄の心臓の持ち主だな。
いや、ただ食い意地が張ってるだけかもしれないが。
おい、よだれたれてんぞ。
「これはメンチカツという食べ物ですよ。こっちは似た形をしていますが、コロッケといいます」
「ここは屋台だよな?売り物なんだよな?いくらだ?」
「どっちも銅貨5枚ですよ」
かなり強気というか、前にいた世界なら一個500円というかなり高い値段だ。安ければランチが食える。
しかしここまでに元手がかかっているし、これからの生活も考えるとあまり妥協できない。価格はかなり悩んだ部分だ。
内心かなりドキドキしている。
「1個ずつくれ!」
「あ、俺も」
「私も」
「ワシも」
俺に話しかける冒険者らしき若い男が注文するのを皮切りに、人だかりの中の数名が注文をくれる。
よかったぁ。これでとりあえず値段が高すぎる、って事は避けられた。
「ありがとうございます」
代金をもらい、ひとつずつ皿に乗せてから冒険者らしき男に渡す。記念すべき初めてのお客さんだ。
「良かったら感想を聞かせてください」
「おう。さて、どんな味か…」
固唾をのんで見守る。
ゴクリ。
サクッ
いつのまにか静かになって、ここにまで音が聞こえてくるほどのサクサク音が響く。
「うめぇぇ!なんだこれ!?今まで食ったことのない食感だ。外のサクサクが超気持ちいい。ねっとりとして、それでいてホロホロ崩れる中身がまたたまんねぇ!」
よっしゃ、やっぱり揚げ物は正解だった!
思わずガッツポーズ。
ビバ揚げ物。揚げ物はやっぱり正義だった。
冒険者らしき男は即行でコロッケを完食。メンチカツへと視線を移す。
「やべぇ、嫌でもこっちの期待がたかまっちまう」
サクッ
「うめぇ!やっぱりこっちもうめぇぇ!こっちは中に肉がぎっしりだ!贅沢すぎる!しかも今まで食べてきた肉の中でぶっちぎりに1番うまい!一口噛んだだけですっげぇ汁がでてくる。しかも肉の味が濃厚!どんだけいい肉使ってんだ?値段間違えてねぇよな?」
いやぁそれ買取すらしてもらえない肉ですよ?
褒め殺しにあってるせいもあって俺のしてやったり感がクライマックスだ。正体は教えないけど。
「その値段で間違いありませんよ」
そう言うと人だかりがざわつき始める。そして
「おい、3個ずつ追加だ」
「ずるいぞ!お前は今食っただろうが!」
「おい、俺たちの分も早くしてくれよ!」
「ワシのもだ!」
「私、追加しちゃおうかしら?」
「おい、俺にも1個ずつくれ!」
「俺は2個だ」
「僕は5つずつ」
「おい、押すな!」
「俺のほうが先にきたんたぞ!」
「なんだと!?」
やばい。いろんな意味でなんだかすごいことになってきた。
さっきまでのハイテンションが急激に醒めてくる。
「はーい、皆さんちゃんと並んでくださいね。さっき買われた人は一度並びなおしてください。あ、喧嘩される人には売りませんので。それじゃあ最初に注文された人は前のほうへどうぞ~」
そこに天使降臨。シーナちゃんだ。
鶴の一声とはこういうことをいうんだろうか。人だかりは一斉に行動を開始、あっという間に綺麗に列ができた。
「シーナちゃん、助かったよぉ~」
今自分がかなり情けない顔をしてる自覚がある。でもそれくらいピンチだったんだよ。
「まぁ、こうなるんじゃないかって予想してましたからね。でも後は自分で何とかしてくださいね。私も自分の仕事しなくちゃいけませんから」
そう言ってシーナちゃんは笑った。
やっべぇ。今度は別の意味でやばい。俺は決してロリコンではない。違うんだ。でも
惚れてまうやろー!(心の叫び)
あ、でもやばい。冷静になったおかげで確かさっき店の中のほうでも注文してもいいってズィードさんに言っちゃったんだっけ。
なんか俺の中でやばいことが続く。どこかの体当たり芸人が頭の中で「ヤバイよヤバイよ」と連呼する。
「あ、店のほうの注文は人数制限をかけますから心配無用ですよ。安心してください」
うぉぉ、シーナちゃん俺の心が読めるのか!?いや、助かるけど。
それともまた顔に出てたか?どっちにしてもシーナちゃんどんだけ有能なんだ。
「重ね重ねありがとう、シーナちゃん」
「どういたしまして。それじゃがんばってくださいね」
「おう!」
ここまでお膳立てされたんだ、これでやらなきゃ男じゃねぇ!
それから俺は常にコロッケとメンチカツを揚げ続けるフライヤーマシーンと化した。
列は途切れることなく、中のお店も人数制限をかけてなお注文が入り、たくさん準備したはずのコロッケとメンチカツは、お昼も落ち着くころには完売してしまった。
まいった。こんな時間なのにまだ列は残ってるし、売り切れを知らせて頭を下げるも、買えなかった一部のお客さんが激おこ。そうだよなぁ。
だってまさかこんなに売れるとか思わないし。妄想はしたけど。
「食べてみたかったなぁ」
うっ。そこのお子様よ、そんな目で俺を見ないでくれ。
「うぅー、たくさん待ったのに買えなかったよ」
そこのお嬢さん、涙目で何かを訴えるようにこっちを見ないでくれ。
だってないもんはしょうがないじゃん。
そう思いつつ俺は買えなかった子供に話しかける。
「ごめんね、きっとまた今度ここで屋台をするからさ、その時また食べにきてよ。今度は今日よりいっぱい用意しておくからさ」
「本当?」
「ああ、おじちゃんと君との約束だ」
するとなぜか周りから大歓声。なぜ?
「約束だよ!絶対だからね!」
「私とも約束よ。今度こそ食べるんだからね!」
「俺ともだ。また食いにくるから頼んだぜ」
「俺たちも忘れんなよ。俺たちゃいっぱい食うからな」
「約束破ったら後が怖いわよ?」
殆ど脅迫じゃねぇか!
いや、でもこうでもしないと暴動おきそうだしなぁ。
「ええい、こうなりゃヤケだ!約束してやるよ。またここで屋台をやってやる。そのかわりみんなも絶対に食いにこいよ。たくさん用意してやるから」
こうしてここにいる人たちと再びここで屋台をする約束をした。
いや、今日の盛況を見て屋台を続けるつもりではいたんだけどさ、ずいぶんと大事になってしまった。
どうしてこうなった?




