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宿屋の食堂の一品を任された

5/6、一部表現の変更、行間の調整を行いました

 ……あれ?俺いつの間に寝てた?しかも結局いい考えは浮かばなかったし。


 ふと外を見ると日が傾き始めていた。

 やべっ、結構寝てたっぽい。こんな時間じゃもう調理場借りられないか?

 とりあえず気分転換も兼ねて確認に行ってみるか。


 調理場を借りる理由は、食費を浮かす為に調理場を借りて自炊(?)しているためだ。

 外食したり買ったりするよりかなり安く上がるのは異世界でも一緒だった。


 まぁ最初は当然宿屋の主人にいい顔されなかったが、余った食材を提供したところ喜んで貸してくれるようになった。

 料理スキル?一人暮らししてりゃ、ある程度は身につく。


 調理場を覗くと、もう宿屋の主人、ズィードさんが料理を始めていた。

 あちゃあ、やっぱり遅かった。こりゃお客が引くまで待ちかな。


「おぅ、トモシさんか。今日はちょっと遅かったじゃねぇか」


 あっさり見つかった。

 俺、ほんのちょっと顔出してるだけだよな?それに気づくとかニュータ◯プか何かですか?


 シーナちゃんと本当に血がつながっているのか聞きたくなるような強面に職業間違えてるだろ?って思えるようなガチムチな身体。

 そんな主人が笑いかけてくれるのだが、多少なりとも慣れた俺でも脅迫されてるんじゃね?って半分本気で思う。最初に会って笑いかけられた時は本気でチビるかと思った。


「えぇ、ちょっと考え事をしてたらこんな時間になってしまって。また後で改めて借りに来ますね。あ、これ今日のおすそ分けです」


 そういってゴートの肉塊を取り出した。

 解体?剥ぎ取り?実は俺、やったことがあるんだよ。


 まだ転移してくる前の話だ。俺は農業高校を舞台にした漫画にはまったことがある。そのときに主人公に感化されて豚や牛、鹿や羊なんかの解体を見学したり体験したりしたのだ。

 いやぁ、覚悟はしてたけどキツかった。でも後悔はなかったし、まさかこんなところで役に立つなんて思いもしなかった。


 人生なんでもやっておくもんだ。


「お、いつもすまねぇな。トモシさんの肉の処理はすごくいいから臭みとかぜんぜんなくて簡単な調理でもうまいんだ。数を限定して出させてもらってるが人気があるんだぜ?」


 ズィードさんのお店は宿のほかに食堂もやっている。そこで役に立ってるなら何よりだ。


「もう、褒められても何も出ませんよ。あ、そうだ、食べられそうな果実もとってきたんですけど見てもらえます?食べられるものが混じってればお分けしますよ」


 そう、これは決して褒められて嬉しかったから出したんじゃない。食べられるかどうか俺じゃ判断できないから分けてもらうためなんだ。


「まかせておけ。んーこいつぁ食える。こいつぁダメだな。お?スピッツがあるじゃねぇか」

「スピッツ?」

「あぁ。そろそろ時期かなぁとは思ってたんだが、こいつは甘酸っぱくてうまいんだ」


 そう教えてくれたのは見た目オレンジやミカンなんかの柑橘系の果実だった。


「それは木にいっぱい生ってたのでいっぱい採れたやつですね。俺一人じゃ食べきれないんでどうぞどうぞ」

「おう。んじゃ遠慮なく」


 そう言いながらひとつ手に取り皮をむいて食べ始めた。


「うん。ちょうど食べ頃だな。うんめぇ〜!」


 なるほど。食べ方はオレンジやミカンと一緒なんだな。

 それを確認できた俺もひとつ皮をむいて食べる。

 爽やかな酸味が甘みと一体になって口一杯に広がる。


 うん。うまい。味は濃いけどでっかいミカンって感じ。

しかし甘いものは本当に久々だ。嬉しくて少し泣けてくる。

 この世界に来る前は気づかなかったけど好きなときに好きなものを食べられる生活のどれほど贅沢なことか。


 気づくとあっという間に食べてしまっていた。

 も、もう一個食べちゃおうかな。


「そういやトモシさん、シーナに聞いたんだが金に困ってたんだろ?さっきの肉やこの果実なんか売らねぇのかい?」


 シーナちゃぁぁぁぁぁん!できれば黙っていて欲しかったぁぁぁ!

 まぁばれてしまったのはしょうがない。とりあえず今その話は置いておく。


「あー。ギルドじゃその辺はあまりいい金額にならないんですよ。依頼があれば別でしょうけど」

「んじゃあ商業ギルドや果物屋、肉屋に売りゃいいんじゃねぇか?」

「んー。正直言うと食べ物関係はあまり売りたくないんですよね」

「そりゃまたなんで?」

「自分で食べるぶんと、いつ食べられないことになるかわからないので常に多少のストックを残したいからです。そうすると売れるほど残りませんし、こうやっておすそ分けもできますしね」

「なるほどね。行き当たりばったりな若い連中に聞かせてやりてぇ話だな」

「まぁ、考え方は人それぞれですから。それよりこれから晩の仕込みですよね?俺と喋ってていいんですか?」

「おっといけね。あ、そうだ。トモシさん、今日一品作ってみねぇか?」

「は?」


 唐突な提案に思わず聞き返す。


「一品?ですか?」

「おう。トモシさんの料理は見ててうまそうなもんが多くてな。どうだい?」


 どうやら冗談じゃないらしい。


 いやいやいや、俺が人様に料理なんて無理無理。あくまで家庭料理の域だぞ?


「いや、素人の俺が人にだせるような料理は」

「そうか。もし引き受けてくれたら明日の宿代サービスしようと思ったんだが」

「ぜひやらせてください!」


 いや、宿代も結構するんだよ。どこぞのゲームの5ゴールドとかどんな仕組みだよ!羨まし(ゲフゲフ

 ……まぁ、現実はそんなに甘くないってことだよな。


「そうこなくちゃな!んじゃ試食するから早速作ってくれ。食材は好きに使っていいからな」


 そういってズィードさんは自分の仕込みに入った。


 幸いというか当然というか、調理場は数人が動けるスペースがちゃんとあるので場所は困らない。


 さて何を作るか。食材を好きに使っていいといわれても、コストパフォーマンスも考えないといけない。


 材料とにらめっこしながら数分考える。


 あれ?これってペペロンチーノができないか?

 パスタ、にんにく、塩はある。葉野菜も一品もらって、唐辛子は自生してたやつを持っている。コスパも悪くない。

 よし、ペペロンチーノにするか。


 まずはにんにくを細かく刻み、唐辛子を小さな輪切りにする。

 フライパンにオリーブオイルを引いてにんにくを投入。

 香りが出てきた所で赤唐辛子、パスタと葉野菜を投入。

 塩で味を調整して皿に盛り付け。

 最後にみじん切りのパセリをパラリと振りかけて出来上がり。


 こんなに手軽なのにピリっとしてうまいんだ。早速一口味見を


「すげぇうまそうな匂いがするから期待してたんだが見た目もなかなかじゃねぇか。どれ、味は」


 ちょ、俺が味見する前に食われた!


 咀嚼するズィードさん。味見してないから評価が気になる!


「うぉぉうまい!うまいぞこれ!食欲をそそる匂いに、ニンニクの風味がパスタにしっかり浸透して、この赤いのがピリッとして味を引き締めてる。それに葉野菜がシャキシャキしてて食感も飽きを感じさせねぇ。この短時間ですげぇモン作りやがったな」

「じゃ、じゃあ」

「おう。んじゃ今晩よろしくな」


 やったぜ俺!


 ぐぅ〜


「……」

「……」


 いや、しょうがないじゃん。空腹にこの匂いは堪えるって。


「まあ、俺らもメシにすっか」


 この後、シーナちゃんもきて早めの晩御飯となる。

 試食のぺペロンチーノはシーナちゃんにも大好評。「トモシさんは料理上手です」とか褒め倒された。


 余談だけど俺、あんまり女性に免疫がないんだよ。そんな俺が未成年に見えるとはいえ、かわいいシーナちゃんに褒められたら赤くなって照れても仕方がないことなんだよ。

 だからそんな視線だけで人を殺せそうな目で睨まないでくださいズィードさん。


 夜、夕食時。

 食堂の開店と同時に客が入ってくる。席はあっという間に埋まって驚いた。しかも外には行列ができてる?


「すごい人ですね」

「あぁ。さっきも言ったろ?みんな数量限定の肉を狙ってきてるんだ」


 マジっすか?


「あ、でもズィードさんの腕がいいからじゃないですか?」

「ま、それほどでもあるんだがよ、客が増えたのはトモシさんから肉を分けてもらい始めてからなんだよな」


 俺じゃないか。


「おとーさーん、限定のゴート肉のステーキ注文入ったよー」


 そんな俺たちの会話を切ってシーナちゃんが注文を伝えてくれる。


「よっしゃ。んじゃ張り切って作るか」


 その後も限定肉の注文が続き、入ってきたほぼ全員が肉を注文した。

 さすがにこれだけ人気があると俺も一度ズィードさんの焼いた肉を食ってみたくなる。

 よし、今度捕ってきたらお願いしてみよう。


「トモシさん、ぺペロンチーノの注文入りましたー」


 お、俺のほうにも注文が。


「了解。俺もがんばるかな」


 それから俺とズィードさんはもくもくと料理を作り続ける。

 ホールから「うめぇぇぇ!」とか「おいしい!」とか聞こえてくるのがかなり嬉しい。

 モチベーションもアップしまくりだ。


「シーナ、限定肉これで終了だ。後の客には説明を頼む」

「はーい!トモシさん、また追加注文ですー」

「了解、なんかすごいペースで出てない?」

「ペペロンチーノを頼んだお客さんの反応を見た別のテーブルのお客さんが次々に頼むんですよ」

「こりゃこっちも早々に材料が切れそうだな」

「どうします?」

「どうします?ったってないものはしょうがねぇしな。なくなり次第終了だ」

「じゃあ材料が切れたら教えてくださいねー」

「了解。はい、一人前あがったよ」

「はーい」


 こうして俺の長いようで短い夜は過ぎていった。

 ぺペロンチーノはかなり好評で、ズィードさんが心配した通りあっさりと材料が切れてしまった俺は調理場を後にした。



 いても邪魔だしね。





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