表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騒捜ゴースト  作者: 時計座
3/6

霊令クエスチョン

「……ねぇ古葉(こば)くん、本当にいくの?」

 不安そうに瞳を震わせながら、羽崎(はざき)小兎音(おとね)は訊ねた。古葉という少年はかけていた黒縁眼鏡を押し上げると、偉そうに腕を組んだ。

「いいんですよ。怖いならついてこなくても」

「いやその、怖いってわけじゃないんだけど……」

 羽崎小兎音はそっと目線を上げる。目の前の西洋風の館は、外壁にもじゃもじゃと植物を生やし、窓も所々割れ、夜の闇をバックにそびえ立っていた。まさに、肝試しにぴったりの場所だった。

「本当になにか出てきそうっていうか……不気味っていうか……」

「それを怖いって言うんでしょー」

 間延びした声がする。しゃがみこんで靴紐を結び直していた鳥海(とりうみ)欠伸(あくび)をした。

「まー、僕らミステリー同好会としてはー、何か現れてくれた方が嬉しいけどー」

 そう言って鳥海は早々と大きな扉に足を向ける。羽崎小兎音が一歩退くと同時に、鳥海の前に両手を広げて少女が立ちふさがった。

「抜け駆けダメ! 最初の一歩はみんなで一緒にって約束けん!」

 なぜか黒い虫かごを肩から提げた有栖川(ありすがわ)は、訛りのある言葉で鳥海を止める。

「あー、そうだったねー」

 くるりと戻ってきた鳥海は、今度は木を足場代わりに靴紐を直し始めた。

 羽崎小兎音は腕時計に目を落とした。午前0時半を少し過ぎていた。

斉木(さいき)くんが遅いのはいつものことです」

 古葉も腕時計を眺めている。

「気長に待ちましょう」

 そう古葉が口にしたとき、ぎぃぃと後ろで門が開く音がした。

「ごめんごめん! 待った?」

 恋人との待ち合わせに遅れたようなテンションで現れた少年。一同から白けた視線が送られた。

「やだなぁ、そんな顔しないでよ。俺の遅刻はいつものことだろ?」

「自分で言う辺りがなおさら憎いんじゃけん」

 有栖川は踵を返し、扉の前に立つ。続けて古葉と鳥海も横に並ぶ。斉木も並ぶ。最後に羽崎小兎音もおどおどしながら並び立った。

「いきますよ」

 古葉の言葉に四人が頷く。全員で扉を押し開けて、館の中へ踏み入れた。

 鳥海が取り出した懐中電灯をつける。広いロビーだ。正面に長い廊下が続き、門番のように古ぼけた甲冑が二体立っていた。

 館内は埃っぽい。羽崎小兎音は口元を袖で覆う。

「マスク持ってくればよかった……」

 ぼやきながら、斉木の背中から甲冑を眺める。今でこそくすんだ銀色をしているが、以前なら羽崎小兎音や斉木の顔を鏡のように映していただろう。

「かっこいいよなぁ! 中入れたりしないかな?」

「や、やめてよ!?」

 はしゃぐ斉木の背中を押して奥へ進む。先頭を歩く鳥海が、ある扉の前で立ち止まった。光の輪がそこを照らし出す。わずかに開いていた。

「鳥海? そっちはルートと違うけんな」

「でも気になるよー」

 有栖川の制止を聞かず、鳥海はゆっくり扉を開ける。中を照らし出すと、そこは六畳ほどの小部屋だった。コンクリートが剥き出しになっている、無機質な部屋だ。

 鳥海のあとから四人も部屋に入る。肌寒さを感じて、羽崎小兎音は服の上から二の腕を擦った。

「この建物には似つかわしくない部屋ですね」

 壁や天井を眺め回して古葉が言う。たしかに、立派なこの館に、こんな地下室のような空間は似合わない。

「この部屋……なんだろうー?」

 懐中電灯を動かしながら鳥海が首をかしげる。

「家具もー、電気もー、なにもないよー?」

「でも扉はあるぜ?」

 部屋の隅に斉木が立っていた。よく見れば、角に引き戸の取手のようなものがあった。

 扉はコンクリートの壁と保護色になっていた。まるで誰かに気づかれたくないような塩梅である。

「隠し扉、ってところですか」

「ワクワクするよな!? 行ってみようぜ!」

 そう言うと斉木は引き戸を開けて中へ消えてしまう。それを追って、鳥海も入っていった。

 鳥海がいなければ、明かりがなく真っ暗になる。不安に駆られた羽崎小兎音はとっさに鳥海を追った。

 隣の部屋もやはり暗かった。鳥海がまんべんなく部屋の中を照らしているが、わかるのは先程の部屋よりは広いということくらいだ。

 暗闇を壁伝いに動く。その最中、手に覚えのある形が触れ、羽崎小兎音はそれを操作した。

 パチン! と音がする。少し遅れて、部屋に薄暗い明かりがついた。

「あ、ついたー」

 鳥海が懐中電灯を下ろす。それと同時に、また靴紐を直し始めた。

 予想よりしっかりとした空間だった。広さは先程の部屋と比べて二倍はありそうで、壁もコンクリート剥き出しではない。が、電気は安そうな蛍光灯で、部屋の角にはロッカーが三つほど並んでいる。寝心地の悪そうなベッド――――というよりただの台には、お粗末なシーツらしきものが一枚だけ乗っていた。窓はない。

 やはりこの部屋も、西洋の館には不釣り合いだった。

「……ねぇ、小兎音ちゃん」

 ふと肩に有栖川が張り付いた。緊張の面持ちでロッカーを指差す。

「あそこから……視線を感じるんけんど……」

「視線……?」

 三つのロッカーに注意を注ぐ。だがどうしても、羽崎小兎音には視線を感じることはできなかった。

「どのロッカー?」

「わからんけん……でも、多分真ん中……小兎音ちゃん、ちょっと見てくれんけ?」

「えっ……?」

 再びロッカーに目をやる。なんだかだんだん、そこに誰かが隠れているような気さえしてくる。

 ごくりと唾を飲み下す。有栖川の左手を強く握ったまま、逃げ腰でロッカーへ近づく。手が届く距離まできて、一度呼吸を整えた。

「開けるよ……?」

 後ろで有栖川が頷いた。その左手は、今にも逃げようとしている。

 羽崎小兎音はそっと真ん中のロッカーへ手を伸ばす。

 あと少し、あともう少しで触れる。そんなとき、違和感は背後から襲いかかった。

「……えっ」


 ☆ ☆ ☆


 目の前にそびえ立つ西洋風の館を見上げ、御堂(みどう)游斗(ゆうと)は感嘆の声を上げた。

「どうです? 立派なお家でしょう!」

「お家っていうか、お屋敷っていうか……」

 游斗の主観では、それはもはやお城であった。かつて貴族が住んでいたと言われても納得できる――――むしろ住んでいて然るべき建物だ。

 が、今は植物が絡まっていたり、窓が割れていたりと悲惨な姿に変わり果てている。日が暮れればたちまち肝試しスポットになるだろう。腕時計はまもなく、昼の0時半を回る。

 言葉を失う游斗に、歌守(うたもり)日向(ひなた)は「すごいでしょう?」と得意気に胸を張った。

「私の師匠のお家なんですよ」

 游斗が眉を動かした。

「師匠?」

「はい! 私に幽霊術を伝授してくれるんです!」

 游斗の脳裏に落雷の閃光がよみがえる。確か『電力吸い取りの術』という、危険極まりない業だったはずだ。続けて思い出した『味見の術』がどれほど安全かがよくわかる。

 それを伝授している、ということは、師匠も幽霊ということだろうか。そう考える游斗の前で、無駄に大きな扉がひとりでに開いた。

「おおっ」

 思わず下がる。様子を窺いながら、游斗は少しずつ扉と距離を詰めた。

 中を覗く。古ぼけた甲冑が二体。他に人影はない。

「も~、なにコソコソしてるんですか! 堂々と入っていいんですよ!」

 日向はするりとロビーに侵入する。游斗も渋々、その後を追った。

 昼間とはいえ中は薄暗かった。窓から入る日の光が唯一の光源であり、埃が舞うのがよく見える。游斗は袖で口を覆った。

 日向が広いロビーの中心に浮かび、声を張り上げた。

「師匠ーーー! 先輩つれてきましたよーーーーーーっ!!」

 声がロビーに反響する。だが、師匠らしき姿は現れない。

「師匠ってばーーーーーーっ!」

 日向はもう一度叫ぶ。どこからも反応はなかった。

「もう…先輩に会いたいって師匠が言ったんじゃないですか……」

 愚痴る日向。游斗は彼女を見上げた。

「僕に会いたい?」

 訊ねると、日向はくるくると回転しながら下りてきた。

「そうなんですよ。こないだ先輩の話をしたら、それでちょっと口論になっちゃって……で、本人つれてこいと」

「意味がわからないんだけど」

 自分を題材に口論などできるのかと、游斗は至極全うな疑問に首を傾げる。

「おっかしいなー。今日この時間で合ってるはず――――」

 と、日向がしていない腕時計を見る仕草をしたとき、バタンッ! と大きな音を立てて背後で扉が閉まった。

「……風?」

 そんなわけないと知りつつ、游斗はノブに手をかける。開かなかった。何度かガチャガチャと繰り返したが、開く気配は一行にない。

「なるほど……よくあるパターンね」

 もっとも、それはフィクションの世界での話だが。

 スマホも確認してみる。予想通り、圏外になっていた。

 苦笑いする游斗を見て、日向が笑っていた。

「いやー、閉じ込められちゃいましたね~」

「他人事だと思って……」

「ひとごとですもーん」

 と、ご機嫌に飛び回った日向は直後、ゴッ! と頭から壁に激突した。

「えっ……?」

 目の前で起きた出来事に、游斗は目を疑った。

 日向は幽霊だ。彼女に物体という概念はなく、人も壁も関係なくすり抜け、物にも触れない。そんな日向が今、壁に激突した。

「いったたたぁ……っ。あれ?」

 頭を擦りながら壁を見る日向。そこに腕を伸ばす。手のひらがそっと壁に触れた。埃が落ちる。

「おかしいなぁ……」と呟きながら日向は手をはたくが、ハッとして「もしかして、結界!?」

「結界?」

 游斗が聞く。焦り顔の日向が床に足をつけた。

「結ぶ世界って書いて『結界』と読みます!」

「それは知ってるよ。バカにしてる?」

「とととんでもないです! 先輩は師匠と同じくらい尊敬してるんです! バカにするはずないじゃないですか!?」

 そこで日向は「師匠……?」と思い出したように扉を見た。

 ぎこちない足音を立てながら彼女は扉へ近づく。壁と同じように触れることができた。

「……やっっっぱり師匠の仕業ですぅぅぅぅ!」

「……どういうこと?」

 背中に游斗が問うと、頭を抱えた日向がこちらを振り向いた。今にも泣きそうな面だった。

「師匠が結界張ったんですっ!! 私がすり抜けできないのと、こうして立つことができるのがその証拠です!」

 床にも結界が張られているらしい。日向はそこで地団駄を踏んでみせた。

 游斗は意地悪く笑う。

「これで他人事じゃなくなったね」

「っ、バカにしてますか!?」

 頬を赤くさせて日向が游斗へ詰め寄る。歩くよりも浮いた方が楽なのか、浮遊だった。

「バカになんてしてないよ。僕だって閉じ込められてるんだから」

「うっそだー! 先輩ならどうにかこうにかやって、簡単に出られそうです!」

「どうにかこうにかってなに? 僕生身の人間なんだけど」

「人間の力を信じるんです!」

「いや無茶すぎるって。相手幽霊でしょ?」

「なにをー!?」

 と、日向が游斗へ飛び掛かる。思わず腕でガードしたが、いつもと同じく、二人が接触することはなかった。

 すり抜けた日向がおっとっと、とつまづきながら立ち止まる。

「……なんか、不思議な感覚です」

 日向は自分の腕や足を眺め、太ももの辺りをパンパンと叩いている。

「壁にはぶつかるのに、先輩にはぶつかりません」

「そりゃ、僕は結界じゃないからね」

「そうなんですけど、なんてゆーか……物に触れたり、歩いたりするのって、なんだか私生き返ったみたいで」

 日向は浮き上がり、甲冑に触れようとしてみた。くすんだ銀色の中に、幽霊の手は吸い込まれた。

「……わかってるんですけどね。私がさわれるのは物じゃなくて結界だって」

 游斗からは日向の表情は見えない。しかし、わずかに肩が下がった気がした。

 游斗の頭に、数日前の出来事が思い出される。たまらず口を開く。

「でもこの前は――――」

 と言いかけた言葉は、すぐさま鈍い金属音にせき止められた。

 日向が手を突っ込んだ甲冑が動き出したのだ。游斗が声を上げるより早く、甲冑は日向に(てのひら)を打ち込んだ。

 幽体であるはずの日向が、吹き飛ばされた。

「歌守さん!」

 游斗は叫ぶ。が、日向は空中で器用に体勢を立て直すと、重々しい動きの甲冑を睨み付けた。

 甲冑は首を回す。まるで肩凝りでもほぐしているかのような仕草だ。

「まったく、酷い弟子じゃのう……」

 甲冑から声がした。游斗はぎょっとする。

 鋼の腕を二、三度回した後、甲冑の中から煙のような何かが漂い出た。それはすぐに一ヶ所に集まり、人の形を作り上げる。

「いきなり人の顔をぶつとは……」

 それは頬を拭うような動きをし、次第に姿がはっきりとしてくる。その後ろで、煙が抜けきった甲冑ががしゃんと音を立てて崩れ落ちた。

 よく目立つシワと白髪。年齢のわりに全く曲がっていない腰。現れたその人物に、游斗は思わず「あっ……!」と声を出していた。

「……遅かったの、日向」

 ぶっきらぼうに告げる人物。それは、数日前に游斗が小鳥丘(ことりおか)高校の屋上で出会った、謎の老婆だった。

「遅くないですよ! ちゃんと時間通りです!」

「丸々二十四時間も遅れおって、どこが時間通りじゃ」

「ふぇ?」

 目を点にして固まる日向に対し、游斗は目を丸くしていた。

「幽霊……だったんですか」

「久しいの、探偵」

「たん、てい?」

 聞きなれない呼び名だ。老婆は日向を顎で示す。

「そこの不甲斐ない弟子から聞いておる。先日の事件、見事解決したそうじゃな」

「は、はぁ……?」

 そうは言われても、いいところは近衛(このえ)という生徒に持っていかれてしまった。游斗は、自分が解決したという実感はほとんどなかった。

 それが表情に現れたのだろうか、老婆は妙に浮かない顔をした。

「どうした? 嬉しくないのか?」

「え、えぇ、まあ……ちょっと後味はよくなかったし」

「ラーメンだけにか?」

「……ラーメンは、美味しかったです」

 游斗は自分の心臓に手を当てた。

「頭じゃなくて、心で考える……結局、どういう意味だったんですか?」

「教えるわけなかろう、バカ者」

 老婆は崩れた甲冑の背中に腰かけた。

「それに、質問なら死んでからにせいと言ったはずじゃ」

 游斗は日向と顔を見合わせた。游斗は目線に「この人なんなの?」とメッセージを載せた。

 日向はそのメッセージを正しく受け取ったようで、「あ、そうでしたね!」と老婆の横に立った。

「紹介します! 私の師匠の渡村(わたむら)キヨさんです!」

 パチパチパチと日向一人の拍手が鳴り響く。なんとなくつられて、游斗も数度手を叩いた。

「で? で? 何歳に見えます? 師匠何歳に見えます!?」

 ぐいと詰め寄ってくる日向に游斗は後ずさる。が、思いきって一歩踏み出した。日向をすり抜けて、渡村の前へ出る。

「あの……僕に会いたいっていうのは、どういう……?」

 座る渡村に恐る恐る問いかける。少しの間があった後、渡村は息を吐いた。

「ついてきな」

 渡村はふわりと浮かび上がると、廊下の奥へ進んでいく。游斗と日向もその背中を追う。

 歩きながら、游斗は日向に耳打ちした。

「渡村さんも幽霊なんだよね?」

「もちろんです。ベテラン幽霊です」

「でも物には触れるんだね? さっき甲冑に座ってたし」

 日向は「あ~」と溢すと、

「あれですか? 物に触れない私を見下してますね?」

 と意地悪く笑ってみせた。細くなった目から游斗は顔を背ける。

「そうじゃないけど……っていうか、歌守さんも触れないことはないんじゃない? この前、学校で机に頭ぶつけてたし」

「あー、あれですか。実はまだ練習中なんですよ」

「練習中?」

 日向は頷き、天井を見上げた。

「ほら、人間も産まれてすぐのときはまだ歩けないですよね? それと同じで、死んですぐの幽霊は物に触れないんです。でも赤ちゃんが少しずつ歩けるようになるように、幽霊も練習すれば、少しずつ物に触れるようになるんです」

「そうなの?」

「私の幽霊仲間も大体の人が物に触れます。早い人だと三年くらいで完璧に物にできるそうですよ」

 あ、ダジャレじゃないですからね!? と日向が慌てて付け加える。游斗はそれを無視して、前を行く渡村を見た。

「渡村さんって、亡くなってから長いのかな」

「さぁ? 九十歳で死んだってことしか……でも師匠は物に触れるだけじゃなくて、生きてる人間に姿も見せられるって言うから、幽霊歴は相当長いんじゃないですかね?」

 九十歳まで生きて、死んでからもかなり長い。游斗は渡村がいつの時代の人間なのか少し気になった。

 それから少しして、渡村は止まった。右に半開きの扉がある。渡村を先頭にして中に入る。

 中は殺風景な部屋だった。コンクリートの壁が剥き出しになっており、僅かに肌寒い。窓も電気もなく、薄暗かった。

「こっちじゃ」

 と、渡村が一角の壁の中へ消える。一瞬戸惑う游斗だったが、そこが引き戸になっていることにすぐ気づいた。

 戸を開けて次の部屋へ進む。窓はないが、電気がついていた。コンクリートの部屋より幾ばくか広く、あるのは三つのロッカーと、白い布が雑に敷かれた台だけだ。

「あの」

 一通り部屋を眺め終えて、游斗は渡村に声をかけた。

「なんじゃ?」

「ここって、隠し部屋ですよね。あの引き戸も、目立たないようにコンクリートと同じ柄になっていたし」

 渡村は黙って游斗を見るばかり。その間を遠慮なく飛んだ日向は、隠し部屋に感嘆していた。

「師匠、私こんな部屋があるなんて知りませんでした!」

 どうやら日向も初めてらしい。縦横無尽に飛び回った後、また勢いよく天井に激突した。ここにも結界が張ってあるらしい。

「い、いたいぃぃ……」

 涙目の日向がふらふらと降ってくる。游斗はペタペタと壁を触った。

「この部屋、歌守さんにも秘密にしておきたかったんですか?」

 渡村は答えない。黙って白い布が敷かれた台に近づくと、それを指差した。

「見てみろ」

 それだけ言うと、渡村はその場を空ける。游斗は渋々、布を間近で見た。

 よく見ると、布の下がでこぼこしていた。布は敷かれていたのではなく、何かにかけられていたのだ。

 游斗は布の端をつまむ。少しだけめくると、白い何かが覗いた。

 ぞくりと指先から寒気が走る。游斗はそれを抑え込み、一思いに布を取り払った。

「ッ!!??」

 顕になったそれを見た途端、游斗は声を上げそうになった。

 数歩退いた位置から改めてそれを見る。骸骨だ。頭蓋骨から足指の骨まで綺麗に残った骸骨が、台の上に寝かせられていたのだ。

「わ、渡村さん……これって」

 声が震えていた。游斗の視線は、頭蓋骨の二つの穴に釘付けにされたように動かない。

「見てわからんか? 人の骨じゃ」

「なんで……そんなものが……」

 額から汗が吹き出ていた。なにせ死体など、游斗は初めて目にした。

 いや、初めてではない。年が明けてすぐ、歌守日向の死に直面していた。游斗と毎日のように一緒にいる彼女も、死人なのだ。

「これ……前歯が欠けてますね」

 その日向は、恐れることなく頭蓋骨を覗き込んだ。

 幽霊だから死体に抵抗がないのか。そんなことを思いつつ游斗も静かに顔を近づけた。確かに、一本だけ前歯が抜けていた。

「誰ですか、これ?」

 少しも臆せず日向が訊ねた。渡村は怖い顔で、台の縁に腰を下ろした。

「……孫じゃよ」

「……え」

 渡村はまるで懐かしむような、過去を思い出すような目で骨を見た。

「わしの孫なんじゃよ、こいつは」

「ま、孫って……」

 游斗はまじまじと骸骨を見てしまう。目の前の白骨死体が若者のものだと思うと、怖さと悲しさが急速に肥大した。

「まだ十六じゃった……未だに信じられん」

 渡村は取り出したスマホを游斗に渡してきた。画面には、小学校低学年くらいの女の子が笑顔で映っている。前歯が一本、欠けていた。

「羽崎小兎音。わしの初孫じゃ」

 そう言って、渡村は人差し指を右から左へ動かす。画面をスライドさせてみろ、という意なのは游斗にはすぐに読み取れた。

 次に現れた写真は、小学校高学年の頃らしい。数人の女子と抱き合っている。その次の写真では中学生になっていた。修学旅行だろうか、青空の下で、なぜか奈良の大仏のポーズをしていた。

 次の写真で游斗の指は止まった。教室らしき場所で、トロフィーらしきものを持った羽崎小兎音と四人の男女が写り込んでいる。バックの黒板には色鮮やかな文字や絵が描かれている。

「高校時代……?」

「のう、探偵」

 ひょいと、渡村は游斗の手からスマホを抜き取った。

「一つ、頼まれてはくれんか」

 渡村の目は今日一番真剣だった。游斗を真っ直ぐ見据え、そして重い言葉でこう言った。

「孫を殺した犯人を、突き止めてくれ」


 ☆ ☆ ☆


 渡村の口から語られたのは、羽崎小兎音を含めたミステリー同好会の部員五人が、二年前に肝試しと称してこの館にやってきたということだった。

 五人も游斗と同じくこの隠し部屋にたどり着き、そこで羽崎小兎音は何者かに殺害されたのだという。

「わしが不在の間に事が起きての。わしが見たのは、館から逃げるように去っていく四人の姿だけじゃ」

 そう言う渡村の表情は悔しげだった。唇の奥で歯を食い縛っているのがわかる。

「でも、それって全員共犯なんじゃ……」

「だとしても、実行犯はいるはずじゃろ? わしはそいつが誰かを知りたいんじゃ」

 游斗は最後に見た写真を思い出してみた。羽崎小兎音の他に四人が写り込んだ写真。古葉。鳥海。有栖川。斉木。

 游斗はゆっくり首を左右に振った。

「……申し訳ないですけど、情報が少なすぎます。現時点で犯人を特定するのは無理ですね」

「……そうか」

「申し訳ありません」

 しっかり謝ってから、游斗は踵を返した。日向が壁に向かって「ふぬぅ~!」と身体を押し付けていた。

「何してるの? 歌守さん」

「このへやから出ようとしてるんでふぬぅ~!」

 呆れた溜め息が游斗の口から漏れた。

「普通に扉から出ればいいじゃん。そこから入ってきたんだし」

 游斗は取手に指をかける。引き戸は動かなかった。

「……あれ?」

 もう一度引いてみる。やはり開かない。デジャヴが走る。

 游斗は振り返り渡村を見た。悔しげな表情はいつのまにか消えていた。

「頼む。犯人を見つけてくれんか」

 その口調は有無を言わさぬ強いものだった。游斗の背後では日向の力み声が響いている。

 スマホに手を伸ばそうとして、游斗はそれをやめた。電力を取られて阻止されるのは目に見えている。いつぞやの二の舞にはなりたくなかった。

 游斗は渡村から視線を外せなかった。同じ幽霊でも、日向とは全く違う。子供の頃に思っていた『お化け=怖い』の方程式が、今再び出来上がろうとしていた。



 游斗はまず、白骨死体をもう一度見直した。

 ドラマやアニメでしか見たことがないそれが今、目の前にある。画面越しで見ていたときとは全く違う心臓の脈拍に、游斗は深い呼吸をせざるを得ない。

 目を引くのはやはり欠けた前歯だ。虫歯で抜けたのか、はたまたぶつけて欠いてしまったのかは分からないが、綺麗な歯並びの中、一ヶ所だけ空いていると嫌でも目立ってしまう。

「お孫さんの死因は分かりますか?」

 游斗は床の上であぐらをかく渡村に問いかけた。器用に指で編み物をしている。

 渡村は指の間であやとりのようになっている毛糸を、首の位置まで上げた。

「小兎音の首には絞められた跡があった。それと、自分の首を引っ掻いた跡もな」

吉川線(よしかわせん)ですか……」

 游斗の手は自然と首元に向かった。そこで痒くもない皮膚をポリポリと掻く。

 視線は頭蓋骨の下、首の骨――――頸椎(けいつい)に移った。

「よしかわせん、ってなんですか?」

 不思議そうな顔をして日向が覗いてくる。

「被害者がロープとかで首を絞められたとき、それをほどこうとして自分の喉を引っ掻くことがあるんだ。吉川線っていうのは、そのときにできる引っ掻き傷のこと」

「あ、なるほどー」

 日向はポンッと手を叩いた。

「ってことは、絞殺ですか?」

「多分ね」

 游斗は首の骨を下側から目でなぞった。そして、頭蓋骨に近い部分の、ある骨で止まる。

 その骨には何か違和感があった。游斗は割れ物に触るような手付きで、恐る恐るその骨を取った。折れていた。

 ふっ、と游斗の目の前にスニーカーが現れる。驚いて顔を上げると、日向が死んだ魚のような目でこちらを見下ろしていた。

「歌守さん?」

 反応はない。微塵たりとも動かず、死んだ表情を下へ向けている。

「歌守さん」

「……はっ」

 パチリと瞬きをして、日向の瞳に生気が戻る。自分の首をペタペタと触ってから、着地した。

「すいません。ちょっと、私の首の骨にも吉川線あったのかなーって気になっちゃって」

 その言葉で合点がいった。日向は自分が首を吊っていた体勢を再現しようとしていたのだ。

「吉川線っていうのは本来、自殺した人には残らないものなんだ。歌守さんの遺体に吉川線があったなら、警察は自殺なんて結論は出さなかったと思うよ」

「……吉川線、残しておけばよかったなぁ」

 そう呟いて、日向は壁際にうずくまる。自分の手を眺めて、爪を指で撫でた。

 游斗は持っていた骨を元の位置に戻し、次に肋骨に目を移した。一ヶ所、折れていた。

 游斗は順番に骨を見ていく。他に気になったのは、(すね)の辺りにヒビが入っていたことだった。

 一通り見終わった後、游斗は少し離れて全身を視界に入れた。

 羽崎小兎音が殺害されている場面を想像する。何者かに背後から紐状のもので首を絞められ、首に索条痕(さくじょうこん)と吉川線が残る。

 游斗はフードを掴む。頭に被せようとしたとき、白骨死体の手の部分が目についた。

 骨と化してはいるが、それ以外に変わった箇所はない。骨折も、ヒビもない。

 だが游斗は違和感を感じていた。何が違うのかは分からないが、確かになにかがおかしい。

「どうした探偵?」

 渡村が游斗に声をかけた。その手には立派な毛糸マフラーが握られている。

 游斗はふと自分の両手を見た。

「……まさか」

 游斗は即座にフードを被る。目を閉じると、脳内に情報の波が荒立った。別々だったピースが、一つにまとまっていく。

 カチリと、心地よい音が頭の中で響いた。

 目を開けると、眼前に日向の顔があった。

「うわっ」

「先輩! その動作、なにか分かったんですね!?」

 キラキラと瞳が輝いている。その後ろでは、渡村が興味ありげにこちらを見てきていた。

「うん。歯車が噛み合ったよ」

 游斗はフードを脱ぎ、白骨死体に目を向けた。

「でも、ちょっと意外な答えだったかな」

「意外とな?」

 渡村の目が鋭くとがる。游斗は少し笑って、その目を見返した。

 日向一人が、わけのわからなそうな顔をしていた。


 ☆ ☆ ☆


「羽崎小兎音さんは紐状のもので首を絞められた。吉川線も残っていたのなら、絞殺と考えるのが自然です」

 游斗は台に手をついて語り始めた。目の前で、二人の幽霊が大人しく聞いている。

「なら、彼女を絞め殺した凶器はなんなのか。考えられる可能性は、有栖川の虫かごの紐と、鳥海の靴紐です」

 指を二本立てる。はい! と日向が小学生の授業みたく手を上げた。

「はい歌守さん」

「他の二人が紐を隠し持っていた可能性は?」

「もちろん、それも十分にある。でも、それについては考えないものとするよ」

「……は?」

 日向の口がぽっかりと開く。隣で渡村が怪訝そうな表情を覗かせた。

「探偵がそれでええのか……」

「いいんですよ。今回に至っては」

 游斗は白骨死体の首元から、折れている骨を手に取った。それを二人に見せる。

「これは甲状軟骨(こうじょうなんこつ)という骨です。ご覧の通り、骨折しています。それと」

 游斗はもう一つ骨を取る。こちらも同じく折れていた。

舌骨(ぜっこつ)です。絞殺の場合、こういう骨が折れることもあるそうです」

「それがどうした? 小兎音は絞殺されたんじゃろ」

 渡村は高圧的な態度だった。游斗は首を横に振った。

「確かに絞殺で骨折することもある。でもそれは珍しいケースなんです。紐で絞める絞殺よりも、手で絞め殺す扼殺(やくさつ)の方がそうなる可能性が高い」

 游斗は一度骨を置くと、遺体の肋骨を示した。

「肋骨も折れているんですよ。なんでか分かりますか?」

 険しい顔の渡村は、無言だった。本気でわからないのか、それとも口にしたくないのか。

 そんな師匠を横目に、大袈裟に首を捻る日向。う~んと長い唸り声を続けていたかと思うと、パッと笑顔を浮かべると骸骨にのしかかった。

 触れない手で首を絞め、触れない膝が肋骨に重なった。

「こうしたんじゃないですか!? これなら体重で肋骨も折れるかも!」

 嬉々として言う内容ではないが、日向の見せたそれは游斗が想像していたものと一致していた。

「……あれ?」

 しかし、日向は途中でハテナマークを浮かべると膝を動かした。胴体を跨ぐ姿勢になる。

「でも、普通ならこうするんですかね? 私、何かのドラマで見たことあります」

「被害者を跨げない状況――――例えば、被害者が壁際にいたとか――――なら、被害者の身体に乗っても変ではないと思う」

「まて!」

 と声を張り上げたのは渡村だ。毛糸マフラーを脇に置くと、鋭い眼光で游斗に詰め寄った。

「探偵。お主忘れておらんか? 小兎音はロープか何かで首を絞められて殺されたんじゃぞ。お主もそう言っていたではないか」

「絞殺されたと考えるのが自然、と言っただけです。真実は違います」

 游斗ははっきりと言ってやった。強気だった渡村の目が、揺れ動いた。

「あの遺体は扼殺です。何者かに手で首を絞められて殺されたんです」

 游斗は遺体の脛を指差す。日向の視線だけがそちらへ向いた。

「その骨にもヒビが入っていました。恐らく扼殺する際、暴れられるのが嫌で強く足を押さえられたんでしょうね。結果、骨にヒビが残った」

「ん? ちょっと待ってください」

 脛のヒビを見ていた日向が声を挟んだ。両手の指はせわしなく何かを数えている。

「手で首を絞めて、紐でも首を絞めて、さらに足も押さえてたってなると……」

 日向は広げた手のひらと立てた人差し指を突き出した。

「最低でも腕が六本必要ですよ!」

「いや、そうじゃない」

 游斗は横たわる骸骨に甲状軟骨と舌骨を戻し、日向を見た。

「わざわざ手と紐で同時に首を絞める必要はない。必要な腕は二本減って、四本だ」

「でも、首には紐の跡と吉川線が残ってたんですよね? それはどう説明するんですか?」

「殺した後で偽装したんだよ。足が押さえられていたなら、きっと手も拘束されていたと思う。そんな状態で首に爪痕なんて残せるはずがない」

「探偵、なぜそう言い切れる?」

 横から渡村が口を挟んだ。小さな虫程度なら殺せそうな、突き刺す視線だった。

「手が押さえられていた証拠はないのだぞ?」

「確かにないです。でも、そう考えると余りが出ないんですよ」

「余り?」

 渡村の左右の眉が寄った。

「まず一人目が馬乗りになって首を絞める。二人目と三人目がそれぞれ左右の腕を押さえ、四人目が足を押さえる。四人全員が協力して羽崎小兎音を殺害したと考えるなら、これが一番自然なんです」

 お~! と日向から歓声が上がる。キラキラと瞳を輝かせ拍手をするその様は、マジックを見た子供のようである。

 反対に、渡村の目は陰っていた。マジックなど興味がない、むしろ嫌ってさえいるようにも見える。

「それで、肝心の主犯は誰じゃ?」

 それ以外はどうでもいい、と言わんばかりの口調だった。游斗は少し唸った。

「そこまではわからないですよ」

「……なんじゃと」

 渡村の声のトーンが落ちた。表情から険しさが消え、代わりに言い様のない黒いオーラが纏われる。

 白髪が徐々に逆立ち始める。その雰囲気に圧された日向は、先程までの拍手を誤魔化しながら部屋の隅へ逃げた。

 密閉された部屋に重苦しい空気が漂う。錯覚か、はたまた本当に空気の重量が増えたのか、游斗は肩に負担を感じた。

 凝りをほぐすように肩を回してから、游斗は口を開いた。

「だって、今のは『空想の話』ですから」

 ふわ、と、空気が軽くなったように思えた。渡村の両の目が見開かれる。心なしか、白髪も重力に従い出したようだ。

「空想の話って、どういうことですか?」

 そろりと近づいた日向が游斗を見上げ聞いてくる。

 游斗は台の上の白骨死体を示し、答えた。

「これは羽崎小兎音さんの死体じゃない」

「うぇぇぇっ!?」

 日向は髑髏(どくろ)を覗き込む。じっくりとその白い顔を観察した後で「いやいやいやいや!」と盛大に手を振った。

「そんなはずないですって! だってほら、写真でも歯が抜けてたじゃないですか!」

 日向の言う通り、游斗たちが見た写真の中の羽崎小兎音は前歯が一本抜けていた。それと同じ箇所の歯が、髑髏でも欠けている。

 だが、游斗は「違うんだよ」と否定した。

「小兎音さんの歯が抜けているのを確認できたのは、最初の一枚――――小学校低学年くらいのときの写真だけだった」

「それがどうしたんですか?」

「あのくらいの年齢だったはずだよね。乳歯が抜けるのはさ」

 ハッ、と日向が空気を吸い込み、それから視線を渡村に向けた。渡村の口は縫い付けられたかのように微塵たりとも動かない。

「で、でも! 乳歯じゃない次の歯……えっと――――」

 必死に言葉を思い出そうとする日向に游斗は答えを教える。

「永久歯」

「そう、永久歯! その永久歯も抜けちゃったのかもしれませんよ?」

 日向の指摘は的を射ている。羽崎小兎音の永久歯が欠けていたかどうかを判別できる情報はない。

「じゃあこれは?」

 しかし焦ることなく、游斗は骸骨の右手を示した。なんの変哲もない人差し指と薬指の骨を指しなぞる。

「男性は薬指が、女性は人差し指が長い傾向がある。でもこれ、よく見ると薬指の方が長いよね」

 游斗に言われた日向はじっくりと二本の指を観察する。コクリと頷き、それから不思議そうな顔を覗かせた。

「でもそれは、師匠のお孫さんがたまたま薬指が長かっただけじゃないですか?」

「それはないよ」

 言い切った游斗は渡村を見た。

「写真、もう一度見せてくれませんか」

 相変わらず黙りこくったままの渡村は、渋々スマホを取り出し、游斗へ投げ渡す。

 うまくキャッチした游斗が画像ファイルを開く。入っていた枚数は少なく、すぐに先程の写真は見つかった。

 画面に表示させたのは、中学生の羽崎小兎音の写真。奈良の大仏のポーズをしている。

「これ見て」

 游斗は羽崎小兎音の右手を拡大してみせた。日向が食い入るように覗く。

 その指は、明らかに人差し指の方が長かった。

「えっ、うそ!?」

 写真と骨を交互に見る日向。

 写真の中の羽崎小兎音は人差し指が長い。だが、目の前にある『羽崎小兎音』とされる白骨死体は薬指の方が長い。

 その矛盾は、前提というものを軽く覆してしまった。

「この遺体は羽崎小兎音じゃない。少なくとも、彼女は十六歳でこの世を去ってなんかいない」

「えええ!?」

 またしても大袈裟なリアクションを取る日向に、游斗は別の写真を見せた。最後に見た、教室でトロフィーを持つ写真だ。

 そのトロフィーに付いているペナントリボンには、『――――高校合唱コンクール優勝 三年一組』と書かれていた。

「最初っから小さな違和感はあったんだ。本当に十六歳で死んでいたなら、彼女は高校三年生にはなっていないはずだからね」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!?」

 片手で頭を押さえながら日向が游斗を止めた。目はくるくると回り、理解が追い付けていないのは明白だ。

「よくわかんないです……! 小兎音さんじゃないなら、これは誰なんですか!?」

 日向は『身元不明』の白骨死体を強く指し示した。

 游斗はさっきそうされたように、渡村へスマホを投げ返した。

「あなたなんじゃないですか? 渡村キヨさん」

「……ほう?」

 久しくぶりに渡村が口を開いた。静かながらも、その目から放たれる覇気は確かに変わった。

 日向は渡村と白骨死体を交互に見て、金魚のように口をパクパクさせている。驚きのあまり声も出ないらしい。

「さっきこっそりあなたの指を確認させてもらいました。薬指の方が長いんですね」

「だからわしじゃと言うのか? フッ、根拠に弱いぞ探偵」

「じゃあ歯を見せてください」

 しん、と音がなくなった。渡村は唖然とした表情で佇んでいる。

「あの遺体と同じ箇所の歯が欠けていれば、根拠としては強くなりますよね?」

 渡村は再び口を閉ざす。心配そうな日向の視線が右往左往していく。

 しばらくして、渡村は諦めたように息を吐いた。

「大した探偵じゃの」

 それから渡村はニッと笑ってみせた。白骨死体と同じ位置の歯が一本、抜けていた。

 渡村は表情を戻すと、骨へ視線を向けた。

「お主の言う通り、それはわしの死体――――」

「っていうエンドにしたかったんですよね?」

 游斗がそう告げる。途端に、渡村の目は大きく大きく見開かれた。

「お孫さんたちの肝試しの話をでっち上げ、それが嘘であると僕に見抜かせて、死体は実は自分であると思い込ませる。それがあなたのしたかったことですよね」

 見開かれた目が図星のように震えていた。游斗は骸骨の首を見下ろす。

「この死体は首を絞められて殺されています。もしあなたが本当にそういう最期を迎えたのなら、どうして平気な顔してマフラーなんて編めたんですか?」

 渡村の手には先程編み終えた毛糸のマフラーがある。これからの季節重宝するそれは、首に巻き付けることで暖を取るものだ。

 渡村はマフラーを首に巻き、

「慣れただけじゃ……やはりお主は根拠に――――」

「弱いならもっと詳しく調べるだけです。あの白骨死体があなたでないことの証明はさほど難しくはないはずですから」

 渡村の視線は、游斗から逃げるように部屋の隅へ向かった。游斗はたたみかける。

「そもそも、僕はこの死体が女性なのかどうかも疑問に思っています。薬指が長いのは男性に多い特徴ですからね。それに、遺体の歯がしっかり残ってさえいれば、欠け具合を自分に合わせることもできる。そのくらい容易いことでしょう」

「根拠が弱いと言っておる!」

 突然渡村の口調が荒くなった。その声に驚いた日向は壁に頭をぶつけて痛がっている。

「小さな疑問をいくつ並べたところで、決定打がなければ意味がない。探偵のくせにそれも分からんのか」

 そもそも探偵じゃないですけど。言いたい言葉を飲み込んで、游斗は骨に手をかけた。

「知ってますか? 骨って男女の見分けもできるんですよ」

 両手で持って動かしたのは骨盤。よく見えるように台の前の方に置いた。

「一番よく分かるのが骨盤です。男性と違い、女性には出産という大仕事があります。そのため骨盤も出産に合わせた形になります。たとえば、このスペースとか」

 游斗は手で骨盤に空いた穴に指をかけた。損傷でできたものではなく、骨格としてはじめからある穴だ。心なしかハート形に見える。

「骨盤上口(じょうこう)っていうんですけどね。これ、男性はハート形で、女性は楕円形なのが特徴なんです」

 それと、と游斗は骨盤上口の下辺り――――左右に開くような形の部分に指を動かした。

恥骨弓(ちこつきゅう)。ここの角度も、男性より女性の方が広いんです」

 游斗はポケットから筆箱を取り出し、分度器を恥骨弓にあてがった。61度。

「典型的な男性の恥骨弓の角度です」

 游斗は骨盤をしっかりと元の位置に戻し、渡村を振り返った。余裕の顔も、上から目線の態度もそこにはなく、目一杯両眉が寄せられた表情だけがあった。

「これでもまだ根拠に弱いですか?」

 問いかけると降り注ぐ静寂。蚊の羽音さえ聞こえてきそうな静けさの中、渡村は不意に踵を返した。

「待ってください」

「……ほんと、大した探偵じゃのう」

 顔を向けずに渡村は呟いた。

「小兎音はまだ生きていて、実はわしの死体だった……台本通りと思ったんじゃが、まさか裏方まで見破るとは」

「教えてください。この死体は誰なんですか?」

 游斗は強気に訊ねた。渡村は少しだけこちらを見やった後、すぐに壁へ向き直る。

「わしに質問など早い。死んでからにせい」

 それだけ言うと、片足を壁の中へ踏み入れた。身体が半分ほど入ったところで、渡村は今度ははっきりと游斗を見た。

「結界は解いておいた。調べたければ勝手に調べろ」

 渡村は壁の向こうに消えた。日向が声の出し方も忘れている隣で、游斗はスマホを取り出した。圏外の表記は、いつのまにか消えていた。


 ☆ ☆ ☆


「現場荒らすなっていつも言ってんだろうがっ!!」

 館の一室に晒科(さらしな)の怒号が反響した。椅子に腰かけていた游斗は、目の前で鬼の形相を見せる彼女に冷や汗を流した。

「テメー遺体に触ったろ! あちこちから指紋が出てんだよ!」

「ご、ごめんなさい……」

「ったく、どいつもこいつも勝手なことしやがって!」

 苛立っている様子の晒科は乱暴に部屋の椅子に座った。その手には白骨死体のものと思われる資料が握られている。資料が破れないか、周囲にいる刑事や捜査員がヒヤヒヤしているのが游斗にも伝わった。

 部屋の入り口では吉瀬(きちせ)が大人しく立っている。珍しいと思った游斗だったが、その頭にできたたんこぶを見て大体を察した。

 遺体の第一発見者ということになった游斗は、例の部屋から離れ、西洋風の館らしい部屋で待機させられていた。椅子や机はそれなりに上質のものらしく、座り心地に文句はなかった。

「遅くなりました」

 そのとき、入り口から黒島(くろしま)が現れた。たんこぶを作っている吉瀬を一瞥してから、游斗のもとへやってきた。

「今回は驚かれたことでしょう。大変でしたね」

 どうやら游斗を気遣ってくれているようだった。普通に生活していれば白骨死体なんてそうそう出くわさない。

 最初は驚いたが今はそうでもない。游斗は黒島に笑って返した。

「おい警部!」

 背もたれに寄りかかったまま晒科が黒島を呼んだ。手に持った書類でこっちに来いと煽っている。

 相変わらず偉そうな態度である。しかし黒島は「警部補です」とだけ訂正を入れると、素直に彼女の前へ行った。

「どうしました?」

「どうしたもこうしたもねぇだろ。テメーが来んのを待ってたんだよ」

「と言いますと?」

 不思議そうな顔をする黒島の胸に、晒科が書類を突きつけた。そして神妙な面持ちになり、

「覚悟して読め」

 と言う。黒島は首を傾げながらその書類を開いた。

 一枚目で、いきなり動作が止まった。

 顔に緊張が走り、書類を持つ手が小刻みに震え始める。いつも穏和な黒島に、明らかな動揺が見てとれた。

「晒科さん…………これは……!?」

 黒島の目は書類から離れない。晒科は背もたれに反り返ったまま、黒島を眺めている。

「私も驚いた……でも間違いねぇよ」

 足を組み、晒科が前傾姿勢を取る。黒島と視線が重なった。

「あの骸骨……ソエヤマだ」

「っ……!!」

 ソエヤマ。その名前が出た瞬間、黒島の手の中で書類がくしゃと音を立てた。握る部分に、強くシワが寄っていた。

「黒島さん……?」

 游斗の呟きはきっと聞こえなかっただろう。黒島はただ事ではない表情で部屋を飛び出していってしまった。

 それと入れ替わるように、日向が部屋に現れた。

「ダメです先輩。師匠どこにもいないです」

「そっか……ねえ歌守さん、ソエヤマって名前に聞き覚えない?」

 ひそみ声で訊ねる。日向はふくろうのように首を捻りながら「そえやま……?」とオウム返しをした。

「誰ですかそれ?」

「僕にも分からない。でも多分、あの白骨死体の人だよ」

 游斗は黒島が消えた扉を見た。その隣に立つ吉瀬は暗い顔をして俯いている。

「吉瀬さんっ」

 游斗は小声で彼を呼んだ。黒島然り吉瀬然り、らしくない彼らを見ていると、游斗まで調子が狂いそうになる。

「いったい、どうしたんですか」

「……どうもしていません」

 テンションの低い返事だった。目も虚ろで、今までの吉瀬からは考えられない。

「分かりやすい嘘つかないでください。何もないわけないじゃないですか」

 吉瀬の力ない目が宙をさまよった。その瞳に向けて游斗は言う。

「教えてください吉瀬さん。黒島さんがあんなに取り乱すなんて、ただ事じゃないんでしょう? ソエヤマって……いったい何者なんですか」

 黙ったまま吉瀬は何も言わない。困った表情で視線を泳がせていると、横から伸びた腕が彼を押し退けた。

 晒科だった。彼女は游斗を見下ろすと、冷たく言い放った。

「お前が知る必要はない」

「っ、なんで――――」

「部外者が出しゃばるな!」

 再び晒科の声が轟いた。しかしそれは怒号というより、一喝。晒科から漏れている怒気は、普段のものとは明らかに種類が違った。

「……これは私たちの問題だ」

 晒科はそのまま部屋を出て行ってしまった。

 游斗は息が抜けたように背もたれにもたれかかる。心配そうな日向が視界の隅にいる。その反対側では、吉瀬が黙ったままこちらを見つめていた。

 目が合うと、吉瀬は少し戸惑いながら、そして周囲を気にしながら游斗に顔を近づけた。

「四年前、小さい女の子が犠牲になったひき逃げ事件があったんです」

 声を潜めて吉瀬は言った。游斗と日向は耳を澄ます。

「黒島さんは当時その事件を担当していたらしくて。容疑者の身元はすぐに割れましたが中々足取りがつかめず……四年間ずっと黒島さんが犯人を追っているというのは、署では有名な話です」

「なんでそこまで……?」

 游斗が聞くと、吉瀬は目を伏せた。

「正義感っていうのもあると思いますが、やはり一番は――――」

「おい吉瀬ぇ!」

 入り口から声が響いて、三人は振り返った。そこには先ほど部屋を出ていったはずの晒科が立っていた。

 吉瀬の顔色が急降下する。晒科はそんな吉瀬を一瞥して一つ舌打ちすると、游斗の目の前に椅子を動かした。

 やはり乱暴に腰を落とす。しかし、その顔つきは真剣そのものだった。

「これから言うこと、口外したらブッ殺すぞ」

 仮にも警察の人間の台詞とは思えないが、游斗は頷くしかない。

 晒科は、普通の声量で語り始めた。

「八歳のガキ轢き殺したのは大型のバイクだった。私は資料でしか見たことはないが、現場はひどい有り様でな。血がついたバイクも乗り捨てられてた。その持ち主が、添山(そえやま)って男だ」

「え……」

 游斗は絶句した。晒科は「ああ」と呟く。

「お前が見つけたあの骸骨と、添山のDNAが一致した。あれは添山の死体だ」

 部屋の空気が震えた。警察の人間の顔つきが怖くなるのが、雰囲気で分かった。

「四年間追い続けた犯人は、とっくの昔に骨になってた。やりきれねぇだろうな」

 背もたれにもたれて、晒科は億劫そうに両手の手袋を外す。白く綺麗な肌が覗いた。

「でもどうして、黒島さんは四年もその事件を?」

 游斗は素朴な疑問をぶつけた。

 ずっと追ってきた犯人が死んでいたのは残念だが、そもそもどうして黒島はそのひき逃げ事件に固執しているのか。どうしてあそこまで取り乱したのか。

 晒科は手袋をその辺に放ると、真面目な顔で游斗を見据えた。

「その事件で犠牲になったガキが、自分の姪っ子だからだよ」

「姪、っ子?」

 晒科は小さく頷いた。

「ひどく可愛がってたらしい。それこそ本当の親みたいにな。だから当時は相当なショックを……いや、ショックなんて言葉じゃ言い表せないかもな」

 そこまで言うと晒科は席を立った。窓に歩み寄ると、鍵を解いて目一杯に開け放った。

 空気が凝り固まっていた部屋に風が舞い込む。強くなびくカーテンを見ながら、游斗の中にふと疑問が生まれた。

 なぜ渡村は、添山の死体を自分のものだと思わせたかったのか。なぜ、添山の死体がこんなところにあったのか。

 游斗は日向に視線で問いかける。だが、彼女にもその答えは見出だせないのか、弱々しく首を横に振るだけだった。

「……だが、死体見つけて終わりってわけにはいかねぇ」

 窓縁に腰かけた晒科が呟いた。その手には、いつのまにか新たな手袋が握られている。

「添山は誰かに殺されてたんだ。だったら今度は、その誰かを取っ捕まえるしかねえよ」

 晒科の背中から、一層強い風が室内へ吹き込んだ。カーテンは暴れ、晒科の赤い髪は激しく舞う。

 彼女は何人かの捜査員にガンを飛ばすと、彼らを引き連れて部屋を出る。

「現場荒らしてたら許さねぇ」

 そんな言葉を最後に、晒科の姿は廊下の左側へ消えた。それと同時に、吉瀬が倒れるように椅子に崩れ落ちた。

 相当緊張していたらしい。長い長い息が漏れる。游斗が苦笑いを浮かべたとき、開いた窓から人影が舞い込んだ。

 ふわりと空中で一度動きを止めた後、静かに床に足を置く。長い銀髪と白いワンピースが特徴的な、年端もいかぬ少女だった。

「ただいまー……ってあれ? 人がいる……?」

 少女は部屋にいる刑事を見回して呟いた。だが刑事たちの方は、突然現れた少女に目もくれない。いや、気づいてすらいない。

 游斗にだけ見えているこの少女も、どうやら幽霊らしかった。

 突然、日向が少女に飛び付いた。

舞夏(まいか)ちゃーん! 久しぶり~!」

 主人の帰りを待ちわびていた犬のように、日向は少女に頬擦りをする。少女の方は困り顔を浮かべながらも、まんざらでもない様子だった。

「もう~、日向ちゃんってば~」

 女子二人は楽しそうにじゃれ、大人たちは暗い表情でいる。なんとも言えない温度差がもどかしかった。

「歌守さんっ」

 游斗は小声で日向を呼んだ。日向だけでなく、じゃれあっていた少女まで一緒に来る。

「その子は?」

「え、舞夏のこと見えるの!?」

 少女は驚いた素振りを見せる。「見えるよ」と答えてから、游斗は目で再び日向に問いかけた。

「この子は小船渡(こふなと)舞夏ちゃんっていって、私の先輩幽霊です!」

「先輩幽霊?」

「あ、先輩が幽霊ってことじゃないですからね?」

 そんなことわかっている。游斗が気になったのは、小船渡舞夏が明らかに日向より年下だったことだ。

 が、少し考えればすぐに答えは出た。日向より小船渡舞夏の方が早くに亡くなり、幽霊歴が長いのだと。

 そのことを日向に言うと、

「幽霊って成長しないんですよね。姿はずっと死んだときのままだから、年下に見えるけど実は年上、みたいな人も結構いるんですよ?」

 とのことだった。その横で舞夏が笑った。

「舞夏は違うけどね。死んじゃったのが早いだけ。生きててもまだ十二歳だから、日向ちゃんよりは年下」

 二人で笑いあう。相当仲がいいらしい。

「で……なにかあったの?」

 舞夏は刑事たちを眺め渡して日向に問いかける。日向は「うん」と頷いて、扉の外を指差した。

「白骨死体が見つかったの。向こうにあった隠し部屋で」

「あー、あれ?」

 舞夏はさほど驚きはしなかった。むしろ、白骨死体の存在を知っていたような反応だ。

「あれって本当に渡村ばぁばの骨なの?」

「……え?」

 游斗と日向は同時に言葉を失った。その様を見た舞夏が銀髪を揺らしながら首を傾げた。

「だって渡村ばぁばがそう言ってたよ? これはわしの骨だって」

「え? 違うよ舞夏ちゃん。あの骨は――――」

 言いかけた日向を、游斗は素早く手で制した。

 日向が不思議そうにする。游斗は真面目な顔を一度崩して柔らかい表情を作ると、

「小船渡さん。今渡村さんがいないんだ。ちょっと外を探してきてもらえるかな」

 と言った。舞夏は二つ返事でまた窓から外へ飛んでいった。

 游斗は息を吐いて背もたれに体重を預ける。日向が横から顔を覗き込んだ。

「どうしたんですか先輩?」

「確か幽霊が物に触れるようになるまで、三年かかるんだっけ」

「はい。早い人はですけど」

 舞夏は窓から入ってきたとき、床に足をついた。この部屋に結界はなく、それはつまり、舞夏は物に触れられるということだ。

 游斗はフードを被った。だが目はつぶらない。

「小船渡さんは、生きていれば今ごろ十二歳。つまり亡くなったのは、遅くても九歳の時」

「えーと……そうですね」

「歌守さんは今日まであの隠し部屋を知らなかった。渡村さんが結界で意図的に隠してたんだと思う」

「うーん……言われてみればそうかも」

「小船渡さんはさっき『ただいま』と言っていた。小船渡さんはここで渡村と一緒に暮らしてたんじゃない?」

「そうですけど…………もう、なんなんですか先輩! わかったことがあるならはっきり言ってくださいよ!」

 むず痒さがマックスに達したのか、日向が游斗を叩こうとする。まだ未熟な幽霊の腕は、いつものように身体をすり抜けた。

 游斗はフードをさらに深く被る。そして吉瀬へ目を向けた。

「吉瀬さん。四年前に亡くなった黒島さんの姪っ子さん、名前分かりますか?」

「名前?」

 吉瀬は思い出すように斜め上を向き、しばらくそうした後「あー、そうそう」と游斗へ視線を戻した。

「舞夏ちゃんです。小船渡舞夏ちゃん」

「……そうですか」

 游斗の中で点と点が繋がった。

 一生懸命游斗を叩こうとしていた日向は唖然とした表情をしている。

 窓から吹き込んだ一際強い風が、游斗のフードを脱ぎ取った。

 カーテンがバタバタと、うるさく音を立てていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ