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王の剣士3「剣士」  作者: 雅
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第四章 九

 村人達はレオアリスの周りに集まり、名残惜しそうに彼等の育て子を見つめた。その顔はどれも皆、恨みがましい色を浮かべている。


「来たのも教えんで、もう帰るとは、薄情もんが」

「カイルもカイルじゃ。わしらに黙って」


 祖父が取り囲まれて口篭る様を眺め、レオアリスは可笑しそうに肩を震わせた。


 そうしながら、こうして再び笑える事に、強い安堵を覚えていた。


 その姿に一斉に老人達の厳しい視線が向けられる。


「何を笑っとる、お前もじゃ」


 じろ、と睨まれてレオアリスは無理に笑いを押さえ、肩を竦めた。それから改めて彼等一人一人を見回す。


「――もう行くよ。また来る」

「年に一度しか戻らんくせに」

「いつじゃ」

「来る日を教えて行け」

「んな事言ったって……」


 四方から詰め寄られ、言葉に詰まって数歩後退る様を眺め、ロットバルトは苦笑を零した。


「上将。よろしければ、報告は私が先に戻って上げておきますが」


 老人達は嬉しそうに頷き合い、レオアリスに再び詰め寄った。


「気が利くのう」

「そうじゃそうじゃ。二、三日帰らんでも問題はないわ」

「いっそ帰らんでええ」

「それは困りますね。我々には大将が必要です」


 老人達は今度はロットバルトに顔を向ける。


「横暴じゃ!」

「そう仰られても」


 ロットバルトは老人達に詰め寄られても素知らぬ顔だ。


 レオアリスはその様子に笑い、それから僅かに迷う素振りを見せたものの、やはり首を振った。

 それは自分の任務として、王から与えられたものだ。


 落胆を浮かべ、肩を落とした村人達に再び顔を向ける。


「……またすぐ来るさ。いない間にじいちゃん達がぽっくり逝っちまっても困るし」


 そう言ってにや、と笑ってみせる。


「なんちゅう口の悪いガキじゃ」

「そうそう死なんわ」

「お前みたいな孫がいたんでは、気になって死ねん」


 口々に言いながら、それでも老人達は代わる代わる、レオアリスを抱き締める。

 最後にカイルがレオアリスに歩み寄り、束の間その顔を見つめ、身体に腕を回した。


 祖父の背を見つめたまま、レオアリスは身体を暖める温もりを噛み締める。


 ずっとこれを感じて育ってきた。

 あの手も、これと変わらない温度を持っていた気がする。


「――俺、多分ジンに会った」


 呟かれた言葉に、カイルや老人達が瞳を見開いてレオアリスを見つめる。

 数度躊躇うように開きかけた口が、結局何も紡ぐ事無く閉ざされた。


「単なる、夢かもしれないけどな。……笑ってた」


 カイルは一度だけ、静かに瞳を閉じた。


「――そうか」


 胸に架けた石は、もはや何も言わない。

 ただ深い青い色を湛えてそこにある。


 レオアリスは顔を上げた。


「……俺は、この村が好きだよ」


 カイルが少し呆れたように笑う。


「止めるのも聞かずに飛び出した奴が、良く言うわ」

「そうだけど。俺を、ここまで育ててくれた」


 色々なものをここで培ってきた。彼等なくして、今の自分は有り得ないだろう。


「まだ、礼も言ってなかったな」


 レオアリスは改めて彼等に向かい合うと、静かに、深く頭を下げた。


「ありがとう」




 

 



 飛竜の銀の翼が大きく風を孕んで空に浮かび上がる。


 一面の白銀の世界が、陽光を受けて眩しいほどに輝く。

 ここは、これから雪が降り続け、外界から隔絶された厳しい冬を迎えるのだろう。


 レオアリスは暫く白い森の奥に視線を注いでいたが、やがてそれを戻すと、まだ飛竜を見上げたままの村人達に大きく手を振った。


 手綱を引き、騎首を南に向ける。


「戻るか」


 王都へ。









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