第三章 七(二)
冷えきった王城の廊下を歩きながら、グランスレイは数歩先を行く年若い上官の背を見つめた。
壁の所々に設けられた灯火が、レオアリスの姿を夜の闇に浮かび上がらせ、また闇に溶かしていく。
闇に溶けた先に、今よりももう少し背の低い彼の姿が浮かぶ。
レオアリスは兵法などを始めとする様々な知識を、驚くほどの速度で吸収した。
グランスレイや他の中将達と戦術を論じ、その切り口に驚かされる事もしばしばあった。
任務において功を重ね、次第に、だが確実に彼の師団内部での位置は固まって行った。
剣士が禁忌となったその理由を知るごく一部の者以外には、曖昧模糊とした剣士への忌避よりも、その剣に対する驚嘆の思いの方が強くなっていった事もある。
レオアリスが師団に配属されてから半年も経たない内に、隊内での剣士に対する否定的な見方は、ほとんど消えていた。レオアリス個人によるものも大きかっただろう。
連携を重んじる隊というくびきから少し離れた位置に身を置けば、レオアリスはすぐに誰とでも親しくなった。
レオアリスを中将に、そして大将に推したのはグランスレイだ。
グランスレイはかつてのレオアリスの姿と、今目の前を歩く彼とを比べるように、もう一度その後姿を見つめた。
思えば初めてレオアリスと正面から向きあった時から、こうして彼の下に付き、彼を支えるようになる事を、何の違和感もなく受け入れていたように思う。
今まで上官だった者を飛び越えて、急に命令を下さなければならない立場になり、レオアリスは当初随分戸惑っていた。その事に煩わしさを感じていたと言ってもいい。
できればあまりしがらみのない場所に居たかっただろうレオアリスを大将へ推したのは、そこが最も彼の能力が生かされる場所であろうと考えた故だ。
周囲に軽んじられる事のないよう、事ある毎に口調や振る舞いを改めさせ、それも今ではすっかり板についている。
尤も、どこか砕けた飾り気のない態度だけは変わる事はなかったが、それは逆にレオアリスの魅力でもあり、表面では嗜めはするものの本気で改める必要はないと思っている。
まだ青年とも呼べない程の若い将だが、今ここを越えれば、おそらく彼はその先に、もっと大きな未来を向かえるだろう。
可能であれば、自分がそれを見届けたい。
謁見の間の前まで来ると扉の前で立ち止まり、レオアリスはグランスレイを振り返った。
促すように頷いてみせると、レオアリスは再び扉に向き直る。
巨大な両開きの扉は音も立てず、ゆっくりと開いた。