ヤンデレ症候群
ヤンデレまみれのお話を見たかったんですが、自分でもよくわからなくなりました。勢いで書いたので割と読みにくいです。
「は、あっ……!」
あまりの苦しさに胸を押さえる。肺がちゃんと空気を取り入れてくれない。心臓が馬鹿になったみたいにうるさい。
ダメだ、このままじゃ、わたし死ぬ……私は必死に視界を彷徨わせる。誰か、誰か……その時、私は壇上の人物に目をやった。
暗い茶色の短い髪に、不機嫌そうに歪められる青い瞳。噂では、ハーフらしい。
そんな、俺様キャラで女の子と付き合いまくりの生徒会長、篠原 秋人。あの人なら、きっと……。
私は彼をターゲットに決める。そして、好きだ、好きだと、自分に言い聞かせる。――――かちり、スイッチの入るような音が頭に響いた。
「うふふ、ふふ」
朝5時。篠原秋人の靴箱の前に私はいる。手にしているのは、手作りのクッキー。毎日手作りのお菓子を、10枚以上の手紙とともに篠原秋人の靴箱に入れる。今日で1ヶ月。毎日おかし作りを続けている。
私はさっさとこの場所を離れようと、たったっと逃げだす。
そして篠原秋人の教室につく。私の隣の隣のクラスである。ガタガタと廊下側の教室の窓を揺らすと、友達に声をかけにいった時に教室の窓の鍵を緩くしていた為、簡単に開く。
「よっしょ……と」
そこから侵入して、机の中に手紙と、今日は熊の編みぐるみを入れた。篠原秋人は熊が好きらしい。それを聞いて、何日かかけて編んだ。
私はここにいてもまずいので、ささっと廊下に出る。一仕事終えた、と息をついてから、改めて自分のやっていることの気持ち悪さに乾いた笑いを起こす。
ごめんね、篠原秋人。私の発作を抑える為の犠牲になってね。
私は最近ある病気になってしまった。名前を聞いたら笑ってしまうだろうが、「ヤンデレ症候群(父命名)」。
何か一人の異性に執着して、ひたすら追いかけまわして、そうしないと発作が起こってしまう……という、なんとも気持ち悪い体質だ。はじめはヤンデレっぽい台詞を一人で言うだけで抑えられたんだけど、最近どんどん悪くなって、それだけでは抑えられなくなってしまった。
……ストーカー行為の言い訳に聞こえるかもしれないけど、本当にそうだから、しかたない。というわけで、女慣れしていて、誰かヤンデレを引っ掛けていても分からないであろう篠原秋人に、迷惑をかけさせて頂くことにした。
「んー……今日の予定は、そうだなあ……体育の隠し撮り……くらいかなあ……」
手帳に今日のストーカー予定を書き込んでいく。さすがにこれ以上彼に精神的にストレスを溜めるのはなんだか忍びない。そろそろ対象を変えなければいけないかもしれない。
「……今度は誰を対象にしよう」
「僕にしなよ」
「〜〜っ!」
突然後ろから聞こえた声に、びくっ、と反射的に振り向く。
「あな、たは……」
「風紀委員長の橘 楓。知ってるよね?僕、秋人とよく話してるもんね?……ね、日野 ひなのちゃん」
黒く艶やかな髪に、切れ長のまっ黒な目。篠原秋人はワイルドなイケメンとして人気だが、彼はその見た目の冷たい印象のように、性格もかなり厳しいく、鬼の風紀委員長と陰で言われている。
そんな彼にさらっと名前を言われて、真っ青になる。もしかして、今までの行動は全て―――
「君のストーカー行為、全部風紀委員長の僕が記録してるよ」
「っ……」
ストーカー行為を、篠原秋人が警察に言ったら、私は捕まるんだろうか。頭では分かっていたけど、ダメだと分かっていたけど、私は………。苦しみから逃げたいばかりに、関係ない人を犠牲にしたのだ。
「ごめ、んなさい……」
「秋人に本当に悪いと思ってるなら、秋人へのストーカー行為をやめること。……分かった?」
「は、い……」
「その代わりに」
いつの間にか近くにいた風紀委員長が、耳元で囁く。
「僕のこと、ストーカーしてもいいよ?」
「え……っ」
どきっ、とときめいた。ストーカーしてもいい?私みたいな平凡女が付きまとってもいいだなんて。きっと気持ち悪いに違いないのに、彼は友人のために、ストーカーを引き受けると言うの?
ときめくと同時に、…以前より大きく、かちり、と音が響いた。
ストーカー対象を風紀委員長に変えてから、毎日が楽しい。本人に許可を得ているというのは、本当に最高だ。ばれてもなにも言われないし、翌日にお菓子の感想を言ってくれるし、発作の事を忘れてしまいそうなほど毎日が充実している。
「ねー、ひなのちゃん。いつになったら楓って呼んでくれるのかな?」
「すすすすストーカーの私が下の名前呼びなんて恐れ多い!」
「んー?なんか良くわかんないけど、ポリシーかなんかあるの?」
ふふ、と笑う風紀委員長は、本当に優しい。この間はいつものお礼に、と、駅前の美味しいプリンを買ってきてくれた。私の一番好きなお菓子、プリン。風紀委員長は感が良いのかもしれない。この間も、何も言っていないのに、私の一番好きなバンドのインディーズ時代のCDを貸してくれた。
「風紀委員長、CDすごく良かったです!」
「そっかあ。良かったよ〜。ひなのちゃんが欲しいなら、それ、あげる」
「えっ……!」
これ、かなり貴重なものなのに……。本当はすぐ断って、返すべきなんだろうけど……
「うぅ……ほ、本当にいいんですかっ……」
欲望には勝てなかった。
「たまたま知り合いに譲って貰ったからね。僕はあんまり興味ないんだあ」
「わぁあ……まさか手に入るなんてっ」
思わず顔が緩む。私のふにゃふにゃになった顔を見て、先輩がふふ、と笑う。顔を見て笑われたら普通イラっと来るのかもしれないけど、風紀委員長の笑顔は綺麗すぎて、なんかこう、許せちゃう。
「じゃあ、その代わり、今度僕の好きなマフィン作ってきてよ」
「はい!私、お菓子作りは得意ですから!」
「自分以外の相手に作ってきたから、と思うと、なんだか嫉妬しちゃうけどね」
「あはは」
風紀委員長は、私のストーカー行為を優しく包んで、こんな風に冗談も言ってくれる。人生最高のストーカー相手だった。
「私、風紀委員長とずっと一緒にいたいです」
ストーカー相手として。
そう言うと、目の前の風紀委員長が嬉しそうに微笑んで、それと同時に、どこからかどさ、と何か落ちる音が聞こえた。
「……あ」
振り向くと、運んでいたらしいダンボールを落としている、篠原秋人の姿があった。どこを見ているか分からないその視線は、どこか虚ろで、私がいつも追いかけていた姿と違うことに違和感を覚える。
私がそちらを見ていることに気づいたらしい篠原秋人は、こちらを向いた。私と目が合った瞬間、何か言いたげな顔をして、それからダンボールをおいたまま、どこかへ行ってしまった。
「どうしたんでしょう……」
「さあ……僕、秋人にダンボール届けてくるね」
親友があんなに動揺していたというのに、やけに嬉しそうな風紀委員長に、私はひとり首を傾げた。
________
皆さんおはようございます。日野ひなのです。さて、ここはどこでしょう。……答えは私もわからない。
なんて、脳内でふざけている場合じゃない事は分かってるんだけどね。けどふざけてないと冷静さを保ってられない。
「なにこれ……」
私が寝ているのは、とても大きくて、そしてふかふかなベッドだった。まぁ、ただ寝ているのではなく、手錠で上に手を固定されてしまっているんだけど……。
記憶を辿ると、たしか、私は夕方家に帰る途中だった。その時に、誰かに後ろから……うーん……よく分からないけど、その時に何かしらで気絶させられたらしい。痛みはないから、殴られた……とかではないと思うけど。
しかし、このベッド……寝心地がすごく良いんだけど、まくらといい、掛け布団といい、どこか私のベッドに似ている。
似ている、いや……ほぼ、同じだ。
「……あ、れ……これ……」
よく見ると、この部屋……そっくりだ。
気づいた瞬間、ぶわ、と身体中に鳥肌が立つ。そうだ、この部屋、広さこそ違うけど、だけど。
「わたしの、部屋……」
タンスの大きさも違うし、よく見ると似ているだけでどれも違う。しかし、家具の配置から、本棚の漫画、それに昨日私が広げていた日記帳を真似したように、まっしろなノートが机に広げられている。
「………なにこれ………」
がたがた身体が震える。何が起きているのかよく分からないけど、私はこの自分の部屋とそっくりなここに監禁されている……私を監禁している人間は、私の部屋に入ったことがあるということか。
けど、そんなの、幼馴染みや家族くらい。この体質のせいであまり深い友人が出来ず、休みの日に遊ぶことも少なかったし……。
じゃあ、なんで?だいたい、なんで昨日広げていた日記帳までも、真似されてるの?
「こわい……」
思わず口から漏れる。知らないうちに、人に情報を知られている恐怖。いつの間にか、知らないところに連れてこられて、しかも監禁されている恐怖。
ふと、あることに気づく。そうだ、私にストーカーされた篠原秋人もきっと、こんな風に怖かったんだ。知らない間に、知らない女に情報を握られて、手作りのお菓子を毎日靴箱に入れられて………きっと、こんなに怖くて、気持ち悪かったに違いない。
「ごめ……なさい……」
ぱたぱた、掛け布団に涙が落ちる。最近、うまく行きすぎて、忘れていた。私は、自分の苦しさを紛らわせるために、篠原秋人を苦しめてきた。こんな私に、一人前に怯える権利なんてあるのだろうか。
「……っ……ふ…」
一度そんな風に思うと、涙が止まらなかった。ひとりでこんな場所にいると心細くて、余計に悪いことばかり考えてしまう。
私がただでさえ平凡で可愛くない顔をぐちゃぐちゃにして泣いている時、がちゃ、と部屋の扉が開いた。
「……っ」
足音が近づいてくる。こわい。顔が上げられない。誰なのだろうか。もしかしたら、何かしら私に恨みを持ってる人かもしれないし。……私、殺されるのかな。いやだな、家族や幼馴染み、先輩に挨拶したかったな。死ぬなら、最後に今まで迷惑かけた人たちに謝りたかったな。
ぎし、とベッドに乗り上げてくる音が聞こえる。呼吸が聞き取れるほどすぐ近くに、誰かの顔がある。
「……泣いているのか」
ぐっ、と長い指が私の目元を拭った。その声は、私にとってものすごく聞き覚えのあるものだった。
「え……っ」
その声に驚いて、思わず顔を上げる。
私に覆いかぶさるようにそこにいる人物。染めていると聞いていた暗い茶色の髪の毛は、近くだと思ったよりサラサラに見える。青い綺麗な瞳は、まっすぐ私を見つめていた。
「か、いちょう………」
「名前で呼べ、ひなの」
あれだけストーカーしていた私が見たことのないような、うっとりとした表情でこちらを見る篠原秋人に、もしかして違う人なのだろうか?と頭が混乱する。
「ほら、ひなの、秋人って呼べ。楓は呼び捨てにしてないんだろう?俺を一番にしろ、ひなの」
……どうやら本当に生徒会長、篠原秋人らしい。あまりの驚きに、いつの間にか私の罪悪感や涙が吹っ飛んでいた。
「ひなの、愛してる」
「は、え……?」
「俺と同じ愛情表現をしてくれたのはひなのだけだ。俺のことを一番分かってくれている……愛してる、愛してる、ひなの」
「ちょ、」
訳も分からないままに、首筋に頭を埋められて、少し首を舐められた。ひいっ!
非リア充として生きてきて17年。そういう経験値はゼロ。かぁあっと顔が熱くなる。
「ひ、っ」
篠原秋人の高い鼻が首筋に触れて、こそばい。何だこれ、どうしたら良いんだこれ!
「や、やめてください!!!」
「うぐっ!!!」
慌てて足で篠原秋人の股間を思いっきり蹴り上げると、彼の動きが停止した。
「〜〜っ!」
私の隣に倒れ込んで、なんかじたばたともがいている。今のうちに逃げたかったけど、手錠がガチャガチャと音を鳴らすだけで、全く外れそうにない。
「な、なんでこんなことするんですか、会長」
「……俺と、ひなのは両思いだろ……。ひなのが恥ずかしがるから、表立っては会えなかったが、お互いに愛情確認はちゃんとしてきたじゃないか」
「あ、愛情確認……?」
「ひなのは毎日俺にお菓子をくれて、ひなのがの部屋にクマの人形がたくさんあるから、クマを好きになった俺に、クマの人形も作ってくれた」
いやクマはそんなに好きではないけど、なんとなく部屋に置いてるだけ……というか、やはり、篠原秋人は私の部屋を知っているらしい。
「で、でも会長はなにも返してくれませんでしたよね?」
と、篠原秋人の話に乗ってみる。なんだか様子がおかしいので、否定したらなんだかやばい気がする。
「安心しろ。ちゃんと部屋にカメラと盗聴器は仕掛けてたし、隠し撮りもかかさなかったし、ひなのの飲んだペットボトルは必ず回収していた」
「……っ」
私の遥か上をいくストーカー実績に驚く。部屋にカメラ……盗聴器……いつの間に?全く気がつかなかった。かなり驚いたけど、とりあえずもう少し聞いてみる。
「で、でも、靴箱とか机に何か入れてくれたりは、してない……じゃないですか」
「してたのに、全て楓に片付けられた。あいつが俺とひなのの愛を邪魔した。なのにひなの……何でた?俺が好きだろ?なのになんで隠し撮りもお菓子もプレゼントも、全部やめたんだ?なあ。なんであいつにしているんた?」
篠原秋人の目がすわっているのがものすごく怖い。私がにわかヤンデレだとしたら、篠原秋人は本気のヤンデレだ。
レベルの高さに、自らを棚に上げてどんびいていた私を、突然息苦しさが襲う。
「……っ、く…ぐ…」
タイミング悪く、発作がはじまってしまった。あぁ、ヤンデレの真似事をしないと、くるしい、くるしい、心臓がバクバクうるさくて、痛い。
「どうした?ひなの、大丈夫か」
苦しみながら、目の前にいる篠原秋人を見上げる。発作を止めなきゃ。彼は都合がいいじゃないか。私が篠原秋人を愛してしまえばいい。私の体質上、いくらヤンデレても問題のない篠原秋人は、丁度いいはずなのに。
そう思うのに、何故か、私の頭の中でかち、と音が鳴らない。
なんでだろう。頭の中に、風紀委員長が浮かぶ。
「わた、し………っ、風紀、委員長が、すきです
迷惑かけた、ことは、ごめん……なさい」
発作の苦しみの中で、なんとかそれだけ言った。目の前の篠原秋人の顔が歪む。
「な……んで?なんでだ、俺は迷惑なんて思ってない。なんで、なんで、愛し合ってたじゃないか。ひなのは俺が好きなはずだ、なんで俺を拒否する?ひなのなら俺の愛をわかってくれると思っていたのに。どうして」
ゆら、と立ち上がった篠原秋人が、近くにあったカッターを持つ。あぁ、やばいかもしれない。どっちにしろ、このまま発作が続いたら、きっと死んでしまうのだろうけど。
息が苦しい。いっそ楽になりたい。頭がぼーっとしてきたときに、部屋の扉が勢いよく開かれた。
扉から現れた人物をみて、思わず涙が流れる。風紀委員長だ。助けに来てくれたのだろうか。なんだかとてつもなく嬉しくて、嬉し涙が止まらなかった。
「ひなのちゃん!!」
「くそ、楓……!」
篠原秋人が、風紀委員長に刃を向けた。いやだ。私を殺すのは構わない。私の自業自得だもの。だけど、優しい風紀委員長に怪我をさせたくない。
止めようと思うのに、発作が悪化して、声が出ない。
「お前のせいで……!」
篠原秋人が風紀委員長にカッターを突き刺そうとするのが見える。
「っく……!」
「おとなしくしなよ、秋人。これ以上悪者になりたいの?」
風紀委員長は、素早く篠原秋人の手首を掴んで、そのまま捻りあげ、カッターを取り上げてしまった。
「秋人は、ひなのちゃんを傷つけたいわけ?見苦しいよ」
「………っ」
風紀委員長のその言葉に、ふらふらと篠原秋人が出て行く。その後ろ姿に、私のせいで、と申し訳なくなる。そもそも、私が自分のためだけに篠原秋人にストーカー行為をしなければ、彼はこんな思いをしなくて済んだのに。
「ひなのちゃん、大丈夫?……どうしたの?」
風紀委員長が様子のおかしい私に、慌てて近づいてくれる。
苦しくて、近くに風紀委員長がいるとどうしても耐えられなくて、私は近づいてきてくれた風紀委員長に、無我夢中で抱きつく。
「わたしだけの、ものに、なってください」
なんとかヤンデレっぽい台詞を絞り出すと、体がすっと軽くなる。私のその言葉に、風紀委員長がふわっと微笑んでくれる。
「喜んで」
私がヤンデレ症候群で
最初の私の被害者が真性のヤンデレ(?)で
実は風紀委員長が更に危険なヤンデレだということを
私はまだ知らない。
活動報告で、風紀委員長のうらばなしを今日中に上げておこうと思います
ぐちゃぐちゃな文なのに読んでくださりありがとうございました(´・ω・`)ヤンデレまみれのやつ誰かかいてください
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活動報告にて短めの続きのようなもの。風紀委員長が一番あくしつというオチがつけたかっただけでした(´・ω・`)