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09 告白と消火器と暗黒舞踏

「――それで、話って何なの、委員長?」

 木漏れ日が射し込む、静かな中等部の校舎裏で、何仙姫は自分を呼び出した、同じクラスの委員長……春日翼かすがつばさに問いかける。

「兄さんや友達を待たせてるから、話があるなら、早くして欲しいんだけど……」

 翼は如何にも、少女漫画でヒロインの相手役になりそうな感じの、爽やかな外見の少年。だが、自分で何仙姫を呼び出しておきながら、翼は所在無さげに、切り出さなければならない話を、言いよどんでいた。

 しかし、何仙姫に話を急かされて、ようやく意を決し、翼は何仙姫に問いかける。

「崑崙八仙は今……誰か付き合ってる人とか、いるの?」

「――え? そういう人は……いないけど」

 戸惑い気味に、何仙姫は目線を泳がせる。

「だったら、その……良かったら俺と、付き合ってくれないかな? 俺、前から崑崙八仙の事を……」

 翼が勇気を振り絞って口にした、口説き文句が終わる前に、校舎裏に乱入する者がいた。

「何仙姫を誑かそうとする害虫がいるのは、ここかぁー?」

 まるで出刃包丁を手にして、「悪い子はいねえかー?」と家々を回る、東北地方の妖怪なまはげの様な口調で、大声を上げながら、目を血走らせた花果王が、校舎裏に現れたのだ。出刃包丁では無く、走って来る途中でゲットした、赤い消火器を手にして。

「に、兄さん!」

 驚きの声を上げる何仙姫を目にしてから、その傍らにいる翼の存在に気付いた花果王は、鬼の様な形相で、翼を怒鳴り付ける。

「貴様が何仙姫に手を出そうと目論む、忌むべき虫けらか! ゴミ虫か! 害虫か!」

 突然の出来事に、まともに反応出来ず、呆然としている翼に、花果王は安全装置を解除した消火器の、ノズルを向ける。

「害虫は駆除すべし! 駆除すべし! 駆除すべーしッ!」

 奇声を発しながら、花果王は消火器のトリガーを引く。すると、粉雪の様に真っ白な大量の消化剤が、翼に向かって吹き付けられる。

「うわああああああああああ!」

 言葉にならない悲鳴を上げ、消化剤で全身を真っ白く染め上げられながら、翼はパニック状態に陥り、地面の上をのた打ち回る。

「ひゃははははははは! 踊れ踊れ、あたかも暗黒舞踏のダンサーの如くゥ!」

 全身を白く塗り、奇妙な踊りをする暗黒舞踏に、花果王は翼の姿をなぞらえる。

「い、委員長が暗黒舞踏のダンサーに……」

 花果王に遅れて校舎裏に駆け付け、千佳耶達と共に様子を窺っていた文月が、翼の悲惨な状態を目にして、哀れむ様な口調で呟く。

「暗黒舞踏のダンサーの分際で、我が最愛にして世界最高の妹である何仙姫に手を出そうなどとは、片腹痛い! 兄である俺様が駆除し、この世から消し去ってくれる!」

 白い粉塵となり、咳き込む翼の周囲に漂う消化剤の状態を確認しながら、花果王は懐から銀色のライターを取り出す。

「くくくくく……粉塵爆発というのを、知っているか? 貴様の周囲の様に、細かい粉塵が高密度で漂っている状態で、引火するとだなぁ! 粉塵爆発という大爆発を引き起こすのだあああぁ!」

 高笑いしながら、花果王はライターに火を点けようとする。

「何仙姫に付こうとする害虫を、今……粉塵爆発で駆除す……ぐえっ!」

 花果王の声が、苦しげな呻き声と共に途切れる。何仙姫が花果王の顔を右拳でぶん殴りながら、左手でライターを奪い取ったのだ。

「兄さんのバカッ! やり過ぎよッ!」

 凛とした何仙姫の叱責が、辺りに木霊する。

「ゴメンね、委員長! ウチの兄さんが、酷い事しちゃって……大丈夫?」

「――あ……う……あ……うん……大丈夫……だと思う……何とか」

 何仙姫の言葉を聞いて、ある程度パニック状態から回復した翼は、返事をする。

「良かった。あと……もう一つゴメンね。私……今のところ、誰とも付き合う気無いの。こんなバカな兄さんの面倒見るので、手一杯だから。両親も海外に出張中で、私以外に兄さんの世話する人……いないし」

 何仙姫は花果王の襟首を掴みながら、呆然としている翼に背を向けつつ、言葉を続ける。

「委員長なら、私より素敵な彼女……すぐに出来るよ」

 そう言い残すと、何仙姫は花果王を引っ張って、野次馬として見物していた友人達を引き連れ、歩き去って行く。全身を消化剤で真っ白けにされた上、失恋してしまった、悲惨な少年を独り残して……。



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