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08 崑崙八仙グループ

 微風に枝葉を揺らす木々の壁に、二棟の校舎は遮られている。私立鳳翔学園の高等部と中等部の校舎は、二百メートル程の幅がある林を挟んで、建っている。

 初夏の太陽が、青空に昇り切っている現在、鳳翔学園は昼食の時間である。鳳翔学園には給食は無いので、学食で昼食を食べる者もいれば、弁当を持参する者もいる。

 高等部と中等部を隔てる林の中には、芝生に覆われた広場の様になっている場所があり、弁当派の生徒達に、昼食の場として利用されている。今日も至る所にレジャーシートなどを敷いて、弁当を食べている生徒達が、沢山いるのだ。

 花果王も広場の隅で、友人達と共に、レジャーシートを広げている最中だった。そんな花果王達に、二人の少女が近寄って来る。

 制服である紺色のブレザー姿の花果王は、歩み寄ってきた二人の少女に問いかける。

「あれ? 何仙姫は?」

 制服姿の二人の少女の内、ボーイッシュなショートヘアの少女が、花果王に返事をする。

「何仙姫は委員長に呼び出されてたんで、少し遅れるって」

 二人の少女は何仙姫の親友であり、中等部の三年生である。花果王と何仙姫が昼食を広場で共にする事が多い為、何仙姫にくっついてくる形で、二人の少女も花果王や花果王の友人達と、仲良くなったのだ。何仙姫と中等部の友人二人、花果王と高等部の友人三人の七人は、崑崙八仙兄妹が中心となっている為、崑崙八仙グループと呼ばれている。

「あれは絶対、告白ね! 委員長、前から何仙姫に告白するチャンス、狙ってたし!」

 三つ編みに眼鏡というスタイルの少女の言葉を聞いて、驚きの表情を浮かべた花果王は、少女を問い詰める。

「ふ、文月ふみつき! それは確かな話なのかッ?」

 花果王に身体を揺すられながら詰問された、三つ編みの少女……空也そらなり文月は、自信有り気な口調で、答えを返す。

「前に偶然、聞いちゃったんだ。委員長が友達に、どうやって何仙姫に交際申し込んだらいいかって、相談してたのを」

「そんな悪い虫が、また何仙姫に付こうとしていたとは……気付かなかったッ! 先週駆除したばかりだというのに、またなのかッ!」

 ロイド眼鏡の奥の瞳に、怒りの炎を灯しつつ、忌々しげに、花果王は言葉を吐き捨てる。

「確か先週、何仙姫を口説こうとしてたのは、高等部のボクシング部の二年だっけ?」

 ハリネズミの様に逆立った髪が印象的な、だらしなく制服を着崩している長身の少年が、花果王に問いかける。

「微妙に違うよ、詩文しもん。ボクシング部の奴じゃなくて、プロ志望で玖多良木くたらぎボクシングジムに通ってる奴。ボクシング部の連中より、強いって言われてた奴だって」

 少女に見紛いそうな外見をした、栗毛の少年が、長身の少年……浦賀うらが詩文の問いに、花果王に代わって答える。

「そうだったか。詳しいな、慧練えれん

「ボクシング部の友達から、聞いたんだ」

 栗毛の少年……瓜生うりゅう慧練は、レジャーシートの上に座りながら、話を続ける。

「でもまぁ、花果王にぶちのめされたせいで、今は強さの評価が、ガタ落ちらしいけど」

 小学校時代からの幼馴染であり、現在はクラスメートでもある、詩文と慧練の目線の先では、花果王が頭を抱え、思い悩んでいた。

「何でこう、何仙姫の周りには、付こうと目論む悪い虫が、次々と……」

 眉間に皺を寄せながらの花果王の愚痴に、張りのある少女の声が応える。

「そりゃ、学園ではトップクラスの人気者なんだから、何仙姫は。今まで恋人がいなかったのが、不思議なくらいなんだし」

 レジャーシートを敷いていた少女が、呆れ顔で呟く。引き締まった大柄の身体を持つ、色黒のボーイッシュな少女には、黒のベリーショートの髪型が、良く似合っている。

「付きたがる悪い虫なんざ、幾らでもいるわよ。全然モテないアンタと違ってねー」

「モテないという点については、マサキチなんぞに言われる筋合いは無いわ」

「ま、マサキチ言うなッ! チカヤと呼べ、このシスコン!」

 マサキチという男の子の様な仇名で呼ばれた、ベリーショートの少女……真咲千佳耶まさきちかやは、不愉快そうに花果王を怒鳴り付ける。千佳耶も花果王の幼馴染で、クラスメートでもある。

「マサキチだって、彼氏とか出来た事無いの、知ってるぞ! モテない度数で言えば同レベルだというのに、自分を棚に上げ、俺の事をとやかく言ってるんじゃねえ!」

「そ、それはその……あたしはバスケ部が忙しくて、男とか作ってる暇が無いだけの話よ。暇があったら、あたしだって……」

 自分にも恋人がいた例が無かった事実を指摘され、千佳耶は、しどろもどろになる。

「バーカ! 暇があっても、お前みてーな脳まで筋肉女に、男が出来るか! 何仙姫程の超絶美少女なら、悪い虫もたかるのだろうが、マサキチ……貴様に付こうとする悪い虫なぞ、少なくともアジアには存在せんわ!」

 花果王の毒舌に、千佳耶が何か言い換えそうと口を開きかける。しかし、花果王は千佳耶には構わず、文月を問い詰める。

「それで、その悪い虫の委員長ってのは、どんな糞野郎だ?」

「悪い虫って……良い奴だよ、委員長。サッカー部のキャプテンで、勉強も出来るし」

 その問いには文月では無く、ボーイッシュな方の中等部の生徒が答える。

「何仙姫をたぶらかそうとしている時点で、どんな奴であろうが、俺様にとって、そいつは只の悪い虫……駆除すべき害虫に過ぎん!」

 花果王はボーイッシュな少女の胸倉を掴み、語気を荒げながら続ける。

「何仙姫と害虫は、何処にいる? 素直に吐かんと、遙南はるかな……お前の家が、俺が個人的に開催する、キャンプファイヤーの会場になるぞ! 無論、キャンプファイヤーの材料は、貴様の家の柱と家財道具だッ!」

「ちゅ、中等部の校舎裏……だけど、そんな事知って、どうすんのよ?」

 遙南……蘇峰そほう遙南の問いに、花果王は当然だと言わんばかりの口調で、答える。

「害虫を駆除しに行くに、決まってるだろ!」

 猛り狂うバッファローの様に、中等部の校舎に向かって、花果王は駆け出す。

「ふははははははははははははは! 待っていろ、妹を誑かさんとする害虫め! 妹を愛する事にかけては間違いなく世界一の俺様が、貴様を徹底的に駆除してくれるッ!」

 高笑いしながら広場を猛スピードで駆けて行く花果王を、目で追いながら、他の崑崙八仙グループの面々に、千佳耶は声をかける。

「アタシ達も行くよ!」

「――止めるんですか?」

 文月の問いに、千佳耶は平然と答える。

「いや、見物しに行くだけ。面白そうだから」

「いいんですか、そんな理由で?」

 そう呟く遙南まで含めて、崑崙八仙グループの面々は皆、花果王の後を追いかけ始める。基本的に崑崙八仙グループは全員、野次馬体質なのだ。



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