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30 金庫室に集うキャスト達 04

「な、何だァ?」

 花果王は声をあげつつ、即座に後方に飛び退いて、土砂崩れの様に崩れ落ちて来る、コンクリートや鋼鉄の破片……そして、多数のケーブルが接続されたままの、黒いサーバーラックを避ける。大量の崩落物を避ける為、花果王は金庫から遠ざかる事になる。

 魁や京……凰稀なども、悲鳴を上げつつ、雪崩れの様に崩れ落ちて来る、大量の崩落物を回避する。崩落物は金庫の上に落下し、ライスの上にかけられたカレールーの様に、金庫の周囲に散らばって行く。

 そして、土砂崩れの如き天井の崩落が終わると、上階から女性が飛び降りて来て、大量の崩落物を被っている、金庫の上に着地する。その女性は日本刀を手にしていて、夏の青空の様な色合いのスーツを身に纏っていた。

 天井を斬り崩して、閻が金庫室に飛び込んで来たのである。

「サスペンス……という事は、グレアムでは抑え切れなかった訳ですか」

 飛び退いた際、転倒してしまっていた魁は、京に助け起こされながら、口惜しげに呟く。グレアムの敗北自体は無線連絡で知っていたのだが、グレアムが即座にサスペンスへの追撃を始めた事も、同時に連絡を受けていたので、魁はサスペンスをグレアムが抑え切る事を期待していたのだ。

「サスペンス!」

 ドミノマスクの下で表情を綻ばせつつ、凰稀は閻に声をかける。

「何やってるのよ、スリル! まだ金庫に穴を開けてなかったの?」

「いや、警察の連中どころか、フォルトゥナまで現れたせいで、爆破する暇が無かったんだってば!」

 閻に問い詰められ、凰稀は言い訳をする。

「――仕方が無いね、だったら……あたしが斬るまでの事!」

 金庫の上で鞘に桜花を戻すと、閻は金庫に向けて腰を落として身構え、鋭い気合いと共に抜刀する。刀身が閃くのと同時に、鐘の音の如き音が響き、金庫の壁に無数の切れ目が入ったかと思うと、金庫は先程の天井の様に崩れ始める。

「うわあああああああッ!」

 すると、崩れ行く金庫の中から、断末魔の悲鳴の如き、情けない男の声が上がる。

「中に人が? 人を斬った手応えは無かったが……」

 閻は驚き焦りながら、天井で自分が足場にしている部分と、一枚の壁を残して崩れ落ちた、金庫の中に飛び降りる。そして、金庫の破片である金属片に埋もれ、苦しげに呻いている中年男の存在に、閻は気付く。

「大袈裟なんだよ! 破片は細かく刻んであるんだ! その程度被ったって、どうという事は無い……ん? こいつは……圷秀光!」

 金庫の中にいたのは、秀光だった。魁達に先んじてエンセファロンに下りた秀光は、花果王が警備の者達相手に、西側で戦っている間に、東側から下りて金庫室に辿り着き、金庫の中に身を隠していたのである。

 他の者には任せては置けぬとばかりに、鞘や柄に翼の様な装飾が施された銀色の長剣、アニヒレイターをしっかりと抱き締め、秀光は護っていた。

「アニヒレイター! そいつはアズルランドに返還する為に、我等スリル&サスペンスが奪わせて貰う!」

 金庫内に駆け付けた凰稀が、アニヒレイターに手を伸ばし、奪い取ろうとする。

「や、止めろォ! これは俺の物だッ!」

 金庫の破片に埋まったまま、秀光は銀色の長剣にしがみ付き、奪おうとする凰稀に抗う。

「お前の物じゃない! こいつは、アズルランドの物……宝だよ!」

 そう言い放ちながら、閻は桜花の峰で秀光の両手を打ち据え、抵抗を封じようとする。だが、秀光は抵抗を諦めない。

 真っ青な顔に、情けない程に狼狽しきった表情を浮かべながら、秀光は抵抗を続ける。

「頼む! これを奪われると、俺は……俺は死んじまうんだ! 魔剣に……殺される!」

「なーに寝言言ってんだよ、この悪徳経営者が! 寝言は夜、寝てから言え!」

 今度は鞘の先端で、腹部の急所を突き、秀光を失神させながら、閻は言葉を吐き捨てた。

「あの様子だと……あの野郎、やっぱりアニヒレイターに生贄を捧げて、願いを叶えていやがったな!」

 失神する前に秀光が見せた醜態から、花果王は確信する。同じ確信を、魁がしていた事には、気付きはしなかったのだが。

 秀光が失神した為、アニヒレイターの奪取に成功した凰稀は、同じ獲物を狙う花果王に見せ付ける様に、銀色の長剣を頭上に掲げる。

「アニヒレイターは、スリル&サスペンスが奪い取ったッ! 残念だったな、怪盗フォルトゥナ!」

 金庫から十メートル程離れた場所から、自分達を見上げている花果王を見下ろしながら、満足気な笑みを浮かべ、凰稀は続ける。

「お前等は何時までも、予知能力だの何だのと、馬鹿らしいオカルト話でも続けているがいいさ! 逃げるよ、サスペンス!」

 凰稀は金庫の屋根を中継し、天井の穴に向かって跳躍する。二階建ての家程の高さがある金庫室の天井なのだが、金庫の屋根を足場にして再跳躍すれば、高い運動能力を誇る凰稀と閻なら、余裕で飛び上がれるのだ。

 だが、凰稀の足が金庫の天井を蹴る直前、銃声が立て続けに響き渡り、金庫の天井を揺らした。足場が揺らいだせいで、跳躍に失敗した凰稀を抱いて、閻が金庫の屋根を蹴る。

 宙に舞った二人にも、銃撃は続くのだが、閻は凰稀を抱いていない右手で、抜いた桜花を振り回し、全ての弾丸を弾く。閻は凰稀を抱いたまま、天井の穴を通り抜け、無事に上の階……サーバーエリアの一室に、移動する。

「もう動けるんだ……見た目より頑丈じゃないか、オカマのガキの分際で! もう少し痛め付けておいた方が、良かったみたいだな」

 階下で自動小銃を構え、口惜しげな顔で自分を見上げているグレアムを見下ろしつつ、閻は呟く。

「グレアム!」

 扉の穴から金庫室に入って来たグレアムの姿を目にして、魁は声をかける。

「氷川からの連絡で聞いてはいたが、本当に怪盗フォルトゥナまでいるのか!」

 金庫に飛び乗り、屋根を蹴って凰稀と閻の後を追おうとしている花果王の姿を目にして、グレアムは驚きの声を上げた。

「怪盗フォルトゥナ! 逃がさん!」

 京も花果王の後を追い、金庫の屋根に飛び乗ると、天井の穴に向かって跳躍し、上階のサーバーエリアの一室に入る。

「全く……揃いも揃って人間離れした運動能力の持ち主ですね。皆さん、泥棒や警官より、スポーツ選手の方が向いているのでは?」

 常人より優れてはいるが、人間離れしている程では無い運動能力の持ち主である魁は、追跡は自分の部下である、人間離れした運動能力の持ち主に任せる事にする。

「グレアム、これからグランド・フィナーレを開始するので、連中を追跡して、ステージに追い込んで下さい!」

「了解! それで貴様は、どうするんだ?」

「無線で指揮を執りつつ、僕もステージに上がりますよ。アニヒレイターを追う怪盗フォルトゥナも、そこに現れるでしょうから」

「まるで、怪盗フォルトゥナの方が、狙いの本命みたいな言い方だな?」

 金庫の屋根を蹴りつつ、グレアムは尋ねる。

「まだ質問の答えを、貰っていないものでね」

 その質問を魁がした際、場に居合わせなかったので、意味が分からなかったのだろう、訝しげに首を傾げながら、グレアムは天井の穴に姿を消した。

「アニヒレイターを手にしたスリル&サスペンス……おまけに、彼女等を追う怪盗フォルトゥナが、上に向かいました」

 頭にはめたままの、ヘッドセット型の無線機を使い、魁は警備指揮室に指令を出す。

「これより最終手段……グランド・フィナーレを開始します。キャスト以外の方々を、ステージ付近から完全に退出させて下さい」

 舞台劇の終わりを意味するかの様な名称の、最終手段の開始を、魁は宣言する。スリル&サスペンスによるアニヒレイター奪取の阻止に失敗した際、彼女等の逃亡を阻止する為、魁が莫大な資金を投じて用意した最終手段こそが、グランド・フィナーレである。

 グランド・フィナーレの開始を宣言したついでに、失神している圷の為に、救護班を金庫室に来る様に手配しながら、魁自身も金庫室を後にして、階上に向かった。グランド・フィナーレの行方を見届ける為に。



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