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14 規格外犯罪殲滅局参戦

「とうとうスリル&サスペンスの、犯行予告日になった訳だが……」

 ブラウンのイタリア製スーツを、着崩す姿が似合わない、粗野な感じの中年男性が、苛つきを隠さずに、強い口調で問いかける。

「貴様達に任せて、本当に大丈夫なんだろうな?」

「ご安心下さい、圷さん」

 マホガニーの仕事机の前に立っている人間の一人、鼠色のスーツに身を包んだ、三十代中頃の銀縁眼鏡の女性が、問いかけて来た男……圷秀光に答える。

「我々は全力を尽くして、スリル&サスペンスの目論見を阻止しますので……」

 アルカナ・グループ本社ビルの最上階にある会長室で、女性が秀光にかけた声は、女性の隣にいる男性によって、遮られる。

「大丈夫かと訊かれて、そうだと言い切れる種類の仕事じゃないんですよ、圷さん。警察も探偵もね」

 銀縁眼鏡の女性の言葉を否定するのは、白いスーツ姿の魁。室内にいる為、スーツと同じ色のソフト帽は、脱いで手に持っている。

「ま、氷川ひかわ警視の様な警察の方は、その手の本音は立場上、口に出来ないんでしょうが」

 そう言いながら、魁は銀縁眼鏡の女性……氷川薊あざみに微笑みかける。

「ふざけるな! 今回の警備に、金を幾らつぎ込んでいると思っているんだ? お前達なんぞには、一生かかっても稼ぎようがない大金を、はたいているんだぞ!」

 仕事机と色を合わせてある、革張りの椅子から立ち上がり、秀光は魁に食って掛かる。

「それにも関わらず、大丈夫と言えない程度の警備体制しか敷けないとは、貴様達はプロを名乗って、恥ずかしく無いのか?」

「言葉に気を付けろ、この俗物がッ! たかが貴様の会社……アルカナ・グループが提示した程度の端金で、これだけの警備体制が敷けると思うのか?」

 甲高い声で、そう秀光を叱責したのは、魁の傍らに控えていたグレアム。ゴシック・ロリータ調の黒い派手なワンピースを、魁に着せられているグレアムである。

 魁仕込みの流暢過ぎる程の日本語で、グレアムは秀光を叱責し続ける。

「これだけ厳重な、今回の警備体制を敷いた金の殆どは、ソリッド・ヒストリーが出しているんだ! 勘違いもいい加減にしろ、貴様の会社が出せる額では、この十分の一の警備体制も敷けやしないというのに!」

 外見に似合わない、グレアムの言葉の迫力に気圧され、秀光は力無く椅子に座り込む。

「一応は依頼主なんだから、そういう口のきき方は止めなさい、グレアム。それに……可愛い君に、そういう口調は似合わないよ」

 優しい言葉で、魁はグレアムを窘める。

「君に似合う口のきき方は……ベッドの上で、私に愛を強請った時の、甘える様な口調だよ、うん」

 魁の言葉を聞いて、その場にいる者達は、目を丸くする。女装している上、見た目は少女にしか見えないとはいえ、グレアムが少年だという事は、この場にいる皆が知っている。

 少年である上、日本では性的な関係を持てば、条例や法律に引っかかってしまうだろう年齢のグレアムと、まるで身体の関係があるかの様な言葉を、魁が警察の人間がいる場所で口にしたが故、皆は驚いたのである。

「――貴様にベッドの上で、甘える様に愛を強請った経験など、僕の人生の何処にも存在せんわッ!」

 厳しい口調で、そう言い放ったグレアムは、身長百五十五センチの身体には、大き過ぎる様に見える、黒い機関銃……AS70を手にして、銃口を魁の頬に突き付けている。

「今回は拳銃じゃ無いのね、べレッタなのは何時も通りみたいだけど」

 ラスベガスの一流マジシャンでも、そこまで見事に何かを出現させるのは不可能だと言える程、グレアムは瞬時に自分の手元に、黒い機関銃を出現させた。ハトと同程度の大きさの拳銃どころか、グレアムの小さな身体には、隠せる筈が無い程の大きさがある機関銃を。

「この変態が言ってるのは、嘘だからなッ! こういう笑えない冗談ばかり、言いやがるんだ、こいつは!」

 薊や秀光その他、その場にいる皆に、グレアムは念を押す。

「吾桑君の発言が冗談だというのは、分かった。でも……その機関銃は、どうやって出したんだ? いや、それ銃刀法違反じゃないのか?」

 一番最初に冷静さを取り戻した、マニッシュなダークスーツに身を包んだ、オールバックの女性が、機関銃を指差して、魁とグレアムに問いかける。

「京屋警視は、ご存知有りませんでしたか」

 魁はオールバックの女性……京屋京に、話しかける。

「グレアムは日本は当然、大抵の国で銃器や刀剣の所持と使用の許可を、得ているんです」

「いや、許可って……拳銃ならともかく、それ機関銃だろ?」

「京は規格外犯罪殲滅局に転属になったばかりだから、知らなくても無理は無いけど、世界探偵協会のトップクラスの連中には、その程度の特権は認められているんだ。機関銃程度の所持なら、特に問題は無い」

 規格外犯罪殲滅局の先輩であり、今回のアニヒレイター警備における、警察側の責任者である薊に説明を受け、京は驚きの表情を浮かべながらも、納得したかの様に頷く。

「京屋さんは規格外犯罪殲滅局の前は、スペシャルポリスにいたんですよね?」

 魁の問いに、京と薊が頷く。

「先日の大統領来日の際、怪盗フォルトゥナに、日本側の警備責任者だった京は、見事なまでにしてやられたんですよ。それで、怪盗フォルトゥナにリベンジしたいからと、怪盗と呼ばれる連中の相手を任されてる、規格外犯罪殲滅局への転属を希望したんです」

 薊の説明を聞き、秀光は眉を顰める。

「怪盗フォルトゥナにしてやられた奴なんか、警備スタッフに加えて大丈夫なのか?」

「実力は確かです。戦闘能力や運動能力が極めて高く、現場での追跡能力なら、警察に並ぶ者はいないと言える程度には」

 薊と秀光の会話に出て来た、怪盗フォルトゥナという言葉を聞いて、興味深げに眼鏡の奥の瞳を煌めかせつつ、魁は呟く。

「盗みによって、偶然にも事件や事故の発生を防いで人々の命を救う、幸運の女神……怪盗フォルトゥナですか」

「泥棒を、幸運の女神扱いねぇ……。日本人の考え方は、理解し難いな」

 肩を竦めて呟くグレアムの手から、機関銃が姿を消してしまう。一瞬で、跡形も無く。

 その場にいた、魁とグレアム以外の者達は、驚きの表情を浮かべ、グレアムを凝視する。機関銃が何処に消えたのか、どうやって消したのかという事に、思考を巡らせながら……。



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