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四の姫お菓子を作る  作者: 十海 with いーぐる+にゃんシロ
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ちびの一日2


 ぱたぱたと翼をはためかせてちびが行く。ぱたぱた飛んで、やって来たのは魔法学院だ。

 ここはとっても居心地が良い。仲間の使い魔もいっぱいいるし、至る所に潜り込むのに最適なすき間がある。

 さすがに出歩いている『とりねこ』はちび一匹だけだけど、たくさんの猫と、同じくらいたくさんの鳥がいるから、寂しくはない。

 何より、ここにはニコラがいる。エミルとナデュー先生もいる。


 鼻をひこひこ蠢かせ、あちこちで他のお仲間たちに聞きながら三人を探す。

 薬草畑の真ん中の、作業小屋に居た。


「ぴゃああ」


 のぞいてみたら、あら素敵。何とお菓子作りの真っ最中!

 ただ今、初等訓練生たちはエミルの指導で薬草調理学実習中。本日の課題はサマープディングだ。

 学院の畑で詰んだブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリーにクランベリー。新鮮なベリーを潰して砂糖で煮込んでジュースを作り、香りづけにミントを加えて、パンを敷き詰めた型に流す。

 涼しい場所に置いて一晩寝かせたのを今日、これから試食するのである。


「ほーら見事に固まってるだろう?」


 型を外して、大皿の上にそっと取り出されたプディングは、そろって美しい赤紫色。

 ぷるぷると震え、ナイフで切り分けても型くずれしない。


「すごい、ゼラチン入れてないのに!」

「これは、ベリーの汁に含まれるペクチンのおかげなんだよ。ジャムが固まる原理と同じだね」

「なるほどー」


 生徒たちは真剣にエミルの説明に聞き入り、うなずく。あくまで授業の一環、勉強なのだ。


 甘酸っぱいいいにおい。たまらずちびはひょこっと窓から顔をつっこんだ。


「にーこーら!」

「あ、ちびちゃん!」


 金髪に青い瞳の少女がほほ笑む。にゅるっと中に入って顔をすり寄せる。白い柔らかい手が撫でてくれるのがうれしくて、ごろごろと咽を鳴らした。


「サマープディング食べる?」


 ふりふりのエプロンを着けたナデュー先生が、お皿に乗せたプディングを持ってやって来た。

 食べない訳がない! 赤い口をかぱっと開いて答える。


「ぴゃあ」

「そーかそーか、たんとおあがり」


 むっしゃむっしゃとほお張った。赤紫のプディングは、ひんやりして、甘くて、すっぱかった。


「ぴぃうぅるるるる、ぴぃうぅるるる」

「ん、美味しい? よかったね。ホイップクリームもあるよ」

「んっぴゃあ!」


 褐色の口の周りについた白いクリーム、赤紫のプディングの欠片。丁寧に舐めとって、ひとしきりニコラたちと遊んだらまたお出かけ。


「もう帰るの?」

「とーちゃん!」

「そう、砦に行くの。気をつけてね!」

「ぴゃああ」


 ばさっと飛び立つちびを見送りながら、エミルが首をかしげた。


「あれ、でも今日は確かダイン先輩とシャルは……」


      ※


 ぱたぱたと羽ばたいて、騎士団の砦にやって来た。質実剛健を絵に描いたような、実用一点張りの石造りの建物。高い高い見張りの塔があって、町の城壁にぴったりくっついて建っている。

 塔のてっぺんで手すりに乗っかり、一休み。それから中庭の馬小屋に舞い降りた。いつも黒の居る馬房をひょこっとのぞき込む。


「………」


 いない。せっかく挨拶しようと思ったのに。


「お、ちびじゃないか」


 ハインツがいた!


「ぴゃーあぴゃーあ」


 くたーんとなりかけた尻尾が、ぴっと立つ。ブーツを履いた足の間を、8の字を描いてすり抜ける。


「よしよし、クラッカー食うか」

「ぴゃあ!」


 堅く焼いて塩で味付けした四角いクラッカー。小さく割ってくれたのをカリカリとかじる。


「ダインに会いに来たのか? でも今はあいつ、シャルと一緒に町の外を巡回してるんだ」

「ぴぃ……」


 とーちゃんもいない。シャルもいない。黒もいない。せっかく会いに来たのにみんないない。

 尻尾がくたーんっと垂れ下がる。


「夕方には戻ってくるよ」

「ぴゃ!」


 ちょっとがっかり。でもせっかくだから遊んで行こうっと。

 砦の中をするりするりと歩き回る。この建物の中にも、もぐりこむすき間はいっぱいある。きっちり扉が閉まっていても、ちびはどこにでも入り込む。影のようにするりと身軽に尻尾を捻って。

 そうして潜り込んだ天井裏で、丸々太った大きなネズミを発見した。


「ぴゃ!」


 白い牙を閃かせ、目にも留まらぬ早さで飛びかかる。ヂュっとネズミが悲鳴をあげる暇もあらばこそ、爪が走り、鋭い牙がめり込んだ。


 大漁!


 ぶらんっと首筋をくわえてぶら下げる。ちびは優秀な狩人なのだ。


 ねずみ捕った。とーちゃんが居れば見せるんだけど、今はシャルといっしょにおでかけだから……


 天井裏から降りて、とことこと廊下を歩く。階段を上がり、よーく知ってるにおいのする部屋へとたどり着く。


「ろぶたいちょー」


 ドアの外から名前を呼ばれ、ロベルトは書類から顔をあげた。


「開いてるぞ。入って来い!」

「たーいーちょー」


 一体誰だ。荷物で両手が塞がってるのか? 舌打ちして椅子から立ち上がり、扉を開けるとそこに居たのは。


「ぴゃ!」

「鳥、か」


 黒と褐色斑の猫のような、鳥のような生き物。もっともロベルトとしては、むしろ猫より鳥だろうと思っている。空を飛ぶし、オウムのように簡単な言葉を喋るからだ。


「ろぶたいちょー」


 ダインの使い魔が、後脚をたたんできちっと廊下に座っていた。その足下には、巨大なネズミが伸びている。ピクリとも動かない所を見ると、既に息絶えているようだ。

 赤い口をかぱっと開けて、とりねこが得意げに鳴いた。


「んぴゃー」

「おお、大物だな。えらいぞ」


 戦果は正当に評価する。兎のロベルトは常に律義で公平な男なのだ。


「ぴゃああ」


 たいちょーに見せた。ほめてもらった。撫でてくれた。だからもう、食べていい。

 そう判断したちびは、その場でかぱっと口を開いておもむろに……がつがつ、ぼりっぼりっ、むっしゃむっしゃ。

 また間の悪い事にちょうどその瞬間を、書類を抱えてやって来たハインツが目撃してしまった。


「うわああああ」

「うむ、食欲があるのは良いことだ」

「食ってます、食ってますよ!」

「肉食なんだから当然だろう」

「そりゃそーですけどーっ!」


 骨の一本、毛の一筋も残さずぺろりと食べ終わって、ちびはごきげん。ひゅうんっと尻尾を振って隊長とハインツにご挨拶。窓から飛び出し、馬小屋へと飛んで行く。

 干し草の中は、昼寝をするのに最高の場所なのだ。


 一方でハインツは、引きつった顔で廊下の一角を指さした。くすんだ灰色の石壁が、まるでそこだけ花が咲いたように赤く染まっている。


「隊長……血が………」

「飼い主の責任だ。ディーンドルフに掃除させろ」

「あいつが帰ってくるまでに乾いちまいますよ?」

「む」


 隊長はぽんっとハインツの肩を叩いた。


「任せた」

「ああ、やっぱり……」


 深くため息をつくとハインツは、ちびの食事の後片づけをするのだった。

 

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