欠落
それはグンニャリと香奈の手を、腕を、体を柔らかに受け入れていった。
『コンニャクみたいな感触』
日常では感じることのできないその不思議な感覚に香奈は包み込まれるかのような居心地のよさを感じていた。だから気付けなかった、彼女の想い出が着々と、流れるように欠落し始めていることに。
その間、香奈の眼に映るものは虹のような、色とりどりの空間でしかなかった。まるで色づけされた霧の中にいるようなそんな光景も香奈に興奮と安らぎを与えていた。その夢のような空間に一つの声が谺する。
「……忘れないでね、【戻りたい】だよ……それと君から預かる想い出は君の人生の全てのそれだ。だけど安心して今までと変わらずに考えることも、動くこともできるだろうから」
香奈はその念を押すゆったりとした声に、自らの願望にも似た目的を思い出した。
『お母さん、お父さん、まっててね…………あれ? おかしいな、そんなはずないのに……思い出せない……お母さんと、お父さんはどんな人だったかな? あれ? なんで……』
「……なんで!!」
香奈の脳裏から想い出が全て零れ落ちた。その瞬間に今までの無重力から香奈は解き放たれた。
ドンッ
「痛たたた……」
どこかに叩きつけられるかのような反動を受け、反射的にその眼を閉じていた香奈は未だその場所がどこなのか理解してはいなかった。
香奈がうつ伏せに突っ伏している場所には、大いに食欲をそそる香ばしい香りが充満していた。彼女がその芳しい香りにパッと眼を見開いた時見たものは、見たこともない部屋だった。
短いですけれど区切りがいいので……どうせいいわけですよーだ




