第24話 オーディン
【AI利用について】補佐として、文章の精度を高めるための「校正(誤字脱字のチェック等)」にローカルLLMを利用しています。しかしながら、根幹となる思想、オリジナルな魔法や世界観、プロット、感情表現など、「物語の核」は完全に私の創作であり、一文一文に想いを込めています。
エデンの空は、冷たく澄んだ真冬の光を浴びていた。
浮島「白陽」を包むように、極小の雪片が優雅に舞い降りる。
それはまるで地上で織りなされる真綿のように、
景色の隙間に覗く生命の美しさだった。
「……ふむ」アルトは微かに呟いた。
「ルルシステム」と「ジャッジメント」。どこか似ている。
ジャッジメントは「個人の良し悪し」を測り、それを可視化する。
だが、ルルシステムはもっと根源的だった。
人々の横の繋がりや、感情の奥底の複雑な絡み合いまで織り込み、
「貢献」と「依存」の度合いとして世界を読み解くものだ。
ジャッジメントが「一振りの短剣」だとしたら、
ルルシステムは「壮大な知の網」。
アルトは、世界の再構築という絶対の力を背景に、
ジャッジメントを幾重にも強化しようと試みた。
瞑想に近い沈思の中で、彼は一つの決定を下した。
「サラ」
彼は声をかけた。女神はいつものように、
宇宙を包み込むような穏やかな微笑みを浮かべていた。
「サラ、お願いがある。エデンの皆に『ララ』というものを与えたいんだ」
サラは、目を細めて眺め、「あら、また新しい遊び?」と軽い調子で尋ねた。
「遊び、じゃなくて。
ルルシステムを縮小し、エデンに恒久的に据え付けたい。
エデン限定のローカルなパラメーター・ハブだ」
「人々の絆、役割、それらが可視化され、評価される仕組みを構築したい。
エデンに、このような仕組みを導入してはどうかなと」
「えーっと?……でも、どうするのよ?」
「中央管理AI。全住民の感情、貢献、相互依存度を、
リアルタイムで評価するシステムを構築したい」
サラは、アルトが神のシステムを、
自分たちの世界に持ち込もうとしているという壮大な気配を、
直感的に感じ取った。
「まさか……ああ、なるほどね。いいわよ。好きにやってちょうだい」
彼女は長い睫毛を揺らし、軽やかに肩をすくめた。
アルトは深く頭を下げた後、眼差しを鋭くした。
「人型AIでは、この膨大な感情データをリアルタイムで処理するには、
容量が足りないかな」
彼は空間魔法と、世界の物理法則への介入に走った。
魔力を凝縮させ、その意思を世界に叩き込んだ。
「アナザーワールド」
独自の空間構築魔法。
次元の裂け目を極小に閉じ込め、そこに領域をゼロから築き上げる。
「よし、この空間に構築すれば、冷却やハッキングを気にしないで済む」
空間の歪みが、エデンの冬の雪を巻き上げた。
雪片の渦の果てに人工施設が浮かび上がり、
純粋な「情報処理能力」のみで構成された漆黒の結晶を組み上げた。
正八面体のゆっくりと回転し浮かぶそれは、聖域となった。
「できた、なかなかカッコいい中核サーバーじゃないか。
それでは、中枢となるAIに……えっと、名前は……」
最初に頭に浮かんだのは、なんとなく親しみやすい「おでん」。
するとサクラが「なんでやねん!」と言いたげに肩を叩き、
ハクが少し歯をみせて唸ったので、「オーディン」と名付けた。
古の叡智を司る神の名。
その名が付与された瞬間、核が青白く、力強く脈動した。
完全に自己完結型の防壁を持つ、
極めて安定した「ララシステム」の中核が完成した。
「ルル」が神々の通貨であるのと同様、
「ララ」はエルフとエデンの人々の通貨となる。
ララシステムは、
エルフとエデンの人々に「ララ」を供給するためのローカルな仕組みだ。
アルトの提供した「ルル」を、
オーディンが「ララの素」に変換し、エデン中に散布する。
サラは、軽く頬を染めて言った。
「おかしいわ。あなたがエデンのための資金源になるなんて」
アルトは、ただ穏やかに微笑んだ。
「召喚してもらった恩義を、返しているだけだよ」
実際、エデンで生じる貢献は、神界の「ルルシステム」に集約され、
管理者であるサラに「ルル」として渡り続けていた。
浮島の収益、人々の信仰心。
その貢献のすべてがサラの「ルル」となっている。
とはいえ、アルトのルル値は増え続ける。
アピアリングの膨大な貢献度を「ルル」として受け取り続けているのだ。
アルトの持つルルは、数えきれないほど異様な数値へと膨れ上がっていた。
さらに、
エルフたちが抱く底知れぬ尊敬の念、サーシャが向ける抗いようのない親愛。
それら微細な感情さえも、神界の「ルルシステム」は完璧に汲み上げ、
アルトのルル値にこっそりと加算されているのであった。
それでは次に、実証実験へ入る。
「エルフたちへ、『ララシステム』を適用させてもらう」
エルフたちの穏やかで、しかし探究心の強い眼差しがアルトに向けられる。
彼らは、この新しい「評価の器」が、
自らの世界の調和にどう関わるのか、静かに待ち受けていた。
「さて、オーディン。試してみようか」
アルトがオーディンに対し、
エルフたちの些細な「交流」を監視し、評価するよう指令を出すと、
虚空から青い文字の数式が、静かにエルフたちの間に流れ始めた。
冬の静寂に、新しい色彩が加わる。
アルトは信じていた。このシステムは単なる評価ツールではない。
エデンという生態系そのものを「愛」で駆動させる潤滑油になるのだと。




