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第20話  リゾート

聖地エデンの片隅。うっすらと雪化粧をした草原の彼方には、異彩を放つ巨大な「浮島」がそびえて見えた。それは、超然とした優雅さを纏った最高級リゾート施設「白陽しらうら」だ。


アルトにとってエデンは、安らぎを形作る精緻なキャンバスだ。神々が憩う庭にはしたくない。そこでエデンの大地へ降りることは一切拒否し、唯一神々の降臨を許す「出島」として、彼はこの浮島を設営したのだ。


「青いプールが輝いて、太陽が優しく……どこかギリシャを思わせる。が、和の余韻も添えたい」


白い石材とエーゲ海の陽光を基調としながら、そこには世界を超越した「美しさ」が宿っている。波打つ大理石の小径、ターコイズブルーのプール、絵画から飛び出してきたかのような東屋。そして眼下には初冬のエデンの大地が。



光が、大理石の階段を滑り落ちた。


「おい、アルト。ちょっとそこ見てみろ」


ふと声がした。頻繁に訪れる神々のうちの一柱、ゼウス様だ。彼は、陽光に照らされた美しい白陽の景観を眺め、目を細めた。


「これだ。まるで、神様が作り上げた、極上の舞台装置だ」


「何言ってるんですか、貴方が神様じゃないですか。サボってていいんですか?」アルトは冷ややかに微笑んだ。もうすっかり顔なじみとなっていた。


「いや、アピアリングの所有者の少ないうちにな」


「創造神様なんだからご自身でリゾート作ればいいじゃないですか」アルトは、客室の中を歩きながら応える。


「いやこういうのはお邪魔するからいいんだよ。それにここは世界一空気が澄んでいる」



この浮島は、世界で最も作り込まれた楽園だった。メイン棟は豪華客船のような流麗なデザインだが、客室内部は徹底して和室。日本庭園を障子から一望でき、畳の香り、控えめな照明が醸し出す静寂。ギリシャ風の彫刻と和の意匠が混在する庭園。世界で最も異質で、安らぎに満ちた空間。


大小さまざまな湯が楽しめる屋上の露天風呂からは、エデンの初雪景色が堪能でき、雪見酒を堪能する神々の社交場と化していた。


しばらくして、この「白陽」は異様な熱狂の中心地となった。神々の間での「口コミ」は、瞬く間に広まった。「庭園の造形が素晴らしい。だが、あの部屋の静寂は何事だ?」「この清涼な空気と畳の香りは……!」


「箱庭にリゾートを作る」というアルトの着想は、一気に巨大なビジネスモデルへと変質させた。


「なるほど。箱庭でリゾートを?」「うちの箱庭も、客を呼ぶ仕組みに」


神々は、自身の箱庭を売買し、他者と競い合っている。そこに付加価値をつけることができ、あるいは箱庭自体で収益を得られることに気づいたのだ。アルトの白陽は、その火付け役となり、神々を熱狂させた。


聖地エデンに浮かぶこの浮島は、その異様な美しさと快適性の完成度ゆえに拝まれ、実際に降臨可能な新たな聖地となった。エデンの白陽を訪れることが、今や「最高のステータスシンボル」となったのである。


「……ああ、もう、勘弁してほしいわ」


サラが、口元を隠しながらも高笑いを抑えられずにいた。



「この白陽では、均質な高次元の安らぎというコンセプトで全客室を統一、食事も、至高の宴を一律料金で提供しています。利用者が迷わないで済むように」


「すべては管理AI『イブ』が最適化します」。アルトは、スタッフとして、イブの指示の下で動く一連のAIロボットを創出した。神々が最も心地よいと感じるよう見た目には特に細心を払った。体を魔法で構築しているため、疲労がなく、常に最上のホスピタリティを維持できる。


青いプールサイド。水滴が宝石のように輝く中、魔法の光を湛えた滑らかな肌のAIスタッフたちがゲストに微笑みかける。彼らの役割は、単なる接客ではない。神々の「煩わしさ」に気づきながら、それに対して「最適化された快適な応答」を返すことだ。


高位の神が庭園を見上げ、静かに言った。「実に素晴らしい。あの畳の上の、この『気』の流れ。まるで、この世の理そのものが、最も調和した形を見せているようだ……」


別の神は、あごひげを撫でながら呟く。「美しさと、秩序だけが詰まっている。実に……羨ましい」



神々が、アルトの作り上げた「人工的な美」に心酔する姿を、アルトは遠巻きに眺めていた。


「お父さん、見てこれ。本日の特製『エデン・ロースト』ですって」


アルトは、美しく整えられた巨大なテーブルを指さした。


サーシャは、アルトの傍らに移動し、アルトが外の眩しい陽光を遮断すると同時に、場は甘く、芳しい香りに包まれた。


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