『あいうえお』は足りない
『あいうえお』
俺が使える言葉の全てだ、ちなみに使える言葉に制限がある
愛に飢えている男のに必要なのは金
上に行くためには仕方がない
だから自分の言葉を売った
最初は少しずつだった、子音から売っていったが
母音に制限をかけると更に金払いがいいのでそうした
名前も変えた、変えるのに手数料もかからないし、いざとなればまた元に戻すだけだ
音楽は国境を越えるが言葉を使えなければそもそもオリジナルも歌えない、しかし身振り手振りならば種族の壁だって越えると思う、犬や猫に言葉がいらないように、違う種族でも分かり合えるはずだ
仕事では笑顔を振り撒き、悲しそうな顔をしたり、大袈裟な身振り手振りで犬猫のように相手に意思を伝えた、相手の思い遣りや愛がないと私は仕事ができない、言葉を使わない代わりに表情が豊かになったと感じる。
言葉が自由に使えるのに死んだ魚の目をして機械のように働いている時よりもよほど人間らしい気がする、おかげで仕事も順調だ、目標金額が貯まる日も近い
目の下に貼った涙と星のシールを剥がし赤くて大きな鼻を取り外し道化師の衣装を脱ぎエモン掛けに吊るした、部屋着に着替えて生体認証装置を起動して、吸い込まれてしまいそうな星空と宇宙のポスターを見つめて、大きく息を吐いた後に声を上げた
『あいうえお』
遥かな宙に向かうための金額が自分の口座に振り込まれているのを見て画面の前で大袈裟な身振り手振りをして感情を表現した
あいうえお
俺の名前は愛飢え男
母なる音でできた高潔な名だ宇宙に行く日も近い。
おしまい




