表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/37

第32話「欲望のカジノと、確率操作された大博打」

砂漠の真ん中に突如現れる、ネオン輝く不夜城。

『黄金都市エルドラド』。一攫千金を夢見る者たちが集い、そして身ぐるみ剥がされていく欲望の都だ。


「うわぁぁ……! キラキラしてる! ここがカジノだね!」


セレスティアが目を輝かせている。彼女の手には、ミレーヌから渡された「お小遣い(金貨10枚)」が握りしめられていた。

平和な観光のつもりだろうが、この街の空気はドス黒い。

街全体を覆う『搾取の結界』。そして、カジノタワーの最上階から伸びる極太の『強欲の糸』が、入場者全員の財布と魂に絡みついている。


「……確率計算完了。勝率0.0001%。コノ街、詐欺ダラケ」


背後の執事ロボ・オメガが、緑色の目を点滅させて警告する。

だが、時すでに遅し。


「赤に賭けるね! えいっ!」

クルクル……ピタッ。黒。

「ああれ? じゃあ次は黒!」

……赤。

「ええっ!? じゃあ数字の7!」

……0。


ものの5分で、セレスティアのお小遣いは消滅した。

単に運が悪いのではない。ディーラーが魔法でボールを操作し、さらにオーナーである「強欲王ミダス」が、彼女の『幸運』そのものを根こそぎ吸い取っているのだ。


「フフフ……かかったな、英雄セレスティア」


監視モニター越しに、成金趣味の男ミダスが舌なめずりをする。

彼の目的は、勇者を借金漬けにし、その名声を担保に自身の「見世物小屋」で一生働かせること。

セレスティアの小指から伸びる『借金地獄の糸』が、地下の強制労働施設へと繋がろうとしている。


「もうお金ないや……。帰ろうか、ヴェイン」

「お客様、お帰りはできませんよ?」


黒服の男たちが立ちはだかる。

彼らが差し出したのは、セレスティアが「サインした覚えのない借用書(ジュース代が利息で1億倍になっている)」だった。


「払えなければ、体で払ってもらいます。地下の炭鉱か、王様の愛人か……」


セレスティアが青ざめる。

典型的な罠だ。力づくで突破することもできるが、それではセレスティアの名誉に傷がつく。

ここは「大人の流儀」で解決すべきだ。


「……やれやれ。君たちのボスは、客の品定めもできないのか」


僕は怯えるセレスティアの前に立ち、黒服たちを冷ややかに見下ろした。

そして、隣に控えるミレーヌに目配せをする。


「ミレーヌ。準備は?」

「万端ですわ。当商会の精鋭トレーダーたちが、すでに市場マーケットを包囲しています」


ミレーヌが優雅に扇子を開き、黒服たちに微笑みかける。


「オーナーにお伝えなさい。……『ラストゲーム』を申し込みますわ。ただし、賭けるのはコインではなく、このカジノの『経営権』ですと」



VIPルーム。

黄金の玉座に座るミダスは、腹を抱えて笑っていた。


「ギャハハ! 経営権だと? 俺の会社を買い取るつもりか? この『エルドラド・ホールディングス』の時価総額を知ってて言ってるのか!」


ミダスは勝ち誇った顔で、魔法映像による株価チャートを指差した。

彼のカジノは連日大盛況。株価は右肩上がりだ。


「金貨100億枚! それが俺の会社の価値だ! 払えるなら払ってみろ!」


「100億か。……高いな。もっと安く買わせてもらおう」


僕はミダスの心臓から伸びる『虚飾の信用』の因果の糸を視認した。

彼の会社の実態は、イカサマと粉飾決算で膨れ上がったバブルだ。

その糸は、無数の投資家たちと繋がっている。


「ミダス。君は一つ間違いを犯した。……僕という『監査役』を敵に回したことだ」


僕は指先で、彼の『信用』の糸を弾いた。


ジョキン。


『投資家の信頼』の切断。

『破滅的な風評被害』および『取り付け騒ぎ』への接続。


「今この瞬間から、君の会社は優良企業じゃない。……泥舟だ」


僕は糸をねじり、ミレーヌに合図を送った。

彼女が懐から魔導通信機を取り出し、冷徹な声で命令を下す。


「――作戦開始。手持ちの『エルドラド株』を全て空売り(ショート)なさい。同時に、裏帳簿のコピーを市場に流して」


その瞬間。

ミダスの背後にある株価チャートが、異変を起こした。


ガクンッ!!


右肩上がりだったグラフが、断崖絶壁のように垂直落下を始めたのだ。


「な、なんだ!? 株価が……暴落している!?」

「今、市場には君のイカサマの証拠が出回っている。投資家たちはパニック売りを始めたよ」


僕は淡々と解説する。

ミダスの顔から血の気が引いていく。


「そ、そんな……! 買い支えろ! 俺の資産を使って買い支えるんだ!」

「無駄ですわ。貴方の資産は、すでに担保として凍結されていますもの」


ミレーヌが書類の束をテーブルに叩きつけた。


「貴方が発行していた社債、当商会が裏で全て買い集めておきましたの。……契約条項に基づき、株価が半値を割った時点で『即時一括返済』を求めます。払えなければ、担保であるこのカジノの全株式を譲渡していただきますわ」


「は、半値だと……まだそこまでは……」


ミダスが縋るようにチャートを見る。

だが、僕はそこでダメ押しの一手を打った。


「オメガ、拡散だ」

「……了解。『強欲王ミダス、夜逃げ準備中』トイウ偽情報ヲ、信頼度Sランクデ拡散シマス」


オメガが電子戦を仕掛け、市場の心理を『売り』一色に染め上げる。


ガラガラガラ……ッ!!


チャートの線が底を突き抜けた。

時価総額100億の企業価値が、ものの数分で紙屑同然のゴミへと変わった瞬間だ。


「あ、あぁ……俺の金が……会社が……」


ミダスは泡を吹いて玉座から転がり落ちた。

イカサマや魔法ですらない。純粋な資本の暴力と、情報操作による経済的処刑。


「……さて、現在の株価なら金貨10枚で買収できそうですわね」

「セレス、お小遣いを貸してくれないか?」


僕は呆然としているセレスティアに手を差し出す。


「えっ? う、うん。残ってた10枚なら……」


彼女がポケットから小銭を出す。

ミレーヌはその金貨をミダスに投げつけた。


「商談成立ですわ。これにて『エルドラド・ホールディングス』は、ミレーヌ商会の完全子会社となります。……元・オーナーさん? 不法侵入ですので出て行っていただけます?」


黒服たちが、今度はミダスを取り押さえた。

彼らにとっても、新しい給料の支払いオーナーに従うのは当然の理屈だ。


「いやだぁぁ! 俺の城がぁぁ! 俺はまだ何もしてないのにぃぃ!」


ミダスは自らの黒服たちによって、砂漠の彼方へと放り出されていった。



「……えっと、結局どうなったの? 勝負は?」


セレスティアが首をかしげている。

難しい経済の話は彼女にはちんぷんかんぷんだ。


「勝ったよ。君のお小遣い(投資)のおかげで、大儲けだ」

「ほんとに!? やったー! 私、投資の才能あるかも!」


無邪気に喜ぶセレスティア。

その横で、ミレーヌとオメガが猛烈な勢いでカジノの改装計画を立てていた。


「まずは確率調整ですわ。還元率を上げて、薄利多売で客を集めます」

「……健全ナ娯楽施設ヘノ転換。勇者グッズノ物販コーナーヲ設置シマス」

「搾取するより、ファンになってもらってお金を落としてもらう。……それが長期的なビジネスというものだね」


僕はカジノを見渡す。

そこにはもう、ドス黒い欲望の空気はない。あるのは、計算し尽くされた「クリーンで健全な集金システム」だけだ。


帰り道。

新オーナーとなった僕たちは、従業員たちの最敬礼に見送られ、悠々と街を後にした。


「勝負事って怖いと思ってたけど、頭を使えば勝てるんだね!」

「……まあ、セレスはあまり真似しないでね(相場を壊すから)」


僕が言うと、背後の馬車からミレーヌが顔を出した。

「あら、ヴェイン様。今回の買収益で、次の国まで『貸切列車』を手配しましたわ。……もちろん、スイートルームは私たち二人きり(に細工予定)です♡」


借金地獄の危機は去った。

だが、勇者一行は「国家を買えるレベルの経済力」という、新たな武器(凶器)を手に入れてしまった。


(第32話 完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ