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第31話「機工帝国の罠と、過保護すぎる巨大ロボ」

 田舎での甘酸っぱい里帰りを終え、僕たちは旅を再開した。

 次なる目的地は、黒い煙と蒸気が立ち込める『機工帝国ガレリア』。

 魔法よりも科学技術を信仰するこの国では、平和になった今も軍拡競争が続いている。


「すごいねヴェイン! 馬車が馬なしで動いてるよ!」


 セレスティアが目を輝かせて、蒸気自動車を見つめる。

 祭りの夜の一件以来、彼女は僕と目が合うとすぐ赤くなるようになったが、珍しい機械を前にすると好奇心が勝るらしい。

 そんな彼女の背中を狙う、無機質で冷徹な『野望の糸』があった。


「ようこそ、英雄セレスティア殿」


 出迎えたのは、全身を機械義手やレンズで強化した男、ジーク将軍だった。

 帝国の最高技術責任者であり、その目には「勇者すらパーツの一部」としか見ていない狂気が宿っている。


「貴殿に頼みがある。帝国の地下から発掘された『古代殲滅兵器オメガ』……こいつが今にも暴走しそうなのだ。勇者の聖なる魔力で、中枢コアを鎮めてほしい」

「大変! わかりました、私でよければ!」


 セレスティアは二つ返事で承諾する。

 だが、ジークの脳内から漏れる因果の声は別だ。

 

 ――ククク、馬鹿め。貴様の魔力を流せば、オメガは完全覚醒する。

 ――その圧倒的武力で、周辺諸国を火の海に変えてやる!


(……科学者崩れの軍人か。やることが古典的すぎる)


 僕はため息をつきつつ、ミレーヌたちに目配せして工場の中へと進んだ。


 ◇


 地下格納庫。そこには見上げるような巨体――全長30メートルの人型兵器『オメガ』が鎮座していた。

 無骨な装甲、多数の砲門。まさに破壊のためだけに作られた鉄の塊だ。


「さあ、このコアに触れるのだ!」


 ジークに促され、セレスティアが制御盤に手を置く。

 

 ズズズズズ……!

 

 機械音が響き、オメガのカメラアイが赤く発光した。


「ハハハハ! かかったな! これでオメガは私の言いなりだ! さあ行け、まずは手始めにこの街を焼き払え!」


 ジークが狂喜乱舞して叫ぶ。

 オメガの胸部ハッチが開き、全てを灰にする『荷電粒子砲』のチャージが始まった。

 セレスティアの小指から伸びる『死の糸』が、暴発したエネルギーに巻き込まれて蒸発する未来を描く。


「きゃああっ!? だ、騙されたの!?」

「今更気づいても遅い! 死ねぇぇ!」


 発射のカウントダウン。あと3秒。

 僕はジークの前に歩み出ると、オメガから伸びる『殺戮プログラム(破壊の因果)』のコードを視覚化した。

 複雑な電子回路のようだが、やることは同じだ。


「君の科学力は素晴らしい。だが、用途が間違っている」


 ジョキン。


 『大量破壊兵器』の切断。

 そして、『究極のバリアフリー住宅』への書き換え。


「その巨体とエネルギー……破壊に使うにはもったいない。セレスティア専用の『動くマイホーム』になってもらおう」


 僕は配線を繋ぎ変え、ターゲット認識を「敵」から「保護対象」へと変更する。


 ピピピッ……ガシャン!


 オメガの赤い目が、優しい緑色に変わった。

 発射されようとしていた荷電粒子砲がシュウウウ……と収束し、代わりに心地よい温風(マイナスイオン入り)が放出される。


「……ターゲット確認。マモルベキ、オヒメサマ」


 機械音声が響く。

 オメガはその巨体を器用に折りたたみ、巨大な「揺り籠」のような形態に変形した。そして、アームで優しくセレスティアを包み込む。


「えっ? あれ? 怖くない……座り心地いいかも?」

「何だと!? 撃て! なぜ撃たんオメガァァァ!!」


 ジークがリモコンを叩きつける。

 オメガはジークを「騒音源」と認識し、サブアームで彼を摘み上げると、工場のダストシュート(ゴミ箱)へポイッと放り捨てた。


「ギャァァァァァ……!」


 星になって消えていく将軍。

 残されたのは、快適な空調とマッサージ機能を完備し、自動で紅茶まで淹れてくれるようになった巨大ロボットだけだ。


 ◇


「ヴェイン、これすごいよ! 歩かなくていいし、肩も揉んでくれる!」


 セレスティアはオメガの手のひらの上で、クッションに埋もれてダメになっていた。

 オメガは彼女の僅かな身動きを感知し、「背中、カユイデスカ?」「オヤツ、イリマスカ?」と甲斐甲斐しく世話を焼いている。


「……チッ。私の仕事が奪われた」

 クロエがライバル心を剥き出しにして、オメガの脚部を蹴っている(硬すぎて無傷)。


「この超古代技術……解析して特許を取れば、国家予算レベルの利益ですわ!」

 ミレーヌがオメガの装甲に「ミレーヌ商会所有」のステッカーを貼り付けている。


「あの巨大なピストン運動……踏み潰されたい……プレス機にかけてくれぇぇ!」

 ヴァレリーがベルトコンベアに自ら流れていこうとする。


「やれやれ。また過保護な味方が増えたな」


 僕は苦笑する。

 オメガは僕の方を見ると、緑色の目を点滅させた。

 『マスター、コノ娘、任セロ。オ前ハ、休メ』

 どうやら、僕の「保護者」としての地位まで脅かそうというらしい。


「……いい度胸だ。どっちが彼女を快適にできるか勝負だな、ポンコツ」


 僕はロボット相手に大人気なく闘志を燃やした。

 こうして、機工帝国の野望は潰え、一行に「超高性能執事ロボ」が加わった。

 旅はますます快適に、そして堕落していく。


(第31話 完)

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