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第25話「決着の一撃と、切断された運命」

 魔王の間を、極大の光と闇が交差する。

 傍から見れば、それは神話の再現のような壮絶な死闘だった。


「ハァッ……ハァッ……! 負けない……みんなが、私を信じて待ってるんだから!」


 セレスティアは傷だらけ(に見えるようにミレーヌがメイクを施した)の体で、聖剣を構え直す。

 対する魔王ヴェルザードは、全身から黒い魔力を噴出させていた。


「(……もういいだろう。十分だ。俺はよくやった……)」


 魔王の心の声が聞こえる。彼は限界だった。

 僕が強制した「悪役ムーブ」によって肉体は悲鳴を上げ、何より、かつての部下たちにボコボコにされる精神的苦痛が彼を蝕んでいた。


「(……最後に、花火くらいは上げてやる。それが魔王としてのせめてもの意地だ)」


 ヴェルザードが残る魔力の全てを頭上に集束させる。

 圧縮された闇の球体。それは城ごと僕たちを消し飛ばす威力を持っていた――本来ならば。


「させないよ」


 僕は指先で空を切り、その『破壊の因果』を書き換える。


 ジョキン。


 『広範囲殲滅魔法』の切断。

 そして、『超豪華・勝利演出用エフェクト』への接続。


「セレス! 今だ! 魔王の魔力が暴走して隙ができている!」

「うん! これで……終わりにする!!」


 セレスティアが飛んだ。

 ヴァレリーが彼女の踏み台となり、エララの風魔法が背中を押し、イグニスの炎が聖剣に宿る。

 全員の力が乗った、最高の一撃。


「グラン・クロス・カリバーーーッ!!」


 十字の閃光が、魔王の巨体を切り裂いた。


 ズバァァァァァァッ!!


 その瞬間、魔王が放とうとしていた闇の魔法が弾け飛び――

 

 パァン! パパパンッ! ヒュルルル……ドォーン!!


 夜空に美しい大輪の花火となって咲き乱れた。

 赤、青、緑。魔王の最期を彩るには、あまりにも祝祭的な光景。


「(……ふっ。派手な葬式だ。……礼を言うぞ、ペテン師)」


 光の中で、ヴェルザードが僕を見て微かに笑った気がした。

 その体は粒子となって崩れ、風に溶けていく。


 そして。

 

 ブツンッ。


 僕の耳元で、糸が切れる音が響いた。

 セレスティアの小指から、あの日以来ずっと伸びていた、あの忌々しいドス黒い『死の運命』の糸。

 それが根元から弾け飛び、虚空へと消滅したのだ。


「……やった」


 僕は震える手でその光景を見つめた。

 勝った。

 魔王を倒し、彼女が死ぬ運命を回避した。

 僕のこれまでの暗躍、工作、ペテンの数々は、全てこの瞬間のためにあったのだ。


「はぁ……はぁ……か、勝った……の?」


 着地したセレスティアが、消えゆく魔王の残滓を見つめ、膝をつく。

 静寂が戻った広間に、カランと聖剣が落ちる音が響いた。


「セレス!」


 僕は駆け寄り、彼女を抱きしめた。

 温かい。心臓が動いている。彼女は生きている。


「ヴェイン……私、やったよ……魔王を、倒したよ……」

「ああ、すごいよ。君は世界を救ったんだ」


 セレスティアは僕の胸に顔を埋め、張り詰めていた糸が切れたように泣き出した。

 安堵の涙だ。

 その背後で、影から現れた仲間たちが、それぞれのやり方で勝利を祝っていた。


「……主様、お疲れ様」

 クロエが僕の背中にしがみつく。

「感動的なフィナーレでしたわ! この戦闘映像、全世界に配信して放映料を稼ぎますわよ!」

 ミレーヌが映写用の魔道具を回している。

「魔王の最後の攻撃……あえて受けずに見送った私の自制心を褒めてください……」

 ヴァレリーが少し不満げに身悶えしている。

「私の元上司、あっけなかったですわね。まあ、ヴェイン様の敵ではありませんでしたけど」

 メルザが冷淡にメモを閉じ、眼鏡を光らせた。


 城の外からは、ケルベロスの遠吠えと、エルフたちの歓声が聞こえてくる。

 全てが終わった。

 これで世界は平和になり、セレスティアは幸せに暮らす。

 ハッピーエンドだ。


「……帰ろう、セレス。みんなが待ってる」

「うん……! 帰ろう、私たちの家に!」


 セレスティアが涙を拭い、満面の笑みを向ける。

 その小指には、もう何の糸も繋がっていない。

 

 ――はずだった。


 ふと、僕の視界の端に、奇妙な光が映り込んだ。

 切れたはずの糸の痕跡。

 セレスティアの小指から、新たに、細く、頼りない透明な糸が伸び始めていた。

 それは魔王城の天井を突き抜け、どこか別の場所へ――そう、人間の住む『王都』の方角へと向かっているように見えた。


(……なんだ、あの糸は?)


 死の糸ではない。だが、決して無視できない不穏な気配。

 魔王という「死因」を排除したのに、まだ何かが彼女を縛ろうとしているのか?


『あら、気づいた?』


 脳内に、久しぶりに女神エリスの声が響く。


『魔王がいなくなった世界で、次に彼女を殺すものが何か。……貴方なら、もうわかっているでしょう?』


 僕は背筋に冷たいものを感じながら、笑顔のセレスティアをより強く抱きしめた。

 

 戦いは、まだ終わっていないのかもしれない。

 だが今は、この勝利の美酒に酔おう。


(第25話 完)

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