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第21話「夢幻の回廊と、悪夢の書き換え」

 魔王城の内部は、静寂そのものだった……。

 豪奢なシャンデリア、赤い絨毯、そして果てしなく続く回廊。

 敵の姿はおろか、ネズミ一匹いない。


「……おかしいな。敵が出てこないよ?」


 セレスティアが警戒しながら進む。

 僕たちはもう30分も同じ廊下を歩いていた。窓の外の景色が変わらない。

 『無限回廊』。

 空間を捻じ曲げ、侵入者を永遠に彷徨わせる結界だ。


 さらに、空気中に薄紫色の霧が漂い始めた……。

 この霧はヤバい。

 吸い込んだ者の心の奥底にある「恐怖」や「トラウマ」を引き出し、幻覚として実体化させる精神毒だ。


「あれ……? お母さん……? どうして血だらけなの……?」


 セレスティアの目が虚ろになり、誰もいない虚空に向かって震える手を伸ばす。

 彼女の小指から伸びる『死の糸』が、精神崩壊による自害バッドエンドへと急速に収束していく……。


(……人のトラウマをほじくり返すとは、悪趣味な幻術使いだ)


 僕はセレスティアの肩を抱き寄せ、耳元で指を鳴らした。


「セレス、よく見て。あれはお母さんじゃない。……将来の僕たちの『結婚式場』のスタッフだ」


 ジョキン。

 『トラウマの再現』の切断。

 そして、『幸せな未来予想図』への接続。


「えっ……? 結婚式……?」


 セレスティアの表情が一変する。

 彼女の視界に見えていた血まみれの幻影は、瞬時に「ウェディングドレスのカタログを持った親切な店員さん」へと書き換わった。


「わぁ……! 素敵なドレス……! えっ、これ私とヴェインの結婚式用なの!?」

「そうだよ。この回廊は、城全体を使ったブライダルフェアの会場なんだ」


 セレスティアは幻覚の中で、幸せそうにドレス選びを始めた。

 僕はその隙に、霧の発生源である天井の梁を見上げた。


「……そこにいるんだろう? 四天王、幻術のルラビィ」


 空間が揺らぎ、ゴシックドレスを纏った少女人形のような姿が現れた……。

 紫色の髪に、ハイライトのない瞳。

 彼女は不満げに頬を膨らませている。


「……つまんない。ボクの悪夢を、あんなハッピーな夢に変えるなんて」


 ルラビィは空中に浮かびながら、僕を見下ろした。


「キミの心も壊してあげる。キミが一番恐れているのは……『孤独』かな? それとも『無力』?」


 彼女が杖を振ると、僕の周囲に無数の「セレスティアの死体」の幻影が現れた。

 串刺しにされたセレスティア、毒に侵されたセレスティア……僕が最も恐れる光景だ。


「……ふん。よく調べたね」

「アハッ! 絶望しなよ! これがキミの運命だ!」


 ルラビィが嘲笑う。

 だが、僕は動じない。

 そんな幻覚ものより、僕に見えている現実の糸の方がよっぽど鮮明だからだ。


「君の幻術はリアルだが、詰めが甘い」


 僕は幻影のセレスティアの一人を手で払いのけ、ルラビィに向かって手を伸ばした。

 彼女の胸元から伸びる『虚構への逃避』の糸を掴む。


「君自身も、現実が怖くて夢の中に逃げているんだろう? 本当は、誰かに『現実も悪くない』と教えてほしかった……」


 ジョキン。

 『悪夢の支配者』の切断。

 そして、『夢見る乙女』への接続。


「僕が君に見せてあげるよ。悪夢よりも甘くて、幻覚よりも刺激的な『現実の恋』を」


 僕は彼女の幻術のコントロール権を奪い、ルラビィ自身の脳内にイメージを送り込んだ。

 それは、彼女が僕に抱きしめられ、優しく頭を撫でられるという、彼女が心の奥底で求めていた温もりの映像……。


「ひゃぁっ……!?」


 ルラビィが顔を真っ赤にして落下した。

 僕がそれをお姫様抱っこで受け止める。


「な、なにこれ……胸がドキドキする……。幻術じゃない……本物の体温……」

「悪くないだろう?」

「う、うん……。ボク、もっとこの夢を見ていたい……」


 ルラビィは僕の首に腕を回し、トロンとした目でしがみついてきた。


「じゃあ、この無限回廊を解除してくれるね? デートの邪魔だ」

「わかったぁ……。ヴェインお兄ちゃんのためなら、ここを『愛のハネムーンロード』に変えてあげる♡」


 霧が晴れた。

 不気味だった回廊は、明るい照明とレッドカーペットが敷かれた、まさに式場の通路のような華やかな雰囲気に変わった。


「あ、ヴェイン! ドレス決めたよ! ……って、その子は?」


 幻覚から戻ったセレスティアが駆け寄ってくる。

 僕は腕の中のルラビィを紹介した。


「迷子になっていた女の子だよ。出口まで送ってあげよう」

「そっか、可哀想に。一緒に行こうね!」


 セレスティアは疑いもせず、ルラビィの手を握る。

 その背後で、ミレーヌが壁の装飾を剥がしながら呟いた。


「このシャンデリア、売れますわね……」


 ヴァレリーは残念そうに舌打ちした。


「チッ、精神攻撃か……心が壊れる快感を味わい損ねた……」


 クロエはルラビィを睨みつけている。


「……ロリ枠、被ってる。消す?」


 四天王の二人目が落ちた。

 魔王城の迷宮機能は停止し、ただの豪華な内装へと成り下がった……。

 僕たちは「新婚旅行の下見」のような気分で、さらに奥へと進む。


(第21話 完)

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